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六章 ミコである意味
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火傷を治したのは私の自己満足だけど、少しはありがとうって思ってくれたのか? オサが暴れるのをやめた。まだ拘束する手は緩めないけど、皆にホッとした空気が流れた。
終わったな……って感慨と疲れを感じたってぇのに。
終わりじゃなかったのだ。
「……え?」
トサに押さえられ、うつ伏せのオサは縛られ、もう動けないはずだった。なのに。
ゆらりとオサが顔を上げた……と思った瞬間。
「うわっ」
「きゃ?!」
トサを跳ね上げ、フツたちを驚かせて、ガバっと立ち上がったのだ!
周りの空気も不穏に揺れた。先ほど雨を呼んだせいで、辺りが暗い。なんなら、まだ、もう一雨来そうな空だ。私はもう呼んでない、むしろ雲を散らしにかかってるはずなのに……別の力が働いてるみたい。
オサは、しゅうしゅう言ってる荒い息と一緒に、口から涎が垂れている。
ヤバい、目がイッてる!
「フツ、トワダ、離れて!」
後ろ手に縛った両腕はまだ自由じゃないが、足は火傷に油断してたせいもあって、縛ってなかった。立ち上がったオサは仁王立ちになり、白目を剝いて私を睨んでいる。
ぐるるる……って、動物みたいな唸り声を出してる。
私はとっさに皆をかばって、前に飛び出した。
……衝撃!
「!!」
見えない風の塊だ!
「がはっ、げほっ」
うわ涎が出た、勘弁して。
「ミコ様!」
「ありがと、平気」
フツが心配してくれて、思わず素で返したけど、まぁいいか。お腹をさする。うん、大丈夫。穴は空いてないし、血も出てない。
モロにお腹で受けちゃったけど、力を入れてたから持ちこたえた。でなきゃ皆諸共、吹っ飛ばされてたかも……強い力だ。こんなツウリキをオサが持ってたなんて……と感じてから、ハタと違うと気付いた。
待って、これ、オサじゃない! オサがツウリキ持ってるなら、もっと前から色々使ってただろ! アレとかアレとか。
目がイッちゃってるのでも分かる、今のオサは、オサじゃない。
「……?」
ゆらりとオサが歪んだ。
いやいやいや、おかしい。
でもオサのビジュアルが歪んだのだ。霞んだというか。
その向こう、重なるように見えたシルエットは……。
「……今、来るかよ」
キヒリ……!
生意気そうな茶髪の顔が、オサと重なって見えたのだ。
私がそうと気付いたことに、気付いたのだろう。
オサの顔が、キヒリの表情をして、にしゃりと笑った。
「さすが、察しが良いね。オサが意識を手放してくれて良かったよ、おかげですんなり入れた」
「……アンタが気絶させたんじゃないの?」
「これは手厳しい」
そう言って肩をすくめるキヒリの年齢は、見た目通りじゃない気がする。ってのは、いい加減、分かってきた。
これはアレだ、オサの身体をキヒリが乗っ取った的な感じだろ。だとすれば、これ次は明らか私に来るよね。そもそもキヒリは、私の身体が欲しかったんだし。
そのために今ここにいるんだろうし。
私は下っ腹に力を入れて、身構えた。
キヒリは、コイツは私と同じ現代人だと思ってたけど、中身は私よりもっと年上、バケモンだ。多分ああやって身体から身体を渡り歩いてるんだ。
「キヒリ……って名前は、前の身体のものなんじゃないの。アンタ」
「ミコ様?」
はた目には、私がオサに話しかけてるようにしか見えてないだろうから、そりゃ私の台詞が変に聞こえるだろうね。
チサやフサたちが私の後ろで、怪訝な声を上げている。
でもトサや、その部下の男性たちは私の前に出ようとする。
「ミコ様、お下がり下さい!」
「トサこそ下がりなさい、今のオサはオサじゃない!」
「なんですと?!」
とかって、やり取りしてる間にもキヒリが練った気をぶつけて来るではないか! やっべ!
私は両手を前に突き出した。
「危ない!」
ゴウっ! と風が押し寄せ、私たちにぶつかっていく。皆が悲鳴を上げて転がる。小さいながらも舞い上がった土石が風に乗り、身体を打ち付けて行く。
風が刃になって襲いかかってくるのを防ぐだけで、精一杯だ。土石は容赦なく皆を打ち付ける。
「早く逃げて!」
と叫ぶも、
「ミコ様も!」
とトサが私をかばうので、平行線である。
キヒリの笑い声が耳障りだった。
「いいね、美しい主従関係! 早く降参して気絶してよ、痛くないようにするからさ」
「誰がだ、嫌に決まってるでしょ! ってか、何で私に執着するのさ、オサの身体で充分あれこれやれてんじゃん、私の身体なんか要らないでしょ?!」
一気に吐き捨てると、キヒリたるオサが「やれやれ」と肩をすくめた。分かってないなぁとか呟かれた、ムカつく。
いや何となくは分かるんだけどさ。
この身体のが、もっとツウリキ強いんでしょ。多分。
なおさら余計、渡せるかっつーの!
終わったな……って感慨と疲れを感じたってぇのに。
終わりじゃなかったのだ。
「……え?」
トサに押さえられ、うつ伏せのオサは縛られ、もう動けないはずだった。なのに。
ゆらりとオサが顔を上げた……と思った瞬間。
「うわっ」
「きゃ?!」
トサを跳ね上げ、フツたちを驚かせて、ガバっと立ち上がったのだ!
周りの空気も不穏に揺れた。先ほど雨を呼んだせいで、辺りが暗い。なんなら、まだ、もう一雨来そうな空だ。私はもう呼んでない、むしろ雲を散らしにかかってるはずなのに……別の力が働いてるみたい。
オサは、しゅうしゅう言ってる荒い息と一緒に、口から涎が垂れている。
ヤバい、目がイッてる!
「フツ、トワダ、離れて!」
後ろ手に縛った両腕はまだ自由じゃないが、足は火傷に油断してたせいもあって、縛ってなかった。立ち上がったオサは仁王立ちになり、白目を剝いて私を睨んでいる。
ぐるるる……って、動物みたいな唸り声を出してる。
私はとっさに皆をかばって、前に飛び出した。
……衝撃!
「!!」
見えない風の塊だ!
「がはっ、げほっ」
うわ涎が出た、勘弁して。
「ミコ様!」
「ありがと、平気」
フツが心配してくれて、思わず素で返したけど、まぁいいか。お腹をさする。うん、大丈夫。穴は空いてないし、血も出てない。
モロにお腹で受けちゃったけど、力を入れてたから持ちこたえた。でなきゃ皆諸共、吹っ飛ばされてたかも……強い力だ。こんなツウリキをオサが持ってたなんて……と感じてから、ハタと違うと気付いた。
待って、これ、オサじゃない! オサがツウリキ持ってるなら、もっと前から色々使ってただろ! アレとかアレとか。
目がイッちゃってるのでも分かる、今のオサは、オサじゃない。
「……?」
ゆらりとオサが歪んだ。
いやいやいや、おかしい。
でもオサのビジュアルが歪んだのだ。霞んだというか。
その向こう、重なるように見えたシルエットは……。
「……今、来るかよ」
キヒリ……!
生意気そうな茶髪の顔が、オサと重なって見えたのだ。
私がそうと気付いたことに、気付いたのだろう。
オサの顔が、キヒリの表情をして、にしゃりと笑った。
「さすが、察しが良いね。オサが意識を手放してくれて良かったよ、おかげですんなり入れた」
「……アンタが気絶させたんじゃないの?」
「これは手厳しい」
そう言って肩をすくめるキヒリの年齢は、見た目通りじゃない気がする。ってのは、いい加減、分かってきた。
これはアレだ、オサの身体をキヒリが乗っ取った的な感じだろ。だとすれば、これ次は明らか私に来るよね。そもそもキヒリは、私の身体が欲しかったんだし。
そのために今ここにいるんだろうし。
私は下っ腹に力を入れて、身構えた。
キヒリは、コイツは私と同じ現代人だと思ってたけど、中身は私よりもっと年上、バケモンだ。多分ああやって身体から身体を渡り歩いてるんだ。
「キヒリ……って名前は、前の身体のものなんじゃないの。アンタ」
「ミコ様?」
はた目には、私がオサに話しかけてるようにしか見えてないだろうから、そりゃ私の台詞が変に聞こえるだろうね。
チサやフサたちが私の後ろで、怪訝な声を上げている。
でもトサや、その部下の男性たちは私の前に出ようとする。
「ミコ様、お下がり下さい!」
「トサこそ下がりなさい、今のオサはオサじゃない!」
「なんですと?!」
とかって、やり取りしてる間にもキヒリが練った気をぶつけて来るではないか! やっべ!
私は両手を前に突き出した。
「危ない!」
ゴウっ! と風が押し寄せ、私たちにぶつかっていく。皆が悲鳴を上げて転がる。小さいながらも舞い上がった土石が風に乗り、身体を打ち付けて行く。
風が刃になって襲いかかってくるのを防ぐだけで、精一杯だ。土石は容赦なく皆を打ち付ける。
「早く逃げて!」
と叫ぶも、
「ミコ様も!」
とトサが私をかばうので、平行線である。
キヒリの笑い声が耳障りだった。
「いいね、美しい主従関係! 早く降参して気絶してよ、痛くないようにするからさ」
「誰がだ、嫌に決まってるでしょ! ってか、何で私に執着するのさ、オサの身体で充分あれこれやれてんじゃん、私の身体なんか要らないでしょ?!」
一気に吐き捨てると、キヒリたるオサが「やれやれ」と肩をすくめた。分かってないなぁとか呟かれた、ムカつく。
いや何となくは分かるんだけどさ。
この身体のが、もっとツウリキ強いんでしょ。多分。
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