上 下
34 / 63
四章 ミコがやれること

4-7

しおりを挟む
 雰囲気からするとタバナたち一行は、まだナコクに到着してないようだ。一個部隊だから、移動に時間がかかるのかな。
 皆のバテてる空気を感じる。まだ暑いもんね。現代の40℃とかいう狂った暑さじゃないけど。暑さだけじゃない、長旅の疲れもあるんだろう。
 現代みたいに車や飛行機、ないしねぇ。

 そんなことを思いながら、タバナらしき気配に向かって空を飛んでいると、平原の向こうに海が見えてきた。たゆたう、キラキラ光る鏡のような水面……。
 え?
 ナコクって、海の向こうなの?!
 驚いたけど、近付くとうっすら向こう岸があるのが見えてきた。半島? いや……これ、でっかい湖……か?
 舐められたら分かるんだけどな、幽体じゃ無理だ。匂いもない。風を感じるって思ってたけど、やっぱり実体じゃないんだなぁ。
 湖の上を飛び、向こう岸を目指す。途中に島みたいなのもあるけど、やっぱり半島なのかな。空から見る世界は大きくて果てしなくて、すごく自分がちっぽけだなぁって、逆に清々しい気持ちになる。これから、一波乱あるかも知れないのに。
 しばらく飛んだら、すぐ向こう岸が見えてきた。とはいえ海ひとつ超えた気分だ。
 まさかナコクって、韓国とか台湾とかなのかな。ってか、ここが日本なのかどうかも、まだ本当は疑わしい訳だけど……もう確認するすべがないから、日本ってことで良いかな。クニはヤマタイだし、私はヒミコだし。

 タバナが何を考えてるのか、私のことどう思ってるのかって、そわそわしてる自分がいる。そういう時の自分は嫌い。自分のことしか考えてない。
 でも嫌いなのに、ヒタオのこと悲しんでるはずなのに、やっぱりまた独りよがりループに陥ってる。私の感情じゃない、カラナの怨念だと思いたい。
 なのに、遠くにポツンとタバナたちらしき一行が見えただけで、泣きそうになるほど胸が締め付けられる。疲れきってる、重い空気。そりゃそうだ、行きたくないもの行かされてりゃ誰だって嫌だ。
 会いたかった。顔が見たかった。笑顔が見たい。
 願わくは、私に笑いかけて。
 私を好きだと言って。
 抱きしめて。

『タバナ!』
 幽体なので生の声じゃない。現代風に言うならテレパシーかな。
 気を取り直して引き締めて、業務用の顔をした。顔の判別ができるぐらいまで近づいてから、声をかけてみた。聞こえるかな。見えるかな。今の私の姿。
 タバナが、しきりに顔を動かした。
 キョロキョロしてる。
 私を探してるんだ。
 ここだよ、上だよ。
『タバナ。頭上だよ』
『ミコ様?!』
 タバナも、声のない声。頭に直接話しかけられたものだ。最初こそキョロキョロしてたけど、私がいると分かったらか、逆に前を向いちゃって、顔を上げなくなってしまった。分かったんだよね?
「タバナ様、いかがなされました?!」
 隊の人が、タバナに話しかけた。あの人には私の声も届いてないみたい。
 タバナが馬上から叫ぶ。
「何でもない! 羽虫がわずらわしかったのだ!」
 虫? え。私、虫?
『タバナ?』
 すると、やっとタバナの気配が私を向いた。とはいえ顔はこちらに向かない。前に行かないとダメかな。まとわり付いちゃうか、虫みたいに。

 タバナの空気が和らいでくれた。
『前を向いたまま話します。ミコ様のお姿は、我らに見えませぬ』
 あ、そうか。幽体だからか。
『気配を察したのは私だけかと。ですのでミコ様も、皆に気取られぬようなさいませ。ミコ様がいらっしゃると分かれば、大事おおごとです』
 そうなの? まぁ、そうか。普段、お社から出てこないんだもんね。
 私が分からないってことは、ツウリキ持ってる人はここにはいない、ってことだ。もう少し、他の皆も大なり小なりは持ってるかと思ってたけど、どうやらツウリキって、思った以上に希少価値が高い。
 ってことは多分、オサも持ってない。あんなに怯えたし。社に出入りしてくれてる女の子たちも皆、使ってるトコは見たことないから、持ってないんだろう。
 ヒタオのツウリキだって、あれは臨終直前の、命を燃やしたような使い方だった。
 タバナは使えるし、キヒリみたいな子もいたもんだから、メジャーなんだと誤解しちゃうけど。ツウリキ持ってるヒミコ様は、すごい存在なんだ。

 今さらだけど、どうして私なんかがミコ様になっちゃったのか、ものすごく疑問だ。

 特別な力とかなかったし、前世が見えたとかもない、運動音痴で、成績も中の中、あ、補習の勉強してたんじゃなかったっけ、私?
 敷いて言えば家庭環境は少しだけ特殊だったかも? だけど……再婚の連れ子だなんて、今の時代じゃ平凡すぎて、お昼のドラマにすらならない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

錬金術師カレンはもう妥協しません

山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」 前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。 病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。 自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。 それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。 依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。 王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。 前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。 ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。 仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。 錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。 ※小説家になろうにも投稿中。

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ
ファンタジー
 第15回ファンタジー大賞、奨励賞頂きました。  投票していただいた皆さん、ありがとうございます。  励みになりましたので、感想欄は受け付けのままにします。基本的には返信しませんので、ご了承ください。 「あんたいいかげんにせんねっ」  異世界にある大国ディレナスの王子が聖女召喚を行った。呼ばれたのは聖女の称号をもつ華憐と、派手な母親と、華憐の弟と妹。テンプレートのように巻き込まれたのは、聖女華憐に散々迷惑をかけられてきた、水澤一家。  ディレナスの大臣の1人が申し訳ないからと、世話をしてくれるが、絶対にあの華憐が何かやらかすに決まっている。一番の被害者である水澤家長女優衣には、新種のスキルが異世界転移特典のようにあった。『ルーム』だ。  一緒に巻き込まれた両親と弟にもそれぞれスキルがあるが、優衣のスキルだけ異質に思えた。だが、当人はこれでどうにかして、家族と溺愛している愛犬花を守れないかと思う。  まずは、聖女となった華憐から逃げることだ。  聖女召喚に巻き込まれた4人家族+愛犬の、のんびりで、もふもふな生活のつもりが……………    ゆるっと設定、方言がちらほら出ますので、読みにくい解釈しにくい箇所があるかと思いますが、ご了承頂けたら幸いです。

夜薔薇《ナイト・ローズ》~闇夜に咲く薔薇のように

椎名 将也
ファンタジー
「まさか、こんなことが起こるなんて……」 十六歳のアトロポスを襲った悲劇は、王宮のクーデターだった。 最愛の王女アルティシアを護るため、アトロポスは単身、剣を振るう! だが、アルティシアは捕らえられ、アトロポスには屈辱の試練が待っていた。 自分のすべてを捧げて愛したアルティシアを殺され、アトロポスは復讐を誓った。 『アトロポス、知っているかしら? 運命の女神って三人いるそうよ』 『三人ですか?』 『そう。運命の糸を紡ぐ女神、その糸に運命を割り当てる女神、そして死の瞬間にその糸を断ち切る女神……』 『糸を紡ぎ、割り当て、断ち切る……』 『私は運命の糸を紡いでみたい。この国の民が幸せになれるような糸を紡いでいきたい。それが王家に生まれた者の務めだと思うの』 『姫様……。姫様ならきっとできます。民の幸せの糸を紡ぐことが……』 アルティシアの言葉を胸に、アトロポスは百人の騎士が待つ南外門前広場に単身で襲撃をかけた。 民衆に晒されたアルティシアの御首を取り戻すために…… 後に冒険者ギルド最強の女剣士と呼ばれる少女の冒険が今始まった。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶
ファンタジー
【シリアス悪役令嬢モノ(?)。分からないことがあるのは幸せだ】 ある日目覚めたらずっと大好きな乙女ゲーの、それも悪役令嬢のレヴィアナに転生していた。 全てが美しく輝いているセレスティアル・ラブ・クロニクルの世界。 ヒロインのアリシア視点ではなく未知のイベントに心躍らせる私を待っているのは楽しい世界……のはずだったが? 「物語」に翻弄されるレヴィアナの運命はいかに!? カクヨムで先行公開しています https://kakuyomu.jp/works/16817330668424951212

処理中です...