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四章 ミコがやれること

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 謁見してやろう、なんて上から目線では言ってないけど。
「分かりました。オサに、デンの下へ来るよう伝えなさい」
 ニコリともせずに私は言い放った。
 やっぱちょっと上からかな。

 祈祷をやったり、ナコクの使者と会った、テラス。ベランダ。このスペースを「カグラデン」と呼びますよと教えてくれたのも、ヒタオだった。書物を確認したら、そこには神楽殿と書かれていた。
 神の字は使わないから、呼ぶ時は楽殿ラクデンとか殿デンになる。
 神楽か、そうか。と、妙に納得できた。
 テラスはミコが神として降臨する場所なのだ。
 現代だと神楽って言ったら舞を指すけど、この世界でも踊ったりとかするのかな。この身体カラナが踊れる気がしないけど。どっちかといえばヒタオが踊ったら綺麗だっただろうな。

「オサ。私と言葉を交わすことを許します」
 デンに来たオサは、私を見るなり「おやおや」って顔をした。
「以前とは、ずいぶんお変わりになられましたな、ミコ様」

 相変わらず余裕ある風な、嫌味な顔。薄く微笑んでるみたいに見えるのは間違いじゃないだろう。髭で分かりにくいけど、笑ってない目が逆に私をあざけってるように感じる。
 あっちのがデンの下にいるのに、地べたに座り込んでるのに、めっちゃ偉そうだ。
 オサが言う「以前」が、私じゃないカラナの頃のことを言ってるのか、捕らえられて洞窟で死にかけた時の私を言ってるのかは、分からない。分からないけど、でも、ひるんだら負けだ、というのだけは分かる。
「そのような発言は許していません」
 思いっきり見下す顔を作って、威張ってみた。ここでは私が上だ。多分。いや絶対。主導権は私だ、飲まれるもんか。

 フツが治佐チサを通して私に報告したことを、知ってるのだろう。オサはいきなり、切り出してきた。
「ミコ様。タバナがナコクへ向かったのは、先方との交渉のためです。ミコ様は、狙われたのですぞ。使者の処刑も当然ですし、そのような企みをしでかしたナコクに、牽制を与えるのは当然です」
 う~ん……。
 そう言われると……そうなのかな。この世界での常識として、処刑が正しいなら、これで相手への牽制になるのかも?
 先制攻撃を受けると、うろたえてしまう。
 でも……。
「それは、タバナがナコクに殺されませんか」
「そうはされぬよう、一個部隊で向かっておりますゆえ」
 はぁ?! ちょっ、待っ?!
「そんな大勢で行ったら余計に、あ、いえ」
 興奮すると素が出る。
「そうですか……」
 私は咳払いした。
「神託の語意が読み取れました」
 一拍置いて、勿体つけて。でなきゃ神託っぽくないもんね。
「戦争とは、ナコクとのものでしょう」
「お言葉ですが、ミコ様」
 頑張ってすごもうとする私に、間髪入れずオサがふてぶてしい顔を向けてきた。
「ナコクが我々と戦をできるほど、力があるはずがございません。タバナから聞いておったはず、かのクニも水不足で飢饉に遭い疲弊しておるのです。ですからヤマタイへ援助を乞いに来たのですから……」
「援助を乞いながら、私を暗殺しようと?」
 どっちが本当?

 ああ、良かった。
 最初の印象が悪すぎて、オサの言うこと全部、信用できないわ。おかげで、どんなに正しそうに聴こえる発言されても、疑ってかかれる。
 こちとら、あんたに殺されかけたの根に持ってんだからね。何もなかったかのように、しれっと「ミコ様の御為おんためでございます」とか言われて、信じられるかっつーの。
 なんなら暗殺計画だって、お前が手引きしたんじゃねーの? って話よ。

 あ。

 まさか、本当に手引きしたんじゃないか?
 だって使者と暗殺者を私に会わせるのもオサが仕組むなら、すんなり出来る。あの時オサは笑った。確かに見たわ。
 暗殺に失敗した使者の首をはねて証拠隠滅、ついでにタバナもナコクに送りこんで殺してもらおう、なんてことは……?

 ありえそう。
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