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四章 ミコがやれること
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翌朝。
「神託が下りました」
私は掃除しに来たトワダに向かって、いきなり言った。
「戦争が起こります」
「えっ……?!」
出し抜けにすっごいこと言われて、トワダの顔から表情が消えた。真っ青になってる。そりゃそうだろ、ゴメンねトワダ。
嘘っぱちだ。
どうにか現状を打破できないかと捻り出した、苦肉の策である。まともにミコ様やってるだけじゃ、フツからの伝言だけじゃ埒が開かない。私が持ってるカード「ツウリキ」を有効利用するしかない。
そもそも、こないだ「キヒリ」と呟いたことだって、あれは神託とは言わないしね、多分。でも神託扱いにしちゃったしね。
私が感じれば神託ということで良いのだ。
朝一番の段階でフツに言わなかったのは、昨日の今日で警戒されてるかなと思ったから。まぁどうせトワダがフツに伝えることになるんだろうけど、トワダの口から出たら、言葉の重みが変わる。
私がフツに直接言ったら、狙ってたみたいに聞こえそうだし。驚いて真っ青になってるトワダがフツに伝えたら信憑性も増すだろうし、フツは「どうして私に言わなかったんだろう」ってなるんじゃないかな。
信頼されてないと受け取るか、本当にいきなりの受託だったから自分が居合わせない時だったのか? ってな感じに疑って考えてくれたら、狙い通りなんだけどな。
逆にそのまま素直に受け止めてオサに伝えてもらっても、全然構わないとは思うけど。
「ミコ様。御神託をお受けになられたと、トワダから聞きました。詳しくお聞かせ願えませんか」
と、フツが来た。
よっしゃ狙い通り。
「詳しく、とは」
「戦争が起こる、と」
「そうであったかの」
しれっと眉をひそめて見せる。
神託を直接聞いたことがないだろうフツは、案の定うろたえた。
「お忘れに……?」
「神託とは、そういうものよ。だから一刻も早く正確に聞き伝える者が必要なの」
「それは……」
「タバナ」
当たり前でしょ、というドヤ顔をして見せる。何かちょっと仕返しできた気分になってしまった。ドヤ。
「ミコ様……タバナは、今は」
「もう遅いわ。神託は消えてしまった。タバナがいないならチサを通してでもオサに伝えなさい。いつ、どうして起こるのか、誰が起こすのか、私には分からない」
「か、かしこまりました」
おろおろしながら、フツが社を後にする。
これでオサが騒然となって、こっちに向かってアクション起こしてくれたら良いんだけど。
やりたい事は、ふたつ。
キヒリを捕まえて話がしたいってことと、タバナに会いたいってことだけだ。
どっちも、会ってどうするの? ってことまでは考えてない。会えば何かが分かるかなと感じてるだけだ。特にキヒリなんて、いなかったことになってるし。
全員がキヒリのことを忘れたのか、そもそもキヒリの姿だって、皆にはどう映っていたのかも怪しい。奴隷ですって紹介された時は、まだ存在してたはずだし。
現代に戻れない以上、私はここで生きなきゃいけない。ただ息をするだけの生き物でいたくないだけだ。時々ツウリキを求められて死にそうな思いをしながら生きるのが、正解だとは思えない。
このミコ様という立ち位置を、ぶっ壊したい。
……と感じたのは、ヒタオが死んだから。
ヒタオを犠牲にして生き延びた身体を、持て余していたくない。いや、ミコ様たる立場のことだ、今までにだって、色んな人を犠牲にしてんじゃないか? もしかして。
恐れられる存在。
遠巻きにされる存在。
本人が、もう嫌だと逃亡しちゃうほど。
ミコでいることが嫌になるほど。
嫌なんだったらさ。
変えてやろうじゃないの。
もがいてやる。
「ミコ様。オサから、お目見えできないかという言葉を承りました」
フツが返答を抱えてきたのは、3日後だった。ずいぶん掛かったな。いや、これが普通なのかな。5分で返信が来る世界に暮らしていたら、時間の感覚が狂う。
っていうか私、ここに来てもう2ヶ月ぐらいは経ってると思うんだけど、まだ全然慣れてないな。17年かけて染み付いたものが、たった2ヶ月じゃ取れないか。
「ミコ様?」
「あ、いや、ゴメン」
思わず笑ってしまった私に、フツが怪訝な顔をした。
「やっぱりタバナは来ないんだなと思って」
「ミコ様……」
笑ってしまった理由としては変かなと思ったけど、思いの外フツの同情が得られた。え?
「ミコ様。実はタバナは、今ここにいないのです」
「え?」
「ナコクへ首を届けに行ったのは……タバナなのです」
「え?! なんで?!」
思いっきり素が出ちゃったけど、フツも私も、気にしてなかった。いやそれヤバいでしょ! タバナが向こうに殺されるかも知れないヤツじゃね?!
それを私に黙った上で、私と話がしたいだなんて言うの? オサが?
「神託が下りました」
私は掃除しに来たトワダに向かって、いきなり言った。
「戦争が起こります」
「えっ……?!」
出し抜けにすっごいこと言われて、トワダの顔から表情が消えた。真っ青になってる。そりゃそうだろ、ゴメンねトワダ。
嘘っぱちだ。
どうにか現状を打破できないかと捻り出した、苦肉の策である。まともにミコ様やってるだけじゃ、フツからの伝言だけじゃ埒が開かない。私が持ってるカード「ツウリキ」を有効利用するしかない。
そもそも、こないだ「キヒリ」と呟いたことだって、あれは神託とは言わないしね、多分。でも神託扱いにしちゃったしね。
私が感じれば神託ということで良いのだ。
朝一番の段階でフツに言わなかったのは、昨日の今日で警戒されてるかなと思ったから。まぁどうせトワダがフツに伝えることになるんだろうけど、トワダの口から出たら、言葉の重みが変わる。
私がフツに直接言ったら、狙ってたみたいに聞こえそうだし。驚いて真っ青になってるトワダがフツに伝えたら信憑性も増すだろうし、フツは「どうして私に言わなかったんだろう」ってなるんじゃないかな。
信頼されてないと受け取るか、本当にいきなりの受託だったから自分が居合わせない時だったのか? ってな感じに疑って考えてくれたら、狙い通りなんだけどな。
逆にそのまま素直に受け止めてオサに伝えてもらっても、全然構わないとは思うけど。
「ミコ様。御神託をお受けになられたと、トワダから聞きました。詳しくお聞かせ願えませんか」
と、フツが来た。
よっしゃ狙い通り。
「詳しく、とは」
「戦争が起こる、と」
「そうであったかの」
しれっと眉をひそめて見せる。
神託を直接聞いたことがないだろうフツは、案の定うろたえた。
「お忘れに……?」
「神託とは、そういうものよ。だから一刻も早く正確に聞き伝える者が必要なの」
「それは……」
「タバナ」
当たり前でしょ、というドヤ顔をして見せる。何かちょっと仕返しできた気分になってしまった。ドヤ。
「ミコ様……タバナは、今は」
「もう遅いわ。神託は消えてしまった。タバナがいないならチサを通してでもオサに伝えなさい。いつ、どうして起こるのか、誰が起こすのか、私には分からない」
「か、かしこまりました」
おろおろしながら、フツが社を後にする。
これでオサが騒然となって、こっちに向かってアクション起こしてくれたら良いんだけど。
やりたい事は、ふたつ。
キヒリを捕まえて話がしたいってことと、タバナに会いたいってことだけだ。
どっちも、会ってどうするの? ってことまでは考えてない。会えば何かが分かるかなと感じてるだけだ。特にキヒリなんて、いなかったことになってるし。
全員がキヒリのことを忘れたのか、そもそもキヒリの姿だって、皆にはどう映っていたのかも怪しい。奴隷ですって紹介された時は、まだ存在してたはずだし。
現代に戻れない以上、私はここで生きなきゃいけない。ただ息をするだけの生き物でいたくないだけだ。時々ツウリキを求められて死にそうな思いをしながら生きるのが、正解だとは思えない。
このミコ様という立ち位置を、ぶっ壊したい。
……と感じたのは、ヒタオが死んだから。
ヒタオを犠牲にして生き延びた身体を、持て余していたくない。いや、ミコ様たる立場のことだ、今までにだって、色んな人を犠牲にしてんじゃないか? もしかして。
恐れられる存在。
遠巻きにされる存在。
本人が、もう嫌だと逃亡しちゃうほど。
ミコでいることが嫌になるほど。
嫌なんだったらさ。
変えてやろうじゃないの。
もがいてやる。
「ミコ様。オサから、お目見えできないかという言葉を承りました」
フツが返答を抱えてきたのは、3日後だった。ずいぶん掛かったな。いや、これが普通なのかな。5分で返信が来る世界に暮らしていたら、時間の感覚が狂う。
っていうか私、ここに来てもう2ヶ月ぐらいは経ってると思うんだけど、まだ全然慣れてないな。17年かけて染み付いたものが、たった2ヶ月じゃ取れないか。
「ミコ様?」
「あ、いや、ゴメン」
思わず笑ってしまった私に、フツが怪訝な顔をした。
「やっぱりタバナは来ないんだなと思って」
「ミコ様……」
笑ってしまった理由としては変かなと思ったけど、思いの外フツの同情が得られた。え?
「ミコ様。実はタバナは、今ここにいないのです」
「え?」
「ナコクへ首を届けに行ったのは……タバナなのです」
「え?! なんで?!」
思いっきり素が出ちゃったけど、フツも私も、気にしてなかった。いやそれヤバいでしょ! タバナが向こうに殺されるかも知れないヤツじゃね?!
それを私に黙った上で、私と話がしたいだなんて言うの? オサが?
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