わが名は日神子〜転生か憑依か分かりません〜

加上鈴子

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二章 ミコのお仕事

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 それからの私は、ヒタオを中心とした侍女たる女の人たちに囲まれながら、着実に回復して行った。

 食事は一日一回から2回になった。基本的には毎回お粥だけど、この身体がそれに慣れているのか、苦痛はなかった。記憶は肉やケーキを思い浮かべるけど、そんなのは望めるべくもない。
 時々付けてくれる果物が、天国みたいなぐらいだ。
 これだって、私が知ってる果物とは似ても似つかない。リンゴっぽいけど小さくて、シワだらけで酸っぱい。だけど、果物ってだけで幸せだ。
 他にも、たまに野菜や木の実を出してもらえる。
 ただ、まだ消化するのは辛いみたいで、食べた後はちょっとお腹が痛くなる。だからきっと、肉や魚を出されても、食べられないのに違いない。
 ってか、そもそもこの身体が、消化の悪いものを受け付けないのかも知れないしなぁ。

 侍女たちは私を、ものすごく、うやうやしく扱う。
 親しげなのはヒタオだけで、あとは遠巻きに眺められてる感じだ。名前はだいたい分かってきたけど、絶対に目を合わせてくれないし、なんなら顔を上げてもくれない。ヒタオの「親しげ」っていうのだって敬語だし、お辞儀されるし。

 ここはどこ。
 私は誰。

 記憶喪失で定番の質問を使ったが、ヒタオからは「ここはムラ、貴女はミコ様です」という返事しか貰えなかった。
 『この時代』とか『この世界は』なんて質問の仕方しても「はぁ?」ってなるだろうし。ましてや私が、現代から来た別人なんです~なんて言って、理解されるとも思えないし、受け入れられるとも思えない。身体が「ミコ様」なのに、中身が違うんです、なんて。
 記憶をなくしているってだけでも、かなりショック受けてるっぽかったんだ。別人ですなんて言ったら、嫌われるとかだけじゃ済まなさそう。
「私がどういう人間なのか、ヒタオが知ってる私のことを教えてくれませんか」
「滅相もございません」
 平伏されて、話は終わったのだった。
 こりゃタバナに聞くしかないな……と、腹をくくったのが、もう何日も前のことだ。忙しいのか何なのか、タバナはここに来ない。

 そんな訳で仕方がないから、私は今のところ、ミコとして生きている。
 まずは体力回復だ。
 現代に戻る方法を探るにしろ、この「ミコ様」なる「私」のことを聞くにしろ、元気じゃなきゃ動けない。
 足腰がすっかり弱っているので、まず立つことすらもできない。人って、活動しないとこんなに弱るんだ……と、感動すら覚えた。
 洞窟で死にかけた日々は、想像以上に過酷だったみたいだ。そもそも、あんな草原に立ててただけでも、奇跡だったのかも知れない。

 寝たまま、足をちょっと浮かせる。
 そんな簡単なことから、筋トレしてみた。
 ちょっと首を浮かせたり。
 寝返り打ったら、肘をついてお腹を浮かせてみたり。嫌いだったなぁ、プランク。
 そんなことをしていたら、数日もしたら自分で身体を起こせるようになった。いつもヒタオが背中を支えてくれてたので、ホッとした。
「ミコ様、お元気になって参りましたね」
 自分で起きられた時、ヒタオが喜んでくれた。
「以前のミコ様はそのように、そこまで身体をお動かしになられませんでした」
「そう……」
 言葉を濁しつつ、内心「やべ」と思ったけど、まぁ記憶喪失だから別人のようなんだと納得してくれてるみたいだから、いいか。あんまりにも前の、この子と違う言動すぎたら、さすがに疑われるかと思ったけど……。

 でも、外見が間違いなく、この子だから。
 まさか中身が違うとかって、普通は考えられないもんね。せいぜい二重人格とかいう発想だろうし。それだって、こんな生活基準なヒタオたちに思い浮かぶ発想とは、思えないし。
 そう思うと便利だな、記憶喪失。
 下手にミコ様として振る舞う必要がなくて助かる。
「以前の私って、そんなに動かなかったの?」
「それはもう、ミコ様の生業が……あ、いえ」
 惜しい!
 口を閉ざされてしまった。
 でもヒタオが、かなり心を開いてくれてるのは感じる。最初に介護してくれた時は、こわごわって空気を感じたけど、今は気を抜くと何か喋ってくれそう。
 それを喋らずにいようとしてるのは、やっぱり誰かから口止めされてるのか、私が、口も聞いちゃいけないようなエラい立場だからなのか……なんだろうな、多分。

 ヒタオだけじゃない、他の女の人たちも最近、空気が柔らかいなと感じるのだ。相変わらず頭を上げてくれないけど、最初より距離感が近い気がする。
 どんだけエラいんだよ、ミコ様。
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