10 / 63
二章 ミコのお仕事
2-2
しおりを挟む
それからの私は、ヒタオを中心とした侍女たる女の人たちに囲まれながら、着実に回復して行った。
食事は一日一回から2回になった。基本的には毎回お粥だけど、この身体がそれに慣れているのか、苦痛はなかった。記憶は肉やケーキを思い浮かべるけど、そんなのは望めるべくもない。
時々付けてくれる果物が、天国みたいなぐらいだ。
これだって、私が知ってる果物とは似ても似つかない。リンゴっぽいけど小さくて、シワだらけで酸っぱい。だけど、果物ってだけで幸せだ。
他にも、たまに野菜や木の実を出してもらえる。
ただ、まだ消化するのは辛いみたいで、食べた後はちょっとお腹が痛くなる。だからきっと、肉や魚を出されても、食べられないのに違いない。
ってか、そもそもこの身体が、消化の悪いものを受け付けないのかも知れないしなぁ。
侍女たちは私を、ものすごく、うやうやしく扱う。
親しげなのはヒタオだけで、あとは遠巻きに眺められてる感じだ。名前はだいたい分かってきたけど、絶対に目を合わせてくれないし、なんなら顔を上げてもくれない。ヒタオの「親しげ」っていうのだって敬語だし、お辞儀されるし。
ここはどこ。
私は誰。
記憶喪失で定番の質問を使ったが、ヒタオからは「ここはムラ、貴女はミコ様です」という返事しか貰えなかった。
『この時代』とか『この世界は』なんて質問の仕方しても「はぁ?」ってなるだろうし。ましてや私が、現代から来た別人なんです~なんて言って、理解されるとも思えないし、受け入れられるとも思えない。身体が「ミコ様」なのに、中身が違うんです、なんて。
記憶をなくしているってだけでも、かなりショック受けてるっぽかったんだ。別人ですなんて言ったら、嫌われるとかだけじゃ済まなさそう。
「私がどういう人間なのか、ヒタオが知ってる私のことを教えてくれませんか」
「滅相もございません」
平伏されて、話は終わったのだった。
こりゃタバナに聞くしかないな……と、腹をくくったのが、もう何日も前のことだ。忙しいのか何なのか、タバナはここに来ない。
そんな訳で仕方がないから、私は今のところ、ミコとして生きている。
まずは体力回復だ。
現代に戻る方法を探るにしろ、この「ミコ様」なる「私」のことを聞くにしろ、元気じゃなきゃ動けない。
足腰がすっかり弱っているので、まず立つことすらもできない。人って、活動しないとこんなに弱るんだ……と、感動すら覚えた。
洞窟で死にかけた日々は、想像以上に過酷だったみたいだ。そもそも、あんな草原に立ててただけでも、奇跡だったのかも知れない。
寝たまま、足をちょっと浮かせる。
そんな簡単なことから、筋トレしてみた。
ちょっと首を浮かせたり。
寝返り打ったら、肘をついてお腹を浮かせてみたり。嫌いだったなぁ、プランク。
そんなことをしていたら、数日もしたら自分で身体を起こせるようになった。いつもヒタオが背中を支えてくれてたので、ホッとした。
「ミコ様、お元気になって参りましたね」
自分で起きられた時、ヒタオが喜んでくれた。
「以前のミコ様はそのように、そこまで身体をお動かしになられませんでした」
「そう……」
言葉を濁しつつ、内心「やべ」と思ったけど、まぁ記憶喪失だから別人のようなんだと納得してくれてるみたいだから、いいか。あんまりにも前の、この子と違う言動すぎたら、さすがに疑われるかと思ったけど……。
でも、外見が間違いなく、この子だから。
まさか中身が違うとかって、普通は考えられないもんね。せいぜい二重人格とかいう発想だろうし。それだって、こんな生活基準なヒタオたちに思い浮かぶ発想とは、思えないし。
そう思うと便利だな、記憶喪失。
下手にミコ様として振る舞う必要がなくて助かる。
「以前の私って、そんなに動かなかったの?」
「それはもう、ミコ様の生業が……あ、いえ」
惜しい!
口を閉ざされてしまった。
でもヒタオが、かなり心を開いてくれてるのは感じる。最初に介護してくれた時は、こわごわって空気を感じたけど、今は気を抜くと何か喋ってくれそう。
それを喋らずにいようとしてるのは、やっぱり誰かから口止めされてるのか、私が、口も聞いちゃいけないようなエラい立場だからなのか……なんだろうな、多分。
ヒタオだけじゃない、他の女の人たちも最近、空気が柔らかいなと感じるのだ。相変わらず頭を上げてくれないけど、最初より距離感が近い気がする。
どんだけエラいんだよ、ミコ様。
食事は一日一回から2回になった。基本的には毎回お粥だけど、この身体がそれに慣れているのか、苦痛はなかった。記憶は肉やケーキを思い浮かべるけど、そんなのは望めるべくもない。
時々付けてくれる果物が、天国みたいなぐらいだ。
これだって、私が知ってる果物とは似ても似つかない。リンゴっぽいけど小さくて、シワだらけで酸っぱい。だけど、果物ってだけで幸せだ。
他にも、たまに野菜や木の実を出してもらえる。
ただ、まだ消化するのは辛いみたいで、食べた後はちょっとお腹が痛くなる。だからきっと、肉や魚を出されても、食べられないのに違いない。
ってか、そもそもこの身体が、消化の悪いものを受け付けないのかも知れないしなぁ。
侍女たちは私を、ものすごく、うやうやしく扱う。
親しげなのはヒタオだけで、あとは遠巻きに眺められてる感じだ。名前はだいたい分かってきたけど、絶対に目を合わせてくれないし、なんなら顔を上げてもくれない。ヒタオの「親しげ」っていうのだって敬語だし、お辞儀されるし。
ここはどこ。
私は誰。
記憶喪失で定番の質問を使ったが、ヒタオからは「ここはムラ、貴女はミコ様です」という返事しか貰えなかった。
『この時代』とか『この世界は』なんて質問の仕方しても「はぁ?」ってなるだろうし。ましてや私が、現代から来た別人なんです~なんて言って、理解されるとも思えないし、受け入れられるとも思えない。身体が「ミコ様」なのに、中身が違うんです、なんて。
記憶をなくしているってだけでも、かなりショック受けてるっぽかったんだ。別人ですなんて言ったら、嫌われるとかだけじゃ済まなさそう。
「私がどういう人間なのか、ヒタオが知ってる私のことを教えてくれませんか」
「滅相もございません」
平伏されて、話は終わったのだった。
こりゃタバナに聞くしかないな……と、腹をくくったのが、もう何日も前のことだ。忙しいのか何なのか、タバナはここに来ない。
そんな訳で仕方がないから、私は今のところ、ミコとして生きている。
まずは体力回復だ。
現代に戻る方法を探るにしろ、この「ミコ様」なる「私」のことを聞くにしろ、元気じゃなきゃ動けない。
足腰がすっかり弱っているので、まず立つことすらもできない。人って、活動しないとこんなに弱るんだ……と、感動すら覚えた。
洞窟で死にかけた日々は、想像以上に過酷だったみたいだ。そもそも、あんな草原に立ててただけでも、奇跡だったのかも知れない。
寝たまま、足をちょっと浮かせる。
そんな簡単なことから、筋トレしてみた。
ちょっと首を浮かせたり。
寝返り打ったら、肘をついてお腹を浮かせてみたり。嫌いだったなぁ、プランク。
そんなことをしていたら、数日もしたら自分で身体を起こせるようになった。いつもヒタオが背中を支えてくれてたので、ホッとした。
「ミコ様、お元気になって参りましたね」
自分で起きられた時、ヒタオが喜んでくれた。
「以前のミコ様はそのように、そこまで身体をお動かしになられませんでした」
「そう……」
言葉を濁しつつ、内心「やべ」と思ったけど、まぁ記憶喪失だから別人のようなんだと納得してくれてるみたいだから、いいか。あんまりにも前の、この子と違う言動すぎたら、さすがに疑われるかと思ったけど……。
でも、外見が間違いなく、この子だから。
まさか中身が違うとかって、普通は考えられないもんね。せいぜい二重人格とかいう発想だろうし。それだって、こんな生活基準なヒタオたちに思い浮かぶ発想とは、思えないし。
そう思うと便利だな、記憶喪失。
下手にミコ様として振る舞う必要がなくて助かる。
「以前の私って、そんなに動かなかったの?」
「それはもう、ミコ様の生業が……あ、いえ」
惜しい!
口を閉ざされてしまった。
でもヒタオが、かなり心を開いてくれてるのは感じる。最初に介護してくれた時は、こわごわって空気を感じたけど、今は気を抜くと何か喋ってくれそう。
それを喋らずにいようとしてるのは、やっぱり誰かから口止めされてるのか、私が、口も聞いちゃいけないようなエラい立場だからなのか……なんだろうな、多分。
ヒタオだけじゃない、他の女の人たちも最近、空気が柔らかいなと感じるのだ。相変わらず頭を上げてくれないけど、最初より距離感が近い気がする。
どんだけエラいんだよ、ミコ様。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。
転生チートは家族のために ユニークスキル『複合』で、快適な異世界生活を送りたい!
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
なろう390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす
大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜
魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。
大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。
それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・
ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。
< 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる