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一章 私はミコ様

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 意識が浮上する。
 目を閉じているのが分かる。
 身体が横向きに倒れている。
 あれ? ベッド?
 無意識にか記憶にないうちにか、ベッドに潜り込んでたかな。
 夢を見ていた気がするが、思い出せない。SFチックだったのにな。
 そう思いながら、軽くなったまぶたを開いた。
「……?」
 暗い。何も見えない。
 右向きなら室内が見えるのに。
 部屋の電気、消したのかな?
 お母さんが消してくれた? まさか。寝てる娘の部屋に忍び込むような人じゃない。
 とりあえず電気つけないと。枕元にリモコンあったかな。そう思って手を上げようとして……動けないことに気付いた。手が動かせないどころか、身体の自由も効かない。
 ゴリッ。
 頭を動かしたら、耳元で硬い音がした。枕がない。頭が痛い。痛覚が戻ってる。あれ?

「お目覚めですか」

 いや~な感じの、男の声。初めて聴く声だ。が、私はこの声に嫌悪を抱いている。相手からも私に対しての嫌悪感がぷんぷん臭ってくる。知り合う前から犬猿の仲なんてこともあるんだなぁ。
 頭上から降ってくる声の方角で、私は見下されているらしいと分かった。かろうじて首が動かせたけど、動いても視界に男の姿が入ってこない。斜め後ろかな。
 段々、目が慣れてきた。
 ここが自分の部屋で、私は夢から覚めたところ……なんていう幻想は、抱いていない。ゴリッって聴こえた時点から、覚悟していた。生々しい痛みが頭をクリアにしている。
 信じられないことに遭う人が、自分の頬をつねるヤツ。あれの気持ちが、よく分かる。肉体に与えられる痛みって、何よりも確かだ。

 部屋ですらない。地面に転がされている私がいるのは、どうやら洞窟だ。ゴツゴツしてる岩の壁が見える。見上げると天井があり、これも岩だ。削ったような跡が見える。人工的に作った洞穴のようだ。
 動こうと全身でもがく。がんじがらめにされている。自分に目を落としてみる。胴体から足から、すべてを縄のような紐で、縛られている。
 連れ戻された……というよりは、捕まったという風体だ。
 ミコ様ミコ様と慕うような声で呼びかけてくれていた、あの一行はどこ行ったんだろう? この男は、あの人たちとは違うグループ?
 この身体の持ち主なら、それも知っていそうなんだけど。
 草原で「いやよ」と叫んだ、この身体の主が感じられない。ピンチなんだから、出てきなさいよ。なんで私が縛られなきゃいけないんだっつーの。

「残念ですな、ミコ様。まさか貴女様が、逃亡をはかるなどとは」
 ちょっと大袈裟にも感じられる、仰々しい言い方。周りにも誰かがいるのだろうか? 彼は私に話しかけるというよりは、周りに演説するみたいな大声を出している。
「このような仕打ちは、まことに不本意です。しかし罪を赦し、お戻り頂くためには、この儀式が重要です」
 儀式?
 この、縛られて転がされているのが、儀式なの? どんな世界よ本当に。人が黙って聞いてりゃ、いい気になりやがって!
 私はイモムシ状態な我が身を、どうにかひっくり返した。うつ伏せになり、ぐいっと頭を上げたら、やっと男の腰ぐらいまでを見ることができた。くっそ、顔まで見えない。そもそも暗い。
 こういう目に遭うから、それが嫌になって逃亡したんじゃない? 私?

 男の足は靴を履いている。それも布を硬めたような、ちゃんとした靴の形をしているものだ。それにズボン。白くて、ゆったりしたズボンを履いている。靴は知らなかったが、このズボンの形は見たことがある。
 教科書で。
 幅広のズボンを、膝の辺りで縛っている形。腰までしか見れないけど、上もゆったりしたチュニックみたいだと分かる。それを腰紐で縛っているスタイルだ。

 この形は……まさかの、弥生時代だ。
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