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本編
漆黒のAランク冒険者 (ルイside)
しおりを挟むルイside
俺はあの人が死んだ瞬間を見ていない。
あのS級の魔物が王都に攻めてきた時、俺はAランクの冒険者だった。
平民産まれでの冒険者Aランクは珍しく、当時は最年少冒険者の確か14歳くらいだった。
Aランクになると国王から称号みたいなものを貰うべく、王宮に行くらしいのだが俺はそもそも興味などなかったから辞退した。
テオドル・アールステット国王なんて誰でも知っている、そして国民のためを考え動いてくれる国王だというのも皆が知っているし、もちろん俺も知っている。
だからこそ平民の俺に会わせたくないと思う冒険者がいる。
なにより俺は他の奴らと関わらずに生きてきた。気に入らないというのも半分はあるだろう。それ以上かもな。
「辞退しろ」やら「お前は相応しくない」などという言葉は聞き飽きた。
そこまでして国王に会いたいとか称号が欲しいなんて思っていない。そんなものこっちから願い下げだ低脳。と、当時は思っていた。
_________...
「えーっと、君がルイくんかな?」
能天気なそんな声で俺の名前を確認している目の前の男は間違いなく国王のテオドル・ヘルクヴィストだ。
何があった?
見た目は若く20代のように見え、金色の髪の毛を鬱陶しそうにかきあがる姿は逆に実際の年相応のように見えた。
「今日は随分と暑いね」
眉毛を八の字にしながらそう話しかけてくる。
待て、なにがあったんだ本当に。
ここにいていい人ではないだろ。
普通に街中で話しかけられた俺は困惑し、声も発せず動きも止まってしまっていた。
「ちょっと一杯どうかなって…思ったんだけどそうか、、君はまだ成人ではないね。」
社会に出るのは大体13歳くらいで、成人は15歳と決まっている。
一杯どうかってなんだよ、そもそも初めてあっただろ。
「あ、の、俺に何か用か?……ですか。」
戸惑いながらも国王があまりにもラフだったので質問をしてみた。
敬語なんて使う機会もないから変な話し方になったのは気にしないでおこう。
「あぁ、んー、君に会いたいなあって思ってさ」
「は?」
「若くしてAランクになった冒険者のルイくんとは君のことで間違いないかな?」
「ああ、はい。俺…ですが。」
「やっぱりそうか!ギルドの周り張り込んでてよかったな…」
張り込む?聞き間違えか?
やはりパニックになったルイは頭を整理することができずハテナばかり浮かべる。
もしかしてこの前の称号の辞退のことか?
「あの、称号はいらないので。」
先にそう言うと、テオドル…様はその顔を微笑みに変えた。
「なんでだい?君が頑張った証じゃないか。」
「別に…」
「そうかな?私には君がとても立派に見える。この称号がとても似合うと思うよ。そんな素晴らしい君達だからこそ実際にあって声をかけたかったんだ。」
そう真っ直ぐに言葉に出し、ケースから金色のキラキラしたブローチを取り出した。そして俺の手に握らせたテオドル様の目は同じくキラキラしていた。
「よく、頑張ったね。そしてこれからもこの国をよろしくな。」
テオドル様の手が俺の頭に乗せられ、子供に対するそれのように撫でられる。
こんなこと、小さい頃にされた以来だったので恥ずかしい気もしたが、なんだか心地が良かった。
「君が大人になったら一緒にお酒でも飲みに行こう。」
そう言って手を振ってテオドル様は帰っていった。
まるで嵐のような人だ…
それからたまに街中であったりしていた。
そもそも国王はそんな気軽に会える人ではないのに、お忍びのような感じでしょっちゅうテオドル様は来ていた。
「内緒だよ」と笑いながら口に人差し指を当てる姿は何回も見たし、子供が悪戯しているときに似ていてすごく可愛かった。全然年上なのにな。
俺の口癖のような口の悪さも「ルイがそれで喧嘩を売られて怪我をしてしまわないか心配だ」などと、Aランクの俺に心配までしてくれた人だ。
それがあの日…
「国王様がっ、テオドル・ヘルクヴィスト様がっ。お亡くなりにっ…なりました!!!」
は?
亡くなる?
強くて、かっこよくて、可愛くて、綺麗で、優しくて。そんなテオドル様が亡くなった?
何を言っているんだ低脳。そんなはずないだろ。
「俺も前戦に行く」と、テオドル様とすれ違った時に言った。
そしたらテオドル様は
「すまんな、国民をどうか守ってくれ。俺は大丈夫だから。」
とあの笑顔で言った。
そんなテオドル様を前戦に行かせて、俺は何をしていた。
俺がSランクだったら前戦に行けたのに、俺がもっと強かったら守れたのに。
Sランクのヘルゲ・マルクスと騎士団のヴィル・アストロールはあの人の最後を見ている。
あいつらに何をやってるんだと責めてやりたかったが、マルクスもヴィストロールもしばらくは復活してこなかったとのことだ。
あれから8年くらい経った今となっては、Sランクの冒険者は結構いる。
俺もSランクにとっくにあがっている。
今なら守れるのに、と。後悔ばかりが押し寄せる。
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