上 下
40 / 47
本編

漆黒のAランク冒険者 (ルイside)

しおりを挟む


ルイside 






俺はあの人が死んだ瞬間を見ていない。


あのS級の魔物が王都に攻めてきた時、俺はAランクの冒険者だった。
平民産まれでの冒険者Aランクは珍しく、当時は最年少冒険者の確か14歳くらいだった。


Aランクになると国王から称号みたいなものを貰うべく、王宮に行くらしいのだが俺はそもそも興味などなかったから辞退した。

テオドル・アールステット国王なんて誰でも知っている、そして国民のためを考え動いてくれる国王だというのも皆が知っているし、もちろん俺も知っている。
だからこそ平民の俺に会わせたくないと思う冒険者がいる。
なにより俺は他の奴らと関わらずに生きてきた。気に入らないというのも半分はあるだろう。それ以上かもな。

「辞退しろ」やら「お前は相応しくない」などという言葉は聞き飽きた。

そこまでして国王に会いたいとか称号が欲しいなんて思っていない。そんなものこっちから願い下げだ低脳。と、当時は思っていた。


_________...




「えーっと、君がルイくんかな?」

能天気なそんな声で俺の名前を確認している目の前の男は間違いなく国王のテオドル・ヘルクヴィストだ。


何があった?

見た目は若く20代のように見え、金色の髪の毛を鬱陶しそうにかきあがる姿は逆に実際の年相応のように見えた。

「今日は随分と暑いね」
眉毛を八の字にしながらそう話しかけてくる。


待て、なにがあったんだ本当に。
ここにいていい人ではないだろ。
普通に街中で話しかけられた俺は困惑し、声も発せず動きも止まってしまっていた。


「ちょっと一杯どうかなって…思ったんだけどそうか、、君はまだ成人ではないね。」

社会に出るのは大体13歳くらいで、成人は15歳と決まっている。
一杯どうかってなんだよ、そもそも初めてあっただろ。

「あ、の、俺に何か用か?……ですか。」

戸惑いながらも国王があまりにもラフだったので質問をしてみた。
敬語なんて使う機会もないから変な話し方になったのは気にしないでおこう。


「あぁ、んー、君に会いたいなあって思ってさ」

「は?」

「若くしてAランクになった冒険者のルイくんとは君のことで間違いないかな?」

「ああ、はい。俺…ですが。」

「やっぱりそうか!ギルドの周り張り込んでてよかったな…」

張り込む?聞き間違えか?
やはりパニックになったルイは頭を整理することができずハテナばかり浮かべる。

もしかしてこの前の称号の辞退のことか?

「あの、称号はいらないので。」

先にそう言うと、テオドル…様はその顔を微笑みに変えた。

「なんでだい?君が頑張った証じゃないか。」

「別に…」

「そうかな?私には君がとても立派に見える。この称号がとても似合うと思うよ。そんな素晴らしい君達だからこそ実際にあって声をかけたかったんだ。」

そう真っ直ぐに言葉に出し、ケースから金色のキラキラしたブローチを取り出した。そして俺の手に握らせたテオドル様の目は同じくキラキラしていた。

「よく、頑張ったね。そしてこれからもこの国をよろしくな。」

テオドル様の手が俺の頭に乗せられ、子供に対するそれのように撫でられる。
こんなこと、小さい頃にされた以来だったので恥ずかしい気もしたが、なんだか心地が良かった。

「君が大人になったら一緒にお酒でも飲みに行こう。」

そう言って手を振ってテオドル様は帰っていった。

まるで嵐のような人だ…


それからたまに街中であったりしていた。
そもそも国王はそんな気軽に会える人ではないのに、お忍びのような感じでしょっちゅうテオドル様は来ていた。

「内緒だよ」と笑いながら口に人差し指を当てる姿は何回も見たし、子供が悪戯しているときに似ていてすごく可愛かった。全然年上なのにな。

俺の口癖のような口の悪さも「ルイがそれで喧嘩を売られて怪我をしてしまわないか心配だ」などと、Aランクの俺に心配までしてくれた人だ。




それがあの日…




「国王様がっ、テオドル・ヘルクヴィスト様がっ。お亡くなりにっ…なりました!!!」


は?


亡くなる?


強くて、かっこよくて、可愛くて、綺麗で、優しくて。そんなテオドル様が亡くなった?

何を言っているんだ低脳。そんなはずないだろ。

「俺も前戦に行く」と、テオドル様とすれ違った時に言った。

そしたらテオドル様は
「すまんな、国民をどうか守ってくれ。俺は大丈夫だから。」

とあの笑顔で言った。


そんなテオドル様を前戦に行かせて、俺は何をしていた。
俺がSランクだったら前戦に行けたのに、俺がもっと強かったら守れたのに。


Sランクのヘルゲ・マルクスと騎士団のヴィル・アストロールはあの人の最後を見ている。

あいつらに何をやってるんだと責めてやりたかったが、マルクスもヴィストロールもしばらくは復活してこなかったとのことだ。

あれから8年くらい経った今となっては、Sランクの冒険者は結構いる。

俺もSランクにとっくにあがっている。
今なら守れるのに、と。後悔ばかりが押し寄せる。







しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

処理中です...