人類レヴォリューション

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英雄集結

魔王vs女王

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「たしかオリンピックのイギリス代表だと記憶しています」

 ふぇ!?

「なに!?  あのブロンドゴリラそんな凄いのか!?」

「誰がブロンドゴリラよ!」

 ……!?
 噂をすればとはこの事。
 背後から聞こえた高音のヒステリックな声が、背中に突き刺さる。

「うおっ!  いつからそこに!?」

 ブロンドのサラサラした長髪が、風に煽られて華麗に靡いている。
 突き刺すような、エメラルドグリーンの瞳が僕達を睨みつけていた。

「そこのチンパンジーに用があってきてみれば」

 クイっと顎で知里ちゃんを指すデイジー。
 なかなか魔王さまにチンパンジー扱いをする人間がいないため、僕は目を見開いて驚いた。

 なんか新鮮。

「ほぅ。私をチンパンジーと?  メインヒロインの私に向かって戯言にも程があるのお」

 メインヒロイン。
 なにそれ?ラスボスの間違いでしょ?

「フンっ!  あんたがヒロインとは笑えないわね!  スプラッタかホラー映画でしょそれ。純然たるヒロインと言えば私しかあり得ないわ!」

 パチパチと火花が散っているのが、幻視出来るほど睨み合う両者。
 ここまで馬が合わない人達も珍しい。

「それで、何用かしら?  オリンピックメスゴリラ」

「アンタが一番強いって言い張ってるらしいからちょっと捻ってやろうと思って来てやったまでよ?  イエローチンパンジー」

「僥倖。そちらからやられにくるとは勤勉」

「吠え面かくわよお山の大将」

「オリンピック如きでお調子にお乗りくさりやがって。井の中の蛙。否、森の中のゴリラとはこの事ね」

 森の中のゴリラ。
 普通にゴリラ生活してるだけじゃん。
 謝ったれ。ゴリラに。

 てか、素直にお手合わせ願おう的な話にはならんのかね?
 コンマイ知里ちゃんは、僕と然程変わらない身長のデイジーを上目で睨みつけ、それを腕を組んで見下している。
 背景がどう考えても、龍虎なんだけど。
 あ、チンパンジーゴリラか。

「お二方。あまりヒートアップして本末転倒にならないようにね?」

 本番前に怪我されたら溜まったもんじゃない。

「あら、貴方のハニーをぶちのめそうとしているのよ?  案外非道なのね」

 女王立ちで見下ろしてくるデイジー。

「うちの魔王さまがそう易々とやられるビジョンが浮かばないもんでね」

 意地を張った訳でも、希望的観測でもなく、本心から出た言葉である。
 むしろデイジーが強そうだと、さっきエリームから聞いた情報で初めて知ったまである。

「フンっ。私が何もせずにボーッとしてたわけじゃないって体感させてあげるわ」

 ついてきなさい!  と、どこぞの女番長のように顎で先の草原を指し、歩き始める。

「ムネリン」

 その後をついていく知里ちゃんが、徐ろに僕へ振り返る。

 そこには、極悪に顔を歪めて嗤う魔王の顔があった。

「今日の晩御飯はゴリラの肉炒めよ」

 一生逆らえない。
 僕は脳裏に恐怖を叩き込まれた。


 



 魔王vs女王。
 大和撫子vs英国騎士。
 第二隊隊長vs第三隊隊長
 どんな呼び方をしても興行的に盛り上がりそうな対決が、今始まろうとしていた。

 何事かと喜色な表情を浮かべて、両者を取り囲んで行くギャラリー達。

「おお、ムネノリの嫁とあのイギリス女か。こりゃ面白そうだな」

 僕の肩をポンっと叩き、目をキラキラさせているバータルがやってきた。

「おぉ、バータルか。あ、そういえばお前と同じ隊だったな!よろしく頼むぞ」

「おう、任せろ相棒」

 なんていい奴なんだろう。
 無条件で好印象な新相棒に、僕は柄にもなくバータルの胸を小突いて、ザ、男の友情的な一幕を演じる。
 こっぱずかしいとか思ってないから。
 それをさせる何かがバータルにはある。

「ぞろぞろ集まってんな。てか、これ全員いないか?」

 見渡せば英雄達とその担当アナナキまでもが、両者を囲んで集まっていた。

「そりゃそうだろ。チサトは今んとこダントツで気魄を使いこなせてるし、あのイギリス女も剣を持ってからは別人みたいな動きをみせてた。興味が沸かない方がどうかしてるぞ」

 鼻息荒くバータルは興奮している。
 まあ、言いたいことは存分にわかる。
 身内贔屓を抜いても、知里ちゃんは抜きん出て強い。
 そしてデイジーも、オリンピック代表と聞いて強いだろう裏付けは取れている。
 僕も興奮していないと言えば嘘になる。

「あぁ可哀想に。あんなに可憐なのにブロンド美人」

 横で嘆かわしいと頭を抱えている熊本くん。
 どうやら熊本くんは、取り払えない身内贔屓?を加味して、デイジーがやられると予想しているようだ。

「これはなかなか、興奮せざるを得ない対決ですね!」

 エリームもバータル同様に鼻息を荒くして、対決を楽しみにしていた。
 止めなくていいのか?  こいつの立場的に。

 まぁそんな不粋なことは僕も言いません。

 この中で一番地位の高そうなぽっちゃりアナナキですら、輪に混じって見守る様子だし、これだけ人数がいれば、やばそうな時はどうとでも止められるだろう。

 僕はこの時だけは、いち知里ファンとして、ダーリンという肩書きを取っ払う事にした。


「おやおや、余程皆さん貴女の事が嫌いな様子ね。やられるとわかっていて楽しみに待っているのが伝わってくるわ」

 首をコキコキ鳴らしながら、知里ちゃんは不敵に嗤ってみせる。

「フンっ。戯言もここまでくると可哀想に思えてくるわね。泣いて謝っても許してあげないわよ」

 腰に下げていたレイピアを抜き、ブンっと一振り薙いだ後構えに入るデイジー。

 あ、そう言えば相手は武器持ちか。
 今更心配になってきた。

「チサト様は丸腰という凶器を持っていますからお互い有利不利はないと思いますよ」

 いつもの如く心を読んでくるエリーム。
 丸腰という凶器。
 パワーワード過ぎるだろ。


「それじゃ、ムネリン。開始の合図よろしく!」

 片手をブンブン振って僕に満面の笑みを向ける知里ちゃん。

「おっけー!  手合わせだからね?  ちゃんと加減するように!」

「ほいきたっ!」
「フンっ」

 僕の掛け声とともに、腰を落とし、体に気魄を纏わせる知里ちゃん。
 デイジーもそれに伴って腰を落とし、剣先を知里ちゃんに向け構える。

 一気に張り詰めた空気を感じ、合図をする前に生唾を飲む。

「それじゃあいくぞー?」

 興奮の高まりとともに、僕は大きく声を張った。


「はじめっ!!」
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