人類レヴォリューション

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英雄集結

Part 2

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「あれ、ディミトリー。熊本くんより動き悪くね?」

 小柄な美少年を発見した僕だが、そのあまりにもな動きに苦笑が漏れた。

「あー、ほんとっスネ。あれなら僕でも勝てるかもっス」

 このたわけが!  と言いたいところだが、あながち嘘にならないのがまた口惜しい。
 組手の相手をしているディミトリーの担当アナナキちゃんも、苦笑しているところを見ると、かなり苦戦しているのは目に見えて明らかだった。

 上段蹴り、中段蹴り、下段蹴りと順に試みているのだろうが、その落差がほぼ変わらない。
 構えているアナナキちゃんの手の位置が、ディミトリーの蹴りに合わせて下げられているところを見ると、その苦笑もわからんではない。


「おーい!  ディミトリー!」

 堪らず僕はそこまで遠くにいるわけでもないディミトリーに声をかけた。

 するとキラキラした笑顔とともに、ディミトリーはこちらを向き、その愛らしい顔を傾げた。

 反則級に可愛いな!

「ちょっとこっちこいよー」

 と、いうや否や。
「はい!  なんでしょう!?」

「うわっ!  はやっ!」

 目の前に即座に現れたディミトリーに、僕、熊本くん、アナナキっちは目を丸くした。

「さっきの緩慢さはどこに行ったんだよ!?」

「あ、お恥ずかしいとこを見られてたんですね。酷かったでしょ?」

 にこやかな笑顔から、ストンと肩を落として苦笑に変わるディミトリー。

「酷いってこたぁないけど。あんまり順調には見えなかったかな。気魄、あんまり上手く使えないか?」

「へへへ。そうなんですよ。どうやってみんなあんな動けるのか全然わかんなくて」

 ディミトリーの乾いた笑いが、妙に胸を締め付けた。

「一緒にやってみようぜ!  もしかしたら僕とか熊本くん見てたらなにか掴めるかもしれないし」

「いいんですか!?  すっごく嬉しいです!」

 全ての歯が見えるんじゃないかと思えるほどの笑顔。
 コロコロと表情が変わるディミトリーに、こちらも一喜一憂してしまう。

「アナナキっちどう思う?」

 振り返り、後ろで座っていたアナナキっちに了承やら意見やらいっしょくたにした質問を投げかける。

「合同で訓練する事はとても有意義だと思いますよ。ディミトリー様はあまり気魄のコントロールがうまい方ではないようですね。その点タチバナ様からは多くのことを学べると思いますよ」

「はい!  頑張って師匠についていきます!」

 そうだ、師匠になってたんだった。
 ま、可愛いから師匠でも先生でもマイマスターでもウェルカムなんだけどね。

「じゃあまずは気魄を足に集中させて、思いっきり走ってみよう!」

 僕がそういうと、「はいっ!」と片手を上げ、「よいしょっ!」と可愛い掛け声とともにじんわりと赤みがかった靄が、ディミトリーの足に纏わり付いていく。

「よし熊本くん!  行けっ!」

「え!?  僕スカ!?」

 おーっとボケっとした顔でディミトリーの足から放たれる気魄を眺めていた熊本くんへ、向こう側に佇む丘を指差して走るように指示する。

「負けた方は腕立て100回!  あの丘登ってこっちに戻ってくるまでが勝負だ!」

「うげっ!  いきなりなんなんスカ!」

「よぉーい」

 熊本くんの苦言もなんのその。
「どんっ!」
 僕はお構いなくスタートを切った。

「クッソー」と言いながら見る見る離れていく熊本くん。
 ディミトリーもさっきの瞬間移動並みの速さでこちらにきた脚力を披露し、熊本くんと並んで走っていく。

「うおおおおおおおらぁ!!」

 まるで漫画のように、足元から砂埃を巻き上げながら走る両者。

 そして、一馬身差ほどの間隔をあけ、先に戻ってきたのは熊本くん。

 ハアハアと肩で呼吸をしながら、両膝をついて天にガッツポーズを向ける熊本くんのオーバーリアクションの背後には、がっくりと項垂れるディミトリーがいた。

 んー。
 スタートダッシュではディミトリーが優勢だったのに、折り返してくる途中から、どうもエネルギー切れのようにペースを落としていた。

「やはり、気魄が足りないのでしょうか?」

 後方から聞き慣れない声が聞こえてきた。

 振り向くと先程までディミトリーの組手の相手をしていたアナナキちゃんが、腕を組んで悩ましげに小首を傾げていた。

「ディミトリーの気魄量って少ないの?」

 息が整った熊本くんは、すぐさま敗者に詰め寄り、腕立てを強制している。
 ナイス体育会系。

「これはタチバナ様。ディミトリー様を誘って頂き感謝いたします。その質問ですが、私も悩んでいる所なのです。当初の予測ではディミトリー様も皆様と同等の気魄量をお持ちになられていると判断していたのですが、解放後からの結果をみているとどうも少ないのだろうかと懸念せざるを得なくて」

 アナナキちゃんは、そう言って眉を顰めて困ったご様子。
 ていうか、ずっと思ってたけど。
 アナナキっちとアナナキンヌ以外、みんな表情豊かだな!

「我々も表情豊かでしょう?」

 心を読んだアナナキっちが、無理矢理眉を上げて目を丸くしている。

 いやいや怖いわ!
 なにその無表情な驚き方!?

「アナナキちゃん。多分それは気魄のコントロールの問題で、量とは無関係だと思うよ」

 え?
 なに?
 君たち間でも呼称はアナナキオンリーなの?

「ねえ!?  それ不便じゃない!?」

「あ、あぁ。これはアナナキにとっては普通の事なのですよ。名前というのはアナナキ間においてもとても重要なものなので、私も彼女の名前は知らないのです」

「うぇ!?  じゃあアナナキっち達が一同に会した時とか大変じゃない?」

「そう言った時は大体直接脳に語りかけるか、割り振られた番号で呼ばれますので不便ではないのです」

 刑務所か!
 常識とかもうかなぐり捨ててやろうかしら。


「なるほど。アナナキさん。じゃあディミトリー様はどうすれば良いでしょうか?」

 あ、アナナキっちの方が"さん"付けなのね。

「恐らく今のを鑑みると、ディミトリー様は緊張からか必要以上の気魄を序盤で使ってしまい、後半にそれが保てなくなってしまった様に見えました」

「お?  でも序盤も熊本くんと大差無かったよ?」

「それがコントロールなのです。ただ垂れ流すように気魄を込めてしまったが故に、増強に適した気魄を扱えなかった。だから必要以上になってしまったと私は推測します」

「ほうほう。なんとなく言いたい事はわかった気がする。気魄を込めるだけじゃなく、もっと早く走るためにはそれに見合った練度の気魄を込めなきゃダメなのに、早く走ろうとして余計に注ぎ込んだから、プラスにならずに漏れ出したって事でしょ?」

「さすがはタチバナ様。その通りです」

 なるほど。
 言ってみればディミトリーは、やる気が空回りしてる感じか。

「はあはあ。100回終わりました!」

 ちょうど良く改善点がわかってきた頃合いで、ディミトリーは熊本先輩の扱きから解放されていた。

「ディミトリー。お主の改善点がわかったぞい!」

 腕の力が抜け切ったように、両腕を地べたにくっつけへこたれている頭に投げかける。

「ほえ?  どうすれば?」

「ふふふ。考えるな!  感じろ!  って事だ!」

 さも朗報かのように言い放った僕に、熊本くんは怪訝な顔つきで嘆息してみせた。
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