人類レヴォリューション

p-man

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はじまり

Part 8

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 人通りの多くなってきた町並みで、僕らは懸命に走り続けていた。
 息が荒れ、額には大量の汗が噴き出してくる。
 一紀くんと知里家を出て10分くらいか。
 やけに遠く感じる中心街の警察署に八つ当たりな感情が浮かんでくる。

「くそっ。なんたってこう遠いんだよ」

 強い怒りの感情がヤケクソのように思い切り走るスピードに呼応する。

「先輩っ!」

 僕の後方から、叫ぶように声が聞こえた。
 熊本くんもまた、必死の形相で走って追いついてくる。

「熊本くん!  はぁはぁ。すまない!」

 息も絶え絶えに謝罪が口を突く。

 声を出す余裕もないほどの熊本くん。
 全速力になりふり構わず走っていた僕に追いついてくるくらいだ。
 彼の必死さがひしひしと伝わってくる。

 僕と熊本くんが並んで走っている少し後方に一紀くん。傍目から見れば何事かと疑うほどの3人組の全力疾走に通り過ぎていく人達は好奇の目を向けていた。

「見せもんじゃ……ねえぞ」

 誰かに文句を垂れていないと心が折れそうな自分が醜いのは自認するところだが、今それが僕を奮い立たせる要因ならばなりふり構っていられない。

 ふと気になり、一紀くんがついてきているかを確認するため後ろを走りながら振り向く。
 そこには知里ちゃんによく似た青年が、汗だくだくで走っている姿があった。

 ん!?

 後方に気を回していた僕は、なにかが足元を引っ掛けた感触に反応が遅れた。

「うわっ」

 ゴロンっ!
 視界が暗転し、痛みが体を……襲わない?

「あ、あれ?」

 僕の生まれて21年の経験値が想像した痛みは体を襲わなかった。
 そして、今まで経験したことがない事態に驚愕を禁じ得ない。

「どこだここ?」

 辺り一面が一変し、人気が一切消えていた。
 見慣れた町並みは真っ白な空間へと変貌しており、頭が状況に追いつかず困惑を隠せない。

「っ!?  先輩っ!?」

 素っ頓狂な耳触りの悪いお馴染みの声が聞こえ、安堵が胸をなで下ろす。

「熊本くん。なんだこりゃ?」

 まるでテレビ画面に奇怪なピエロのお面を被ったサイコパスが現れ、僕と熊本くんの精神の削り合いを楽しむような映画の始まりかと疑うが、そうでもないようだ。

 辺り一面、本当の本当に真っ白であり、色付いているのは自分の体と熊本くんのみ。
 あまりにも真っ白なため、世界から僕らが切り抜かれたようだ。

「僕に聞かれても。え?  死んだんスかね?  僕たち」

「そう言われても否定する言葉が見つからないな。あれ?  てか、一紀くんがいない」

 一目でわかる僕たち2人だけの世界。
 先程まで後方を走っていた一紀くんの姿は、どこにも見当たらない。

「なんだ今日は。摩訶不思議アドベンチャー過ぎるだろ」

 ふと、そんな軽口が出る。
 あの緊迫した状況下からのこの不可解な空間への急速な転換。
 もうそろそろ僕の頭も事態に追いつかずに爆発寸前のようだ。

「お察しします」

 あ?  なんだこのアンポンタンは?
 と、後輩からの軽口に厳しく接しようと横を見たが、その後輩は前方に目をやり口を開けて呆けていた。

「大変申し訳ないと思っております」

 顎が外れているのか不安になるほどに、大口を開けた後輩の見る先を恐る恐ると見やる。
 そこには真っ白な世界に上から下まで、真っ黒なボディスーツを着た、能面みたいな無表情の顔を持つ人物が佇んでいた。

「え!?  だれ!?」

「私はアナナキと申します」

「アナキン!?」

「アナナキです」

 スカイウォークする人みたいな名前のジェダイでないことは熊本くんのアンポンタン発言で得られた情報だが、全くもって理解に苦しむのは変わりようがない。

「な、なにごと?  この状況は?」

「えぇと、なにから説明するかを悩んでしまいますが一言で申し上げるならばあなた方は今あなた方の世界とは別の世界に転移しております」

 出たね、異世界転……移?

 大体理解が追いつかなくなると異世界しちゃう事案が発生しちゃいました。
 なに?  話題がホット過ぎやしないかい?

 異世界転生の話をつい先日熱く語っていた僕たちは、いざ自身に舞い降りた異世界転生?に冷静に興奮していた。

「わあお!  ふぁんたすてぃっく!  ふぁんたじー!?」

 熊本くんが壊れた。

「御二方の反応が違い過ぎて困惑しています。が、それを飲み込んで説明させていただきます。あなた方は現在、我々の世界であるこの世界に転移されています。勿論、私が意図的にそれを実行しました。そしてあなた方と面識のある、チサト様もその転移の末、この世界におられます」

 知里ちゃん!?
 僕はついさっきまでの緊迫感を思い出した。
 そうだ!  知里ちゃんはどこだ!?

「ご安心ください。チサト様も此方で安全に保護しております。後程お会いできますので今は私の説明を聴いていただけると幸いです」

 キョロキョロと辺りを見回す僕の挙動で推察したのか、それとも心を読んだのか?

 至って冷静な、黒ずくめのアナナキなる人物に怖気を覚えた。

 ん?  あれ?黒ずくめ?
 あ、こいつ!  ガニ股お巡りさんが言ってたやつだ!!

「タチバナ様。あなたは私がここへ転移させました。それはこれから先起こる地球に齎される災厄から我々アナナキ、そして人類を救って頂く為で御座います」

「え?  地球?  ん?  ごめんなさい。話が大き過ぎて」

「本当に急なお話となってしまい、こんな負担をかける形になってしまったことを深くお詫び申し上げます」

 そう言ってアナナキはその痩せ細った身体を引き締め、頭を深く下げた。

「順序立ててご説明致しますと、この今いる世界はあなた方人間の世界とは別世界ではありますが、同じ地球です。パラレルワールドというとまた少し話が変わってくるのですが、この世界はあちらの世界と同じ惑星に存在し、謂わば共存している世界。原理を説明しろと言われればかなりの時間を要するのですが、例えて言うならばあなた方の世界の地底に我々が存在していると言っても過言ではないのです。例えなので実際に地底にいるわけではないのですが、同じようなものですね。表裏のようなものです」

「な、なるほど」

 なるほどとは言ってみたものの、全く把握はしていない。
 なんとなくの意味は通じているが、それを理解しろと言われればもうちょっと待たんかい!  と青筋立てて怒るまである。

「そしてこの我々が住む地球に、災厄の事態が降り掛かろうとしているのです。その為にタチバナ様やチサト様をこちらに転移させ、助力してもらおうとこうやって強制的ではありますが御招きするに至ります。あなた方はその災厄を振り払うだけの秘めたる力があり、それは我々の技術によって開花し得る。簡単に申し上げてはいますが事態が急を要する為、強制的な形となっています。これは我々の発見した問題ですが、こと地球に於いてはあなた方人間にもその一端を担って頂かなければなりません」

 かなり強引に話を進められている感が否めないが、今駄々を捏ねても仕方がないと判断した。
 どう考えても彼等は人間離れした能力を持っており、この想像もつかない世界に於いては何をしても無駄な気がした。

「我々アナナキも出来ることならばその災厄を人間の知らない内に処理したのですが、それも力及ばず。災厄が来るという察知だけは早くできたことが不幸中の幸いです。その災厄というものがかなり厄介でありまして、地球外生命体のクリーチャーと呼ばれる化物のような存在なのですが、その力は強大で、思考は残忍極まりない。この地球とは無縁な生命体ではないというのも厄介な要因であり、元々はアナナキ、人間、クリーチャーはこの地球に共存していたという過去が関係してきます」

 次々と情報が出てきて、混乱するだろ!  っとツッコミたくなるのだが、やけにスムーズに頭に入り込んでくる。
 出たな異世界転生?  仕様。
 スムーズに事が運ぶ理論!

「古代地球ではその三種が共存して輝かしい栄華を誇って生活していました。ムー大陸やアトランティスといった名前を聞かれたことは御座いませんか?  実際にはそのような名前ではないのですが、存在はほぼ同じ。古代の失われた都市。という認識で間違いはありません。実際には失われてはいないのですがそれは後々理解することとなるでしょう」

「その古代地球で仲良く暮らしていた三種が仲違いしてクリーチャーを地球から排除したけど、恨み辛みで報復してこようとしている的な?」

 よくあるSF映画な理論の元、構築してみた一つの仮定。

「その通りです」

 すぐに真相へと変わりました。
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