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第6章〜近未来都市・Chutopia2120〜
第2話
しおりを挟む荷車いっぱいに積まれた野菜の山。これを全部、ねずみの都会〝Chutopia2120〟の、市場や飲食店に持って行くお仕事を任された。
「あ! マサシ兄ちゃん行くならあたしも行くの!」
ナッちゃんがそう言いながら、玄関の扉から飛び出してくる。おとうさんとチップくんも、見送りに出てきた。
「じゃあナッちゃん、一緒に行っておいで。よろしくね、マサシくん、トム。行ってらっしゃい」
「マサシ兄ちゃん、お仕事がんばってね!」
ナッちゃんも一緒に行くことになり、ぼくらはカゴいっぱいの野菜と果物を入れた荷車を引いて、出発した。玄関先で、おとうさんとチップくんが手を振ってくれている。
オレンジ色に染まった森の小道を進み、ぼくが最初に訪れた野原を通り過ぎたら、そこはカラフルな建物が立ち並ぶ商店街のようなところになっていた。ここまで来るのは初めてだ。
舗装された一本道の左右には、それぞれ赤、青、黄色、オレンジ色と、様々な色をした外壁のお店のような建物がズラーっと並び、ねずみたちで賑わっている。そして、タクシーみたいな乗り物が、道路の上をスイーッと動いている。よく見ると、車輪がない。少し浮きながら移動しているようだ。
「ねえトム、あの乗り物はなんだい?」
気になったぼくは、トムに尋ねてみた。
「あれはタクシーだよ」
「でも車輪がないよ?」
「ああ、あれは、地磁気を使って浮かびながら走ってるんだよ」
「へ⁉︎」
……地磁気⁉︎ 自然の中の、手作りの生活空間だったのに、何だ、このいきなりの近未来的な感じは。
ぼくは周りを見渡してみた。立ち並ぶ建物も、おそらく鉄筋コンクリート構造だろうか。とてもねずみが作ったとは思えない。
商店街を抜けると、今度は駅らしき建物が見えた。卵のように丸くて可愛らしい形をした乗り物がいくつも連なり、レールに沿ってゆっくりと駅に入って行く。
「あの列車に乗って行くんだ!」
「はやくのろー! ねえ、のろー!」
ナッちゃんははしゃぎながら、トムの手を引っ張る。
駅に着いたが、切符売り場らしき場所は見当たらなかった。だけどトムとナッちゃんは、そのまま改札のような所へ入って行く。
「あれ? 切符は……?」
「キップ? ないよ。そのまま乗っちゃえばいいんだ」
トムは入口にいるねずみの係員に挨拶すると、野菜の入った荷台をガラガラと引きながらそのまま、卵形の列車に乗り込んでしまった。ぼくも係員に軽くお辞儀をしてから、慌てて列車に乗り込んだ。列車の中は、ねずみの車掌さん以外まだ誰もいない。オルゴールのような音楽が、ゆったりとしたテンポで流れている。
「ふふふ、Chutopia2120はすっごい楽しい所だよ! 美味しいものたくさんあるし、焼き松の実とか、豆乳アイスクリームとか、シロップくるみパンとか……」
「トム兄の食いしん坊が始まったー!」
ナッちゃんに笑われながらも、食べ物の妄想が止まらないトムを見ていると、仕事前なのにもう小腹が空いてきてしまった気がする。Chutopia2120では、どんなご馳走にお目にかかれるのだろうか。
「きっと美味しいものがたくさんあるんだね。じゃあ野菜を配ったら食べに行こうよ!」
「うん! 配りに行く場所は3箇所だけだから、早く済ませちゃおう!」
列車はシューンと静かな音を立て、扉が閉まった。乗客は、ぼくらだけのようだ。
「発車しまーす」
車内アナウンスと同時に、ゆっくりと卵形の列車は動き出す。レールに沿って少しずつ加速すると、すぐに緑あふれる深い森の中へ向かって行く。音も揺れもほとんど無く、オルゴールの音だけが車内に響いている。
「あれ? 車掌さん、運転席から離れて何してるの?」
「運転席? この列車は全部自動だよ?」
「ええ⁉︎」
「列車も自動車も全部、中央官制センターっていうところで遠隔操作してるんだ。でも、ほとんど自動だね」
「何という……」
つまり、乗り物は全て自動操縦だということだ。ねずみたちの世界は、ぼくらの世界よりずっと文明が進んだ世界なのかもしれない。
ねずみの車掌さんは、オルゴールに合わせて鼻歌を歌いながら、壁に絵を描き始めた。楽しげな音楽と共に、何やら可愛らしい絵が仕上がって行く。
「すげえー!」
「ふふ、今日は2匹の猫の絵だ」
ぼくらと同じように服を着た、2足歩行の白黒模様の猫の兄弟の絵だ。2匹で仲良く冒険の旅をしている場面のようだ。あっという間に絵は完成し、車掌さんは右下に絵の表題のようなものを書き足した。
「"The Next Story" is GOMA & LUNA 's Adventure……。ふむふむ、左側のネコがゴマという名前で、右側のちっちゃい子ネコが、ルナという名前か」
「かわいいー! 子ネコちゃんたちが冒険の旅に出るんだね! ……あ、見て、マサシ兄ちゃん!」
「え、すごーい!」
何と、描かれた絵が動き出したではないか。ゴマとルナという名の2匹の子猫の兄弟は、野原を行き洞窟に入り、冒険していく。——と、2匹の前に角の生えた怪物が立ち塞がった。すると兄のゴマは剣を手に取り怪物と戦い、見事打ち倒した。洞窟の奥にたどり着くと、ついに宝物を見つける。
「おお、無事に宝を手にしたぞ!」
「やったね、ゴマくんルナくん!」
ぼくらが動く絵に夢中になっている間に、列車は森を抜けていた。
外を見ると、大きな大きな都会が見える。どこまでも続く遠く青い空に、銀色に光るビルの群れがそびえ立っている。すぐ近くに目をやると、あちこちに、独創的としか言いようがないオブジェや絵があり、自然がいっぱいの公園もある。
「間もなく、Chutopia2120に着きまーす」
とてもワクワクしてきた。ねずみたちの大都会、早くあちこち探検してみたい。
「さあ、着いたね。行こう、マサシ兄ちゃん!」
「す、すごい! 駅の中に温泉や宿泊施設、レストラン、フィットネスクラブみたいなのまである!」
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