上 下
140 / 143

第131話〜本当のエピローグ〜

しおりを挟む
 
 ——ん?

 あれ。ここは——。

 ざわざわと騒がしい声。頭が、ボーッとする……。
 ボクは目をこすって起き上がり、周りを見渡してみた。


「バカな……?」


 ボクは目を疑った。
 見えたのは紛れもなく、ニャンバラの、祝賀会の会場だったからだ。

 そんな、ボクは確かさっきまでアイミ姉ちゃん家にいたはずだ。ニャンバラもネズミの世界も——ボクの夢の中の出来事だったんじゃ、無かったのか。


「アホやなあほんま……、酔うたままこんなとこで寝て、風邪引くで?」


 ——遠くから、聞き慣れた声。
 ……そうか、ボク、酔っ払ったまま眠りこけちまってたのか。

 なら、さっき見た〝ニャンバラもネズミの世界も、ボクの夢の中の出来事という事〟こそが——。ボクが酔っ払って寝てる間に見た、夢の中の出来事だったって事か。
 ……頼む。そうであってくれ。
 ボクは自分のほっぺを、バシンと叩いてみた。


「い……」


 ——顔面に走る、凄まじい痛覚。


「痛っってぇーーーー‼︎」

「もう、何やってんねん、ゴマ。だいぶ酔うたな。ほら会場戻るで?」


 差し出された手。少し見上げてみる。悪戯っぽく笑っている、スピカの姿。
 スピカが、そこに居る。
 ——瞼の裏が熱くなってくる。


「スピカ……!」

「何やねん、早よこっち来んかいな」


 何で……何でだ……! 涙が、止めどもなく出てきやがる……!


「スピカ……! ボク……」

「は? ……どないしたん、そないな顔して」


 このまま伝えなきゃ、スピカが、スピカがまた、消えちまいそうな気がする。
 今度こそ、ちゃんと伝えるんだ、ボクの気持ちを!


「ボ、ボク……」

「何やねん、言いたい事あるんやったら早よう言い……」

「ボク、スピカが好きだ!    ボクとずっと、ずっと……!    一緒にいてくれッ‼︎」




 ——会場のざわめく声だけが、聞こえる。

 スピカは、ボクの顔を覗き込んで、言った。


「ゴマの、アホ」


 ボクは涙を一滴、地面に落としてしまった。


「……何だよ、それ」

「この鈍感男。気付くの遅いわ」

「……何……だと?」


 泣いてるのがもうバレちまってる。だが、そんな事はもはやどうでもいい。止めようとしても、どうせ無限に溢れ出してくるだけだ。


「ウチはだいっぶ前から……、だいっっぶ前から、ゴマの事好きやったんやで」

「……だったら何で……」

「何でって? ホンマやよ」


 スピカは悪戯っぽく、涙に濡れたボクの頬をその柔らかい肉球で、一押しする。


「何で、いきなり消えちまったりするんだよ……」


 ボクがそう言うと、スピカはまた微笑んで、顔を近づけた。


「何を訳の分からん事言うてんねん。ウチは絶対、絶対な、ゴマの前から居なくなったりせえへんわ。ほら、泣き止み? ぎゅーってしたるわ」


 ————気付くとボクは、スピカの胸元に顔を埋めていた。ふわりと、優しく柔らかい感触がボクを包む。
 ボクは、声を上げて泣いた。
 泣いて、泣いて、泣いて、泣いた。
 スピカの優しさ、温かさに包まれて、ボクはとてもとても、幸せだったんだ。


「ウチも大好きやで、ゴマ」


 スピカはそう言って、再び強く抱きしめてくれた。


「……だったら、もっと早くそう言えよバカヤロー……うわああん……!」

「……よしよし」


 もう絶対、ボクの前から消えないでくれよ、スピカ。
 ——ボクの大切な、スピカ……!


 ♢


 まだ騒がしい会場を背に、ボクはスピカと一緒にニャンバラの美しい景色を眺める。

 本当に美しかったんだ。ニャンバラは戦争と災害でボロボロに破壊されちまったが、セントラルサンの光を受けてこれから蘇って行くこの街の未来が、ボクには見えたんだ。


「付き合った記念日が、こんなめでたい日なんて、めっちゃステキやんか、なあ?」

「……ぐずっ。ズビガ、早ぐ会場に戻るぞ」

「ちょっとお!    もうちょい2人きりでいようなあ!    早よ涙拭きよ!    ほら鼻水も‼︎」


 ひとしきり泣いた後、ボクとスピカは会場へと戻った。その時、メルさんじゅじゅさんの声が聞こえた気がした。


「ふふ。おめでとう、ゴマ、スピカちゃん」

「まあた、私たち先越されたねー」


 ♢


 祝賀会もお開きになり、ボクは1匹で近くの海岸に出かけた。地底世界の海は、オレンジ色の空を反射し、キラキラと黄金色に輝いていた。

 ——遠くの海面に、何かが姿を現す。大海竜ニャンバリヴァイアだ。
 ニャンバリヴァイアはその巨大な背中から、いくつもの噴水を吹き出した。セントラルサンの光を受けてキラキラと輝き、そこに1つの大きな虹が現れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

僕とギャングスターの大冒険

アサノっち
ファンタジー
僕は、突然の事故で高校生の姿になり、ギャングスターの3人と遭遇する。そして、ギャングスターとの大冒険が始まる!

処理中です...