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第131話〜本当のエピローグ〜
しおりを挟む——ん?
あれ。ここは——。
ざわざわと騒がしい声。頭が、ボーッとする……。
ボクは目をこすって起き上がり、周りを見渡してみた。
「バカな……?」
ボクは目を疑った。
見えたのは紛れもなく、ニャンバラの、祝賀会の会場だったからだ。
そんな、ボクは確かさっきまでアイミ姉ちゃん家にいたはずだ。ニャンバラもネズミの世界も——ボクの夢の中の出来事だったんじゃ、無かったのか。
「アホやなあほんま……、酔うたままこんなとこで寝て、風邪引くで?」
——遠くから、聞き慣れた声。
……そうか、ボク、酔っ払ったまま眠りこけちまってたのか。
なら、さっき見た〝ニャンバラもネズミの世界も、ボクの夢の中の出来事という事〟こそが——。ボクが酔っ払って寝てる間に見た、夢の中の出来事だったって事か。
……頼む。そうであってくれ。
ボクは自分のほっぺを、バシンと叩いてみた。
「い……」
——顔面に走る、凄まじい痛覚。
「痛っってぇーーーー‼︎」
「もう、何やってんねん、ゴマ。だいぶ酔うたな。ほら会場戻るで?」
差し出された手。少し見上げてみる。悪戯っぽく笑っている、スピカの姿。
スピカが、そこに居る。
——瞼の裏が熱くなってくる。
「スピカ……!」
「何やねん、早よこっち来んかいな」
何で……何でだ……! 涙が、止めどもなく出てきやがる……!
「スピカ……! ボク……」
「は? ……どないしたん、そないな顔して」
このまま伝えなきゃ、スピカが、スピカがまた、消えちまいそうな気がする。
今度こそ、ちゃんと伝えるんだ、ボクの気持ちを!
「ボ、ボク……」
「何やねん、言いたい事あるんやったら早よう言い……」
「ボク、スピカが好きだ! ボクとずっと、ずっと……! 一緒にいてくれッ‼︎」
——会場のざわめく声だけが、聞こえる。
スピカは、ボクの顔を覗き込んで、言った。
「ゴマの、アホ」
ボクは涙を一滴、地面に落としてしまった。
「……何だよ、それ」
「この鈍感男。気付くの遅いわ」
「……何……だと?」
泣いてるのがもうバレちまってる。だが、そんな事はもはやどうでもいい。止めようとしても、どうせ無限に溢れ出してくるだけだ。
「ウチはだいっぶ前から……、だいっっぶ前から、ゴマの事好きやったんやで」
「……だったら何で……」
「何でって? ホンマやよ」
スピカは悪戯っぽく、涙に濡れたボクの頬をその柔らかい肉球で、一押しする。
「何で、いきなり消えちまったりするんだよ……」
ボクがそう言うと、スピカはまた微笑んで、顔を近づけた。
「何を訳の分からん事言うてんねん。ウチは絶対、絶対な、ゴマの前から居なくなったりせえへんわ。ほら、泣き止み? ぎゅーってしたるわ」
————気付くとボクは、スピカの胸元に顔を埋めていた。ふわりと、優しく柔らかい感触がボクを包む。
ボクは、声を上げて泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて、泣いた。
スピカの優しさ、温かさに包まれて、ボクはとてもとても、幸せだったんだ。
「ウチも大好きやで、ゴマ」
スピカはそう言って、再び強く抱きしめてくれた。
「……だったら、もっと早くそう言えよバカヤロー……うわああん……!」
「……よしよし」
もう絶対、ボクの前から消えないでくれよ、スピカ。
——ボクの大切な、スピカ……!
♢
まだ騒がしい会場を背に、ボクはスピカと一緒にニャンバラの美しい景色を眺める。
本当に美しかったんだ。ニャンバラは戦争と災害でボロボロに破壊されちまったが、セントラルサンの光を受けてこれから蘇って行くこの街の未来が、ボクには見えたんだ。
「付き合った記念日が、こんなめでたい日なんて、めっちゃステキやんか、なあ?」
「……ぐずっ。ズビガ、早ぐ会場に戻るぞ」
「ちょっとお! もうちょい2人きりでいようなあ! 早よ涙拭きよ! ほら鼻水も‼︎」
ひとしきり泣いた後、ボクとスピカは会場へと戻った。その時、メルさんじゅじゅさんの声が聞こえた気がした。
「ふふ。おめでとう、ゴマ、スピカちゃん」
「まあた、私たち先越されたねー」
♢
祝賀会もお開きになり、ボクは1匹で近くの海岸に出かけた。地底世界の海は、オレンジ色の空を反射し、キラキラと黄金色に輝いていた。
——遠くの海面に、何かが姿を現す。大海竜ニャンバリヴァイアだ。
ニャンバリヴァイアはその巨大な背中から、いくつもの噴水を吹き出した。セントラルサンの光を受けてキラキラと輝き、そこに1つの大きな虹が現れた。
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