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第99話〜激甚化する災害〜

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 じいちゃんとの話も終わり、帰ろうとした時。
 ボクはテーブルに置いてあった新聞の見出しに、目を疑った。


 〝Chutopia2020、武器の製造を開始——ネコ族の賛成多数で〟


 ——何だと。
 ネズミの世界でも、武器が作られるという事は……。
 このネズミの世界も、戦争が出来る世界になっちまうって事かよ!

 それは、〝太陽の教え〟とは真反対の世界へ向かう事を意味している。何としても、止めなければ——‼︎


「じいちゃん! いつの間にこんな事になってんだよ!」

「そうなんじゃ……。ニャンバラから移住して来たネコ族の考えと、わしらネズミ族の考えに、食い違いがあったんじゃよ。押しの強いネコ族が強引に政策を決めてしまっておる。じゃがわしはその裏で、何らかの勢力が動かしていると睨んでおる。競争遺伝子の価値観にすがりつく、ネコたちの思惑を感じるんじゃ」

「よく分かんねえが、とにかくまたソールさんたちと力合わせて、何とかしてみせるぜ。安心して待っててくれ、じいちゃん!」


 ボクはひとまず、元の世界の住処のガレージへ帰る事にした。あまり長居している訳にはいかねえ。暴風と地震、きっとまだ続いてるだろう。メルさんたちが心配だ。


「チップ、ナナ。また会おう。ボク、絶対、〝競争遺伝子〟とやらの暴走を、止めてみせる!」

「えー、ゴマ兄ちゃん、もう行っちゃうの?」

「やだー! 遊ぼうよー」


 呼び止めようとするナナをなだめて、ボクは9匹のネズミの家を飛び出し、ミランダを呼び出した。


 ♢


 ワープゲートをくぐり、ボクらの住処のガレージに戻って来ると——。
 穏やかな天気だったネズミの世界とは打って変わって、やはりボクらの世界は凄まじい暴風雪が吹き荒んでいた。そこら中に割れた瓦が散らばっている。きっと地震もあったのだろう。


「アイミ、ケージに猫たちを入れなさい。戸締りも頼んだよ」


 裏口から出てきたアイミ姉ちゃんの父ちゃんはそう言うと、すぐに車のエンジンをかけた。
 アイミ姉ちゃんが続いて、慌ただしく裏口から出てくる。
 この嵐の中、出かける気か!


「ゴマ! みんな! ケージに入って! みんな一緒に避難するからね!」


 アイミ姉ちゃんがあまりに慌ててメルさんたちを抱っこしようとするから、みんなびっくりして逃げちまった。
 ——一緒に避難? どこへ連れてく気だ?


「メル、じゅじゅ、ゴマ、ルナ、ポコ、ユキ。これから風がひどくなるから、避難所まで一緒に行きましょ。ケージに入ってね。狭いけど、ごめんね……あれ? ポコは?」


 ポコを探し回るアイミ姉ちゃん。
 ボクは思いっきり鳴いて、アイミ姉ちゃんに伝えた。

 ——にぃああああ‼︎


「ポコは、今はいねえが、絶対どこかで生きてる‼︎」


 ——雷鳴が轟いた。再び地面が揺れる。
 アイミ姉ちゃんは揺れがおさまってから、にゃーにゃー鳴いて嫌がるルナたちを次々にケージの中に入れた。


「ゴマも、ほらおいで?」

「にぃあああお‼︎」


 ここにいちゃあ、確かに危ねえ。ボクも大人しく、ケージの中に入る事にした。
 スピカも、ボクの後を追ってケージに入った。

 ——ユキの子供たちが置き去りだ。ユキはしきりにみゃーみゃー鳴き喚いてる。
 アイミ姉ちゃん、気付け! ボクも思いっきり鳴き声を上げた。


「あ! ユキの子たち! この子たちも連れてかなきゃ!」


 子供たちがケージの中に入れられると、ユキはすぐに子供たちの背中を舐めた。——ひと安心だ。


 ♢


 ボクらはケージごと、アイミ姉ちゃんの父ちゃんの車に乗せられ、どこへ行くやら分からねえが、出発した。


「メル姉ちゃん、これからどうなるの? 怖いよ」

「大丈夫。みんなと一緒にいれば怖くないよ。さあ、ゴマも、スピカちゃんも今は一緒に行きましょ」


 ——胸騒ぎがする。このまま狭っ苦しいケージの中で、何もせずにいていいんだろうか。悪神ミラはこうしてる間にも、世界を滅ぼそうとしてやがるんだ。
 同じように暴風雨に見舞われているニャンバラの様子と、そこにいる星光団のメンバー、そしてライムさんの事が気になったボクは、心の中で念じて、ミランダに話しかけた。


「……ミランダ、頼む。ニャンバラの今の様子を教えてくれ」


 しばらく間を置いて、返事が聞こえてきた。


『ゴマくん、ちょっと目を瞑って!』

「おう……?」


 ボクは言われるがまま、目を瞑ってみた。すると瞼の裏に、映像が浮かび上がってくる。


「何だこれは‼︎」


 浮かんだ映像は——、凄まじい暴風雨の中、ニャンバラのネコどもが逃げ惑う様子だった。車が竜巻で飛ばされている。剥がれた屋根が、建物の窓を突き破る。街中、大パニックだ。
 ——前に行った時よりも、酷い状態になっている。


「星光団のメンバーとライムさんはどうしてるんだ……! よし、もう一度ニャンバラへ行くぞ! スピカ‼︎」

「せやな! こんなとこでじっとしてられへん!」


 ボクらは星光団のメンバーなんだ。世界を守るために、務めを果たさなきゃいけねえ!


「じゃあ、ゲートを開くわね。ソールくんたちのいる所を特定したから、そこへ送るわ!」

「ありがてえ!」


 ケージの中に、虹色の光が輝く。


「え⁉︎    何? 何が起きてるの?」


 びっくりするアイミ姉ちゃんをよそに、ボクとスピカは光に飛び込む。


「ゴマ、スピカちゃん、また行くのね。気をつけてね!」


 光の中、メルさんの声が聞こえた。今度は、ボクを止める事なく、送り出してくれた。


 ♢


 ワープゲートを出た場所は、ネコでいっぱいひしめき合う、ニャンバラのどこかの建物の中だった。——ソールさんたちはどこだ。


「どけよ! 邪魔だ!」

「テメエこそスペース取りすぎなんだよ!」


 看板に〝ニャンバラ第一避難所〟と書いてある。多分、普段はネコたちが走り回れるくらい広い床のある、カマボコ状の形の建物だ。そこに、避難してきたネコたちが、ひしめき合っている。
 外からは、ゴーゴーと嵐の音が聞こえる。

 ネコ混みの中、ソールさんたちを探し回っていた、——その時。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……とどこかから音がしたと思ったら、突然、地面が突き上げられるような衝撃を感じた。
 直後、建物が激しく揺さぶられる。高い天井から吊り下がっている電灯が、大きく揺れる。


「地震だ‼︎」

「キャーーーー‼︎」

「……デケエぞ! おい、みんな、騒ぐな! 落ち着け‼︎」


 ネコでひしめき合うこの空間は、大パニックになった。
 まさか、こっちの世界でもこんなデカい地震が頻繁に起きたりしてるのか⁉︎


「いやー‼︎    ゴマ、助けてえ!」

「スピカ! はぐれるなよ! 手ェつかまれ! ……あ! マーズさんじゃねえっすか!」


 ネコ混みに紛れて、マーズさんの姿が見えた。——揺れが、だんだんおさまってくる。


「ゴマ! スピカ! 早くこっちへ来い! 俺たちの仮設基地は、この避難所の外だ! そこにソールたちもいる! プレアデスも来てるぞ」

「分かりやした、マーズさん! 行くぞ、はぐれるなよスピカ!」

「うん!」


 混乱するネコ混みを掻き分け、必死にマーズさんについていく。

 避難所の外に出ると、猛烈な風がボクらを横からブン殴ってきた。
 相変わらず、空は真っ黒だ。
 建物の一部や、車や建物や樹木が、空を舞っている。遠くで巨大な黒い竜巻が、いくつも渦巻いている……。凄まじい光景だ。
 避難所から仮設基地まではすぐだったが、入り口の扉へとたどり着くのも一杯一杯だった。

 仮設基地の作戦会議室に入ると、疲れのあまりボクもスピカもへたり込んでしまった。


「ゴマくん、スピカさん! ひとまず休もうか。あ、ネズミの世界はどうだった?」

「ソ、ソールさん……。とりあえず、ネズミの世界は災害は起きてねえ。ネズミのじいちゃんから貴重な話が聞けたから、後で話しやす……」

「ウチも気分悪い……、ちょい寝かして……」


 ムーンさんが温かい飲み物と、栄養満点のマグロを用意してくれた。ボクらはそれを腹に入れた後、ひとまず横になって、ゆっくりと体を休めた。
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