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第93話〜試練の洞窟〜

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「ゴマ、どこ行くん⁉︎」

「ついて来い。試練とやらは、多分こっちだ」


 ボクらは、金色の光の後をひたすら追いかけた。
 段々と周りが暗くなり、気付くと再びジメジメとした洞窟に入り込んでいた。
 ——と、突然ボクらは白い光に包まれる。


「うわ! 何が起きたんだ!」

「何や、何や⁉︎    ……ってゴマ、その格好⁉︎」

「あ? ……何だと、そんなバカな! スピカ、お前も!」


 何とボクとスピカは、転身後の姿になっていた。ここは地上世界のはずなのに、ボクは二足歩行になって立ち上がる事が出来、魔剣ニャインライヴと魔力の盾を、しっかりと握っていた。


「力がみなぎってくるわあ! これからウチらに試練が降りかかるって事やなー! 何でも来いー!」

「危ない、スピカ‼︎」


 ボクは剣をすかさず振りかざし、真上から降ってきた巨大な何かを斬り刻んだ。


「グギェェエエエエ‼︎」


 樹の魔物、エビルトレントだ。何故こんな所に……? と思う間もなく、前方からエビルトレントの群れが次々とこっちに向かって来ている。


「何や何や! このままやとウチら、魔物の群れに埋められてまうで」

「ったくめんどくせえな! 戦うぞ、スピカ!」

「せやな!」


 スピカも、勇者の剣ニャリバーを振りかざし、次々と襲って来るエビルトレントの群れを斬り刻んでいく。
 ——どうやら〝試練〟とやらが、始まったようだ。


「はぁ、はぁ。ひとまず全部潰したな。おい、大丈夫か? スピカ」

「ああ、こんくらい、どってことあらへん」


 8の字を描きながらボクらを待っていた金色の光は、さらに奥へ奥へ、暗闇に溶ける狭い通路を飛んで行く。置いてかれないように、ボクらも後を追いかけた。
 出口が近い。光が溢れ出している。


「ふう、出られたぜ……って、おい! またさっきの泉じゃねえか」

「何や、戻ってきたんかいな!」


 洞穴に入ってから最初に訪れた、あの美しい泉と同じ光景が、目の前に広がる。
 金色の光は、いつの間にか姿を消していた。


「しかたねえ。スピカ、休むぞ」

「なーな、泉の真ん中に変な像があるで」


 スピカにそう言われて見てみると、前に訪れた泉には無かった、腕の生えた変な魚の像が立っていた。


「何だこりゃ。おい、よく見てみると手に何か持ってるぞ」

「ほんまやん。キラキラ光ってて綺麗やな」


 そう言ってスピカが、変な像が持つ虹色に輝く石に触れると……。
 スピカが、7色の光に包まれる。


「おい、スピカ! うわ、まぶしっ‼︎」


 ——すぐに光は消えてしまった。スピカも特に変わった様子は無い。一体、何が起こったのだろうか。


「びっくりしたー。何やったんやろ、今の」

「知らねえよ。何か力が漲ってきたとか、そーいうのは無えのか?」

「いや、別にいつもと変わらへんで? ゴマも触ってみたら?」

「いや、遠慮しとくぜ……。おい、あっちにも別の入り口があるぞ。行くか?」


 苔にまみれた扉が見える。
 よく見ると、そこで金色の光がまた8の字を描いて飛び回っていた。この扉をくぐれって事なんだろう。


「せやな。体力も回復できたし、行こか」

「おう。行くぞ」


 苔塗れの扉の近くまで行くと、何と、扉は音もなく勝手に開いたんだ。
 直後、金色の光はするりと入り口に入って行った。やはりこの先に、新たな試練とやらがあるのだろう。

 扉をくぐると、今度は一面、赤い煉瓦のトンネルだった。壁に一定間隔で松明の火が灯っている。


「気ぃ付けて進むで、ゴマ」

「誰に言ってやがる。さっさと行くぞ」


 不気味なくらい、何も無い。敵襲も無い。ただボクらの足音だけがヒタヒタと、狭いトンネルの中に響く。金色の光は、ただひたすらまっすぐに飛んで行く。

 ——また開けた場所に出た。一面煉瓦の大広間だ。敵襲があるかも知れねえ。ボクは身構えた。


「何してるん、ゴマ」

「バカ、油断するな! また襲われるかも知れねえだろ」

「あ、ゴマ、後ろ!」

「何っ⁉︎」


 ——ヒュン! 
 ボクの真横を、矢が猛スピードで掠めていった。矢はバチバチと音を立てて、電撃をまとっていた。
 やはり、狙われている。ボクは周りを見渡した。が、誰もいない。


「クソ、誰だ! 出てきやがれ!」

「ゴマ、危ない‼︎」


 ズダダダダン‼︎
 今度は、銃撃だ。間一髪、ボクらは煉瓦のブロックの陰に隠れた。何だ、一体どこから……?

 足音がする。見るとそこには何と。
 〝サターン〟のミマス、ディオネの姿があった。


「おい、どういう事だ。テメエら、何でここにいやがる」

「……」


 奴らはニャンバラに帰ったはずだ。何故、こんな所に……? それに、ニャンバラ軍はネズミたちと既に和解し、戦いは終わった筈なのに。


「おい、何とか言えよ!」


 問いかけたが、様子がおかしい。奴らは何一つ返事をせず、表情一つ変えずにこちらに向かってくる。


「スピカ! とにかくやっちまうぞ!」

「うん!」


 ボクらは煉瓦ブロックの陰から飛び出すと、さらにどこからか、タイタン、エンケラドス、テティス、そして——マーズさんを襲ったあの謎の剣士、レアまでが現れた。
 奴らは一言も喋る事なく、真っ直ぐにボクらに向かってくる。


「喰らえ! ギガ・ダークブレイク!」


 ——よく見ると、奴らの体が半透明になっている。だが、攻撃の手応えはある。


「分かった、コイツらはただの〝幻影〟だ。どっちにしろ今のボクらの相手じゃねえな」

「ほな、遠慮せんとブチのめしたらええんやな!」


 鼻歌まじりに、ボクは〝サターン〟の幻影たちを剣と爪で切り刻んだ。奴らは苦しむ様子も見せず、無言で散っていく。その様は不気味で、あまり気持ちのいい感じがしなかった。
 ——と、スピカが。


「いたた! 油断してもうた! ゴマ、ちょい助けてーな!」


 レアの幻影の剣技を喰らったスピカ。やはりレアだけは、別格の強さらしい。
 だが、ボクらはもっと強えはずなんだ。ボクはスピカに言ってやった。


「スピカ、こんな奴ごときに、何てこずってやがんだ!」


 手は貸さねえ。こんな幻影ごときに負けるなんて許さねえ。


「そんなん言わんと! 女の子のピンチやねんで⁉︎     イケメンなら助けてやあ!」

「自分で何とかしろ。出来るだろ、そのぐらい」

「いやああああーーーー‼︎」


 スピカは、レアの幻影が繰り出した剣技——あの時、マーズさんを瞬時に打ちのめした〝神速閃〟を喰らい、血を流して倒れてしまいやがった。


「スピカ……‼︎」


 ボクはスピカのもとへ駆けつけた。が、スピカは言葉が話せねえぐらい、傷が深かった。
 ……だんだん息が弱くなっていく……!


「スピカ、おい! 死ぬな‼︎    スピカーーーー‼︎」

『己の事ばかり考えていてはならん。そなたの試練は失敗だ』


 どこからか声が聞こえてくる。何だ、一体誰の声なんだ——。

 それよりも、スピカだ! ボクはスピカの顔を覗き込んだが——スピカはそのまま息絶え、光に包まれて消滅してしまったんだ……。


「スピカァァァァーーーーッッ‼︎」


 ポコに続いて、スピカまで……‼︎
 そんな、せっかく戦いが終わって平和が戻ったのに!
 そんなの無えよ、馬鹿野郎が——‼︎


『ゲームオーバーだ。もう一度、〝光の泉〟へと戻り、挑み直すが良い。次こそは、試練に打ち勝つのだ』


 再び聞こえる不思議な声。
 泣き叫んでいると、体が光に包まれ、周りの景色が溶けて行った。

 ——気付くとボクは、あの変な魚の像のある泉のほとりに座っていたんだ。
 ボーッと水の音に耳を傾けていると、魚の像の方から声が聴こえた。


「ゴマ、ゴマ! 大丈夫や! ウチはちゃあんと生きてるで! ……コンティニューや!」
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