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第85話〜生まれ変わるChutopia2120〜
しおりを挟む……良かった、本当に良かった。
ハールヤの声を聞いた瞬間ボクは立ち上がり、思わずガッツポーズをしてしまった。
「良かった。ほんとに……。うわああん……!」
涙を流すメルさんのところへ、ライムさんはゆっくり歩み寄り、肩をポンと叩く。
「メル。新しい生命の誕生を見届けようぜ」
「……うん。こんなおめでたい日に、また家族揃うことができて、幸せよね。ありがとう、ライム」
ソールさん、マーズさん、マーキュリーさん、フォボスさん、スピカはというと、5匹で大きく万歳をした後、腕を組んで小躍りをしていた。
「ばんざーい! ばんざーい!」
「祈りが届いたんだ! ほら、ヴィーナスも一緒に踊ろうぜ! ムーンも、ほら!」
「私はいいわよ。ほら、早く部屋に入りなさい」
「……ふふ。さあ、みんなでユキを労ってあげましょう」
市長チュータさんも、安堵に満ちた笑顔で祝ってくれた。
「良かったです。新しい時代を築く世代、元気に育ってくれたらいいですね」
「ああ、市長さん。今日はめでてえ日になったな」
——さあ、ユキの子供たちとご対面だ!
♢
「可愛いー。ちっちゃーい!」
「おおー! ほんまやん! いやーめんこいわあ。ユキちゃん、おめでとな!」
ゆりかごの中には、3匹の小さな命があった。元気に体を動かし、ピーピーと声を上げて泣いていた。
「ユキ、お前よく頑張ったじゃねえか」
「……ゴマ、ありがとう」
疲れ果て、半目のままユキは応えた。
ボクは、ユキにデネブが言っていたあの事を言おうか言うまいか迷ったが——、今はやめておくことにした。
ポコは、きっと生きてる。またどこかで会って、無事に子供が産まれたってこと、伝えるんだ。
「どうも、ネコ族のみなさん。ユキちゃんの子供、無事に生まれて良かったですよ」
「すごーい! ネコの赤ちゃん、初めて見た! すごいね、ゴマくん!」
程なくして、チップたちの家族も来てくれた。
ネズミの母ちゃんとモモが、興味深そうに3匹の赤ん坊を見つめる。
「ピー、ピー!」
「可愛い。まだ目を閉じてるね」
目は閉じているが、3匹とも元気に手足を伸ばし、その場を転げ回っている。ボクがそっと手を伸ばすと、1匹がじゃれついてきた。……可愛いもんだな。
「ユキちゃん、あなたももうお母さんね、ふふ」
ネズミの母ちゃんが微笑みながらそう言うと、ユキは笑みを見せながらうなずく。
「なあユキ、ネズミの奴らに抱かせてやったらどうだ」
「まだダメ。目が開いて身体もしっかりしてからじゃないと」
「そうか……クソ、ボクも早く抱っこしてやりてえ!」
ネズミの兄弟の一番チビのミライも、嬉しそうに見てやがる。こうしてユキの子たちと比べてみりゃ、ミライの方が兄ちゃんに見えちまうもんだな。種族は違うが。
そのミライが——とても大事なことを言った。
「なまえ、どおするの?」
そうだ、名前だ。この場でみんなで考えるか?
「そうね、ミライくん。まずアイミ姉ちゃんに報告して、アイミ姉ちゃんにつけてもらおうかな、と思ってるの」
——ボクらの飼い主、アイミ姉ちゃん。もうずっと会っていない。元気にしてるだろうか。ボクが命がけの戦いをしてたなんて、夢にも思っちゃいねえだろう。ユキの3匹の子供たち、早く見せてやりてえな。
「ほんとにおめでとう、ユキちゃん。さあ、僕らはお家に帰るけど、ネコの皆さんたちはどうされますか?」
そう言って荷物を背負うネズミの父ちゃん。……そうか、戦いは終わったから、ネズミたちはようやくこの地下避難施設を出て、家へ帰れるんだ。チップたちも、久しぶりにあのでっけえ木の住処に帰るのか。
「ネズミの父ちゃん、ボクついて行っていいか? あの美味え飯、久しぶりに食いてえよ」
ボクがそう言うと、ルナも続けた。
「僕も、食べたい!」
すると、隣でユキの子供に夢中だったソールさんたちも……。
「我々も、寄せてもらっていいですか?」
「そんなに美味い飯なんなら、食ってみてえな!」
「わ、私も! ほら、腹が減っては戦は出来ぬっていうじゃない……?」
「マーキュリー、何言ってるの。戦は終わったのよ! ムーン、あなたはどうするの?」
「私も折角ですので、一緒に行きましょう。メル、じゅじゅ、ライム、あなたたちはどうしますか?」
星光団もみんな来るみてえだ。今度こそ、みんなで勝利のパーティーだ!
……だが、やはり全員というわけにはいかねえみたいだ。
「ごめんね、私はユキのところにいる。じゅじゅは?」
「行く決まってるじゃない~。久しぶりのごちそう~‼︎ ライムはどうする~?」
「……私も、行かせてもらって良いだろうか。ネズミ族と、ちゃんと話がしてみたいのだ」
まさか、ライムさんも来るとは。そのデケエ体でチップん家のドアをくぐれるのだろうか。
「スピカとフォボスさんはどーすんだ?」
「ゴマが行くんなら、ウチも行く!」
「俺も行こう。ひとまず、パーっと打ち上がりたいものだ」
「スピカ、あまり騒ぐんじゃねえぞ。ミランダ、お前も来ねえか?」
「あたしは、これからワープゲートでネコさんたちをニャンバラへ送ったりしなくちゃいけないから、またの機会にね! 楽しんできて!」
ミランダは、一度ニャンバラに帰らなきゃいけねえネコの奴らもまだたくさんChutopia2120に残ってるみてえだから、これから忙しくなるようだ。
市長のチュータさんも、帰る支度をしながらニコニコ笑顔で挨拶した。
「ライムさん、こちらの事はお気になさらず、ゆっくり楽しんできてください。では、私はこれにて失礼いたします」
「すまない。宴が終わったら、すぐに向かわせてもらう」
ライムさんは深々と頭を下げ、市長チュータさんを見送った。
♢
さあ、出発準備が整った。
ムーンさんは出発前に、メルさんとユキを優しく抱きとめる。
「メル、ユキ。私だけ楽しんできてごめんなさいね。ユキが動けるようになったら、改めてまたみんなでご飯食べましょう」
「いいの、母さん。母さんたちの活躍で平和が戻ったんだし、ライムも一緒なんだし。ユキたちの事は私に任せて、楽しんできて」
「母さん、楽しんできてね。メル姉さん、ありがと。姉さんがいてくれると安心するわ」
「ピー!」
「キュウー!」
「ミィー!」
ユキとメルさん、ユキの子供たち、そしてまだ治療中のデネブは分院に残り、ボクらは地下避難施設の出口へと向かう。
他のネズミの住民たちはすでに地上へ戻ったらしく、ボクらの話し声と足音だけが、高い天井へと響く。
「さあ、久しぶりの地上だ」
「家、帰ったら掃除しなきゃね」
「なら、我々もお手伝いしますよ」
「こんだけいりゃあ、すぐ終わるだろ」
長い通路を抜けて階段をのぼり、扉を開く。——眩しい光と共に、青い青い空が、目に入った。
街ではネズミたちとネコたちが入り混じって、行き来しているのが見える。
「あ! プレアデスにベガのオッサン!」
プレアデスとベガも、地上に着いたばかりのようだ。コイツらはこれからどうすんだろな。
「やあみんな。これからどこ行くの?」
「チップたちの家でパーティーだぜ。お前らも来ねえか?」
「パーティー? 行く行くー! ベガさんはどうする?」
「俺は一度帰ろうと思う。家族と同僚に顔を見せておきたいからな。だがどうやって帰ればいいのか……」
ベガの言葉を聞いたミランダは、金色の光を振り撒きながら、ベガのところへ飛んで行った。周りをグルグル飛び回られて戸惑うベガのオッサン。見てて面白いぜ。
「わ、また出た。あの光る変な虫だ」
「虫だなんて失礼しちゃう。あたしは可愛い可愛い風の精霊、ミランダよ! ニャンバラに帰るのなら、あたしについてきて。ワープゲートで、帰りたいネコさんたちをニャンバラへ送るわ」
「ああそういえば、不思議な光をくぐってこのネズミたちの国に来たのだったな」
——って事で、ベガのオッサンとは、ここでお別れだ。
あの笑った顔一つ見せなかったイカツいオッサンは、今はもう別人ならぬ別ネコのような、優しく穏やかな顔つきになっていた。
「皆さん、どうもありがとう。俺もここで学んだ事を活かして、ホワイトな職場を目指すことにするよ」
「あたしに用がある時はいつでも心の中であたしの名前を念じてね! それじゃ、パーティー楽しんで来てね!」
ボクらは、ベガとミランダに向けて大きく手を振った。
「ああ、また遊びにこいよ、ベガのオッサン!」
「ミランダちゃんも、行ってらっしゃあーい!」
——さあ、街へと向かおう。
青い青い空の下、ボクらは緑の芝生を駆け抜けていく。久しぶりの開放的な気分だ。降り注ぐ太陽の光が、ボクらを祝福しているかのようだ。
「なあ、みんな。ちょっくら街をぶらーっと歩いて、色々美味いもん調達してから帰らねえか?」
「さんせーい!」
Chutopia2120。
ニャンバラの侵略で移住してきたニャンバリアンたちも、心の広いネズミたちの厚意で受け入れられ、今はネズミとネコ、仲良く暮らす街になっている。
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