子ネコのゴマの大冒険〜もふもふにゃんこ戦隊と共に、2つの世界を救え‼︎〜

戸田 猫丸

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第80話〜白き光の先には〜

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 揺れ動く地面、崩れ落ちる天井、道を塞ぐ大岩——。


「ゴマ!    こっちだ!    早く‼︎」


 ボクは必死の思いで、マーズさんの後を追う。


「あ、熱ちッ……‼︎    クソったれ!」


 素足のまま、地面を這いずる溶岩を踏んじまった。壁からも、火の粉が時折噴き出して、道を塞いでくる。
 すでに全身大火傷で、血も止まらねえ。
 相変わらず転身は封じられたままだから、ボクの体力も、いつまでもつか分からねえ。
 幸い、出口までは一本道のようだ。前を行くソールさんたちの向こうに、外の光が僅かに差し込んでいるのが見える。


「マーズさん! 待ってくれ!」

「ゴマァーー‼︎    急げ! 炎に飲まれるぞ‼︎」


 走っている最中、ボクは真後ろから恐ろしい気配を感じた。
 思わず振り返ると——真っ赤に燃え盛る炎の中に、巨大な黒い影が見えた。


「う、うわあぁぁぁああああ‼︎」


 黒い影は地響きを立て、炎に包まれながら後ろから迫ってくる。
 ボクは腰を抜かし、地面にへたり込んでしまった。


「ゴマ、ゴマーー‼︎」


 マーズさんの声が遠ざかっていく。あかい炎が、ボクの身体を飲み込み始める——。
 ここからは、時がとてもゆっくりと流れているように感じたんだ。


「……何をしている、ゴマ」


 巨大な影から、低い声が響いた。燃え盛る炎の中から姿を現したその影の正体は——ライムだった。


「……ライム‼︎    テメエ……ん⁉︎」


 ボクは、目を疑った。
 ライムの背中には、ムーンさんの姿があったからだ。
 ——いや、ムーンさんだけじゃねえ。黒焦げになったデネブに、ダイモス。そして、スピカの姿もあった。


「む、ムーンさん! スピカ‼︎   ダイモスさん‼︎」

「……早く行け! ゴマ‼︎」


 そんなまさか……‼︎    ライムが助けてくれたのか?
 ライムは苦しげな表情で、必死にムーンさんたちを背にかついでいた。


「ばっ、バカ野郎ライム‼︎    無茶してんじゃねえ! テメエの背中にいる誰かを、ボクにも寄越せ‼︎」


 直後、ドサッと音を立てて、ボクの背中に3匹のうちの誰かが乗せられた。——鼓動を感じる。生きてる。
 模様と爪の形で判った。スピカだ。


「……フン」


 次の瞬間、ライムの目から青色の光線が発せられ、ボクはそれを、まともに喰らってしまった。


「ぐああ! 何しやがる‼︎」


 ——ところが。
 その青色の光線を浴びると、封印が解け、ボクは転身後の姿になったんだ。身体の傷や火傷が、みるみるうちに癒されていく。——全身に力が漲っていく!


なのだろう。しっかり守ってやれ! ゴマ」


 ライムはそう言うと、今度は紫色の炎のオーラを放ち、ボクにまとわせた。……熱くない。紫色の炎のオーラは、後ろから迫り来る高熱の爆炎から、ボクとスピカを守ってくれている。
 気づけばボクはライムと並び、出口に向かい疾走していた。


「ヘッ、言いたかねえが、ありがとよ、ライム!」

「ゴマ……、出口まで急ぐぞ‼︎」


 ライムはその太い腕で、落下してくる岩や噴き出す炎から、背中のデネブ、ダイモスさん、そしてムーンさんをしっかりと守っていた。
 ボクも、次から次へと道を塞ぐ障害物を魔剣ニャインライヴでさばき、スピカを守りながら、出口を目指す。


「……クソ、間に合うか……‼︎」


 洞窟の出口の白い光が、眼に飛び込んでくる。
 凄まじい揺れと爆発音と共に、ボクらは、外の白い光に包まれた。

 ――――ボクの記憶は、ここで途切れてしまったんだ。


 ♢


「……マくん、ゴマくん!」


 ——目の前に、妖精の姿がうっすら見える。
 ここは、天国か? やっぱりボク、死んじまったのか?


「ゴマくん……! あ! 気がついたみたい!」


 ……違う。コイツは、ミランダだ。
 ボクは、生きてる。確かに、生きてる。


「……うう……。ミランダ……? ど、何処だここ……は」


 何とか、声を出すことができた。
 ミランダは、ボクの周りを飛び回りながら答える。


「ゴマくん、気がついて良かった! ここは、Chutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろの地下避難施設の中にある、医療機関よ」


 気付くとボクは、ベッドに横にされたまま、全身を包帯でぐるぐる巻きにされ、おまけに変な管で繋がれていた。


「クソ……。何だこれは……。動けやしねえ」

「ゴマくん、君は全身大火傷で運び込まれて、丸2日間眠り続けてたんだから、安静にしてなさい! あまり喋っちゃダメよ!」

「……そう、だ、他の奴ら……は?」


 意識ははっきりしてるが、全身の感覚が無え。
 腕や足がまるで別の物体みたいで、変な感じだ。


「みんな無事よ。ムーンさんにルナくんやメルちゃんたちも、それにユキちゃんもスピカちゃんも、星光団のみんなも、そしてライムちゃんも」

「……ライム」


 みんな無事なら、良かったぜ。
 だが、ライムは——。
 ライムはなぜ、ムーンさんもスピカも、助けてくれたんだろう。
 ボーッと考えていると、ドアの開く音がした。


「おお、ゴマくん。目が覚めたのですね」


 白いダボダボの変な服を着たネズミのジジイが、声をかけてきた。


「お前は……誰だ」

「私は、Chutopiaチュートピア厚生医院の院長、ハールヤです。今はここ、地下避難施設の分院を取り仕切っております。ともあれこれで、運ばれた方々全員、意識が戻りました。では早速、検査しましょう」

「ケンサ? ……っておい、何しやがる!」


 ハールヤのジジイは、ボクの身体を無理矢理起こして、変な機械を取り付けた。
 吸盤みてえなものをたくさんボクに取り付け、変な機械と繋げやがる。すると機械の画面に、色々な記号のようなものが出てきた。


「うん、君は若いですから治るのも早いですね。全て正常の数値です。もう1日ほど安静にしていれば、大丈夫ですよ」


 そう言ってハールヤは、ボクの包帯をゆっくりと外し始めた。——手足の感覚が戻ってくる。あ、何だか急に腹が減ってきやがった。


「おいジジイ、美味いもん食わせろ」


 ボクはそう言うと、ハールヤはボクの腕にブッ刺さってる変な管をゆっくり外した後、机の上を指差した。


「ハハ、ずっと点滴でしたからねえ。そこに美味しいカマボコがあります。どうぞお食べください」


 その言葉を聞いて、ヨダレが止まらなくなる。
 久しぶりの、生きている実感。生きてるって素晴らしいぜ。


「う、うめえ‼︎」


 ボクは自由に動けるようになると、机のカマボコにがっついた。


「アハハ、その様子だともう大丈夫ですね。そうだ、お見舞いに来てくださってるご家族様がおられますよ」


 ハールヤは部屋の隅にあるボタンを押した。スライド式の大きなドアが左右に開く。
 ドアの外から、懐かしいネズミのガキのはしゃぎ声が聞こえてくる。


「あ、ゴマ兄ちゃーん! 良かった、目が覚めたんだ!」

「わあーい! また遊べるね!」


 そこにいたのは——チップとナナだった。
 そうだ、ボクは無事に生きて帰ってこれたんだ。チップとナナの笑顔を見て、ボクは心から安心した。


「……ようチップ。ナナも。元気そうだな」

「もうゴマ兄ちゃん! ずっと寝たままだったから心配したよー!」

「治ったんなら、早く遊ぼうよー!」


 はしゃぐチップたちの後から、ネズミの父ちゃん、母ちゃんも来てくれた。


「やあ、ゴマくん。無事に帰ってきてくれて本当に良かったよ。こっちも、ニャンバラ軍は撤退したから、地上のそれぞれの家へ帰る準備で大忙しだ」

「目が覚めてよかったわ。帰ったら、またご馳走を食べましょうね」


 そうか、ネズミたちの世界は……、Chutopia2120は、もう、大丈夫なんだな。
 この戦い、ボクらが勝利したんだな……。


「に、兄ちゃん⁉︎」

「ゴマ、ゴマ! 目が覚めたのね!」


 続いて、ルナに、メルさんも部屋に入ってきた。ルナは額にでっけえ絆創膏をつけてるだけで元気そうだ。メルさんも、顔色もいいし、何も問題なさそうだ。……本当に、良かったぜ。


「ハハ、全くメルさんには心配ばかりかけちまってるぜ。でももう、あのネコパンチは勘弁してくれよ」

「もう、ほんとよー。でも、助けてくれたのは本当にありがとう。無事でよかったよ」

「兄ちゃん、ホント治って良かったよ。これからは無茶は無しだよ? これからはメル姉ちゃんの言う事ちゃんと聞いてね。後はケガがちゃんと治るまで大人しくしとく事と……」


 ボクは好き勝手言うルナの言葉を聞き流し、外の景色をボーッと見る。Chutopia2120は今、どうなってるんだろうか。ニャンバラの奴らはこれからどうなっちまうんだろうか。
 色々と考えていたら、また猛烈に眠たくなってきやがった。——ボクはそのまま、溶けるように眠りに落ちてしまったらしい。
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