84 / 143
第80話〜白き光の先には〜
しおりを挟む揺れ動く地面、崩れ落ちる天井、道を塞ぐ大岩——。
「ゴマ! こっちだ! 早く‼︎」
ボクは必死の思いで、マーズさんの後を追う。
「あ、熱ちッ……‼︎ クソったれ!」
素足のまま、地面を這いずる溶岩を踏んじまった。壁からも、火の粉が時折噴き出して、道を塞いでくる。
すでに全身大火傷で、血も止まらねえ。
相変わらず転身は封じられたままだから、ボクの体力も、いつまでもつか分からねえ。
幸い、出口までは一本道のようだ。前を行くソールさんたちの向こうに、外の光が僅かに差し込んでいるのが見える。
「マーズさん! 待ってくれ!」
「ゴマァーー‼︎ 急げ! 炎に飲まれるぞ‼︎」
走っている最中、ボクは真後ろから恐ろしい気配を感じた。
思わず振り返ると——真っ赤に燃え盛る炎の中に、巨大な黒い影が見えた。
「う、うわあぁぁぁああああ‼︎」
黒い影は地響きを立て、炎に包まれながら後ろから迫ってくる。
ボクは腰を抜かし、地面にへたり込んでしまった。
「ゴマ、ゴマーー‼︎」
マーズさんの声が遠ざかっていく。紅い炎が、ボクの身体を飲み込み始める——。
ここからは、時がとてもゆっくりと流れているように感じたんだ。
「……何をしている、ゴマ」
巨大な影から、低い声が響いた。燃え盛る炎の中から姿を現したその影の正体は——ライムだった。
「……ライム‼︎ テメエ……ん⁉︎」
ボクは、目を疑った。
ライムの背中には、ムーンさんの姿があったからだ。
——いや、ムーンさんだけじゃねえ。黒焦げになったデネブに、ダイモス。そして、スピカの姿もあった。
「む、ムーンさん! スピカ‼︎ ダイモスさん‼︎」
「……早く行け! ゴマ‼︎」
そんなまさか……‼︎ ライムが助けてくれたのか?
ライムは苦しげな表情で、必死にムーンさんたちを背に担いでいた。
「ばっ、バカ野郎ライム‼︎ 無茶してんじゃねえ! テメエの背中にいる誰かを、ボクにも寄越せ‼︎」
直後、ドサッと音を立てて、ボクの背中に3匹のうちの誰かが乗せられた。——鼓動を感じる。生きてる。
模様と爪の形で判った。スピカだ。
「……フン」
次の瞬間、ライムの目から青色の光線が発せられ、ボクはそれを、まともに喰らってしまった。
「ぐああ! 何しやがる‼︎」
——ところが。
その青色の光線を浴びると、封印が解け、ボクは転身後の姿になったんだ。身体の傷や火傷が、みるみるうちに癒されていく。——全身に力が漲っていく!
「大切な存在なのだろう。しっかり守ってやれ! ゴマ」
ライムはそう言うと、今度は紫色の炎のオーラを放ち、ボクに纏わせた。……熱くない。紫色の炎のオーラは、後ろから迫り来る高熱の爆炎から、ボクとスピカを守ってくれている。
気づけばボクはライムと並び、出口に向かい疾走していた。
「ヘッ、言いたかねえが、ありがとよ、ライム!」
「ゴマ……、出口まで急ぐぞ‼︎」
ライムはその太い腕で、落下してくる岩や噴き出す炎から、背中のデネブ、ダイモスさん、そしてムーンさんをしっかりと守っていた。
ボクも、次から次へと道を塞ぐ障害物を魔剣ニャインライヴで捌き、スピカを守りながら、出口を目指す。
「……クソ、間に合うか……‼︎」
洞窟の出口の白い光が、眼に飛び込んでくる。
凄まじい揺れと爆発音と共に、ボクらは、外の白い光に包まれた。
――――ボクの記憶は、ここで途切れてしまったんだ。
♢
「……マくん、ゴマくん!」
——目の前に、妖精の姿がうっすら見える。
ここは、天国か? やっぱりボク、死んじまったのか?
「ゴマくん……! あ! 気がついたみたい!」
……違う。コイツは、ミランダだ。
ボクは、生きてる。確かに、生きてる。
「……うう……。ミランダ……? ど、何処だここ……は」
何とか、声を出すことができた。
ミランダは、ボクの周りを飛び回りながら答える。
「ゴマくん、気がついて良かった! ここは、Chutopia2120の地下避難施設の中にある、医療機関よ」
気付くとボクは、ベッドに横にされたまま、全身を包帯でぐるぐる巻きにされ、おまけに変な管で繋がれていた。
「クソ……。何だこれは……。動けやしねえ」
「ゴマくん、君は全身大火傷で運び込まれて、丸2日間眠り続けてたんだから、安静にしてなさい! あまり喋っちゃダメよ!」
「……そう、だ、他の奴ら……は?」
意識ははっきりしてるが、全身の感覚が無え。
腕や足がまるで別の物体みたいで、変な感じだ。
「みんな無事よ。ムーンさんにルナくんやメルちゃんたちも、それにユキちゃんもスピカちゃんも、星光団のみんなも、そしてライムちゃんも」
「……ライム」
みんな無事なら、良かったぜ。
だが、ライムは——。
ライムはなぜ、ムーンさんもスピカも、助けてくれたんだろう。
ボーッと考えていると、ドアの開く音がした。
「おお、ゴマくん。目が覚めたのですね」
白いダボダボの変な服を着たネズミのジジイが、声をかけてきた。
「お前は……誰だ」
「私は、Chutopia厚生医院の院長、ハールヤです。今はここ、地下避難施設の分院を取り仕切っております。ともあれこれで、運ばれた方々全員、意識が戻りました。では早速、検査しましょう」
「ケンサ? ……っておい、何しやがる!」
ハールヤのジジイは、ボクの身体を無理矢理起こして、変な機械を取り付けた。
吸盤みてえなものをたくさんボクに取り付け、変な機械と繋げやがる。すると機械の画面に、色々な記号のようなものが出てきた。
「うん、君は若いですから治るのも早いですね。全て正常の数値です。もう1日ほど安静にしていれば、大丈夫ですよ」
そう言ってハールヤは、ボクの包帯をゆっくりと外し始めた。——手足の感覚が戻ってくる。あ、何だか急に腹が減ってきやがった。
「おいジジイ、美味いもん食わせろ」
ボクはそう言うと、ハールヤはボクの腕にブッ刺さってる変な管をゆっくり外した後、机の上を指差した。
「ハハ、ずっと点滴でしたからねえ。そこに美味しいカマボコがあります。どうぞお食べください」
その言葉を聞いて、ヨダレが止まらなくなる。
久しぶりの、生きている実感。生きてるって素晴らしいぜ。
「う、うめえ‼︎」
ボクは自由に動けるようになると、机のカマボコにがっついた。
「アハハ、その様子だともう大丈夫ですね。そうだ、お見舞いに来てくださってるご家族様がおられますよ」
ハールヤは部屋の隅にあるボタンを押した。スライド式の大きなドアが左右に開く。
ドアの外から、懐かしいネズミのガキのはしゃぎ声が聞こえてくる。
「あ、ゴマ兄ちゃーん! 良かった、目が覚めたんだ!」
「わあーい! また遊べるね!」
そこにいたのは——チップとナナだった。
そうだ、ボクは無事に生きて帰ってこれたんだ。チップとナナの笑顔を見て、ボクは心から安心した。
「……ようチップ。ナナも。元気そうだな」
「もうゴマ兄ちゃん! ずっと寝たままだったから心配したよー!」
「治ったんなら、早く遊ぼうよー!」
はしゃぐチップたちの後から、ネズミの父ちゃん、母ちゃんも来てくれた。
「やあ、ゴマくん。無事に帰ってきてくれて本当に良かったよ。こっちも、ニャンバラ軍は撤退したから、地上のそれぞれの家へ帰る準備で大忙しだ」
「目が覚めてよかったわ。帰ったら、またご馳走を食べましょうね」
そうか、ネズミたちの世界は……、Chutopia2120は、もう、大丈夫なんだな。
この戦い、ボクらが勝利したんだな……。
「に、兄ちゃん⁉︎」
「ゴマ、ゴマ! 目が覚めたのね!」
続いて、ルナに、メルさんも部屋に入ってきた。ルナは額にでっけえ絆創膏をつけてるだけで元気そうだ。メルさんも、顔色もいいし、何も問題なさそうだ。……本当に、良かったぜ。
「ハハ、全くメルさんには心配ばかりかけちまってるぜ。でももう、あのネコパンチは勘弁してくれよ」
「もう、ほんとよー。でも、助けてくれたのは本当にありがとう。無事でよかったよ」
「兄ちゃん、ホント治って良かったよ。これからは無茶は無しだよ? これからはメル姉ちゃんの言う事ちゃんと聞いてね。後はケガがちゃんと治るまで大人しくしとく事と……」
ボクは好き勝手言うルナの言葉を聞き流し、外の景色をボーッと見る。Chutopia2120は今、どうなってるんだろうか。ニャンバラの奴らはこれからどうなっちまうんだろうか。
色々と考えていたら、また猛烈に眠たくなってきやがった。——ボクはそのまま、溶けるように眠りに落ちてしまったらしい。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる