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第74話〜再戦——VSライム〜
しおりを挟む「もう一度言うぞ。〝今ここで、私と共に、星光団を潰し、Chutopia2120を、我々ニャンバリアンの新たな支配地とする……〟それを約束するなら、貴様を再び我が軍の精鋭として認めてやる。どうだ、貴様の答えを聞かせろ、スピカ」
片方の口角を上げ、ライムは問いかけた。
数秒おいてスピカは、息を思いっきり吸い込み、言い放つ。
「ふん、ク ソ 喰 ら え や ! !」
スピカの声が熱気の滾る洞窟に響くと、ライムはゆっくりと後ろを向いた。
「……そうか。残念だ。ダイモス、スピカを始末しろ」
「御意」
ダイモスは宙を飛びながら素早い動きで、スピカの方へ向かって行く。
「……やめろ! やめろダイモス‼︎」
フォボスさんは叫びながらすぐにダイモスに追いつき、スピカの前に両腕を広げて立ち塞がった。
「スピカに手出しはさせん! 目を覚ませ、ダイモス‼︎」
「お前いつまで相棒のつもりでいるんだ? ならフォボス、お前から葬り去ってやる。フレイム・ストーン……! ……ぐはぁ⁉︎」
——ダイモスが技を繰り出そうとする前に、フォボスさんはダイモスの頭上に、強烈なカカト落としをお見舞いしていた。
泡を吹き、あっけなく崩れ落ちるダイモス。
「この……馬鹿者が」
ドサッと土埃を立て、ダイモスは地面に倒れ伏せる。
捕まっていたミランダは解放され、光を纏いながらダイモスの腕から飛び立っていった。
「ぐはぁっ。……ハハ、フォボスお前、やっぱ強えな……!」
「……お前は本当に、始めからニャンバラ軍のスパイだったのか?」
「ヘッ、だからそう言ったろ。……だがお前や、星光団、そしてゴマの奴らとの絆……、まんざらでもなかったんだがな」
「……その口を閉じろ」
フォボスさんは、今度はダイモスの顔面に強烈なチョップをお見舞いした。
「グハ……ァアアアッ‼︎」
完全に気を失い、倒れるダイモス。
笑った顔のまま地面に体を横たえたダイモスを見ながらフォボスさんは、大粒の涙を流して泣いていた。
まだ安心は出来ない。ソールさんたちのところでも、悲劇は起きていた。
「ムーン! ムーン、目を覚ませ……、ミランダ! 何とか出来ねえか?」
マーズさんが、飛来したミランダに問う。
「けほっ、けほっ。ゴメンね、あたしずっと捕まってたから、まだ今は魔力を使う事が出来ないの。ムーンちゃん、目を覚ますよう祈るしかないわね……」
「クッ……! ヴィーナス、どうだ?」
「……ダメ。助からないかも」
「そんな……」
おい、嘘だろ、ムーンさん……。
——ポコと、ムーンさんとの思い出が、次々と心に浮かんでくる。
やめろよ、やめろよ! ボクは心の中で叫んだ。だが、次から次へと、アイミ姉ちゃん家のガレージでの家族暮らしの思い出が、瞼の裏に浮かび上がっててくる。
――満月の夜、ポコとこっそり夜中抜け出して探険したんだ。ネズミが飛び出してきただけで怖くて大泣きするポコに、ボクは手を煩わされちまった。
――神社での集会。ムーンさんがその日珍しく帰ってくるってんで、家族みんな揃ってとりとめもねえ話しながら夜を明かした。みんないると、やっぱり安心したなあ。
――ポコとユキ、仲が別段良いようには見えなかったんだよな。木登りにもボクとユキでよく出かけてたし、ポコはいつもガレージで寝てるか日向ぼっこしてるかのどっちかだった。それがいつの間にかバカみてえにイチャついてニャンニャンしやがって……と思えば今度は勝手に死にやがって。あん畜生! 大切な女置いて、先に逝くんじゃねえよ!
――ムーンさん、忙しくなっちまう前は、ずっと一緒にいてくれて、よく遊んでくれたなぁ。獲物のとり方、ニンゲンへの甘え方、教えてくれたよな……!
クソ、やめろ! やめろ‼︎ ムーンさんまで、逝かないでくれ……!
ボクはムーンさんを助けるために、頭をひねった。何か手段は無えか……? そうだ! ミランダといえばワープゲートがあるじゃねえか!
「ミランダ、地下避難施設の病院までワープゲートを出せねえのか!」
「ゴマくん、ゴメンね。まだ魔力が足りない」
クソ……ダメか……!
もう為す術は無えのかと思ったその時、ムーンさんが少しだけ動いたのが見えた。
だが、すごく苦しそうな表情をすると、今度は息を荒げ始める。
「ハハハハ、グァハハハハ‼︎ ムーンめ、いい気味だ。この私を捨てた報いだ……」
その様子を見たライムは笑い声を上げながら、地響きを立ててゆっくりとこっちへ迫って来た。
「……何だとライムてめぇ……!」
「さて、遊びはこの辺で終わりにしよう。お前ら全員、この手で始末してやる」
ボクは必死で身体を起こした。
――身体が動く! ダイモスさんが倒れたから、魔力が解けたみてえだ。
よし、ならば……!
「聖なる星の光よ、我に愛の力を!」
——ダメだ、まだ転身は出来ねえか。クソッ!
「マーキュリー、ヴィーナス! ムーンを守っててくれ! 僕とマーズは……ライムを倒す!」
「ウチもいけるで!」
「うむ! ライムは絶対に許すわけにはいかん!」
ソールさん、マーズさん、スピカ、フォボスさんは戦闘態勢を取り、ライムの元へ向かって行った。
「……うわぁ!」
「いやあああ‼︎」
が、ライムの強烈な炎のオーラの力で、全員が弾き飛ばされてしまう。
——近付くことすら、出来ない。
このままでは、また敗けちまう。あの地上戦の時、本気のボクでさえもあれほど苦戦させてくれた相手だ。
何か、何かいい作戦はねえもんか……。
「兄ちゃん……」
その時ルナが、泣きそうな声でボクを呼んだ。嫌な予感がする。
「どうした、ルナ」
「大変だよ、メル姉ちゃんたちが……」
「何っ!」
見ると、メルさん、ユキの顔色がどんどん悪くなっている。ずっと吊り下げられっぱなしだったストレスに、耐えられなかったのだろう。
まして、ユキは妊娠中だ。このままでは、腹の子供たちが……。せめて無事に生まれてくれねえと、ポコの奴も浮かばれねぇ。
……じゅじゅさんは、相変わらず吊り下げられたまま寝ている。……ある意味、じゅじゅさんが最強なんじゃねえのか?
ムーンさんの事はヴィーナスさんたちに任せて、ボクはメルさんたちを助ける手段を考える事にした。
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