上 下
78 / 143

第74話〜再戦——VSライム〜

しおりを挟む
 
「もう一度言うぞ。〝今ここで、私と共に、星光団を潰し、Chutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろを、我々ニャンバリアンの新たな支配地とする……〟それを約束するなら、貴様を再び我が軍の精鋭として認めてやる。どうだ、貴様の答えを聞かせろ、スピカ」


 片方の口角を上げ、ライムは問いかけた。
 数秒おいてスピカは、息を思いっきり吸い込み、言い放つ。


「ふん、ク ソ 喰 ら え や ! !」


 スピカの声が熱気のたぎる洞窟に響くと、ライムはゆっくりと後ろを向いた。


「……そうか。残念だ。ダイモス、スピカを始末しろ」

「御意」


 ダイモスは宙を飛びながら素早い動きで、スピカの方へ向かって行く。



「……やめろ! やめろダイモス‼︎」


 フォボスさんは叫びながらすぐにダイモスに追いつき、スピカの前に両腕を広げて立ち塞がった。


「スピカに手出しはさせん! 目を覚ませ、ダイモス‼︎」

「お前いつまで相棒のつもりでいるんだ? ならフォボス、お前から葬り去ってやる。フレイム・ストーン……! ……ぐはぁ⁉︎」


 ——ダイモスが技を繰り出そうとする前に、フォボスさんはダイモスの頭上に、強烈なカカト落としをお見舞いしていた。
 泡を吹き、あっけなく崩れ落ちるダイモス。


「この……馬鹿者が」


 ドサッと土埃を立て、ダイモスは地面に倒れ伏せる。
 捕まっていたミランダは解放され、光をまといながらダイモスの腕から飛び立っていった。


「ぐはぁっ。……ハハ、フォボスお前、やっぱ強えな……!」

「……お前は本当に、始めからニャンバラ軍のスパイだったのか?」

「ヘッ、だからそう言ったろ。……だがお前や、星光団、そしてゴマの奴らとの絆……、まんざらでもなかったんだがな」

「……その口を閉じろ」


 フォボスさんは、今度はダイモスの顔面に強烈なチョップをお見舞いした。


「グハ……ァアアアッ‼︎」


 完全に気を失い、倒れるダイモス。
 笑った顔のまま地面に体を横たえたダイモスを見ながらフォボスさんは、大粒の涙を流して泣いていた。

 まだ安心は出来ない。ソールさんたちのところでも、悲劇は起きていた。


「ムーン! ムーン、目を覚ませ……、ミランダ! 何とか出来ねえか?」


 マーズさんが、飛来したミランダに問う。


「けほっ、けほっ。ゴメンね、あたしずっと捕まってたから、まだ今は魔力を使う事が出来ないの。ムーンちゃん、目を覚ますよう祈るしかないわね……」

「クッ……! ヴィーナス、どうだ?」

「……ダメ。助からないかも」

「そんな……」


 おい、嘘だろ、ムーンさん……。

 ——ポコと、ムーンさんとの思い出が、次々と心に浮かんでくる。
 やめろよ、やめろよ! ボクは心の中で叫んだ。だが、次から次へと、アイミ姉ちゃん家のガレージでの家族暮らしの思い出が、まぶたの裏に浮かび上がっててくる。


 ――満月の夜、ポコとこっそり夜中抜け出して探険したんだ。ネズミが飛び出してきただけで怖くて大泣きするポコに、ボクは手を煩わされちまった。

 ――神社での集会。ムーンさんがその日珍しく帰ってくるってんで、家族みんな揃ってとりとめもねえ話しながら夜を明かした。みんないると、やっぱり安心したなあ。

 ――ポコとユキ、仲が別段良いようには見えなかったんだよな。木登りにもボクとユキでよく出かけてたし、ポコはいつもガレージで寝てるか日向ぼっこしてるかのどっちかだった。それがいつの間にかバカみてえにイチャついてニャンニャンしやがって……と思えば今度は勝手に死にやがって。あん畜生! 大切な女置いて、先に逝くんじゃねえよ!

 ――ムーンさん、忙しくなっちまう前は、ずっと一緒にいてくれて、よく遊んでくれたなぁ。獲物のとり方、ニンゲンへの甘え方、教えてくれたよな……!


 クソ、やめろ! やめろ‼︎    ムーンさんまで、逝かないでくれ……!

 ボクはムーンさんを助けるために、頭をひねった。何か手段は無えか……? そうだ! ミランダといえばワープゲートがあるじゃねえか!


「ミランダ、地下避難施設の病院までワープゲートを出せねえのか!」

「ゴマくん、ゴメンね。まだ魔力が足りない」


 クソ……ダメか……!
 もう為す術は無えのかと思ったその時、ムーンさんが少しだけ動いたのが見えた。
 だが、すごく苦しそうな表情をすると、今度は息を荒げ始める。


「ハハハハ、グァハハハハ‼︎    ムーンめ、いい気味だ。この私を捨てた報いだ……」


 その様子を見たライムは笑い声を上げながら、地響きを立ててゆっくりとこっちへ迫って来た。


「……何だとライムてめぇ……!」

「さて、遊びはこの辺で終わりにしよう。お前ら全員、この手で始末してやる」


 ボクは必死で身体を起こした。
 ――身体が動く! ダイモスさんが倒れたから、魔力が解けたみてえだ。
 よし、ならば……!


「聖なる星の光よ、我に愛の力を!」


 ——ダメだ、まだ転身は出来ねえか。クソッ!


「マーキュリー、ヴィーナス! ムーンを守っててくれ! 僕とマーズは……ライムを倒す!」

「ウチもいけるで!」

「うむ! ライムは絶対に許すわけにはいかん!」


 ソールさん、マーズさん、スピカ、フォボスさんは戦闘態勢を取り、ライムの元へ向かって行った。


「……うわぁ!」

「いやあああ‼︎」


 が、ライムの強烈な炎のオーラの力で、全員が弾き飛ばされてしまう。
 ——近付くことすら、出来ない。

 このままでは、また敗けちまう。あの地上戦の時、本気のボクでさえもあれほど苦戦させてくれた相手だ。
 何か、何かいい作戦はねえもんか……。


「兄ちゃん……」


 その時ルナが、泣きそうな声でボクを呼んだ。嫌な予感がする。


「どうした、ルナ」

「大変だよ、メル姉ちゃんたちが……」

「何っ!」


 見ると、メルさん、ユキの顔色がどんどん悪くなっている。ずっと吊り下げられっぱなしだったストレスに、耐えられなかったのだろう。
 まして、ユキは妊娠中だ。このままでは、腹の子供たちが……。せめて無事に生まれてくれねえと、ポコの奴も浮かばれねぇ。
 ……じゅじゅさんは、相変わらず吊り下げられたまま寝ている。……ある意味、じゅじゅさんが最強なんじゃねえのか?

 ムーンさんの事はヴィーナスさんたちに任せて、ボクはメルさんたちを助ける手段を考える事にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...