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第71話〜ポコ、死す⁉︎——お前こそが真の〝勇者〟だ〜

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「……ポコ‼︎」


 ポコは震えながら、デネブ、リゲルの前に出た。
 デネブは、そんなポコを目を細めながら嘲り笑う。


「さあ次は弱虫の黒ネコ、お前だ。お前を殺したら……、次はお前の大事なユキちゃんの命も、ユキちゃんの腹の中の子供の命も、お終いだ、ハハハハ。やれ、リゲル‼︎」

「……アビスシュトローム‼︎」


 ポコの前に、黒く禍々しい巨大な大渦が迫って来た。
 ——が、ポコは、もう動じない。
 震えながらもしっかりとその足で地を踏みしめ、そして少しだけ、微笑みを浮かべていたんだ。


「……もう僕は、臆病者の根性無しじゃないんだ!」


 ポコはマーキュリーさんに託された銃を構え、放った!
 水属性のレーザーが獣の声のように唸る大渦を貫通し、デネブの顔面に直撃した。一瞬ひるむデネブ。


「小癪な。その程度で我々が倒せるか!」


 デネブは体勢を立て直し、魔力を溜め始める。最後の一撃でボクらを仕留める気だ。
 だが、ポコは微笑んでいる。足の震えも止まっている。ポコが今まで見せなかった何か強い信念を、ボクは感じた。
 ——ポコはゆっくりと右腕を上げ、叫ぶ。


「聖なる星の光よ、我に愛の力を!」


 ポコに、7色の光が煌めきながら集まっていく!
 まさか! ウソだろ。まさか……⁉︎


「―――彗星の剣士、ポコ‼︎」


 何と、ポコが転身した。ポコが示したその勇気が、守護神たちをポコを星光団の一員として、認めさせたのだろう。
 勇敢な黒い剣士は、迫り来る大渦に向かい一直線に走り出す。


「な、何ッ! まさか!」


 絶望の大渦がポコに迫る——‼︎
 だが、ボクは全力で、叫んだ。


「行けええええーー!    お前こそが……‼︎」



「僕は、弱虫なんかじゃないッ! ――――六・芒・星・ヘキサグラム昇・天・斬ライジング‼︎」



 ポコは叫ぶと、暗闇の大渦を一直線に突っ切り、デネブとリゲルの懐に弾丸の如く飛び込んだ。
 花火のような閃光が、6箇所で炸裂する——。


「――本当の〝勇者〟だ、ポコ――‼︎」


 デネブとリゲル、そしてポコは、虹色の火花を撒き散らしながら、ふわりと宙に舞った。


「ぐわあああああああ‼︎    まずい、落ちるぞ! リゲルううううう‼︎」

「ウヒャァアアアーー! 何デスか⁉︎    この技は……⁉︎」


 3匹は足場を飛び越え、空中に弧を描く。下は燃え滾る火の海。
 ——まずい。このままだと、ポコも一緒に火の海へ落ちちまう‼︎


「ポコ! ダメだ‼︎    帰ってこい‼︎」


 ボクはポコの元へ駆けつけ、手を差し伸べた。が、届かない——。


「ポコ!    ポコ‼︎    待って、死なないで‼︎」


 ユキの悲痛な叫びが響き渡る。が、その声も、もう届く事はなかった。

 2匹の強敵と、黒き〝勇者〟は、燃え盛る紅蓮の炎の中へと飲み込まれて行く——。
 やがて3匹はシュウウと音を立て白い煙となり、肉の焼け焦げた匂いが立ち込めた……。
 

「ポコ!    馬鹿野郎死ぬな!    ポコーー‼︎」

「ポコォーー‼︎    うわあああああああん‼︎」

「そんな、ポコ兄ちゃんが‼︎」


 ボクは地団駄を踏みながら、燃え滾る炎の海に向かって、全力で叫んだ。


「死ぬこと以外かすり傷とか言ってたがよ! 本当に死んじまってどうすんだよ、ポコのバカ野郎……‼︎     うわあああああああ‼︎」

「え、何が起きたん? ポコ、デネブ、リゲルが……? みんな死んでもうたん? うそ、うそやろ⁉︎」


 スピカが、ボクの叫び声で目を覚ます。


「ポコ、ポコ! 嘘でしょ、ねえ、ポコー! 帰ってきてよ!」

「ポコォォォオオオーーーーッッ‼︎    わあああん……‼︎」


 メルさん、ユキも——、涙を流しながら悲痛な声を上げ続けた。
 みんなの泣き叫ぶ声が、洞窟に響く。
 だが泣けども泣けども、煮えたぎる火の海の熱気が、ただただ無情に立ち昇るだけだった。

 ポコは、もう帰っては来ない。

 だがポコは最期に、〝勇気〟という名の光を!
 ボクらに見せてくれたんだ——‼
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