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第59話〜恐怖の再来〜

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「これが最後の便です。急いでください」


 ネズミでいっぱいになった、あの卵形の乗り物にボクらは乗り込んだ。クソ、狭いぜ。


「みんな、大丈夫だから。きっと今回も何事もなく……?    なにあれ⁉︎」

「空だ! 空を見て兄ちゃん……!」

「どうしたルナ? 何だ⁉︎    空に大きな穴が……!」


 ボクは窓の外を見た。

 ——青く澄んだ空に、白く輝く大きな穴のようなものが見える。


「あれは、間違いねえ。ミランダのワープゲートだ!    やはり、ライムの奴、ミランダを……!」


 空に現れた巨大な虹色の穴は、みるみるうちに巨大化し、空を覆い尽くしていく。


「着いたらすぐに避難しよう!    ニャンバラ軍が、あそこから出てくるかもしれない!」

「分かった、プレアデス兄ちゃん!」


 しばらくするとプレアデスの言った通り、巨大化した虹色の穴から、ゴォン……ゴォン……という音と共に、巨大な飛行戦艦や円盤が、次々に現れた。
 飛行戦艦の巨大で不気味な影が、地面を走っていく。


「こわいよう……」

「ナッちゃん、大丈夫だ。Chutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろに着いたらすぐに森へ向かって、こないだの避難所に行こう!」


 悲鳴、泣き声……車内は大混乱だ。
 クソ、こんな時にソールさんたちは何してやがんだ……。


 ♢


 卵形の列車はChutopia2120の駅に着いた。ネズミの群れの中、ボクらははぐれないようにしっかり手を繋ぎ、階段を下りた。
 駅前のターミナルでも、ネズミたちが大慌てで森の方へ向かって行く。
 上空には巨大な虹色のワープゲートが渦巻き、飛行戦艦や円盤が次々に現れる。前みたいに攻撃はせずに飛び回っているだけだが、何をしてくるか分からねえ恐怖が、ネズミたちの混乱に拍車をかけているみてえだ。


「ん? あそこにいるのは、メル姉ちゃんたちじゃない?」


 ポコの言葉にボクは耳を疑った。ミランダはさらわれちまったはずだ。
 だが目の前の噴水広場には確かに、メルさん、じゅじゅさん、ユキ、そしてスピカの姿があった。しっかり二足歩行で、ちゃんと服も着ている。
 一体、どうやってここに来たんだろうか。
 とりあえず、声を掛けよう。


「おーい‼︎    メルさんー!」

「あ、ゴマ‼︎    良かった、いた!」

「ゴマ~! ルナ、ポコも! 無事で良かったよ!」


 ボクらはネズミの群れから脱出し、メルさんたちと合流した。


「メルさん!    どうやってここに来たんだよ!    今ネズミの世界は大変な事に……」

「ゴマ、聞いて。助けを求めて来たのよ、……ミランダが!」


 何だと……⁉︎    ミランダが……⁉︎


「とりあえず、森に急ごう。みんな固まって行こう。ここは危ない」


 ネズミの父ちゃんはそう言って、先頭に立って案内してくれた。ボクらははぐれないように、ネズミの群れをかき分けかき分け、街外れの森にある地下避難施設の入り口へと向かう。
 ゴォン、ゴォンという重苦しい飛行戦艦のエンジン音が、頭の上からのしかかってくる。


「いざという時は、ウチがみんなを守るさかいに……!」

「スピカ、1匹で背負い込むんじゃねえよ。ボクがいるのを忘れるな」

「せやな! 頼りにしてるで、イケメン!」

「ゴマって呼べ!」


 ——そして、ソールさんたちもいるんだ。

 せっかくここまで復興したこの平和なネズミの街、Chutopia2120。再びボロボロにされちまう事は、絶対に防がなきゃいけねえ。
 それが星光団の、任務だ。


 ♢


 ようやく森が見えて来た。
 避難施設の入り口には、ネズミが押しかけている。


「で、メルさん!    ミランダが助けを求めて来たってのはどういう事だよ」

「突然耳元で、ミランダの声がしたのよ。『助けて、ライムがあたしの魔力を奪って使おうとしてるの!』って……。ゴマを呼ぶつもりだったのかしらね。すぐにワープゲートを開いてくれたわ」

「そう~。その後、ライムの声がしたんだよね~。『余計な事するんじゃねえよ!』って。『キャー!』っていうミランダちゃんの声がしてからは、もうミランダちゃんの声は聞こえなくなったんだ~」


 じゅじゅさんがいつになく、深刻な顔してる。いよいよ只事じゃねえな、これは。


「その後、急にゲートが光り出して、ウチらみんな吸い込まれてもうたんや。気がついたらネズミの街におった」

「なるほどな……。ユキも妊娠中なのに一緒に来ちまったのか。無理するなよ、ユキ」

「うん……」


 ユキは頷くとポコの隣へ行き、ポコの手をぎゅっと握った。ポコは無言で、ユキを抱きしめる。
 ——ポコ、お前もいつまでも弱虫の根性無しじゃダメだ。いざという時は、大事な存在はしっかり守ってやらなきゃ。


「ネコさんたち! 早く地下避難施設へ急ぐよ。みんなもう行っちゃったよ」

「ああ、すまねえチップ!」


 地下避難施設への入り口はいくつかあるようで、たくさんいた住民も、あっという間に避難を済ませられたらしい。ボクらの場所の入り口も住民たちの避難は完了し、チップが最後尾だった。
 ボクらも急いで地下避難施設に入ろうとした、その時——!


「怪しいヤツらだ。動くな! 動くと撃つぞ」


 聞き慣れない声がした。
 チッ、こんな所にまで敵は来ていたのかよ!

 ボクは叫んだ。


「チップ!    先に行け!    ここはボクに任せて、出入り口を閉めろ!」

「うん! 信じてるから!」


 施設の扉が閉まったのを確かめると、ボクはフゥーと息を吐いて周りを見渡す。メルさん、じゅじゅさん、ユキ、ポコ、ルナ、スピカは避難できずにこの場に残ってしまった。スピカは……戦えるから大丈夫だ!


「何だコイツらは……!」


 わらわらと、武装したネコの兵士たちが集まってくる。あっという間に、ボクらは囲まれちまった。

 ——メルさんたちを、守らなきゃいけない。今こそ、ボクらが戦う時!


「行くぞ、スピカ!」

「うん!」

「「聖なる星の光よ、我に愛の力を!」」


 ——黒と白の光がきらめき、ボクらは転身した。


暁闇ぎょうあんの勇者……ゴマ!」

暁光ぎょうこうの勇者……スピカ!」


 ボクとスピカは、飛びかかって来たネコ兵士たちを、剣の一振りで薙ぎ払った。


「ぐわああああッ‼︎ 」

「こ、こんな奴らがいるなんて、聞いてない!」


 何て手応えの無え奴らだ……。そう思って後ろを振り返ると——。
 信じられねえ光景が、目に飛び込んできた。

 メルさんたちが、捕まっている……!


「やあ。久しぶりだね、おチビさんたち」
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