上 下
62 / 143

第58話〜ニャンバラ軍の復活〜

しおりを挟む
 
『cat323:ライムはチキン野郎だろ。地上の資源狙うならニンゲンを相手にすればいいのに』

『NoRa1111:*Re:cat323*それなー、ネズミ族は無抵抗だからって、弱いものいじめじゃんね。クソだな』

『cat323:*Re:NoRa1111*噂だとネズミ族の世界、地上は地上だけどまた異次元の別世界という説もあるらしいぜ。本当にそんな所で暮らせるのかよ』

『buchibuchi2:ライムはまた軍隊を編成したってニュースでやってたよな。嫌な予感しかしないわー。税金の無駄遣いもいい加減にしろよなー』


「……おかしい。ライムはもう捕まったはずじゃあ……。見てよゴマくん」


 ボクはミランダのいる〝ヒミツキチ〟に入ろうとすると、たまたまそこにいたプレアデスに呼び止められ、ニャイフォンの画面に出てる文字を見せられた。


「何だよプレアデス、こっちは急いでるのによ。その文字の羅列は一体何なんだ。細かすぎて読めねえよ」

「これね、ニャンバラのSソーシャルNSニャンコサイト掲示板だよ。どうやら脱走したライムさんが、ニャンバラの某地に現れていたをくぐり、を連れ去った、なんて噂になってるみたい」


 ——悪い予感が、当たったようだ。
 ……。間違いねえ、ミランダだ。

 ボクらが、ニャンバラから元の世界にスピカと一緒に帰ってきたあの時——。


 ⭐︎


「あ、ゲートが開きっぱなしになってるで。ええん?」

「ああ?    んなもんほっとけ。それより早くガレージへ向かうぞ」

「ほんまにほっといてええん? 何か嫌な予感すんねんけど」


 ⭐︎


 あんにゃろ、ミランダの間抜けめが……!
 ミランダがワープゲートを閉じ忘れたから、きっと脱走したライムはニャンバラで開きっ放しになってた2つのワープゲートを見つけやがったんだ。1つはネズミたちの世界、1つはボクらの世界。
 ボクらの世界でライムは来たという情報は聞かなかったから、ネズミたちの世界の方に行ったんだろう。出た場所がミランダの住処のあるヒミツキチだったとしたら、そこでミランダを連れ去った可能性が高い。
 そしてライムは再びワープゲートをくぐってにニャンバラに帰ったのか、このネズミの世界にとどまってるのかは分からねえ。何にしても大変だ。



「あ、ゴマくん!    プレアデス兄ちゃん!    いまからヒミツキチ行くよ!    ミランダちゃんに、どんぐりパン渡すんだ!    ふふ」


 チップがヒミツキチの中でこっちに向かって手を振ってる。
 クソ、チップたちまで巻き込みたくねえんだが……


「チップ、急ぐぞ!    ミランダのいた所へ!」

「え、どうしたの?    そんなに慌てて」


 ボクとプレアデスはチップたちと一緒に、ヒミツキチの奥の奥、ミランダの住処へ全力でダッシュした。

 ——暗くじめじめした、行き止まりの空間。どこを見渡しても、ミランダの姿はなかった。
 ミランダは本当に、ライムの奴にさらわれちまったようだ。


「ミランダちゃーん!」

「いないね……」

「嫌な予感がする。もう少しニャイフォンで調べてみよう」


 プレアデスは再びニャイフォンの画面を見つめる。ボクも覗いてみた。赤くデカイ文字だったからすぐ読む事が出来た。


『ニャンバラ速報:ライム率いるニャンバラ軍、最終戦に向け出発か』


「おい、やっぱりライムが……!」

「大変だ!    ミランダが連れ去られていたとしたら、ワープゲートを使ってニャンバラの軍隊が、大量にここネズミさんたちの世界へ送り込まれて来るかも……」

「おいプレアデス、チップやナナたちに聞こえてるぞ!    少しは気を配ってやれ」

「あ、ごめん……」


 しかし、チップたちには聞こえてしまっていたようだ。


「え、またあの怖いネコさんがやってくるの?    やだよ、やだよ。もうあんなの」

「おかあさん……、うわああん……!」

「おい、チップ!    ナナ!    待てよ!」


 洞窟の外へと走って行くチップ、ナナ。
 プレアデスは引き締まった表情で、ニャイフォンを再び取り出す。


「すぐに星光団のみんなに連絡しよう!」

「頼んだぜプレアデス。その後はネズミの父ちゃんたちにも知らせるぞ。すぐにまたあの地下避難所へ行ってもらうんだ!」


 ボクらは先に帰って行ったチップとナナを追い、9匹のネズミたちの家へ向かった。

 ライムはミランダをさらってニャンバラに帰り、大軍隊を編成して再びネズミの世界にやって来る——。


 ♢


 ボクとプレアデスはネズミの家族と、ルナ、ポコに、ミランダがさらわれた事、ライム率いるニャンバラ軍が、再びネズミたちの世界を侵略してくるであろう事を伝えた。


「そうか、またあのニャンバリアンがやって来るかも知れないのか……。大丈夫、〝太陽の神様〟は、きっと守ってくださるはずじゃよ」

「星光団がすぐにChutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろの市長さんに知らせてくれたから、住民の避難は始まってるってさ! 僕たちも準備して行こう!」

「兄ちゃん、大変な事になったね!」

「やだよ、もう怖いの嫌だ……。僕帰りたい……」


 ルナとポコを帰らせたいが、ワープゲートが使えねえから、ネズミたちと一緒に避難させる事にした。

 すぐに避難の準備が始まる。ボクは1つ気になる事があった。さっきネズミのじいちゃんが言っていた、〝太陽の神様〟とやらについてだ。
 避難準備がひと段落ついた時、ボクはじいちゃんに聞いてみた。


「じいちゃんよ、〝太陽の神様〟って何なんだよ」

「……この地球のすべての生命を生かす、唯一の目に見える神様こそが、太陽なんじゃ。その神様の教えは……素直な気持ち、ありがとうの気持ち、愛する気持ち。この3つの心があれば、平和は続く。この心で100年間、ネズミの国では楽しく平和に……みんな暮らしてきたんじゃ」


 ……そうだったのか。太陽をカミサマだなんて思った事はなかったが、よく考えりゃ太陽がなけりゃボクらは生きては行けねえもんな。


「なるほどな。だからお前たちネズミ族は、朝と夕方に、お日様に向かって手なんか合わせてるのか。……あ、おいプレアデスよ」


 そうだ。太陽と聞いて思い出した。
 地底世界の太陽、セントラルサン——。
 セントラルサンは何日経っても再び輝き出さず、地底世界ではずっと夜が続いていたんだ。


「どうしたの?    ゴマくん」

「ニャンバラは……今も夜は続いてんのか?    セントラルサンとやらは、もう光り始めてるのか?」


 プレアデスは、溜め息を一つ吐いて答える。


「そうなんだ……まだ夜が続いてるんだ。前も言った通り、普通は夜になってしばらく経てば、セントラルサンがまた輝き始めるはずなんだけど、もうそろそろ1ヶ月もの間、夜が続くことになる。ニャンバラでは、世界の終わりが来ただとか、騒がれてるみたいだよ」

「……ニャンバラの奴らの、普段の行いが悪いからなんじゃねえの?」

「そんなまさか」


 それを聞いていたネズミのじいちゃんは、いつになく厳しく真剣な顔をして言った。


「……わしらが住まうこの地球ほしはの、多くの意思ある者の心が狂うと、自然界も同じように狂い始めるんじゃ。地底の夜が明けないのは、戦いや奪い合いに溺れた地底の意思ある者と自然界が、共鳴して乱れてしまったからじゃろう……。神様は、戦いなど望んではおらん。己の利益ばかり求めて戦う事は、もうやめなければいけない……」


 おっと、また難しい話が始まっちまったか。カミサマとかなんとか、ボクは信じちゃいねえかんな。
 側で話を聞いていたベガのオッサンも、口を挟んできた。


「我々ニャンバリアンの神様ミラは、嫉妬と競争の神様なんだ。自分に無いものを羨み、他の誰かに認められるために競い、戦い、勝利する事が大事で、それが我々の成長につながる……と教わったんだ。しかしそれは、過ちだったのかもしれない」

「ボクには何の事だかさっぱり分かんねえな。とにかく、ジコチューはダメだって事なんだろ」

「はは、その方が分かりやすいな。さあ、出発準備ができたようだぞ」


 9匹のネズミたちと、ボクとルナとポコ、プレアデス、ベガのおっさんは、大きなコナラの木の住処を後にし、駅へと向かった。


「よし、さあ早く地下避難所へ向かおう!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...