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第58話〜ニャンバラ軍の復活〜
しおりを挟む『cat323:ライムはチキン野郎だろ。地上の資源狙うならニンゲンを相手にすればいいのに』
『NoRa1111:*Re:cat323*それなー、ネズミ族は無抵抗だからって、弱いものいじめじゃんね。クソだな』
『cat323:*Re:NoRa1111*噂だとネズミ族の世界、地上は地上だけどまた異次元の別世界という説もあるらしいぜ。本当にそんな所で暮らせるのかよ』
『buchibuchi2:ライムはまた軍隊を編成したってニュースでやってたよな。嫌な予感しかしないわー。税金の無駄遣いもいい加減にしろよなー』
「……おかしい。ライムはもう捕まったはずじゃあ……。見てよゴマくん」
ボクはミランダのいる〝ヒミツキチ〟に入ろうとすると、たまたまそこにいたプレアデスに呼び止められ、ニャイフォンの画面に出てる文字を見せられた。
「何だよプレアデス、こっちは急いでるのによ。その文字の羅列は一体何なんだ。細かすぎて読めねえよ」
「これね、ニャンバラのSNS掲示板だよ。どうやら脱走したライムさんが、ニャンバラの某地に現れていた異次元への入り口をくぐり、小さな精霊を連れ去った、なんて噂になってるみたい」
——悪い予感が、当たったようだ。
小さな精霊……。間違いねえ、ミランダだ。
ボクらが、ニャンバラから元の世界にスピカと一緒に帰ってきたあの時——。
⭐︎
「あ、ゲートが開きっぱなしになってるで。ええん?」
「ああ? んなもんほっとけ。それより早くガレージへ向かうぞ」
「ほんまにほっといてええん? 何か嫌な予感すんねんけど」
⭐︎
あんにゃろ、ミランダの間抜けめが……!
ミランダがワープゲートを閉じ忘れたから、きっと脱走したライムはニャンバラで開きっ放しになってた2つのワープゲートを見つけやがったんだ。1つはネズミたちの世界、1つはボクらの世界。
ボクらの世界でライムは来たという情報は聞かなかったから、ネズミたちの世界の方に行ったんだろう。出た場所がミランダの住処のあるヒミツキチだったとしたら、そこでミランダを連れ去った可能性が高い。
そしてライムは再びワープゲートをくぐってにニャンバラに帰ったのか、このネズミの世界にとどまってるのかは分からねえ。何にしても大変だ。
「あ、ゴマくん! プレアデス兄ちゃん! いまからヒミツキチ行くよ! ミランダちゃんに、どんぐりパン渡すんだ! ふふ」
チップがヒミツキチの中でこっちに向かって手を振ってる。
クソ、チップたちまで巻き込みたくねえんだが……
「チップ、急ぐぞ! ミランダのいた所へ!」
「え、どうしたの? そんなに慌てて」
ボクとプレアデスはチップたちと一緒に、ヒミツキチの奥の奥、ミランダの住処へ全力でダッシュした。
——暗くじめじめした、行き止まりの空間。どこを見渡しても、ミランダの姿はなかった。
ミランダは本当に、ライムの奴にさらわれちまったようだ。
「ミランダちゃーん!」
「いないね……」
「嫌な予感がする。もう少しニャイフォンで調べてみよう」
プレアデスは再びニャイフォンの画面を見つめる。ボクも覗いてみた。赤くデカイ文字だったからすぐ読む事が出来た。
『ニャンバラ速報:ライム率いるニャンバラ軍、最終戦に向け出発か』
「おい、やっぱりライムが……!」
「大変だ! ミランダが連れ去られていたとしたら、ワープゲートを使ってニャンバラの軍隊が、大量にここネズミさんたちの世界へ送り込まれて来るかも……」
「おいプレアデス、チップやナナたちに聞こえてるぞ! 少しは気を配ってやれ」
「あ、ごめん……」
しかし、チップたちには聞こえてしまっていたようだ。
「え、またあの怖いネコさんがやってくるの? やだよ、やだよ。もうあんなの」
「おかあさん……、うわああん……!」
「おい、チップ! ナナ! 待てよ!」
洞窟の外へと走って行くチップ、ナナ。
プレアデスは引き締まった表情で、ニャイフォンを再び取り出す。
「すぐに星光団のみんなに連絡しよう!」
「頼んだぜプレアデス。その後はネズミの父ちゃんたちにも知らせるぞ。すぐにまたあの地下避難所へ行ってもらうんだ!」
ボクらは先に帰って行ったチップとナナを追い、9匹のネズミたちの家へ向かった。
ライムはミランダをさらってニャンバラに帰り、大軍隊を編成して再びネズミの世界にやって来る——。
♢
ボクとプレアデスはネズミの家族と、ルナ、ポコに、ミランダがさらわれた事、ライム率いるニャンバラ軍が、再びネズミたちの世界を侵略してくるであろう事を伝えた。
「そうか、またあのニャンバリアンがやって来るかも知れないのか……。大丈夫、〝太陽の神様〟は、きっと守ってくださるはずじゃよ」
「星光団がすぐにChutopia2120の市長さんに知らせてくれたから、住民の避難は始まってるってさ! 僕たちも準備して行こう!」
「兄ちゃん、大変な事になったね!」
「やだよ、もう怖いの嫌だ……。僕帰りたい……」
ルナとポコを帰らせたいが、ワープゲートが使えねえから、ネズミたちと一緒に避難させる事にした。
すぐに避難の準備が始まる。ボクは1つ気になる事があった。さっきネズミのじいちゃんが言っていた、〝太陽の神様〟とやらについてだ。
避難準備がひと段落ついた時、ボクはじいちゃんに聞いてみた。
「じいちゃんよ、〝太陽の神様〟って何なんだよ」
「……この地球のすべての生命を生かす、唯一の目に見える神様こそが、太陽なんじゃ。その神様の教えは……素直な気持ち、ありがとうの気持ち、愛する気持ち。この3つの心があれば、平和は続く。この心で100年間、ネズミの国では楽しく平和に……みんな暮らしてきたんじゃ」
……そうだったのか。太陽をカミサマだなんて思った事はなかったが、よく考えりゃ太陽がなけりゃボクらは生きては行けねえもんな。
「なるほどな。だからお前たちネズミ族は、朝と夕方に、お日様に向かって手なんか合わせてるのか。……あ、おいプレアデスよ」
そうだ。太陽と聞いて思い出した。
地底世界の太陽、セントラルサン——。
セントラルサンは何日経っても再び輝き出さず、地底世界ではずっと夜が続いていたんだ。
「どうしたの? ゴマくん」
「ニャンバラは……今も夜は続いてんのか? セントラルサンとやらは、もう光り始めてるのか?」
プレアデスは、溜め息を一つ吐いて答える。
「そうなんだ……まだ夜が続いてるんだ。前も言った通り、普通は夜になってしばらく経てば、セントラルサンがまた輝き始めるはずなんだけど、もうそろそろ1ヶ月もの間、夜が続くことになる。ニャンバラでは、世界の終わりが来ただとか、騒がれてるみたいだよ」
「……ニャンバラの奴らの、普段の行いが悪いからなんじゃねえの?」
「そんなまさか」
それを聞いていたネズミのじいちゃんは、いつになく厳しく真剣な顔をして言った。
「……わしらが住まうこの地球はの、多くの意思ある者の心が狂うと、自然界も同じように狂い始めるんじゃ。地底の夜が明けないのは、戦いや奪い合いに溺れた地底の意思ある者と自然界が、共鳴して乱れてしまったからじゃろう……。神様は、戦いなど望んではおらん。己の利益ばかり求めて戦う事は、もうやめなければいけない……」
おっと、また難しい話が始まっちまったか。カミサマとかなんとか、ボクは信じちゃいねえかんな。
側で話を聞いていたベガのオッサンも、口を挟んできた。
「我々ニャンバリアンの神様ミラは、嫉妬と競争の神様なんだ。自分に無いものを羨み、他の誰かに認められるために競い、戦い、勝利する事が大事で、それが我々の成長につながる……と教わったんだ。しかしそれは、過ちだったのかもしれない」
「ボクには何の事だかさっぱり分かんねえな。とにかく、ジコチューはダメだって事なんだろ」
「はは、その方が分かりやすいな。さあ、出発準備ができたようだぞ」
9匹のネズミたちと、ボクとルナとポコ、プレアデス、ベガのおっさんは、大きなコナラの木の住処を後にし、駅へと向かった。
「よし、さあ早く地下避難所へ向かおう!」
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