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第55話〜不器用な恋心〜

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 久しぶりの、ボクらの住処での暮らしだ。
 なんだかんだ、やっぱりここが落ち着くぜ。
 だが、暇だ。暇。暇。暇でしょうがねえ。


「あーーーーっ! 退屈だ‼︎」

「兄ちゃんうるさい」

「だってよぅ、なーんもする事ねえんだぜ。またチップんとこ行っていいかなあ?    ミランダ呼んじゃうぜ?」


 そう言うと、案の定すぐにメルさんに止められる。


「あんた謹慎のこと忘れてるわね?    少しは反省して!    もう」

「ちぇーーっ! つまんねーの」


 ——平和っていいもんだが、あまりに退屈なのも辛いもんだ。
 ま、しばらくは大人しくしててやるか。


「あはは、ここはなんか平和でええわあ。ニンゲンに飼い慣らされるんも、悪くあらへんな」

「スピカ、お前生まれはニャンバラだからニンゲン見たことねえんだったな。アイミ姉ちゃん、優しいだろ?」

「うん。ニンゲンって、何かもっとえげつない怪物やと思てたわ。アイミ姉ちゃんっていうニンゲンに頭撫でられるの、ウチ好っきゃわあー」

「ここの家のじいちゃんと、アイミ姉ちゃんが、ボクらの面倒見てくれてんだ。いつも美味い飯を出してくれるんだよ」

「ああ、カリカリ言うんか?    美味しかったけど、あんな行儀悪い食べ方できひんわあ……」

「しゃあねえだろ、ネコってのは元々こういう生き物なんだからよ」


 ——ニャンバラに行った時やネズミの世界へ行った時に限って、何でボクらは二足歩行になって手先を器用に操れるようになるんだろうか? 未だに、それが不思議でしょうがなかった。
 世の中には、不思議な事もたくさんあるって事だ。ボクはそう自分で自分を納得させた。ま、楽しけりゃ何だっていい。


 ♢


「じゃあみんな、おやすみー」

「おやすみなさあい」

「おやすみなさーい」


 冷たい空気の中、みんなで段ボールに詰まって寝るのも、久しぶりだ。


「……なあゴマ。寝たん?」

「…… まだ起きてらあよ」


 やっぱりスピカの奴、寝れずに話しかけてきたか。慣れねえ環境だもんな、無理もねえ。


「なあ、せっかくやしそこら辺まで散歩せえへん?」

「……まあ、悪かないか。どうせ暇だし。でも、静かにしろよ。じゃあ、裏山にでも行くか」

「よっしゃ。イケメンとデートやっ」


 ボクとスピカは、虫が美味そうに鳴く夜の草叢を抜けて、近くの裏山へと向かった。


「この辺は、めったに来ないんだけどよ。暗いから気を付けろよ」

「ゴマ、歩くん速いって! やっぱ四足歩行、えらい歩きにくいわあ」


 裏山を登り、少し開けた見晴らしの良い場所に着いた。
 ボクはスピカに、上には星空、下には街明かりの広がる夜景を見せてやった。


「ほら、見ろよ。綺麗だろ」

「うわ、すごーい!    地上の夜景って、こんな綺麗なんやなあ!    あの明かりいてるとこ、全部ニンゲンが住んでるん?」

「ああそうだ。さ、帰るぞ」

「待ってえなー!    折角やし朝まで付きうてえなー!」

「朝までは勘弁してくれ。さすがに眠くなってきたぜ……」

「ええー!    もっとゴマと色んなとこ行きたいー!」

「……お前なあ。眠いっつってんだろ。置いて帰るぞ!」


 ボクは呆れながら少し強い口調でそう言うと、さっきまで笑っていたスピカが、いきなり泣きそうな顔をして聞いてきた。


「……なあゴマ、ウチのこと嫌い?」


 ……いきなり何を言い出すんだ。
 ボクは全く訳が分からなかった。


「ああ?    いきなり何言い出すんだよ。好きも嫌いもあるか。何でそんな事聞くんだ」

「うんん。なんもない。帰ろ。ごめんな」


 何だ何だ、めんどくせえ奴だな。何も無えんだったら、何でそんな悲しげな顔すんだよ。
 そう思ってスピカの顔を見ると、一瞬泣いているように見えた。次の瞬間、スピカは顔を隠すように体をボクの反対側に向けると、突然1匹で走り去って行っちまった。
 ボクは思わず叫ぶ。


「お、おい、帰り道はそっちじゃねえぞ! そこは崖だ! 危ねえから待て、スピカ……!」


 ガサッと不吉な音が聞こえ、土煙が上がる。
 あのバカ……!


「あ! 落ちる!    いやあー! 助けてえー‼︎」


 クソッタレ! 間に合え……‼︎


「……はあ、はあ……。このバカが……」

「はっ!    助かった!    あ、ゴマ……」


 ——間一髪、滑落を免れた。


「ゴマ……、そ、そんな後ろからギュってされたら……あう」


 あ……!    ボクってば、何て事を……。


「う……うるせえ! さっさと帰るぞ‼︎」


 バカヤロウが。
 何なんだよもう、コイツは、全く……!


 ♢


 ——帰り道。スピカの奴は一言も話さず、ボクの後ろを距離を取ったままついてきやがる。
 何考えてやがんだ。何であんな事聞きやがったんだ。ボクには全く分かんねえ。

 結局お互い一言も話さないまま、別々の段ボールに入って、眠りについてしまった。
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