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第53話〜それぞれの道へ〜

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「……ネズミの皆さん、よろしくお願いします」


 ネズミの父ちゃんたちに向けて、ベガのおっさんは深々と頭を下げた。
 ネズミ一行はベガのおっさんを連れて、このままネズミたちの世界へと帰るようだ。

 さあ、ボクらはどうしよう。
 ……やっぱ一旦、元の世界に帰るべきだな。


「じゃあボクも、メルさんたち心配してるから、元の世界へ帰るぜ」


 そう言うや否や、スピカの奴が隣にくっついてきやがった。


「そんならウチも、ゴマについてく!」

「お前顔が近いんだよ!    マジで言ってんのか?」

「だってゴマがどんな暮らししてるんか興味あるもん」

「何だよそれは……。あ、プレアデス、テメエはどうすんだ」


 プレアデスの奴は、話して気持ちが落ち着いたのか、安心した表情で答えた。


「僕も、ベガさんと一緒に、ネズミさんたちについてく事にするよ」

「そうか。まあとにかくまずはネズミんとこの美味い飯食って元気出せ。そのうちまた、ボクも行くからよ」


 それを聞いたチップは、ちょっと残念そうな顔をする。


「えー!    ゴマくん帰っちゃうの? また必ず遊びに来てよね!」

「ああ、また絶対行くぜ。あ、ムーンさんに、フォボスさん、ダイモスさんはどーすんだ?」


 ムーンさんも一度一緒に帰ったらどうだ? と言いてえところだったが、やはりまだやるべき事があるんだろう。ムーンさんの表情で何となく分かる。


「……ゴマ、ごめんなさい。Chutopia2120にある星光団の基地に戻り、ソールたちと合流しなければいけないので、私はネズミさんたちと一緒に行きます。捕らえたライムたちの処遇を決めなければなりませんから……」


 ——やはり、思った通りだ。
 まだまだ、〝戦い〟は、終わっちゃいねえんだ。


「……分かったぜ。でもムーンさん、たまには帰ってきてくれよ」

「ええ。全てが終わったら、そちらに行きます」


 フォボスさん、ダイモスさんも、ムーンさんたちについていくようだ。


「我々もムーンたちを手伝う事にする」

「ああ!    これから大忙しだぜ!」


 ボクも手伝いたいところだが、さすがにこれ以上メルさんを心配させるのもまずい。


「……またネズミの奴らが、平和に暮らせればいいな。ニャンバラの奴らは、これからどうすんだろな」

「ネズミ族の方々に交渉すれば、ニャンバラに資源を提供してもらえるかも知れません。とにかく、それも含めて私たちには仕事がたくさんあります。それに……」


 悲しげな顔をして俯く、ムーンさん。
 ボクはムーンさんに近づき、そっと尋ねた。


「……ライムのことか?」

「謝りたいのです。ライムに」 


 ——過去に何があったか、ボクは知る由も無えが。


「……また分かり合えるといいよな」


 ボクの言葉を聞くと、ムーンさんは無言で、視線を真っ黒な空に向けた。


 ♢


「ごめーん! 行き先間違えちゃった! てへっ⭐︎」


 呼び出した途端、ミランダはそう言って舌を出してウインクしやがった。
 ふざけんじゃねえ。


「てへっ⭐︎じゃねぇーよ! 今度はちゃんとボクらの住処に繋がってんだろうな? 全く知らねえ所へ飛んだりとかは勘弁だぞ」

「ワープゲートはしっかりメンテナンスしたから、もう大丈夫よ! じゃ、開くわね」


 ミランダが呪文を唱えると、公園の地面に白く光る門が現れた。
 ——本当に、大丈夫なんだろうな。


「ゴマくん、元気でね。またいつでも遊びに来てね」


 ネズミの父ちゃんたちは、出発準備が出来たみたいだ。


「じゃあベガさん、プレアデスくん。行きましょうか」

「はい、お世話になります」

「よろしくお願いします!」


 トム、チップ、ナナは、笑って手を振ってくれた。


「また一緒に、美味しいご飯作って食べようね!」

「バイバーイ!    ゴマくん、スピカ姉ちゃん、また遊ぼうね!」

「また来てね! 絶対だよー!」


 ボクとスピカも、手を振り返した。


「おう、元気でなー。また遊びに行くからな!」

「楽しかったわー! ほなねー!」


 続いて、ムーンさん、フォボスさん、ダイモスさんもネズミたちの後に続く。


「ゴマ、スピカさんも。今はゆっくりお休みなさい。全てが終わったら、そちらに戻ります」


 ムーンさんは少し微笑みながらそう言ってから、ゲートの中へと消えて行った。


「……ああ、上手くやってくれよ」


 さあ、最後はボクらだ。今度こそ帰るぞ、住処のガレージに!
 ミランダは、8の字を描いて飛びながら言った。


「またゲート開いて欲しい時には、あたしの事を心に思い浮かべて呼んでくれれば、いつでもゲート開くから」

「てことは、いつでもネズミの世界やニャンバラと、行き来出来るって事なんだよな?」

「そういう事! 行った事のある場所ならすぐにゲートを開けるわ」


 ほう、そりゃあいい。いつでも気軽にチップたちんところへ遊びに行けるって事なんだな。
 ——じゃあメルさんに気付かれずに出掛ける事も出来るって事だ。


「さあ、次はゴマたちの番よ。行き先は、地上世界の住処のガレージね!」


 もう1つ現れた白く輝くワープゲートの中に、懐かしい景色が見えた。青い空、大きな森、道路を走る車、道を行くニンゲンの姿……。
 ボクとスピカは思い切って、ゲートの中に飛び込んだ。
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