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第52話〜〝大馬鹿野郎〟との再会〜

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 階段、階段、階段……!
 くそ、間に合え——‼︎

 息を切らしながら、ボクは屋上に辿り着いた。ドアを体当たりで突き破り、今まさに飛び降りようとするキジトラのネコに向かって叫んだ。


「おい待て、てめええ‼︎    早まるなあああ‼︎」


 ——あれ、コ……コイツは‼︎


「お前! プレアデスじゃねえか!」


 ……って、聞こえてねえのか!
 ムーンさんの石ころの魔法を解かなきゃダメだ……!


「はあ、追いつきました! ミニストーン、解除‼︎」

「プレアデス‼︎    何してんだテメエバカ野郎‼︎」


 ————間に合った。


「……君は……、ゴ、ゴマくん⁉︎   ゴメン。色々ゴメン。ほんとにゴメンなさい……」


 プレアデスの馬鹿野郎が。
 ボクらを騙してスパイにして、勝手に行方不明になってボクらを振り回しやがって……!
 挙句、身を投げて死のうとしてたとか、ふざけてるにも程があるぜ……!


「プレアデス、死ななくていいから一発ブン殴らせろ」

「よ、よせ! ゴマくん‼︎」


 ダイモスさんが止めに入る。仕方なくボクは右腕を引っ込めた。


「あれ。何で星光団の仲間がここに……。あはは、もう大人しく捕まるよ。何もかも、終わりだ」


 プレアデスの奴はそう言って柵から足を外すと、床にへたり込んだ。顔を見ると、ほっぺはこけ、ヒゲもヘニョヘニョに曲がっている。所々毛も抜け、すっかりやつれ果ててしまっていた。


「……プレアデス。何があったか話してもらおうか」

「ゴマ、待って下さい。この子、かなり精神的にも身体的にも衰弱してしまってます。一度ゆっくり休める場所に行きましょう」 


 ムーンさんにそう言われ、ボクはプレアデスの奴をひと睨みしてから、真っ先に階段を降りた。

 スッキリしねえな。ボクらを騙しやがった恨みをネコパンチで晴らしてやりてえが、あまりにも惨めな姿で、さすがに可哀想に思えてきてしまう。


 ♢


 相変わらず真っ暗な公園のベンチに、ボクらは腰を下ろした。何だか、ドッと疲れちまった。


「プレアデスくん、もう大丈夫だ。ゆっくり休め」

「……ありがとう。あ、スピカさんもいるんだ……あぅ」


 プレアデスは安心したのか、そのままベンチに倒れ込んでしまう。


「ちょ、大丈夫か⁉︎    無理せんときよ?」

「うん……、ぜえ、はあ……」


 水を飲ませ、落ち着かせると、プレアデスは俯きながら話し始めた。


「……みんな、ごめんなさい。僕がニャンバラ軍のネコで、ネズミの街を偵察するためにゴマくんとルナくんをスパイにしたというのは、本当なんです」


 ブン殴りたいのを我慢して、ボクは何も言わずにプレアデスの話を聞いていた。


「ニャンバラ軍は星光団に敗れ、ライムさんも捕まり、ネズミの世界の侵略は失敗に終わった。それを知らされたのは上級国民だけだけどね」

「上級国民?」

「ニャンバラの庶民は、まだネズミ族の理想郷に行けると信じている。今、ニャンバラ軍の敗退を知らされたら、大混乱に陥るだろう」

「そういう事だったのか……。それで星光団とネズミ族の方々がここに……」


 ベガのオッサンはそう言って俯いた。オッサンも、ニャンバラ軍が敗けた事を知らなかったようだ。
 プレアデスは体を震わせながら起き上がると、ベガのオッサンに頭を下げた。


「ベガさん、このことは他のみんなにはまだ内緒にしてて下さい。お願いします」

「ああ、分かった……」


 ネズミたちは、何か言いたそうにしてる。どうせまた「僕たちの世界に来なよ。一緒に生活しよう」とか言い出すんだろう。
 それを遮るように、ボクはプレアデスに質問を投げかける。


「で、お前は何で飛び降り自殺なんかしようと思ったん」

「ゴマ! あまり問い詰めないであげて下さい」

「ああ……、ムーンさん、悪りい」


 ……やはり、聞いちゃマズかったか。


「いいんですよ、ちゃんと説明します……。ニャンバラは敗戦、軍もクビになったし、就職して真面目に働き始めたんです。でも研修はきついし、定時に帰れずそれもサービス残業、罵声が飛び交う現場、30連勤……。しかも無職は、法律上許されない。おまけに物価も上がった。お金が無くて生活もままならない。何匹ものニャンバリアンが、そんな厳しい生活に耐えかねて、列車に飛び込んだり、ビルから飛び降りたりしてるんだ。……そして、僕も……うう……」


 俯いて涙を流すプレアデスに、スピカが声をかけた。


「元々労働環境はきつかったけど、ますますおかしい事になってるやん……。まあ、あんたが死なんで良かった。あ、ウチもニャンバラ軍クビなって、今は星光団と一緒にライムを撃退したんやで。安心してな」

「スピカさん、そうだったんですね……。……もう何もかも忘れて旅にでも出掛けたい。けど、お金が無いと何もできないし、無職だと警察にマークされるし……。今の手持ちは15000ミャオン。今月だけで使い果たしちゃう」


 ——ニャンバラは、働いてオカネとやらを貰わなきゃ生活していけねえ世界なんだという。
 なんて、クソ不便な社会なんだ。


「分かった。テメエあまりに可哀想だから、ぶん殴るのは保留にしといてやる。今はとにかくしっかり休んどけ」

「ゴマくん、ほんとにごめんなさい……」


 何にせよ、ニャンバラがクソみてえな世界だということは、もうはっきり分かった。ニャンバラを仕切る奴がクソなら、社会の仕組みもクソ。分かりやすいぜ。
 で、仕切る奴……ライムが捕まっちまったこれから、ニャンバラはどうなっちまうんだろうか。
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