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第49話〜地獄の街、再び——⁉︎〜
しおりを挟む星光団はニャンバラ軍に勝利し、ネズミたちの世界をニャンバラの支配から守る事が出来たんだ。
その後、一度ボクとムーンさんは一緒に元の世界に戻り、住処のアイミ姉ちゃん家のガレージに帰る事になったんだが……。
何とチップが、ボクらの世界について来たいというんだ。
そして、それを聞いたネズミの父ちゃんも……。
「いいね! その話、乗ったよ! 行きたい子呼んで、一緒に行こう!」
「わーい! じゃあ、みんなに言ってくるね!」
何と、父ちゃんもノリノリだった。
ボクはムーンさんに尋ねてみる。
「……ムーンさん。いいのか?」
「ええ、折角の機会ですから。案内してさしあげましょう」
え、いいのかよ⁉︎
さらに、いつの間にか近くに来てきたスピカの奴まで。
「なあ、ウチも行ってええか?」
あーあ、うるせえ奴が増えちまう。帰ってゆっくり息抜きしたいってのに。
「ったく、しゃあねえな。狭っ苦しいとこだが、文句言うなよ」
「おっしゃ! 楽しみやなあ」
何だか、帰ってからもまた騒がしくなりそうな予感がする。
そうこうしているうちに、チップがトムとナナを連れて戻ってきた。
「お。トムにチップ、ナッちゃんが一緒に来るんだね。ふふ、楽しみだね。もしかしたら、マサシくんにもまた会えるかもね! あー、ワクワクしてきたー!」
……ネズミの父ちゃんが、1番楽しそうじゃねえか。
「俺たちを置いてかないでくれよ!」
「ダイモス、お前の支度が遅いからだろう……」
フォボスさんにダイモスさんも来て、ボクらの世界に帰る組は、全員揃ったようだ。
「さあ、行きましょう。皆さん、ワープゲートの中へ」
「行き先は、ゴマくんの住処ね! じゃあみんな、光の中に入って!」
ネコ5匹——ボク、ムーンさん、スピカ、フォボスさん、ダイモスさん。
ネズミ4匹——ネズミの父ちゃん、トム、チップ、ナナ。
ミランダの合図で、みんな一緒に虹色の光の中へと入る。光が大きくなり、ボクらを包んだ。
心配なのは、ボクらの世界に来た時、一緒に来たネズミはどうなっちまうか、だ。
ボクらは来ていた服が消えて四足歩行になっちまう。ネズミたちにはどんな事が起きるか分からねえ。それこそただのネズミになっちまって、言葉も通じなくなって、ボクらネコは本能で食っちまうかもしれねえ——。
「わあ、すごーい!」
「どんなところなんだろう、ゴマくんたちの住んでるところって」
白い光に包まれ、大きなコナラの木の家が見える秋の森の風景は、溶けて消えていった。
♢
光が薄くなり、だんだん周りが見えるようになってきた。
——さあ、どうなる⁉︎
「……さ、行こうぜ。まずはメルさんたちに報告しなきゃな、ニャンバラのアホどもを撃退した事を……ん⁉︎」
ボクは目を疑った。
見渡すと、ボクらの住む世界とは全く違う風景が広がっていたからだ。
「……あれ? 何だここは?」
真っ黒い夜空、煙たい空気。
ボロボロになった建物、そこら中に積まれた瓦礫の山。
——明らかにここは、ボクらの世界ではない。
「え? ここどこ?」
「星1つない夜空だ。どこなの、ここは?」
ボクらは変わらず、服を着て二足歩行のままだった。
ネズミたちも——何も変わらず、そのままの姿だ。
周りをぐるりと見渡す。この不気味なくらいの真っ黒い夜空。破壊された建物、瓦礫の山。間違いねえ、ここは……。
「ここは、……地底都市ニャンバラだ。ミランダの奴、行き先を間違えやがったな……」
「ああニャンバラやー! 懐かしいわ……でもこんな変わり果てた街になってもうたんやな……」
ニャンバラ出身のスピカは、あちこち見回しながら言う。
地底都市ニャンバラ……。
ネズミの国侵略作戦は失敗に終わり、恐らく他国——ニャルザルだったか——に攻められて資源も奪われ、この都市ももうボロボロの状態なのだろう。街は前に見た時よりも酷く破壊され、ところどころ煙が上がっている。
「おい、早くもう一度ミランダ呼ぶぞ。ったく、まさかまたこの地獄に来るとは思わなかったぜ」
フォボスさんとダイモスさんは、物珍しそうに街を見渡している。
「ここがあのライムが治めていた、地底都市ニャンバラか。俺とダイモスは、来るのは初めてだ。ゴマくんは、ルナくんと一緒に迷い込んだんだったな」
「フォボスさん、思い出させないでくれ……。ここには嫌な思い出しかねえんだからよ」
しばしの沈黙の後。
またしてもチップの奴が——。
「待って! ねえ、僕ちょっと、ニャンバラってとこを探検してみたい!」
「チップ、さすがにそれは危ないかも……」
さすがのネズミの父ちゃんも、チップを止めた。
ボクは内心ホッとした。ここで父ちゃんまでノリノリだったらどうしようかと思ったぜ。
「だって、ライムさんはもう捕まったんでしょ?」
「おいチップ、冒険してえ気持ちは分かるが、身の安全の方が大事だぜ」
ボクもそう言って、今にも駆け出そうとするチップを止めた。今回の戦いで、分かったんだ。冒険ってのは楽しいが、危ない目に遭ってまでやる事じゃねえ。
だが、ずっと黙って見ていたムーンさんは、意外な一言を放つ。
「……わかりました。少しだけですよ。ただ、私たちの元を離れないでくださいね」
「な、いいのか⁉︎ ムーンさん!」
許しがもらえたチップは、大声ではしゃぎ始める。
「え、いいの⁉︎ やったあー!」
「ニャンバラがどういう場所か見学してもらうのも、悪くないでしょう」
ムーンさんは前から変わらず、どこか甘いところがある。
ま、ボクにスピカ、フォボスさんにダイモスさんもいるから、きっと大丈夫だろう。
「俺たちが星光団の仲間だって分かったら、ニャンバラの警察どもも手が出せないさ。な、フォボス?」
「ダイモス、それはそうだが無茶は禁物だ。チップ、本当に少し探検したらすぐ帰るぞ」
「うん! ありがとうフォボス兄ちゃん、ダイモス兄ちゃん! 気をつけるね!」
ボク、ムーンさん、スピカ、フォボスさん、ダイモスさん、そしてネズミの父ちゃん、トム、チップ、ナナの9匹で、暗闇に沈む地底の街へと向かった。
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