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第48話〜「また、再建しましょう!」〜

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 地下避難施設の扉を開け、ボクらは広場に向かう。そこではChutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろのネズミの市長をはじめ、住民たちがボクらの帰りを待っていた。


「……おお、おお! 星光団……! 無事でしたか……!」


 ボクらに気付いた市長が、ボクらを迎え入れる。
 転身を解いたソールさん、ムーンさん、マーズさん、マーキュリーさん、ヴィーナスさん、ボク、スピカ。そしてフォボスさん、ダイモスさんの順に広場に入場し、住民のみんなに手を振りつつ整列する。
 ソールさんは住民たちの前に立つと、キリッとした表情で口を開いた。


「ニャンバラ軍の総指揮官、ライムを捕らえました。残党も全て捕縛し、基地に連行しました。もう、この街を襲われる事はありません!」


 言い終わると同時に、住民から大きな歓声が上がった。


「ばんざーい! 星光団、ばんざーい!」


 喜びの声が溢れる中、聞き覚えのある声が耳に入る。


「ゴマくん! みんな! おかえりー‼︎」


 チップだ。9匹の家族も、全員無事だ。
 ボクは列を飛び出し、9匹の元へと向かった。


「チップ! 勝ったんだぜ、ボクら‼︎」

「すごいよ、ゴマくん! これでまたみんなで遊べるんだね!」


 ボクは、嬉しそうに駆け寄ってきたチップと、ハイタッチした。


「ばんざーい! 星光団、ばんざーい‼︎」

「ありがとう、正義のネコさんたち‼︎」


 ――地下避難施設に、住民たちの喜びの声が響き続けた。


 ♢


 星光団は、市長さんと共に住民たちの先頭に立って、地下避難施設から地上に出た。
 無残に灰になった街が、目の前に広がる。それを見る住民たちを前に、ボクは何とも言えない無力感に襲われた。

 ネズミたちの街は、守れなかったんだ……。

 が、しかし。


「……また、再建しましょう」


 Chutopia2120の市長さんのその一言が、ネズミたちの大きな希望となる——。
 拍手と歓声が、煙の上がる街の中に響き渡った。ネズミたちの表情はみんな、希望の光に満ちていたんだ——!


「さあさ、僕らも家に帰ろう!」


 チップたちの父ちゃんが、爽やかな笑顔でそう言った。
 だが街はボロボロだし、もちろんあの卵形の乗り物も、全自動タクシーも走ってはいない。
 そこで、アイツの出番だ。


「おいミランダ」


 呼ぶと、キラリと空間が光り、黄金色の光を散らしながらミランダが姿を現した。


「はぁーい。今から休もうと思ってたんだけど。まぁいいわ、何かご用?」

「お前の〝ワープゲート〟で、チップたちの家まで行けねえか?」

「なるほど、今は交通手段がないもんね。オッケー! 任せて!」


 ミランダが呪文を唱えると、虹色に輝くワープゲートが、地面に現れた。
 市長さん、そして住民のネズミたちと別れると、ボクらは9匹のネズミの家族に星光団の5匹、スピカ、フォボスさん、ダイモスさんと一緒に、9匹のネズミたちの大きな木の家へと、ワープした。


「ただいまー! ああ良かった、この辺りはいつもと変わらないよ!」

「じゃあ、掃除をしてから、お赤飯炊きましょう」

「やったー!」


 幸いチップたちの家は、無事だった。郊外は、被害は全く無かったらしい。
 ミランダは「用事があったらいつでも心の中であたしを呼んでね」と言って、またヒミツキチの奥の住処に帰ってしまった。ま、アイツも大活躍だったんだ。ゆっくり休んでくれよな。


 ♢


「これが、祝い事がある時に食べるお赤飯ですよ。ソールくんたちも、是非どうぞ」

「いいんですか、ご馳走になっても」

「お、美味しそう……!」


 ソールさんたちみんな、テーブルの上に並べられた赤飯と、盛り沢山の料理を前に、目を丸くしている。


「私たちの街を守ってくれたんだもの。お礼してもしきれないくらいよ」

「でも、占領は防ぐことは出来たけれど、数多くの建物が壊されちゃった……。ネズミさんたちの思い出の詰まった街が……ほんとに力になれなくてごめんなさい……」


 マーキュリーさんは、そう言ってうつむいた。いつもマイナス思考発言でヴィーナスさんに怒られてるマーキュリーさん。
 今回もヴィーナスさんに怒られるんだろうと思いきや——何とチップの妹のナナが、マーキュリーさんの横に来て、マーキュリーさんの手をグッと握って励ました。


「何言ってるの、星光団のお兄ちゃんお姉ちゃんたち! これからまた力合わせて、街を作り直せばいいじゃない!」

「……そうね。ごめんね」

「ナッちゃん、その通りだよね。えらい!」


 チップが、ナナの頭を撫でている。
 あの泣き虫だったナナが。涙一つ見せずに、マーキュリーさんを励ましてやがる。
 ——ナナ、お前も強くなったんだな。


 ♢


「いただきまーす!」


 今度はネズミ9匹と、ネコ9匹。テーブルの周りはぎゅうぎゅう詰めだ。


「もぐもぐむしゃむしゃ……美味い! 美味いぜ、ほらソールも早く食えよ」

「やめなさいマーズ! 行儀悪いわよ、ほんっっとにもう!」

「マーズ、ヴィーナス、お、落ち着くんだ!」


 もめるマーズさん、ヴィーナスさん、ソールさんの様子を見たマーキュリーさんは不安そうに、スピカに話しかける。


「はあー……、星光団は、普段はいつもこんな感じなの……。スピカちゃん、ついてこれる?」

「あはは、ええやん! あんたらとおるとなんか楽しいわあ! ウチも久々に、腹から笑うた気がするで!」


 フォボスさんとダイモスさんも、戦いから解放されて楽しそうに、ネズミどもの超美味いメシを味わっている。


「そうだ、個性があるっていい事なんだぜ! ハハハ!」

「……ダイモス、頰にご飯粒がついてるぞ」


 みんな楽しそうにしている中、ムーンさんだけがさっきから何も話さず、全く箸も進んではいない。多分、ライムの事で色々、思うところがあるんだろう。それはボクも同じだ。頭の中がグルグルして、なかなか食おうって気にならねえ。
 ——ライムの奴、これからどうなるんだろうな。


「ほっほ、星光団というのかいの? 賑やかなネコさんたちじゃのう」

「ね! 色々お話聞きたいね!」

「ほらゴマくん、ムーンお姉ちゃんも! 早く食べないと冷めちゃうよ」


 チップたちはそんなボクらの事情も知らず、無邪気に話しかけてくる。


「……はい、すみません。頂きます」

「……ああ。いただくぜ」


 目の前でネコとネズミが仲良く騒いでいる様子を見て、いつかはニャンバラの奴らとも分かり合える日が来るんじゃねえかと、ボクは思った。

 ようやくボクは箸を動かし、メシを口に運んだ。……やっぱり、ネズミたちの料理、美味え。いっぺんに腹が減った感じがしたボクは、次々と料理を皿に盛り、がっついた。
 またメルさんたちも連れてきて、みんなで食いてえぜ。

 ……あ! いけね!
 メルさんに黙って出て来ちまった事を、思い出してしまった。
 やべえ、今度は謹慎どころじゃ済まねえぞ……。


「ム、ムーンさん!」

「どうしたのです? ゴマ」

「ちょっと頼みがあるだが……帰ったらメルさんに、ボクがまた出て行った事情を説明してくれねえか……?」

「勿論ですよ、ゴマ。……メルはしっかり者だけれど、心配性な所は私に似たのでしょうね。……そうですね、食べ終わったらまたミランダさんに頼んで、ゴマと私は一度、住処に帰りましょう」


 ボクはホッとして、胸を撫で下ろした。
 これで、安心して帰れる。


「てことで、ボクらは帰るぜ。また遊ぼうな、チップ、ナナ」

「えっ、もう帰っちゃうの?」

「そんな、この後遊ぼうよ!」

「大丈夫だ、また来るからよ。それに、ふぁーあ、戦い疲れて眠たくて死にそうだからよ。体力回復したら遊ぼうぜ!」


 ちょっと残念そうにするナナに、チップが「すぐまた遊べるよ」と言いながら、頭を撫でてやっている。


「トム、モモ、ミライ。お前らも元気でな」

「本当にありがとうね、ゴマくん。またいっぱいご馳走食べに行こうね!」

「また会う時、クッキー焼くわね」

「またあそんでね、ゴマおにいちゃん。ばいばい」


 食いしん坊トム。料理好きのモモ。ませたちびっ子ミライ。お前らとも、これからもっと仲良くしたいぜ。
 5匹のネズミのきょうだいの目は、キラキラと輝いていた。何があっても、コイツらは大丈夫だ。
 このままずっと、平和なネズミの世界であってくれ——!


「お前らに会えて楽しかったぜ。またな!」


 ♢


 昼メシを片付けて庭に出ると、ミランダがいて、すでに虹色のワープゲートが開いていた。


「準備完了。行き先はゴマくんたちの住処ね。いつでも大丈夫よ」

「ミランダさん、ありがとうございます、ソール、ライムの事、頼みますよ」

「ああ、任せといてくれ」


 ソールさんたちは、別に仕事があるって事で、一旦ここでお別れだ。


「マーズ、マーキュリー、ヴィーナスは、Chutopia2120の再建を手伝うんだな?」


 ソールさんが3匹に確認する。


「おう! 頑張ろうぜ!」

「そんな大仕事、私なんかに出来るかなあ……」

「仕方ないわね、手伝ってあげなくもないんだから!」


 ——星光団の戦いは、まだまだ続くって事だ。
 この調子だと、ムーンさんもまたすぐにネズミどもの街に戻って、街の復興の手伝いに行っちまいそうだ。
 ひと仕事終えたんだし、少しはゆっくりしてもいいと思うんだがな。


「短かったけど、世話になったな」

「ありがとうございました、本当に」


 ボクとムーンさんは9匹のネズミの家族に礼を言うと、ワープゲートに足を踏み入れた。

 ——ところが!


「待って! ……ねえお父さん、お母さん! ぼく、ゴマくんたちの住む世界に行ってみたい!」


 チップの声が聞こえた。
 思わずボクは足を止める。

 ——え、おい、マジかよ。
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