40 / 143
第38話〜芽生える〝想い〟〜
しおりを挟む——翌日。
Chutopia2120という名のネズミの街に発令されていた避難勧告は解除され、施設や交通機関も復旧したらしい。
「もう、安心なんだね」
「じゃあさっそく、遊びに行こうよ!」
「うん! やったあー!」
チップとナナが、嬉しそうに遊びに行く支度を始める。
「ねえ、スピカ姉ちゃんも行こうよ」
「んー、そこのイケメンも行くなら! うふふ」
「ゴマだっつってんだろ。しゃあねえなあ、行くか」
ネズミのガキども、ボクとルナ、ポコ、そしてスピカ。
カラッと晴れた空の下、みんなで野原を目指して走った。
「よおし、レッツゴーだよ!」
「行ってらっしゃーい!」
綿のような雲がゆったりと流れる、青い青い空。秋の風が、ボクらの横を駆け抜けていく。
「スピカお前、腕をつかむな! こら、離れろ!」
「ええやんー! こんなイケメン男子、ウチほっとかれへんわ」
何なんだコイツは……。
スピカの奴は家を出るなりずっと、ボクにピッタリとくっついて来やがる。
「君たち仲良しなんだね。ウププ」
「うぷぷー。結婚したら?」
「ルナ! ポコ! 冷やかすんじゃねえ‼︎ 馴れ馴れしいんだよこの女! ……それよりポコ、ユキは置いて来ていいのか?」
「ネズミさんたちいるから大丈夫でしょ。僕だってたまにはパーっと遊びたいもん」
「じゃあ後で洞窟探検な」
「……怖いのは嫌だよ」
「ポコ、お前もそろそろヘタレを治せよな」
「うるさい。ゴマこそスピカと上手くやれよ」
「だから、そういう関係じゃねえって!」
ユキは妊娠中って事で、ネズミたちの家でゆっくりさせてもらっている。
あの気の強えユキが、怖がりでヘタレのポコなんざと付き合った理由は、きっと危なっかしくてほっとけないからなんだろう。そんなユキにポコの奴はもうデレデレのありさまだ。そんな奴に冷やかされるなんて、ほんとダリィぜ。何かもう、男女関係って面倒くせえ。
ボクは腕に何度もしがみ付いてくるスピカを振り払いながら、チップたちを追いかけた。
♢
「みんなー! ネコさんのお友達連れてきたよ!」
チップが、いつも遊び場にしている洞穴〝ヒミツキチ〟に向かってそう叫ぶと、中からネズミのガキが7匹出てきた。
「あー! 僕が前に見たネコさんだ! ね、喋るネコさん本当にいたでしょ⁉︎」
「すごーい! アルが言ってたことは本当だったんだね!」
そういえばチップたちの家族に話しかける前に、ボクとルナが、ネズミの奴らに見つかってたって話をチップから聞いたっけ。本当、一体いつ見られてたんだろう——。
ボクはふと思い出し、ヒミツキチのすぐ外の草地を指差した。
「おい、ちょっと前にあそこに落とし穴掘ったのはお前らか?」
そうだ。飲まず食わずで途方にくれていた時、ルナと一緒に、あそこにあった落とし穴からヒミツキチの中に転げ落ちたんだ。そこで、風の精霊ミランダと出会ったんだった。
「はあーい僕だよ! あ、もしかして引っ掛かったの、君たちだったの? うぷぷー!」
いかにも悪戯好きそうなネズミのガキが、笑いながら言った。
「うぷぷーじゃねえよ! 待てコラ! 食ってやろうか!」
「わー! 逃げろー!」
「ほらほら、早くかくれんぼ始めるよ!」
チップたちも入れて9匹のネズミのガキと、ボクら4匹のネコが一緒になって遊ぶ。
野原、丘、小川、ヒミツキチ。久しぶりに思いっきり、走り回れるんだ。
「じゃんけん……」
「ぽんー!」
……おい、じゃんけんってどうやるんだ。
「あ! ぼくが鬼だ! いーち、にーい、さーん……」
よく分からねえままルナが鬼になったらしく、みんな隠れ始めた。ボクもどこかに隠れなきゃいけねえ。岩陰、草むら、あるいは穴を掘ったり、……はあ、どう隠れてやろうか。ルナの奴は意外と鋭いから、油断できねえ。
「ゴマ! あっち行こ!」
必死で考えてると、スピカが声をかけてきた。
「お、おう! こら待てスピカ!」
勝手にどこかへ行こうとするスピカを、ボクはひたすら追いかけた。山道に入り、真っ赤な落ち葉に埋もれた坂道をどんどん先に行くスピカ。
「おい、あんまり遠くまで行くなよ、はあ、はあ」
「こっちやこっち! 見てみー!」
はあ、やっと追いついた。
そこは、山の上の見晴らしのいい場所だった。
……いい景色じゃねえか。遠い遠い、地平線まで見える。どこまでも高く青い空の下には、紅葉で赤く燃える森。その向こうには、ネズミたちの街が見える。高い建物が、太陽の光を受けてキラキラ光っている。
「……こんないい景色が見える所があったんだな」
「綺麗やんなあ。……昨日色々話して思ってん。ウチはもう、この綺麗で素敵な世界を壊したくない」
ボクらはただただ、その光り輝く景色を見ていた。
「……スピカ、お前これからどうするんだ」
「あんたらと一緒にいる。ライムさんには悪いけど、アイツらには好き勝手させへん。ニャンバラの資源が無くなったんは、ウチらニャンバリアンの責任や。それを棚に上げて、全く関係ないネズミさんたちんとこを占領するなんて、絶対おかしいやん?」
「そりゃそうだろ……」
「ウチら、あんだけネズミさんたちを恐がらせてしもたのに、あのネズミさんの家族は、こんなウチに優しくしてくれて……」
「……もしまた奴らが来やがったら、ボクも一緒に戦ってやるから。大丈夫だ。あんま気にすんな」
「おおきに、ゴマ」
——不意に柔らかい感触に包まれる。
……おい、コラ! 何抱き着いてんだよ‼︎
ボクは思わず、スピカの両腕を振り払った。
「待て待て‼︎ 何だよ、びっくりするじゃねえか」
「ごめんて。カッコ良かったさかい、思わずギューってしてしもたわ! あはは。ゴマはやっぱイケメンやわー」
顔が熱くなっているのを感じた。慣れない感覚。ボクはそれを誤魔化しながら、必死に顔を拭った。
全く、ほんと何なんだよコイツは……。
「はあ、はあ。見つけたあ……。どこまで行ってたんだよもう」
「うわルナ! 何てタイミングで……!」
抱きつかれてるところ、見られなくて良かったぜ……。
ルナの後ろには、ポコにチップたちもついて来ていた。全員見つかって、ボクらを探しに来たんだろう。
「あはは、ルナくん、スピカちゃんたちをずっと探してたよ!」
「えー? ずっと見つからへんかったんやからウチらの勝ちやん?」
「ずるいよー。罰としてスピカ姉ちゃんずっと鬼にしようよ」
「そら堪忍やわ……」
ルナ、もっと言ってやれ。まったく。
「あはは……! さ、帰ってお昼ご飯食べようよ」
「さんせーい!」
♢
昼からも、ネズミのガキどもと遊びまくり、ボクらは泥だらけになって帰って来た。スピカの奴もすっかりネズミどもと仲良くなったようだ。
風呂から出てスッキリしたボクは、1階の広間に寝っ転がりながら存分にくつろがせてもらった。
「お風呂、次はお姉ちゃんたちだよー!」
「はあい。スピカちゃんも一緒に入る?」
「そうするわー。あ! ゴマ、覗いたらあかんで」
「誰が覗くかよ全く。そーいうの、面倒くせえぞ」
ネコの女性陣はみんな風呂に行ったので、その間にボクは、ルナ、ポコと一緒にネズミたちの晩飯作りを手伝わせてもらった。
「ふふ、賑やかになったわね」
「ネズミの母ちゃん、悪りぃな。メシの調達、大変だろ?」
「いいのいいの。たくさん手伝ってもらってるし。賑やかな方が楽しいじゃない。そういえば、ユキちゃんのお腹、少し大きくなってたわ」
「そうか。ほんと、無事生まれりゃいいな……」
——ユキ、無理するなよ。
再びニャンバラ軍が来た時は多分、ユキは動けないだろう。ボクらで、守ってやらなきゃ。
「うっまーー‼︎ おかわり!」
「スピカ、お前ボクの2倍くらい食ってねえか?」
「ふふ、たくさん食べてね。まだまだあるから」
……もうずっと、ここに住みてえなあ。でも、アイミ姉ちゃんとこにも帰りたい。何とかして、自由に行き来できたりしねえのだろうか。
9匹のネズミたちと、ボクら家族、そしてスピカ。いつ来るか分からないニャンバラ軍の襲来に備えながらも、ボクらは数日の間、楽しく暮らしてたんだ。
——そして、ある日の事だ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる