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第36話〜〝安らぎ〟の場所〜
しおりを挟む「皆さん、街にいたんですか⁉︎ 大丈夫でしたか?」
所々煙が上がる街中を走るタクシー。乗務員のネズミが尋ねてきた。
「うん、でもまたニャンバラ軍がいつ襲ってくるかわからないのよね。出入り口のトンネル、持って行かれちゃったもんね」
「……そうですか。少しずつ避難先にいたネズミは街に戻って来ていますが、今までこんな事はありませんでしたから、住民たちに不安が広がっています。あの住宅地も、めちゃくちゃにされてますね……。お気の毒に……」
乗務員が指差した先を見ると、崩れ落ちた建物の前で、座り込んで泣いている数匹のネズミがいる。それを見たスピカが一瞬、悲しげな顔をしたような気がした。
——スピカはボクらを襲った敵だ。それも、元敵軍の精鋭。本当に連れて来て大丈夫なのだろうか。ムーンさんの判断だから、間違いは無いと思うが……。
♢
駅でタクシーを降り、昼間なのに何処も閉まっている商店街を通り、ボクらはようやくチップたちの家に帰って来た。
どうやら、ここは無事なようだ。良かった。
ボクは玄関のドアをノックした。
「あ! ゴマくん! おかえり! 大丈夫だったかい?」
「皆さん! 無事だったんですね。さあさ、早く中へ」
玄関のドアが開くと、チップとネズミの父ちゃんが出迎えてくれた。中に入ると、ユキとポコが駆けつけてくる。
「メル姉ちゃん、みんな! 無事だったのね!」
「あわわ、帰ってきてくれて良かったよぉ……。僕、ずっと不安だったんだよ? 誰かが死んじゃったらどうしようって……」
ネズミの家族もみんな、無事だった。やはりニャンバラの奴らは、ここまでは攻めては来なかったようだ。
「心配かけてすまねえ。まあ、危機はムーンさんたちが食い止めてくれたぜ。それと……。おい、スピカ。早く中に入って挨拶しやがれ!」
「……は、はじめまして、で、ええんか……?」
後ろで、遠慮がちにスピカが挨拶する。
「皆さん、この方にも、皆さんとの生活を体験させてあげて欲しいのです」
ムーンさんはそう言ってボクらの前に出て、頭を下げた。
「あらあら、新しいお友達? うちは大歓迎よ」
ネズミの母ちゃんは少しも警戒せずに言う。
……大丈夫なのか? 仮にも敵だったんだぞ、コイツ。
「わあい、またネコさんのお友達だー!」
「またお友達増えてうれしいなっ!」
「……なんなんやこの子ら。めっちゃフレンドリーやん?」
そんな事も知らず、チップたちネズミのきょうだいは、嬉しそうにはしゃぎ出す。敵意ってやつを知らねえ純粋無垢なガキどもの様子に、スピカはめちゃくちゃ戸惑っている。
「ねえね、名前なんていうのー?」
「スピカやで。なんやようわからんけど、ウチ、ここであんたらと暮らすんか?」
「スピカ姉ちゃん! よろしくね!」
「いっぱい遊ぼうねっ!」
「スピカ姉ちゃんって、なんやそれ。アハハ」
スピカの奴は、案外すんなりネズミのガキどもと打ち解けやがった。安心したのか、笑い声すら上げてやがる。
ボクも初めてネズミの奴らと触れ合った時、言葉にできない安心感があったんだ。スピカもきっと、その時のボクと似たような気持ちなんだろう。
「さ、とりあえずお茶にしよう」
「さんせーい! さ、スピカちゃんも皆さんも、ゆっくりなさって下さいね」
♢
「そうだったのね……。でもあなた、いい目をしてる。もう、大丈夫よ。スピカちゃん、あなたも大事な家族よ。私はマリナ。よろしくね」
ネズミの母ちゃんはスピカをじっと見つめながら、そう言った。スピカは少し間を置き、口を開く。
「……ウチらがあんたらの街をボロボロにしてもうたのに……。ほんま、おおきに。あんたら信用できそうやしな、ウチの話、聞いてほしいねん」
「いいわよ、聞かせて」
「あんな、先に言うとくけど、こんな話をしたことニャンバラ軍の奴らに知れたらウチ何されるか分からへんから、今から言う事絶対秘密な?」
スピカの奴も、きっと今まで色々あったんだろう。ムーンさんの狙いは、スピカを〝救って〟やる事なのかもしれない。
「分かった、約束しよう。みんなもいいね?」
ネズミの父ちゃんがそう言うと、チップたちは首を縦に振った。
「もちろん!」
「僕らだけの、秘密ね! 約束!」
スピカはひと呼吸して、話し始めた。
「おおきに。ウチ、地底世界のニャガルタいうとこで生まれて、そこに住んでてんけど、そこで仕事が無うなって住むとこもあらへんくなったんよ。で、これから戦争が激しなる言うさかい、軍隊入らへんかって言われてんやんか。そこが、首都のニャンバラのボス、ライムさんのとこの軍隊やった」
「おいスピカ! ライムの奴はニャンバラで一体何してやがったんだよ」
ボクは口を挟んだ。メルさんが「先にちゃんと話を聞いてあげなさい」とでも言いたげな目でボクを見ている。
「ライムさんは、首都ニャンバラを築いて軍隊を作ってからは、ただひたすら、他の国に権威を示そうとして、軍隊の強化に力入れてはった」
「ふーん……。お前はずっとライムのとこにいたのか」
「せや。ウチがニャンバラ軍に入ってからは、自分の力の無さに何回も打ちのめされた。けどライムさんはウチの力信じてくれて、鍛え上げてくれはった。そしてウチはやっとの思いで、精鋭部隊〝ギャラクシー〟に入る事が出来たんや」
みんな興味深そうに、スピカの話を聞いている。
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