23 / 143
第22話〜懐かしい声〜
しおりを挟む「おーきーてー! ゴマくん! それー‼︎」
「うぎゃあっ‼︎」
気持ちよく寝ていたら、いきなり背中に何かが乗っかってきたので、ボクは思わず悲鳴を上げちまった。
「……チップ! テメエ‼︎ そんな起こし方があるか‼︎」
「あは、ごめんごめん。びっくりさせちゃった? もう朝ごはんの時間だよー! みんな揃ってるよ!」
もう朝か。ちょっと早くねえか? いつもならもう少し寝てる時間なんだが……。
ボクは目をこすりながら1階へと下りて行った。ルナの奴は先に起きて、朝飯作りの手伝いなんかしてやがる。すっかり、ネズミどもに馴染んでやがった。
力合わせて生活するって話だから、しぶしぶボクも朝飯作りを手伝う事にした。
「みんな揃ったね。いやあ、ゴマくんルナくんが手伝ってくれたおかげで早く朝ごはんの支度が出来たね。じゃあ、いただきまーす!」
「いただきまーす!」
ネズミどもは、みんなとても早起きだった。
いつもならぐっすり気持ちよく寝てる時間だってのに、チップに叩き起こされ、朝っぱらから野道を歩いて近所のネズミのオッサンのとこへ野イチゴ貰いに行かされ……。でも、この世界の朝の空気は、とてもいいもんだった。
「冬も近いし、今日は山まで食べ物たくさん取りに行かない?」
「いいわね。みんなで行く?」
「さんせーい!」
……ネズミどもが何か決めてやがる。これ、絶対ボクらも行かされる流れじゃねえか。今日くらいゆっくり寝かせてくれよ……。ここ連日の事で疲れてんのに。
それに今日はボクらは、メルさんたちと会う日なんだ。順調にこっちに向かってれば、夕方には会えるはずなんだ。
ボクは青い青い空を見上げながら大きくあくびをして、秋の森の澄んだ空気を思い切り吸い込んだ。
♢
「さあ、しゅっぱーつ!」
「しゅっぱーつ‼︎」
結局、昼から食い物集めについて行く事になっちまった。
長ったらしい山道を歩いて行くらしい。四足歩行なら楽なのになあ……。
「たくさん運ぶから、手分けしようね」
「おうよチップ……、しゃあねえなあ」
「えへへ、楽しみ」
「お前ら元気だな、ほんと」
「うん! 毎日がすっごく楽しいんだ」
「チッ、羨ましいぜ。こっちなんか毎日苦労の日々だぜ」
「だって、みんなと暮らすのが嬉しいし、おっきな夢もあるし」
「夢? どんな夢なんだ」
「えへ、お父さんみたいに、今よりもっとおっきな家にたっくさんの家族で住むんだ。そして、マサシお兄ちゃんとまた会うの」
「ふぅーん。そりゃご大層な夢だな。……それで、そのマサシとやらは一体何者なんだ」
ボクはずっと気になっていたマサシの正体について、訊いてみた。
何で、ニンゲンがこのネズミの世界にいたのか。何で、ネズミどもと仲良さそうに馴染んでやがったのか。
チップはにっこり微笑みながら答えた。
「マサシくんはね、……大切な友達なんだ」
「そうじゃねえよ。何のために何処から来たんだって事が知りてえんだよ」
「うーん、おじいちゃんが言うにはね、〝ニンゲンとしての本当の生き方を思い出すため〟、とかだった気がする」
——ニンゲンとしての本当の生き方を思い出す? そのためにこのネズミの国に? ちょっと意味が分からねえ。この事はまた後で、ネズミのジジイに詳しく聞く事にしよう。
ボクはもう一つ、気になる事を訊いた。
「で、マサシはまた、ネズミの世界に来やがるのか?」
「……うんん。おじいちゃんが言うには、マサシ兄ちゃんはもう二度と、こっちの世界に来れなくなっちゃったみたい」
何だと?
あれっきり、もう会えねえってのか……。
マサシもチップもお互い、1番の友達だとか言ってたよな。なのに何でだ……。そんなのって悲しすぎるじゃねえかよ。
「……だからあんなに泣きべそかいてたのか」
「ゴマくん見てたの⁉︎ ……でもね。また会う約束したんだ。大丈夫、マサシくんはきっと会いに来てくれる」
「……そうか」
……そうやって何かを信じる奴の瞳って、すげえキラキラ輝いてんだ。ボクはチップのその瞳を見て、ちょっとだけ心を打たれちまった。
そうこうしているうちに、目的地に着いちまったようだ。
「さあ、着いた着いた。まずは松の実チームと、きのこチームに8人ずつ分かれよう。いい具合に集まったら、みんなここに集合でいいかい?」
「そうね、じゃあ松の実チームは私と行きましょ」
ネズミの父ちゃん母ちゃんも、子供のように張り切っている。——この世界のネズミはみんな、何とも言えねえ純粋さを感じる。言い方は悪りいが、悩みなんか無さそうだ。
「ルナくん、きのこ組だね!」
「うん!」
「じゃあボクは松の実組だ」
「それじゃ、みんなたくさん集めようね!」
「おおー!」
ネズミたちとボクらは、山の中をうろつきながら、松の実にきのこ、その他にも色々な山の食い物を、カゴにたくさん集めて回った。
♢
……ふん、こんだけ集めりゃ上出来だろ。
「すごいねゴマくん。よくこんなに集めたね」
長男のトーマスが話しかける。
「ゴマでいいぜ。このくらい余裕だ。匂いで松の実の場所もわかるし。トーマスもなかなかやるじゃねえか」
「トムでいいよ、呼びやすいでしょ? いやあ、運ぶのが大変だよ」
「ああ、そういやそう呼ばれてたな。トムお前持ちすぎなんだよ、少し分けろ。さ、早く集合場所戻るぜ」
ボクも、少しずつ馴染めてきたっぽいぞ。こんな賑やかな家族も、悪かねえ。
「ありがとう。ゴマくんルナくんのおかげでずいぶん助かったよ」
カゴいっぱいの松の実ときのこ、他にもでっけえ栗の実や色んな木の実を持って、ボクらは再び集合した。冬を越すために、毎年こんだけ集めるんだそうだ。
「よくこれだけ集めてくれたわね。ほっほ、みんなとも仲良くなったようね。ありがとうね、ゴマくん、ルナくん」
ネズミのばあちゃんは、水筒のお茶を飲みながら、微笑みかける。いっぱい歩き回ったはずなのに、疲れひとつ見せねえ元気なばあちゃんだ。
「ふん、ボクらにかかりゃあこんぐらい余裕だぜ」
「はい、とても楽しかったですよ。こんな体験ができるなんて」
正直言って、めちゃくちゃ楽しかったんだ。普段のネコ生活じゃあ、こんな体験絶対出来ねえ。それにネズミサイズで見る景色は、とても新鮮だった。普段見慣れている草花や虫やなんかが、何倍もデカい。ボクよりもデカかったりする。見てるだけで面白え。
「ふふ、帰ったらみんなで食べましょ」
「さあ、日が暮れる前に帰ろうー!」
またみんなで、険しい道を歩いて山を下りていく。チップたちは相変わらず元気にはしゃぎ回っていた。
林を出て、ネズミどもの家が見えてきた。
————その時だった。
庭の方から、何だか聞き覚えのある声がする。
「おかしいわね、ここにいるって聞いたはずなのに」
「そのうち帰ってくるでしょ~、ふあ~……」
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました
福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。
現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。
「君、どうしたの?」
親切な女性、カルディナに助けてもらう。
カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。
正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。
カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。
『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。
※のんびり進行です
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
半神の守護者
ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。
超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。
〜概要〜
臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。
実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。
そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。
■注記
本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。
他サイトにも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる