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第15話〜謎の〝ニンゲン〟現る〜
しおりを挟む……よく寝た。ボクは大きくあくびをして目を覚ました。
——ここは、ネズミの住む世界だったな。寝ぐらにしていた箱の中に、陽の光が射し込んでいる。既に昼を過ぎちまっているようだ。
「……疲れてたんだね」
箱の外から、突然プレアデスの声が聞こえた。
「うおあっ‼︎ プレアデス‼︎」
「しーーっ! 兄ちゃん静かに!」
プレアデスの奴め、どうやってボクらの居場所が分かったのだろうか。やっぱりニオイか。
ネズミの被り物を被っプレアデスは箱の蓋を開くと、ぬうっと覗き込んできた。
「よく寝られた? ごめんね、無理させて。少し休んでから出発すべきだったね……。でも今はネズミ族たちがたくさん出てきてるからチャンスだよ」
「あ、ああ……ほんとか……?」
「うん。よろしく頼むよ」
プレアデスはまた、素早い動きで街の方へと行ってしまった。ボクらは被り物を装着し直し、服装も整えてから、箱を出た。
そーーっと、抜き足差し足……。ネズミに見つからないように慎重に、公園の広場に出てみた。だが、ネズミらしき姿はどこにもない。もう少し、通りのある所に行ってみるか。
——と、その時だった。
「兄ちゃん、兄ちゃん! いま何か動いた!」
「何っ⁉︎」
ルナが指差したので、その方角を注意して見てみた。耳を澄ますと、何か話し声が聞こえる。
少しずつ、足音を立てずに、話し声の方に近づいて行った。
——いた。あれがネズミ族……。
ボクらと同じくらいの背丈のネズミ2匹が、ニャンバラの奴らと同じように二足歩行で、服着て、言葉を話してやがった。
「おい、いたぞ、ネズミたち。うまそうだな」
ボクは思わずヨダレを垂らしてしまった。ちょうど腹が減ってたんだ。……と、ダメだダメだ。捕って食っちゃダメだって言われてたんだ。
——それよりも、おい。やっぱり被り物のネズミの顔と実物じゃ、全然違うじゃねえか。あんにゃろめ。
ボクがネズミの方へ行こうとすると、ルナが後ろからぐいと服を引っ張る。
「ダメだよ、食べちゃ」
「わかってるってばよ。これでも責任感は強い方なんだ……うわっ!」
「あーもう物音立てちゃダメだって……」
「気づかれてないよな……? このまま後をつけよう。ニャイフォン貸せ」
「はあー、ほんとに心配……」
ネズミが2匹と、ニンゲンが1匹、なにやら食い物を持って、丘の上へ歩いて行くようだ。
よし、ついて行ってみよう。
……ん?
おい、ちょっと待て待て!
何で、ニンゲンがこんなところにいるんだ。
しかも、ボクらやネズミどもと同じくらいの大きさのニンゲンが。見た目からすると多分、アイミ姉ちゃんと同い年ぐらいの、ちょいと痩せ型の男だ。
一体、どういう事だ。2匹のネズミと一緒に、何やら話しながら歩いている。
「おい、何でニンゲンがいるんだ!」
「僕に聞かれても知らないよ。ほら、撮影しなきゃ」
「あ、ああ、そうだな。やり方はこれでいいのか」
「たぶん」
ボクは、プレアデスに言われた事を思い出しながらニャイフォンを構え、緑のボタンに触れた。パシャリと音がして、〝カメラロールに保存しました〟という表示が出る。ちゃんと、撮れたみたいだ。
——ところが。
「ねえ、トム、ちょっと」
「どうしたんだい?」
「ぼくら、後をつけられてるかも……」
ニンゲンとネズミの声が、はっきりと聞こえた。
今のシャッター音に気付いたらしく、前を歩いていたニンゲンがこっちを振り向く。気付かれたか! まずいっ!
ボクはルナを引っ張り、すぐに近くに置かれていた木箱をこじ開け、中に隠れた。
「え? 誰に? 後ろ、誰も居ないよ?」
「……だって、さっき確かに声が……あれ?」
だんだんニンゲンとネズミどもの話し声が近付いてくる。やばいぞ。ボクはルナをしっかりホールドし、息を殺した。被り物が少し破れてきている。
……このまま見つかったら、お終いだ。
「気にしすぎだって、マサシ兄ちゃん! さ、早くお仕事終わらせちゃお!」
「変なのー、マサシ兄ちゃん」
「あ、うん……」
再び声が聞こえたが、その後ネズミとニンゲンは去っていったようだ。危なかった。
ニンゲンの名前は、マサシっていうのか。
「……もう大丈夫な……の? 苦しいよ……」
「ああルナ、すまねえ。もう大丈夫だ。外に出るぞ」
再び建物の陰に隠れつつ、ボクらはマサシとやらとネズミ2匹を追う。奴らは小高い丘の上にあるオレンジ色の三角屋根の、小さな建物に入ろうとしているようだ。
遠くてよく聞こえねえが、マサシとネズミどもが何か喋っている。どうやら背の高い方のネズミの名前は〝トム〟、チビの方のネズミは〝ナッちゃん〟と呼ばれているらしい。
そうこうしているうちに、奴らは建物の中へと入って行ってしまった。
「兄ちゃん、おなかすいた……」
「ルナ、それはボクもだ。あの建物行って何か食わしてもらうか?」
「ダメダメ! 見つかっちゃダメなんでしょ?」
「じゃあどうしろってんだ」
「うーん……」
ボクは、そっとオレンジの三角屋根の建物の、裏庭へと向かった。裏庭には平べったい別の大きな建物があり、裏口が開きっぱなしで、中の様子が見える。
覗いてみると、機械だけが自動的に、何かの食いモンをコンベアで運んでるのが見えた。建物の中には、誰もいなさそうだ。
「ルナ、あの中に忍び込むぞ。あそこからいくつか食いモンをいただこう」
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