11 / 143
第11話〜〝クソジジイ〟〜
しおりを挟むボクらが搭乗した〝パルサー〟は、音もなく宙に浮かび始めた。
一体どこに向かうんだろうと考えながら、〝パルサー〟のヘッドライトで照らされた窓の外を眺めていると、プルートのジジイが突然、変な呪文を唱え始めた。
すると、奇妙な形の蔓や葉で覆われた茂みが勝手にモゾモゾと動いて、何とそこに巨大な穴が現れたんだ。
ゆっくりと〝パルサー〟は、巨大な穴の上へと飛んで行く。そして少しずつ高度を下げ、穴の中へと入って行った。
「うおお、何だかすげえな。どうなってるんだ」
「動いちゃダメだよ、兄ちゃん」
〝パルサー〟完全に穴の中に入り、窓を見るとまた茂みが動いて、穴を塞いでいく様子が見えた。すぐに窓の外は、真っ暗闇になってしまった。
「ワタシが地上に行った日の事ですぅ~。森の中にぃ? 煌々と輝く草叢があるのを見ぃつけたあのでぇす。覗いてみるとぉ、なぁ~んと。知性を持っているであろうネズミたちがぁ、大きな街を作って楽しそうに暮らしてるではあぁ~りませんかぁ?」
プルートのジジイが語り始めた。……操縦に集中しろよ、命懸けの旅なんだからよ。
「そこで~ワタシは考えたのですぅ~。ニャンバリアンをそこに移住させられればぁー? 全ての問題は解決するのだぁぁあと! イ一ヒッヒィ~!」
「ジジイうるせえぞ」
「シッ。話を遮ると機嫌損ねるから、そっとしといてあげて」
プレアデスは眉をひそめながらプルートの様子を見つつ、そう言った。……全く、面倒臭え奴だ。
「あのネズミの街なら、平和だし資源もたくさぁん? あるしぃ~。移住するには最適だと思ったのでぇえす。場所もぅ特定しましたぁ。しっかぁし、大きさぁが我々ネコと違う事とぉ、何重にも張られたぁ結界がある事が問題なのですぅ。そこでぇ、なななぁんと? 結界を通過できるトンネルを開発しましたぁ! 地上に着いたらぁ、試してみましょうねぇ~。グッフフフフフフぅ~」
ジジイがそう言って笑った瞬間。
ズドン‼︎ という衝撃音と共に、激しい揺れが〝パルサー〟を襲った。
「ぐあっ⁉︎ おい! 大丈夫なのかよ⁉︎」
「うわあ! 兄ちゃんー!」
「大丈夫かい? ゴマくん、ルナくん、しっかりつかまってて!」
しばらく揺れが続き、だんだんと収まってきた。頭ん中かき回されてるみたいで、めちゃくちゃ気持ちが悪りい。
「ったく、おい! ジジイ、どうなってんだよ」
「あれ~? おかしいですねぇ。穴がずっと続いてるはずなのにぃ? 途中で地面にぶつかってしまったみたいですぅう」
「あ? じゃあどうすんだよ。ちゃんと地上に帰れんのか、ほんとに」
「仕方ないですぅ、ここからは、地面を掘りながら地上へ向かいましょう~。揺れますから、我慢してくださいぬぇ?」
再び、大きな揺れがボクらを襲う。多分、ドリルか何かで地面を掘ってるのだろう。絶え間なく揺れが続く。うおえ、吐きそうだ。耐えられるだろうか。
「窓を完全に閉めますぅ~。おそらく、ここから先はマグマ地帯の近くを通ることになりますぅ。〝パルサー〟はぁ高温にも耐えられますのでぇ、安心してくださいねぇ」
「しばらく揺れるから、しっかりベルト締めて、手すりにつかまっててね」
気持ち悪さと不安と息苦しさで、どうにかしちまいそうだった。ルナも辛そうな顔で、手すりにしがみついている。
「うう……。プレアデス兄ちゃん、いまはどのへんなの?」
「ルナくん、大丈夫かい? 今はちょうど重力の真ん中を抜けた所だよ。だから、あと半分くらいだね」
この時すでに、ボクの体力は限界だった。
「おい、まだ半分かよ! クソ、酔ってきたぜ……。1度停めて休まねえか?」
「まだマグマ地帯のそばだから、もう少し低温のエリアに行くまで辛抱して」
ボクは歯を食いしばって、揺れに耐えていた。
——と、その時!
ガコン‼︎ という何かが破裂したような音がした。今までに無いような猛烈な揺れが、ボクらを襲う。
「ぐわぁあああ‼︎ おい、何だ今のは」
「急停止ぃ⁉︎ そんなぁバカなぁ?」
「ゴマくん、ルナくん! 落ち着いてね! 大丈夫だから!」
どう考えても、大丈夫じゃねえ。機内に虫の鳴くような変な音が聞こえる。操縦席のランプが、不規則に点いたり消えたりを繰り返している。
プレアデスもプルートのジジイも、顔を真っ青にしていた。
「マグマ地帯にぃ? 進入してしまったようですねぇ? んんん? 動力が一時的に停止……そんなバカなぁ?」
「おい⁉︎」
——ドガァァァアン‼︎
さっきより大きな爆発音がして、同時に衝撃と凄まじい振動が〝パルサー〟を襲った。
「ぐわあああ‼︎」
「しっかり! 手すりにつかまれ‼︎」
ビー! ビー! と耳を裂くようなサイレンが、機内に鳴り響く。
『緊急事態発生。緊急事態発生。直ちに避難準備を』
赤いランプが点灯し、機内が真っ赤に染まる。
——おいコラ、テメエら! なんとかしろ‼︎ こんなとこで死ぬのは嫌だぞ‼︎
「ぐああああーー‼︎」
「うわあああ! 兄ちゃん‼︎」
もう上も下も分からねえ。
機内の温度がどんどん上がっていく。目が霞んで何も見えねえ。地響きの音しか聞こえねえ!
「クソ、熱ちい‼︎」
「やだようー! 助けて、兄ちゃん‼︎」
「温度制御装置がぁ故障。動力はぁ? 依然停止中……。こ、このままだと‼︎ マグマの熱で〝パルサー〟はぁ? 私のぉ? 〝パルサー〟があぁあ⁉︎ 私のぉ? 大切な〝パルサー〟がぁ‼︎ ウ……! ウヒヒョヒョヒョヒョヒョロヒョロホロロォオオ‼︎」
「プルート! 落ち着くんだ! 操縦、僕が代わる!」
イカれたクソジジイの泣き声と、警報音が入り混じる、地獄のような空間。
ボクらは果たして、生きて帰れるのだろうか——?
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる