2 / 143
第2話〜隠されていた、入り口〜
しおりを挟む「ゴマ、ユキ、ポコ、ルナ、ほらじゅじゅも。今から、集会行くわよ。はぐれないでね」
「はぁーい!」
メルさんを先頭に、ボクらは近くの神社へと向かった。日が暮れた頃には、他所のネコどももたくさん集まってくる。
満月の夜には、いつもそこでネコの集会が開かれるんだ。何をするかと言うと……、このネコ社会でみんなが幸せに暮らすための知恵を、みんなで出し合うんだ。例えば縄張り争いをなくすにはどうするか、とかだな。
だが今は、ただの世間話の場になっちまってる。正直行く意味あんのかって感じなんだ。
「……メル、予感がします」
神社に着き一息入れていると、ボクらの親分——ムーンさんの声がした。姿を見るのは何日振りだったろうか。いつもめったに住処に帰ってこねえし、集会にだって来る事はねえんだが、この時は珍しく姿を見せてたんだ。メルさんと、何かを話してるようだった。
「どしたの、母さん?」
「月の導き……ネコ社会の変革……理想郷への導き……。メル。子供たちに伝えて下さい。今までにない何かが起きます」
「え、何かって……何が起きるの? 今の生活が続けられなくなったりするの? そんな、大変!」
——ボクらの親分、ムーンさん。
メルさんとじゅじゅさんの、実の母親なんだ。
ムーンさんは、月の力を受けて運命のエネルギーの流れを察知する、不思議な力を持ってるらしいんだ。
ちなみにボクの実の親が誰だかは、知らねえ。小せえ時の記憶も無えからな。そういう事でムーンさんを、勝手に親分って事にしてる。
ムーンさんとメルさんとの会話が少し気になって、聞き耳を立ててたら、退屈したルナが話しかけてきた。
「隣のボスネコのシロさん、やっぱりマタタビいっぱい持ってきてるね。兄ちゃん、そろそろ帰ろうよ」
「そうだな。ま、いつもどーりだ」
結局、またボスネコ同士でマタタビ会を始めていた。大人の酔っ払いって、ほんとに見苦しくてしょうがねえ。メルさんとじゅじゅさんも、仕方なく付き合ってるような感じだった。
だがムーンさんだけは、1匹でずっと月を眺めながらじっとしていたんだ——。
ムーンさんの言動は気になったが、この場では何にもする事が無えボクらは、また住処のガレージへ帰ろうとした。が、その時、ボクは妙な光景を目にしたんだ。
「おい、ルナ」
「どしたの兄ちゃん」
「見ろよ、あの祠の後ろ」
神社の奥にある祠のすぐ後ろの地面に、ネコが10匹まとまっても入れるくらいの、丸くてドデカい穴が空いていたんだ。前にはあんな不気味な穴、なかったはずだ。
気になったボクは近くで見てみたくなり、ルナを無理矢理祠の近くへ連れて行った。
「ちょっと、引っ張らないでよ、兄ちゃん!」
「うるせえ、早くついて来い」
祠の後ろ側の地面を見ると、中は真っ暗闇になっている巨大な穴が、ポッカリと口を開けていた。
よし、ちょっと覗いてみるか——って事で、ボクは体を乗り出し、穴に顔を突っ込んでみた。
ところが。
「こーらー‼︎」
「あ! やべ‼︎ メルさん‼︎」
「ちょっと目を離したらこんなとこに! アイミ姉ちゃんが心配するだろうが! まっすぐ帰りなさい!」
メルさんに見つかっちまった。その時メルさんは、本気で怒ってたんだ。焦ったボクとルナは猛ダッシュで、ボクらの住処へと逃げ帰った。
「……はぁ、はぁ、全く。ゴマ! 勝手な行動はするなと言っただろうが!」
「何でボクだけ怒られてんだよ」
住処のガレージに着くなり、メルさんのお説教だ。まあ、いつものことだから慣れっこだった。ルナの奴はいい子ぶって、寝る支度してやがった。
「今夜も母さんは帰らないみたいだから、私が夜の番をしてるからね。みんなはちゃんと寝るのよ」
「はぁーい」
キョーダイみんなはメルさんの言う事に従って、すぐに寝入ってしまった。だがボクはムーンさんが言ってた事、そして謎の大穴の事が気になってしまい、結局一睡も出来なかったんだ。
〝ネコ社会の変革〟って、一体何なんだ。
本当にそんな事が起きるのか。ボクはいまいちピンと来なかった。だが後になってムーンさんの言っていた事が、想像を超えた大変な事態だったって事を知る事になるんだ————。
♢
眠れぬ夜が明け、狩りに行く気力もなく、朝ゴハンのカリカリも全く味がしなかった。こんなのは初めてだったんだ。
それでもボクは、昨日見つけた大穴の場所へ、もう一度ルナを誘って行く事にした。
「おいルナ、メルさんが二度寝してるうちに昨日の穴のとこ、行くぞ」
「1匹で行けよー」
「いいから来いって」
「全く、仕方ないなあ、もう……」
半ば無理矢理ルナを連れて、昨日集会をした場所に来てみた。
やっぱり神社の奥にある祠の後ろの地面には、不気味な穴が空いてたんだ。お日様が出てるから目立って見えるが、中はやはり真っ暗だった。
「ほら見ろよ。前こんな穴無かったろ。ルナ、今度こそ覗くぞ」
ボクはルナと一緒に、大穴の中を覗き込んでみた。
——ところが。
「ほんとだ。中はどうなってるんだろうね、よいしょ……っと」
「おい、ルナ! そんなに身を乗り出すと危ないぞ!」
「え? え、うわああー‼︎」
何とルナは、バランスを崩し、そのまま穴の中にゴロンと転がり落ちてしまったんだ。
「うわー! たすけてー‼︎」
「ルナ、ボクにつかまれ!」
「兄ちゃん……ああ、ダメだ!」
「クソッタレ! うわああーー‼︎」
ボクはとっさにルナの手を掴んだが、ボクも一緒になって真っ逆さまに、真っ暗な穴の中に落ちてしまった。
「うわあああーーーー! 兄ちゃーーん‼︎」
「ルナー! 手ェ離すんじゃねえぞ‼︎」
穴の中は、真っ暗闇でよく見えなかったが、巨大な滑り台みたいになっていたんだ。
ボクらはただただ、暗闇の奥へと滑り落ちて行く。どんどん、スピードが上がっていく。
暗闇に慣れ、少し視界が晴れた。横を見ると、奈落の底からデッカい氷の柱が何本も立っているのがうっすら見える。尻が冷たい。地の底へと続く巨大な滑り台は、氷で出来ているようだった。
「怖いよ、兄ちゃん!」
「ルナがんばれ!」
程なくして、滑り台の続く先から光が漏れているのが見えたんだ。
——その光は、どんどん大きくなる。
「おいルナ! 出口みたいだぞ!」
「ふあー‼︎ どこに出るんだよー⁉︎」
考える暇もなく、そのままボクらは光の中へと突っ込んでいった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました
福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。
現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。
「君、どうしたの?」
親切な女性、カルディナに助けてもらう。
カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。
正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。
カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。
『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。
※のんびり進行です
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる