子ネコのゴマの大冒険〜もふもふにゃんこ戦隊と共に、2つの世界を救え‼︎〜

第9話〜闇に包まれた旅路〜

　
　プレアデスは大きくため息をついて、ボクのギモンに答えた。


「僕たちニャンバリアンの祖先は、元々地上から来たんだけど、ここまで文明を築いた以上、今さら普通のネコの生活には戻る事なんて出来ない。地上には〝野蛮な〟ニンゲンの文明が既に存在している。新たな文明を築く事も難しいだろう」

「そうか？　ニンゲンに甘えて暮らすのも、悪かねえぜ。な、ルナ」

「うん。ニンゲンのお世話になってるネコさん、多いよ」


　プレアデスは、首を横に振る。


「それは、ネコ族の退化だ。ニンゲンに飼い慣らされるなど、今更そんな原始的で未成熟な生活になど戻れない」

「何だと？　ボクらは未熟なネコだというのか！　このやろ……！」

「ダメ、兄ちゃん！」


　プレアデスは言葉のスピードを緩め、説明を続けた。


「例の研究者が言うには、世界に現存する平・和・な・文・明・社・会・は、彼が発見した〝知性を持ったネズミの住む世界〟た・だ・1・つ・だ・け・、なんだって。我々ニャンバリアンも、今後はそこに移住するんだ」

「でも、そのサイズだと一緒に住めねえだろ」

「大丈夫！　研究者の最新技術をもってすれば、僕らニャンバリアンは、ネズミと同じ大きさになる事が出来るんだ。ちなみに、ニャンバリアンはネズミは食べないから、心配しないで」


　説明を聞いていて、ボクは疲れてきた。
　ネコとネズミが一緒になって暮らすだと？　バカいえ、そんな事が出来る訳ねえだろ。ホントにコイツの言う事を信用していいのだろうか。


「……何だか色々と胡散うさん臭くせえな。で、ボクらは何したらいいんだ？」

「最新技術で君たちと僕はネズミと同じサイズになってから、ネズミの住む世界に潜入するんだ。そして君たちには、ニャイフォンに付いているビデオカメラ機能で、ネズミ族がどんな暮らしをしているかを撮影してきてもらいたいんだ。あ、君たちは普通のネコだから、間違ってネズミを襲って食べちゃダメだよ」

「それを無事にこなせたら、帰ってもいいのか？」

「撮影した映像データを僕に送信してもらったら、家に帰っていいからね。僕らもニャンバラに帰るから」


　ようやくこれでひと通り、説明は終わったようだ。

　要は、地上のどっかにネズミどもの住む平和な世界がある。地底に住めなくなりつつあるニャンバラの奴らがそこに移住するために、まずはネズミの世界とやらがどんな所か見て来るのを手伝えと。そういう事だ。
　ルナが心配そうな顔で、聞いてきた。


「……それでいいかなあ、兄ちゃん」

「ああ、仕方ねえが、やるしかねえようだ。だが、もしそのネズミ族が住む理想郷とやらがどこにも無かったら、その時点でボクらは帰らせてもらうからな」

「ありがとう！　よろしく頼んだよ、ゴマくん、ルナくん！」


　暗い天井から滴り落ちる水滴の音が、地下室に響き続ける。こんなおかしな世界から、さっさとおさらばしちまいたい。
　ボクはもうプレアデスの声を聞きたくはなかった。なのに、まだ奴は話を続けやがる。


「ネズミ族の世界には、何重も結界が張られてるんだ。でも、研究者が開発したトンネル状の機器を結界にくっつけて、中をくぐれば……」

「あーうるせえうるせえ。難しい事はそこに着いてから説明しろ。ルナ、やるぞ」

「うん！　頑張ってみるよ」

「じゃあ、支度が終わったら一眠りして、出発しよう！」


　プレアデスはそう言って袋から出した魚を頭から丸かじりした後、すぐに布団を敷いて、眠りこけてしまった。

　…………ふん。誰がこんな面倒臭え仕事するかってんだ。


「おい、ルナ」

「なに？」

「地上に着いたら、プレアデスが見てない隙に、1、2の3で逃げるぞ」


　ハッキリ言って、ネズミの国なんざもニャンバラの危機なんざも、ボクにとっちゃどうでもいい。ボクらがただ元の世界に帰れさえすりゃいいんだ。だから地上に着いたら、隙を見て逃げちまう事にした。


「ダメだよ兄ちゃん。頼まれたお仕事はちゃんとしなきゃ」

「馬鹿野郎。これ以上奴らと関わるってのか？　あんだけ泣いてたのは誰だよ、このお人好しが」

「でも……」

「黙ってボクの言う通りにしろ。こんなおかしな世界とは、さっさとおさらばだぜ。さ、寝るぞ」


　少しだけ見えた希望にすがりながら、じめじめした地下室の中で、ボクらは眠りについた。


　♢


　……目が覚めた。頭が痛え。空気が汚えせいなのか、寝付きが悪かったのかもしれねえ。
　プレアデスもルナも、既に起きていた。


「おはよう。さあ、行こうか」

「ああ……ちゃんと案内しろよ、プレアデス。おいルナ、さっさと顔洗いに行くぞ」

「うん……」


　ボクらは地下室にある水道の汚ねえ水で顔を洗った後、準備を済ませ、外に出た。
　相変わらず空は真っ黒だ。朝が来たと思ったが、まだこんな真夜中だったのか。周りも誰も居なくて、静まり返っている。
　攻撃を受けて所々瓦礫の山と化したニャンバラの街を、3匹でひたすら歩く。ガラスとか釘みてえなものがあちこち散らばっていて、足元を見て歩かねえと危ねえ。

　小一時間ほど歩き、ボクらは少し小高い丘の上にある、木で出来た小さな家のある場所に着いた。庭に、プロペラのついた、変な形の乗り物がある。


「ここが僕の家さ。僕の小型飛行機に乗って空を飛んで、研究所と、地上へ繋がる穴のある山へ向かうよ」

「クソッタレ、歩き疲れたぜ。テメエの家で少し休もうぜ」

「兄ちゃん、早く帰りたいんじゃなかったの？」


　プレアデスはボクの言葉を無視し、庭の変な乗り物——ヒコーキとやらに乗るように指示した。ボクらは狭っ苦しいシートに乗せられる。
　でっかいプロペラが前に1つ、左右両方に突き出た翼に2つ。まさか、これで空を飛ぶというのだろうか。


「ベルト締めてね。行くよ！」


　でかいプロペラが高速で回転を始め、猛スピードで目の前の道を走り抜けたと思ったら、ヒコーキとやらはあっという間に空中へと飛び立った。


「うおお、なんだこれ。ほ、本当に空を飛んでやがる！」

「こ、怖いよ兄ちゃん……！」


　うおお、高え。音がうるせえ。景色がぐるぐるして気持ち悪りい……。


「は、早く降ろせプレアデスこの野郎……！」


　窓から下を見ると、あちこちで煙が上がっているのが見える。その上には、どこまでも遠く広がる黒一色の空が広がる。それは言葉にならねえほど不気味だった。


「地上への穴の場所は、機密事項なんだ。僕たち以外には、絶対知られてはいけない。だから少し離れた場所に着陸して、そこからまた歩いて行くんだ」

「……おい、また歩くのかよ。めんどくせえな……、ルナ、頑張れるか？」

「うん……。辛いけどついていく。ホントに帰れるんならね」


　全く楽しくもねえ空の旅が終わり、ボクらは真っ暗な山の中に着陸した。
　変な形の植物が、辺りに鬱蒼と生い茂っている。暗闇の奥から時々、甲高くて不気味な唸り声が聞こえる。


「さあ、このライトを持って。足元だけを照らして、僕について来てね」

「どのくらい歩くんだ？」

「1時間半ほど、この山道を歩く。ついて来れる？」

「ついて来れる？　ってお前、ここまで来たら行くしかねぇーだろ」

「うわーん、また歩くのー？」


　闇に溶ける険しい獣道を、ボクらはひたすら歩いた。四足なら一気に駆け抜けられたんだがな。二足歩行生活はなかなか慣れねえし、不便だった。
　ずっと同じようなデコボコ道が続く。空も周りも真っ黒だ。もしこんな所に置き去りにされちまったら、気が狂ってどうにかなっちまいそうだ。


「兄ちゃん、怖いよ」

「ならボクにつかまっとけ。あと少しだ」

「もう少しで、地上に通じる穴と、そこに行くための乗り物がある研究所に着くよ。頑張って」


　バカみてえにキツい坂を登りきったら、不気味な植物の茂みに隠れるように、銀色のドームのような形の建物があるのが見えた。
　……どうやら着いたらしい。
　プレアデスは、ニャイフォンに向かって喋り出した。


「プルート、お待たせ。着いたよ」


　すると、プレアデスのニャイフォンから、何とも気色の悪りぃ声が聞こえてきた。


「……わかぁ～りましたぁ。門を開けますぅ？　グフフゥ～」