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第1話〜小生意気な子ネコの、冒険の始まり〜

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 ……何だお前は? 不思議そうにボクのこと見やがって。

 ボクは、ただのネコだよ。名前は〝ゴマ〟ってんだ。

 何? 喋るネコなんて初めて見ただと? 
 逆に聞こう。お前こそ、ネコの言葉が分かるってのか? ……そうか、珍しいニンゲンも居るもんだな。


 時にニンゲンよ、お前は今、幸せか?
 さっきからシケたツラしてるからよ。ほら、悩みとかあんなら、ボクに話してみろよ。

 ……ふむ。先の事が不安だ? 昔の事も後悔してる?
 ガッコウを辞めたい? 恋人とうまく付き合いたい?
 嫌な奴と縁切りたい? 痩せてキレイになりたい?
 親と仲直りしたい? バカにした奴を見返したい?
 病気を治したい? ラクして生きたい?

 ……全く、ニンゲンも悩みはいっぱいあるんだな。仕方ねえ。


 ボクがこれから話す事、よーく聞いてけ。
 とある〝異世界〟で教えてもらった、〝3つの心〟と出会う大冒険に行った話だ。
 この話を聞けば、きっと悩みは解決して、お前らニンゲンも幸せに生きていけると思うぜ。

 ま、少し長くなるが、ワクワクするような大冒険に行った気にさせてやるから、その辺にでも座って楽しんで聞いて行きな。

 じゃあ、いくぞ——!


 ♢


「ふあああー……」


 ボクはいつも通り、ガレージにある段ボールの中で目を覚ましたんだ。1番の早起きだった。庭にはうっすら雪が積もり、北風がビュウウと吹き込んでくる。
 ボクはまだ段ボールの中で寝っこけている、弟分のルナを起こした。


「おい、起きろルナ。狩りに行くぞ」

「ふわあー……、えー、ご飯さっき食べたとこでしょ……?」


 ボクと同じ柄の白黒ネコのルナは、いつものように寝ぼけてやがったので、ボクは1発ネコパンチをかましてやった。


「この野郎、いい加減目を覚ましやがれ!」

「痛っ! 乱暴しないでよ……、兄ちゃん」

「うるせえ、いつまでも寝ぼけてやがるからだ。さっさと支度しろ」

「はいはい、わかったよもー。兄ちゃん、今日どこ行くのさ」


 ルナは眠たそうな目のまま、聞いてきた。


「今日はすぐ近くの公園だ。まだネズミがウロチョロしてるはずだ」

「もう明るいから、いないと思うよ」

「お前がいつまでも寝てるせいだろうが! ……あ、アイミ姉ちゃんだ。ルナ、なでてもらうぞ」


 アイミ姉ちゃん。
 ボクらの住処のガレージのある家に住んでる、ニンゲンの女の子だ。ボクらがチビの時から、ずっと世話をしてくれてる。


「にぃああぁ……」

「よしよし……、ゴマ、ルナ、おはよ。ふふ、可愛いなあ」


 アイミ姉ちゃんは、いつもボクの頭や背中をなでてくれる。


「みゃあー」

「おいでー。よしよし」


 ルナもよくなでてもらうんだが、甘えるのが下手なんだ。緊張してるのか照れてるのか、いつもその場で固まっちまう。それじゃあアイミ姉ちゃんも撫でがいが無えってもんだ。
 ボクみてえに素直にゴロゴロその場に転がってりゃあ、可愛がってもらえるんだよ。

 さて、ひと通り撫でてもらったところで、ボクらは狩りに出発だ。


「さ、ルナ行くぞ」

「あー、待ってよー」


 ひんやりした風が、体にしみた。雪が少し解けて濡れたアスファルトの道を調子良く歩いていると、ボクらの姉貴分、メルさんが目の前に立ち塞がる。


「こーらー、ゴマ。今日は集会だからアイミ姉ちゃんとこにいなさいって言ったでしょー」

「あれ、メルさん。何でこんなとこに。もう起きてたのかよ」


 メルさん。
 さっきも言ったとおり、ボクらの姉貴的存在の三毛ネコだ。
 ウチのボスネコのムーンさんがいつも留守にしてるせいで、メルさんがほとんどボクらの親代わりになってる。なぜかボクばっかり怒られるんだよな。


「チッ、見つかっちまったか! あー、ついてねえ」

「全く……、先回りしてて良かったよ。ほら、ルナも一緒に帰るよ」


 メルさんはそう言って、ボクらを通せんぼした。仕方なくボクらは、来た道を戻る事にした。

 住処のガレージに戻ると、他の奴らはみんな起きてたんだが、もう1匹の姉貴分、じゅじゅさんはまだ段ボールの中で大欠伸をしていた。
  

「じゅじゅさん。やっとお目覚めかよ」

「ふあーあ、ゴマおはよう。そろそろゴハンだよ」


 じゅじゅさん。ブクブクに太った三毛ネコだ。
 メルさんとは違ってのんびり屋のマイペースで、ボクらがイタズラしたりしても怒ったりしない。だが、いつも寝てるか食ってるかばかりの生活で、むしろボクの方がじゅじゅさんのことを心配してるくらいだ。


「じゅじゅさん、昨日の夜中も勝手にメシ食ってただろ」

「腹が減っては戦は出来ぬって言うからねえー」

「いや、そういうことを言ってるんじゃねえよ……」


 ……じゅじゅさんはいつも、こんな調子だ。

 さて、メルさんに止められたせいで獲物はさっぱりれなかったから、アイミ姉ちゃんが用意してくれるカリカリが、今日の朝飯だ。たまーに、高級品のサバ缶も出てくるんだ。
 アイミ姉ちゃんは、3つの皿にカリカリをザラーっと流し込んだ。


「はあい、たくさん食べてね」


 その日は大盛りサービスだった。ここからは競争さ。みんな我先にとカリカリに飛び付く。


「んぐんぐ……」


 良くも悪くもねえ味のカリカリをむさぼり食い、口を拭うと、すぐ隣で毛繕いしてる弟分の黒ネコ、ポコにボクは声をかけた。


「なーポコよぉ、いい加減お前も外遊びに行こうぜー」

「ひいっ、ゴマ、そんな怖い顔しないでよう……」


 ポコ。
 ルナと同時期に生まれた、全身真っ黒のチビネコだ。コイツ、ほんっとに怖がりの意気地なしでさ。ネコのくせして動くものを怖がって、この時はまだ自分で獲物を狩った事がなかったんだ。


「まったく、ネズミごときにいつまでビビってんだ。そんなんじゃ狩りなんか一生出来ないぞ」

「う……うるさいっ!」

「お? なんだ、やんのか?」


 ボクはポコに軽くネコパンチを喰らわせようとすると、ポコはササーッと逃げて行きやがった。ほんと、情けねえ奴だ。
 ボクは、目を細めながら前脚を伸ばしている妹分のユキを誘う事にした。


「おいユキ、公園行くぞ」

「おー、行っちゃう? ルナとポコも誘おうよ」

「ポコはダメだ。いつも通り段ボールに引き籠もってやがるぜ。ったく情けねえ」

「ああいう性格だからしょうがないわよ。ポコが自分から行きたいって言うまでそっとしときましょ」


 ユキ。
 ニンゲンが言うにはサビ柄模様らしい。妹分って事にしてるが、実はボクと同時期に生まれたんだ。体を動かすのが得意で、いつもボクとどっちが先に獲物を捕らえられるか競争してる。

 晴れた日には、メルさんの許しをもらってから、ボク、ルナ、ユキの3匹で一緒に狩りをしたり、近所のニンゲンのクソガキをからかったり、ニンゲンの婆ちゃんに撫でてもらいに行ったりしてるんだ。

 じゃあいよいよ——ボクが大冒険に出かける話だ。
 その日の夜の、ネコの集会の時の出来事だったんだ。
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