1 / 143
第1話〜小生意気な子ネコの、冒険の始まり〜
しおりを挟む……何だお前は? 不思議そうにボクのこと見やがって。
ボクは、ただのネコだよ。名前は〝ゴマ〟ってんだ。
何? 喋るネコなんて初めて見ただと?
逆に聞こう。お前こそ、ネコの言葉が分かるってのか? ……そうか、珍しいニンゲンも居るもんだな。
時にニンゲンよ、お前は今、幸せか?
さっきからシケたツラしてるからよ。ほら、悩みとかあんなら、ボクに話してみろよ。
……ふむ。先の事が不安だ? 昔の事も後悔してる?
ガッコウを辞めたい? 恋人とうまく付き合いたい?
嫌な奴と縁切りたい? 痩せてキレイになりたい?
親と仲直りしたい? バカにした奴を見返したい?
病気を治したい? ラクして生きたい?
……全く、ニンゲンも悩みはいっぱいあるんだな。仕方ねえ。
ボクがこれから話す事、よーく聞いてけ。
とある〝異世界〟で教えてもらった、〝3つの心〟と出会う大冒険に行った話だ。
この話を聞けば、きっと悩みは解決して、お前らニンゲンも幸せに生きていけると思うぜ。
ま、少し長くなるが、ワクワクするような大冒険に行った気にさせてやるから、その辺にでも座って楽しんで聞いて行きな。
じゃあ、いくぞ——!
♢
「ふあああー……」
ボクはいつも通り、ガレージにある段ボールの中で目を覚ましたんだ。1番の早起きだった。庭にはうっすら雪が積もり、北風がビュウウと吹き込んでくる。
ボクはまだ段ボールの中で寝っこけている、弟分のルナを起こした。
「おい、起きろルナ。狩りに行くぞ」
「ふわあー……、えー、ご飯さっき食べたとこでしょ……?」
ボクと同じ柄の白黒ネコのルナは、いつものように寝ぼけてやがったので、ボクは1発ネコパンチをかましてやった。
「この野郎、いい加減目を覚ましやがれ!」
「痛っ! 乱暴しないでよ……、兄ちゃん」
「うるせえ、いつまでも寝ぼけてやがるからだ。さっさと支度しろ」
「はいはい、わかったよもー。兄ちゃん、今日どこ行くのさ」
ルナは眠たそうな目のまま、聞いてきた。
「今日はすぐ近くの公園だ。まだネズミがウロチョロしてるはずだ」
「もう明るいから、いないと思うよ」
「お前がいつまでも寝てるせいだろうが! ……あ、アイミ姉ちゃんだ。ルナ、なでてもらうぞ」
アイミ姉ちゃん。
ボクらの住処のガレージのある家に住んでる、ニンゲンの女の子だ。ボクらがチビの時から、ずっと世話をしてくれてる。
「にぃああぁ……」
「よしよし……、ゴマ、ルナ、おはよ。ふふ、可愛いなあ」
アイミ姉ちゃんは、いつもボクの頭や背中をなでてくれる。
「みゃあー」
「おいでー。よしよし」
ルナもよくなでてもらうんだが、甘えるのが下手なんだ。緊張してるのか照れてるのか、いつもその場で固まっちまう。それじゃあアイミ姉ちゃんも撫でがいが無えってもんだ。
ボクみてえに素直にゴロゴロその場に転がってりゃあ、可愛がってもらえるんだよ。
さて、ひと通り撫でてもらったところで、ボクらは狩りに出発だ。
「さ、ルナ行くぞ」
「あー、待ってよー」
ひんやりした風が、体にしみた。雪が少し解けて濡れたアスファルトの道を調子良く歩いていると、ボクらの姉貴分、メルさんが目の前に立ち塞がる。
「こーらー、ゴマ。今日は集会だからアイミ姉ちゃんとこにいなさいって言ったでしょー」
「あれ、メルさん。何でこんなとこに。もう起きてたのかよ」
メルさん。
さっきも言ったとおり、ボクらの姉貴的存在の三毛ネコだ。
ウチのボスネコのムーンさんがいつも留守にしてるせいで、メルさんがほとんどボクらの親代わりになってる。なぜかボクばっかり怒られるんだよな。
「チッ、見つかっちまったか! あー、ついてねえ」
「全く……、先回りしてて良かったよ。ほら、ルナも一緒に帰るよ」
メルさんはそう言って、ボクらを通せんぼした。仕方なくボクらは、来た道を戻る事にした。
住処のガレージに戻ると、他の奴らはみんな起きてたんだが、もう1匹の姉貴分、じゅじゅさんはまだ段ボールの中で大欠伸をしていた。
「じゅじゅさん。やっとお目覚めかよ」
「ふあーあ、ゴマおはよう。そろそろゴハンだよ」
じゅじゅさん。ブクブクに太った三毛ネコだ。
メルさんとは違ってのんびり屋のマイペースで、ボクらがイタズラしたりしても怒ったりしない。だが、いつも寝てるか食ってるかばかりの生活で、むしろボクの方がじゅじゅさんのことを心配してるくらいだ。
「じゅじゅさん、昨日の夜中も勝手にメシ食ってただろ」
「腹が減っては戦は出来ぬって言うからねえー」
「いや、そういうことを言ってるんじゃねえよ……」
……じゅじゅさんはいつも、こんな調子だ。
さて、メルさんに止められたせいで獲物はさっぱり獲れなかったから、アイミ姉ちゃんが用意してくれるカリカリが、今日の朝飯だ。たまーに、高級品のサバ缶も出てくるんだ。
アイミ姉ちゃんは、3つの皿にカリカリをザラーっと流し込んだ。
「はあい、たくさん食べてね」
その日は大盛りサービスだった。ここからは競争さ。みんな我先にとカリカリに飛び付く。
「んぐんぐ……」
良くも悪くもねえ味のカリカリをむさぼり食い、口を拭うと、すぐ隣で毛繕いしてる弟分の黒ネコ、ポコにボクは声をかけた。
「なーポコよぉ、いい加減お前も外遊びに行こうぜー」
「ひいっ、ゴマ、そんな怖い顔しないでよう……」
ポコ。
ルナと同時期に生まれた、全身真っ黒のチビネコだ。コイツ、ほんっとに怖がりの意気地なしでさ。ネコのくせして動くものを怖がって、この時はまだ自分で獲物を狩った事がなかったんだ。
「まったく、ネズミごときにいつまでビビってんだ。そんなんじゃ狩りなんか一生出来ないぞ」
「う……うるさいっ!」
「お? なんだ、やんのか?」
ボクはポコに軽くネコパンチを喰らわせようとすると、ポコはササーッと逃げて行きやがった。ほんと、情けねえ奴だ。
ボクは、目を細めながら前脚を伸ばしている妹分のユキを誘う事にした。
「おいユキ、公園行くぞ」
「おー、行っちゃう? ルナとポコも誘おうよ」
「ポコはダメだ。いつも通り段ボールに引き籠もってやがるぜ。ったく情けねえ」
「ああいう性格だからしょうがないわよ。ポコが自分から行きたいって言うまでそっとしときましょ」
ユキ。
ニンゲンが言うにはサビ柄模様らしい。妹分って事にしてるが、実はボクと同時期に生まれたんだ。体を動かすのが得意で、いつもボクとどっちが先に獲物を捕らえられるか競争してる。
晴れた日には、メルさんの許しをもらってから、ボク、ルナ、ユキの3匹で一緒に狩りをしたり、近所のニンゲンのクソガキをからかったり、ニンゲンの婆ちゃんに撫でてもらいに行ったりしてるんだ。
じゃあいよいよ——ボクが大冒険に出かける話だ。
その日の夜の、ネコの集会の時の出来事だったんだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています
葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。
そこはど田舎だった。
住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。
レコンティーニ王国は猫に優しい国です。
小説家になろう様にも掲載してます。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる