山神様への嫁入り

みーか

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49 大熊

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 いきなり、クロモが村に行ったはずの子ども達と小梅を連れて戻ってきた。

 桃は大喜びで迎えた。

「あ、あの桃様!それよりお客様の事を……。」
「あっ、そうだった!!とりあえず中に入って!!サクラちゃん、ゆきと春太の部屋に案内して、休んでもらって。クロモ様!大変なの!!こっちに来て!!」

 居間に行くと、大きな男が座って待っていた。

「すまない、急に訪ねて来て。あなたがここの山神様か?」
「はい、私がここの山神の黒蜘蛛です。」
「私は、ここよりずっと北の方にある山神をしている大熊と申す。」
「大熊様ですか?」
「あのね、夕方に大熊様が来られてね、助けてほしいと言われたからクロモ様の帰りを待ってもらってたの。私では、どうしたらいいか分からなくて。」
「私の村は今、人がほとんどおらず、若い子は男の子しかいない。私にも嫁がいたが、私の事を恨んでいた娘に殺されてしまった。私の嫁を殺した後、その娘は自殺をしたのだが、その時に私を呪ったのだ。その呪いが男が多く産まれるというものだった。それから、本当に女が産まれるのが少なくなり、どんどん村人が減っていった。」
「えっ?他に嫁様は?」
「あぁ、私の元の姿がな、……ほら。」

 そこには4メートルほどの大きなツキノワグマがいた。天井に頭が届きそうで少し首を傾げている。

「この見た目だ。こんな私を愛してくれた嫁は1人だけだった。嫁入りで来ても私とは一切関わらず寿命が来たら死んでしまった。」
「大熊様………すごくすごく気持ち、わかります!!俺も元の姿では今の嫁でさえ嘔吐してしまって……。」
「そうか………。黒蜘蛛殿も苦労されたのだな。」
「今は、この桃が蜘蛛の姿は苦手だけど俺の嫁として側にいてくれてます。なので……大熊様の嫁様の事を思うと………他人事とは思えません!」
「ありがとう。少し話しを聞いてくれ。誰にも話せず辛かったんだ。その娘は私が父親を殺したと思っていたんだ。本当は助けたのだが、ショックで混乱したのだろうな。二百年前に嫁入りでやってきて、その日に私を刺し殺そうとしたのを嫁が止めようとして私の代わりに刺されて死んでしまった。それからは村人も減っていくばかりだった。しかも男しか産まれなかった……。今村にいる家族が私の最後の村人達だ。たった2家族の5人になってしまった。一組の夫婦は、子に恵まれず、もぅ一組の夫婦も16歳になる息子が1人しかおらん。」
「そうですか……。」
「黒蜘蛛殿、どうか1人私の村に嫁に来てもらえないだろうか。私は1人でもいいが村の男が可哀想でな……。無理な頼み事なのはわかっているが……他にどうしようもないのだ。」

 大きな体を縮めて頭を下げる。

「大熊様、頭を上げてください。俺も力になりたいとは思うのですが……。」
「父様、つゆが行きます。」
「つゆ子……、聞いてたのか?」
「はい、私がその村に嫁ぎます。大熊様、1つお願いがあります。聞いていただけますか?」
「私にできることなら、なんでもしよう!!約束する!!」
「父様や母様に会えなくなるのは嫌です。一年に1度でいいので里帰りさせてください。お願いします。」
「わかった。必ず約束は守ろう。年に1度1週間私が、つゆ子殿をここに送り、また迎えに来よう。」
「つゆ子……本当にいいの?」
「母様、大丈夫です。つゆは皆んなに愛されて育ちました。今のままではつゆの結婚相手は村にはいません。それなら、私が嫁ぎます。」
「そぅ……。わかった!じゃあ、サクラちゃん!皆んなも集めて準備するよ!!」
「ありがとう!!黒蜘蛛殿、桃殿、つゆ子殿!!」

 そこから、ゆきや小梅も一緒に準備を整えた。
 あまり村を離れていられない大熊に無理を言い、一晩泊まってもらい朝に出発する事になった。

 ベビーグッズにマタニティーグッズ、調理器具や鶏達も20羽、野菜の苗など思い付くままに大量に準備した。
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