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第四章 国際都市ベルメールへ
第69話 間話 ジロンド子爵の肩入れ
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エトワール伯爵領を出発した騎士ダリアスは、ジロンド子爵領へ向かった。
フォー辺境伯の領都デバラスを経由して、北へ、北へ。
騎士ダリアスの懐はあたたかい。
道中は終始ご機嫌だった。
またがる騎竜も主の気分に影響され、足取りが軽い。
一人と一頭は、ジロンド子爵の領都ギャリアまでの道を走り切った。
「ジロンド子爵! ただいま戻りました!」
「おお! 騎士ダリアス! ご苦労だった!」
アーリーアメリカン風の開放的な屋敷のポーチで、ジロンド子爵は騎士ダリアスから報告を受ける。
丸顔のジロンド子爵と四角い顔の騎士ダリアスが向き合う。
「エトワール伯爵は、大層お喜びになられました。こちらをお預かりしました。礼状とお礼です」
騎士ダリアスが礼状と礼金の入った革袋をテーブルに置いた。
ジロンド子爵は、さっと礼状に目を通し礼金の入った革袋を開く。
「えっ!? こんなに!?」
「やっ!? 三百万リーブルはありますよ!?」
ジロンド子爵と騎士ダリアスは、目を見張った。
騎士ダリアスは、心苦しそうにジロンド子爵に告げる。
「実は……、エトワール伯爵は私にも心付けを下さいました」
「いくら?」
「五十万リーブル」
「ええっ!? それは随分奮発したな……」
ジロンド子爵は、心配そうに眉をひそめる。
「ダリアス。エトワール伯爵の領地経営は大丈夫なのだろうか? こんなに礼を寄越して……。あそこは人がいないよな?」
「大丈夫かどうかはわかりませんが、人は増えていますよ」
「えっ? そうなのか?」
「はい。冒険者ギルドが開設されて、冒険者が移籍してきているようですね。それから、獣人、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、マーマンも見かけました」
「珍しい種族のオンパレードだな……。するとエトワール伯爵領の人口は百人を超えたか?」
「いやいや百人どころではありませんよ! 千人を超えているでしょう!」
「そんなにか!」
ジロンド子爵は、口を大きく開いて驚く。
騎士ダリアスは、出されていたアイスティーに口をつけ、気持ちを落ち着ける
「開拓村がありましたよね? 物凄い勢いで広がっています。今は領都ベルメールの名前に負けない規模になってます」
「そんなに急成長しているのか……」
ジロンド子爵は立ち上がり、ジッと南の方――エトワール伯爵領のある方角をにらんだ。
ジロンド子爵の根は善良である。
だが、貴族として損得勘定が出来る人物でもある。
幼い身で伯爵家を継承し、領地を取り上げられ、王都を追放されたノエル・エトワールに、ジロンド子爵は深く同情していた。
同時にノエル・エトワールが将来有望な人物であると、冷静に評価を下していた。
ジロンド子爵は考える。
(ふむ……。エトワール伯爵領は、思った以上に伸びるかもしれないな……)
騎士ダリアスは、しばらくジロンド子爵が黙り込み考えているのをジッと見守っていた。
騎士ダリアスは、アイスティーを一口。
「そういえば、ドライフルーツはいかがですか? 売れていますか?」
「売れてる。凄い評判が良い。王都の商人だけでなく、北部の商人からも引き合いが来ている」
「ほう! ドライフルーツは日持ちしますから、北部にも運べるでしょう。南部の産品が、北部で消費されるとは愉快ですな」
「ああ。ドライフルーツもエトワール伯爵の考案だ。本当に南部の名産品になりそうだよ」
ジロンド子爵の領地では、消費できないフルーツをドライフルーツに加工し始めている。量産体制を整えているのだ。
騎士ダリアスの領地である三つの村でも、ドライフルーツ作りは始まっていた。
騎士ダリアスは、ドライフルーツが売れて領地が儲かる未来を想像しニンマリした。
「大変結構なことですな!」
「まったくだ!」
ジロンド子爵と騎士ダリアスは、顔を見合わせて笑う。
「ダリアス。エトワール伯爵との付き合いを深めようと思う」
「賛成です! あそこは伸びますよ!」
「うん。南部の新しい勢力になりそうだ。ウチも食い込もう!」
騎士ダリアスは、わくわくしながらジロンド子爵の言葉を待った。
ジロンド子爵は、ポーチの椅子に前のめりに座った。
騎士ダリアスも、体を乗り出す。
「エトワール伯爵領に人を送ろう」
「人ですか?」
「うん。貴族家を継げない次男や三男を送り込むんだ。エトワール伯爵家は、南部に領地を移転させられて臣下がいないだろ?」
「なるほど!」
貴族家を継承できるのは、一人だけ。
長男が有利だ。
次男以降は、貴族家を継承出来ない。
それでも貴族家に産まれれば、教育を受ける。
貴族としての必要な常識、読み書きや一般的な教養、剣術など最低限の武術を身につけている。
ジロンド子爵家や配下の貴族で持て余している貴族子弟をエトワール伯爵家に送り込む。
人材不足のエトワール伯爵家では、重宝されることは間違いない。
騎士ダリアスは、興奮してつい大きな声を出した。
「エトワール伯爵領内にジロンド派を形成するわけですな!」
ジロンド子爵は手を上げて、騎士ダリアスを抑える。
「まあ、そこまで露骨にはやらないよ。影響力を強めておくのさ。それから、農民も付けよう。農民の次男坊、三男坊も土地を継げないからな」
「なるほど。農民もつければ、領地をもらうジロンド派が出ますな」
「うん。領都ベルメールは急速に広がっているのだろう? なら、周囲に農村が広がるのも時間の問題だろう。エトワール伯爵は農民が欲しいはずだ。農家の次男以降で希望者を募ってくれ」
「かしこまりました!」
ジロンド子爵は南部の有力者の一人である。
エトワール伯爵家に肩入れを始めた。
この肩入れは、他の南部貴族にも伝わり、他の南部貴族も動き出した。
ノエル・エトワールが奮発した礼金は思わぬ効果を上げたのであった。
フォー辺境伯の領都デバラスを経由して、北へ、北へ。
騎士ダリアスの懐はあたたかい。
道中は終始ご機嫌だった。
またがる騎竜も主の気分に影響され、足取りが軽い。
一人と一頭は、ジロンド子爵の領都ギャリアまでの道を走り切った。
「ジロンド子爵! ただいま戻りました!」
「おお! 騎士ダリアス! ご苦労だった!」
アーリーアメリカン風の開放的な屋敷のポーチで、ジロンド子爵は騎士ダリアスから報告を受ける。
丸顔のジロンド子爵と四角い顔の騎士ダリアスが向き合う。
「エトワール伯爵は、大層お喜びになられました。こちらをお預かりしました。礼状とお礼です」
騎士ダリアスが礼状と礼金の入った革袋をテーブルに置いた。
ジロンド子爵は、さっと礼状に目を通し礼金の入った革袋を開く。
「えっ!? こんなに!?」
「やっ!? 三百万リーブルはありますよ!?」
ジロンド子爵と騎士ダリアスは、目を見張った。
騎士ダリアスは、心苦しそうにジロンド子爵に告げる。
「実は……、エトワール伯爵は私にも心付けを下さいました」
「いくら?」
「五十万リーブル」
「ええっ!? それは随分奮発したな……」
ジロンド子爵は、心配そうに眉をひそめる。
「ダリアス。エトワール伯爵の領地経営は大丈夫なのだろうか? こんなに礼を寄越して……。あそこは人がいないよな?」
「大丈夫かどうかはわかりませんが、人は増えていますよ」
「えっ? そうなのか?」
「はい。冒険者ギルドが開設されて、冒険者が移籍してきているようですね。それから、獣人、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、マーマンも見かけました」
「珍しい種族のオンパレードだな……。するとエトワール伯爵領の人口は百人を超えたか?」
「いやいや百人どころではありませんよ! 千人を超えているでしょう!」
「そんなにか!」
ジロンド子爵は、口を大きく開いて驚く。
騎士ダリアスは、出されていたアイスティーに口をつけ、気持ちを落ち着ける
「開拓村がありましたよね? 物凄い勢いで広がっています。今は領都ベルメールの名前に負けない規模になってます」
「そんなに急成長しているのか……」
ジロンド子爵は立ち上がり、ジッと南の方――エトワール伯爵領のある方角をにらんだ。
ジロンド子爵の根は善良である。
だが、貴族として損得勘定が出来る人物でもある。
幼い身で伯爵家を継承し、領地を取り上げられ、王都を追放されたノエル・エトワールに、ジロンド子爵は深く同情していた。
同時にノエル・エトワールが将来有望な人物であると、冷静に評価を下していた。
ジロンド子爵は考える。
(ふむ……。エトワール伯爵領は、思った以上に伸びるかもしれないな……)
騎士ダリアスは、しばらくジロンド子爵が黙り込み考えているのをジッと見守っていた。
騎士ダリアスは、アイスティーを一口。
「そういえば、ドライフルーツはいかがですか? 売れていますか?」
「売れてる。凄い評判が良い。王都の商人だけでなく、北部の商人からも引き合いが来ている」
「ほう! ドライフルーツは日持ちしますから、北部にも運べるでしょう。南部の産品が、北部で消費されるとは愉快ですな」
「ああ。ドライフルーツもエトワール伯爵の考案だ。本当に南部の名産品になりそうだよ」
ジロンド子爵の領地では、消費できないフルーツをドライフルーツに加工し始めている。量産体制を整えているのだ。
騎士ダリアスの領地である三つの村でも、ドライフルーツ作りは始まっていた。
騎士ダリアスは、ドライフルーツが売れて領地が儲かる未来を想像しニンマリした。
「大変結構なことですな!」
「まったくだ!」
ジロンド子爵と騎士ダリアスは、顔を見合わせて笑う。
「ダリアス。エトワール伯爵との付き合いを深めようと思う」
「賛成です! あそこは伸びますよ!」
「うん。南部の新しい勢力になりそうだ。ウチも食い込もう!」
騎士ダリアスは、わくわくしながらジロンド子爵の言葉を待った。
ジロンド子爵は、ポーチの椅子に前のめりに座った。
騎士ダリアスも、体を乗り出す。
「エトワール伯爵領に人を送ろう」
「人ですか?」
「うん。貴族家を継げない次男や三男を送り込むんだ。エトワール伯爵家は、南部に領地を移転させられて臣下がいないだろ?」
「なるほど!」
貴族家を継承できるのは、一人だけ。
長男が有利だ。
次男以降は、貴族家を継承出来ない。
それでも貴族家に産まれれば、教育を受ける。
貴族としての必要な常識、読み書きや一般的な教養、剣術など最低限の武術を身につけている。
ジロンド子爵家や配下の貴族で持て余している貴族子弟をエトワール伯爵家に送り込む。
人材不足のエトワール伯爵家では、重宝されることは間違いない。
騎士ダリアスは、興奮してつい大きな声を出した。
「エトワール伯爵領内にジロンド派を形成するわけですな!」
ジロンド子爵は手を上げて、騎士ダリアスを抑える。
「まあ、そこまで露骨にはやらないよ。影響力を強めておくのさ。それから、農民も付けよう。農民の次男坊、三男坊も土地を継げないからな」
「なるほど。農民もつければ、領地をもらうジロンド派が出ますな」
「うん。領都ベルメールは急速に広がっているのだろう? なら、周囲に農村が広がるのも時間の問題だろう。エトワール伯爵は農民が欲しいはずだ。農家の次男以降で希望者を募ってくれ」
「かしこまりました!」
ジロンド子爵は南部の有力者の一人である。
エトワール伯爵家に肩入れを始めた。
この肩入れは、他の南部貴族にも伝わり、他の南部貴族も動き出した。
ノエル・エトワールが奮発した礼金は思わぬ効果を上げたのであった。
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