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第四章 国際都市ベルメールへ
第67話 ダークエルフの御婆様
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夕食を食べ終わったが、まだ外は明るい。
エトワール伯爵領の夏は日が長いようだ。
妹のマリーと食堂で楽しくおしゃべりをしていると、執事のセバスチャンが来客を告げた。
「ノエル様。ダークエルフの長老がお見えです。昼間の件で急ぎだと申しています」
昼間の件……つまりダークエルフのエクレールを王都に派遣し、俺の暗殺を企んだ国王と宰相のケツを蹴飛ばせと命令した件だ。
「すぐに応接室へ!」
「かしこまりました!」
執事のセバスチャンも事態を理解している。
引き締まった顔で返事をした。
「お兄様。どうしたのですか?」
妹のマリーが心配そうに、俺の様子をうかがう。
「大丈夫だよ。お仕事の打ち合わせをするだけだよ」
「そうなのですね!」
「ああ。マリーは、みーちゃんとお風呂に入って来なさい」
「はーい!」
ネコネコ騎士のみーちゃんに目配せをすると、どうやら察してくれたようでマリーをお風呂に連れて行ってくれた。
俺は応接室でダークエルフの長老と向き合う。
ダークエルフの長老は、俺にセーターをプレゼントしてくれた御婆様だ。
「ノエル坊。遅い時間に悪いね」
「御婆様。気にしないで下さい。夏は日が長いです」
俺とダークエルフの長老は、『ノエル坊』『御婆様』と呼び合い親しげに言葉を交す。
もちろん、これはわざとだ。
政治的な効果を狙っている。
ダークエルフは、我がエトワール伯爵領に住み着いた。
ダークエルフたちは、領主である俺に感謝しているそうだ。
だが、一族の人間全てが俺に心服しているわけではないと思う。
表面上は、俺に愛想良く挨拶をするし、笑顔を見せるが……。『また追い出されるのではないか?』と不安を感じている者もいるだろう。
中には、『人族は信じられない』と人族に不信感を持つ者がいるかもしれない。
そこで、俺とダークエルフの長老が親しげに振る舞ってみせる。
俺はダークエルフの者と同じように長老を『御婆様』と呼び、『ノエル坊』と気安く呼ばれることを許す。
祖母と孫のような関係を周囲に見せることで、ダークエルフの一族が安心する効果を狙っているのだ。
俺はダークエルフの一族を手放すつもりはないぞ。
海に出て漁をしてくれる。
きっちり税を納めているし、ダークエルフたちのおかげで美味しい魚やエビ、カニ、貝が食べられる。
妹のマリーも喜んでいるのだ。
執事のセバスチャンなど、焼き魚に夢中だ。
これからもダークエルフとは良い関係を紡いでいきたい。
ダークエルフの長老も、俺の狙いはわかった上で乗って来ているのだろう。
ダークエルフの一族内が安定するのは、長老としても願っていることだろう。
執事のセバスチャンも、心得たもので、ダークエルフの長老を咎めるようなことはしない。
ダークエルフの長老――御婆様は無駄口を叩かず用件を切り出した。
「ノエル坊。エクレールから聞いたよ。今回の王都行きの仕事、ダークエルフの一族として引き受けさせておくれ」
「一族で?」
「ああ。一族には、こういった仕事に手慣れた者がいるのさ。エクレールに人を付けて、一緒に仕事をさせるよ」
「ほう……!」
俺は好意的な声を上げた。
エクレールをサポートする人間がいれば、仕事の成功確率が上がるだろう。
非常に心強い。
「ただね。複数人を王都へ送り込むとなると、色々物入りなのさ」
「活動費ですね?」
「そうさ。それなりに時間がかかりそうな話だからね。安全なアジトを王都に用意した方が良い。情報を集めるのに、鼻薬が必要なこともあるさね」
鼻薬……ワイロのことだ。
「もちろん経費は出します。礼もします。任せるので成果を出して下さい」
領主はあまり細かなことを言ってはダメだ。
もちろん無駄遣い、浪費の類いはNGだが、今回のダークエルフに支払うお金は、我がエトワール伯爵家が生存するための活動費・工作費なのだ。
ケチるべきではない。
必要な金を出し、後は任せる。
それで良い。
御婆様は、ケヒョケヒョと愉快そうに笑う。
「ノエル坊は物わかりが良くて助かるよ! じゃあ、こちらで人繰りをして王都に送り込むとするかね……」
御婆様の目の奥がギラリと光った。
本気のダークエルフ一族か……期待できそうだ!
「人選はお任せします。ベストなメンバーを頼みます」
「任せとくれ!」
御婆様は、杖を突きながら帰っていった。
これで対国王・対宰相にメッセージを送る作戦は万全だろう!
エトワール伯爵領の夏は日が長いようだ。
妹のマリーと食堂で楽しくおしゃべりをしていると、執事のセバスチャンが来客を告げた。
「ノエル様。ダークエルフの長老がお見えです。昼間の件で急ぎだと申しています」
昼間の件……つまりダークエルフのエクレールを王都に派遣し、俺の暗殺を企んだ国王と宰相のケツを蹴飛ばせと命令した件だ。
「すぐに応接室へ!」
「かしこまりました!」
執事のセバスチャンも事態を理解している。
引き締まった顔で返事をした。
「お兄様。どうしたのですか?」
妹のマリーが心配そうに、俺の様子をうかがう。
「大丈夫だよ。お仕事の打ち合わせをするだけだよ」
「そうなのですね!」
「ああ。マリーは、みーちゃんとお風呂に入って来なさい」
「はーい!」
ネコネコ騎士のみーちゃんに目配せをすると、どうやら察してくれたようでマリーをお風呂に連れて行ってくれた。
俺は応接室でダークエルフの長老と向き合う。
ダークエルフの長老は、俺にセーターをプレゼントしてくれた御婆様だ。
「ノエル坊。遅い時間に悪いね」
「御婆様。気にしないで下さい。夏は日が長いです」
俺とダークエルフの長老は、『ノエル坊』『御婆様』と呼び合い親しげに言葉を交す。
もちろん、これはわざとだ。
政治的な効果を狙っている。
ダークエルフは、我がエトワール伯爵領に住み着いた。
ダークエルフたちは、領主である俺に感謝しているそうだ。
だが、一族の人間全てが俺に心服しているわけではないと思う。
表面上は、俺に愛想良く挨拶をするし、笑顔を見せるが……。『また追い出されるのではないか?』と不安を感じている者もいるだろう。
中には、『人族は信じられない』と人族に不信感を持つ者がいるかもしれない。
そこで、俺とダークエルフの長老が親しげに振る舞ってみせる。
俺はダークエルフの者と同じように長老を『御婆様』と呼び、『ノエル坊』と気安く呼ばれることを許す。
祖母と孫のような関係を周囲に見せることで、ダークエルフの一族が安心する効果を狙っているのだ。
俺はダークエルフの一族を手放すつもりはないぞ。
海に出て漁をしてくれる。
きっちり税を納めているし、ダークエルフたちのおかげで美味しい魚やエビ、カニ、貝が食べられる。
妹のマリーも喜んでいるのだ。
執事のセバスチャンなど、焼き魚に夢中だ。
これからもダークエルフとは良い関係を紡いでいきたい。
ダークエルフの長老も、俺の狙いはわかった上で乗って来ているのだろう。
ダークエルフの一族内が安定するのは、長老としても願っていることだろう。
執事のセバスチャンも、心得たもので、ダークエルフの長老を咎めるようなことはしない。
ダークエルフの長老――御婆様は無駄口を叩かず用件を切り出した。
「ノエル坊。エクレールから聞いたよ。今回の王都行きの仕事、ダークエルフの一族として引き受けさせておくれ」
「一族で?」
「ああ。一族には、こういった仕事に手慣れた者がいるのさ。エクレールに人を付けて、一緒に仕事をさせるよ」
「ほう……!」
俺は好意的な声を上げた。
エクレールをサポートする人間がいれば、仕事の成功確率が上がるだろう。
非常に心強い。
「ただね。複数人を王都へ送り込むとなると、色々物入りなのさ」
「活動費ですね?」
「そうさ。それなりに時間がかかりそうな話だからね。安全なアジトを王都に用意した方が良い。情報を集めるのに、鼻薬が必要なこともあるさね」
鼻薬……ワイロのことだ。
「もちろん経費は出します。礼もします。任せるので成果を出して下さい」
領主はあまり細かなことを言ってはダメだ。
もちろん無駄遣い、浪費の類いはNGだが、今回のダークエルフに支払うお金は、我がエトワール伯爵家が生存するための活動費・工作費なのだ。
ケチるべきではない。
必要な金を出し、後は任せる。
それで良い。
御婆様は、ケヒョケヒョと愉快そうに笑う。
「ノエル坊は物わかりが良くて助かるよ! じゃあ、こちらで人繰りをして王都に送り込むとするかね……」
御婆様の目の奥がギラリと光った。
本気のダークエルフ一族か……期待できそうだ!
「人選はお任せします。ベストなメンバーを頼みます」
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