上 下
64 / 92
第四章 国際都市ベルメールへ

第64話 審査結果 冒険者ギルド開設

しおりを挟む
「アミーさん!」

 俺は手を振りながら、アミーさんに駆け寄る。
 アミーさんの護衛を務める冒険者たちが、スッとさりげなく動いてアミーさんを守れるポジションを取った。

 すると、スルスルと滑るようにエルフのシューさんが俺の前に出て、クルクルと魔法の杖を回した。こちらも油断がない。

 一瞬で護衛対象をカバーする。
 護衛冒険者の名人芸を見せられ、俺はホゥっと息を吐いた。

 アミーさんが、すぐに護衛の冒険者を制する。

「大丈夫。こちらは、ご領主のエトワール伯爵です」

「「「「「失礼しました」」」」」」

 五人の冒険者が頭を下げ謝罪し、俺とアミーさんとの間を空ける。
 俺の護衛を務めるシューさんも緊張をゆるめ、スッと横にどく。

 五人の冒険者はなかなかの面構えで、使い込んだ革鎧からベテランの冒険者だとわかる。
 俺はアミーさんに話しかける体で、護衛の冒険者たちを褒めた。

「良い護衛ですね!」

「ありがとうございます。彼らは顔なじみの冒険者で、たまたま他の冒険者ギルドから移動してきたのです」

 へえ。どうりでみたことがない顔だ。
 お隣の冒険者ギルド――フォー辺境伯の領都デバラスの冒険者ギルドは、何度かお邪魔している。
 デバラスの冒険者たちは、騒々しくも肩の凝らない雰囲気なのだ。

 今回、アミーさんが護衛として連れている冒険者は違う雰囲気で、どっしりと落ち着いた印象を受ける。

 挨拶が終ったところで、領主屋敷に向かった。


 領主屋敷の応接室でアミーさんと向き合って座る。
 執事のセバスチャンが、お茶を淹れ、お茶請けにオレンジのドライフルーツが添えられた。

 お茶を一口、お茶請けを一つまみして、いよいよ本題だ。

「審査の結果をお伝えいたします。エトワール伯爵領に冒険者ギルドを開設する審査ですが……通りました! おめでとうございます!」

「やったー!」

 俺は両手を上げ飛び上がって喜んだ!
 これで領地の収入が増える!
 冒険者が来れば人口も増える!

「やったニャー!」
「お兄様! 良かったですね!」
「ノエル様! おめでとうございます!」
「ふう。これで楽が出来る」

 いつものメンバーが喜び、祝いの言葉を贈ってくれる。
 若干一名不穏なコメントをしているがスルーだ。
 エトワール伯爵領に余剰人員はない。
 シューさんにも働いてもらう。

「それで、審査についてですが、将来性とエトワール伯爵様のご提案が好評価されました」

 アミーさんが審査結果について、書類を広げながら詳しく説明してくれた。

 まず将来性!
 エトワール伯爵領は、南側に広大な魔の森を抱えている。。
 魔の森は手つかずの資源の宝庫であると、冒険者ギルド側の期待は非常に高いそうだ。

 さらに、冒険者による実地調査の結果も良好だった。
 エトワール伯爵領付近の魔の森は、ホーンラビットなど初心者冒険者でも倒せる魔物が出現する。
 少し足を伸ばすと、ブラッディベアーなど中級冒険者向きの魔物が出現するそうだ。

 後ろから書類を覗いていたエルフのシューさんが、ぼそっと言葉を発した。

「ふーん……獣系の魔物が多いね。販売額が高くなりそう」

「そうなの?」

「獣系は、食肉、毛皮、角、爪と売れる部位が多い」

「へー! そうなんだ! 割の良いオイシイ獲物ってこと?」

「そう。私もヒマな時は狩りに行く」

 我がエトワール伯爵領の周囲には、高く売れる魔物が多く生息しているということか……。
 俺は頭の中で魔物が背中に金貨を背負っている姿をイメージしてしまった。
 魔物は怖いが、お金になると思うと、また違った印象を持つ。

 アミーさんが、情報を補足する。

「そうですね。売却額の高い魔物が多く生息していたのもプラス評価でした。薬草も生えていますね。ただ、鉱石は今回の探索では見つかりませんでした」

「今後に期待ですね」

 石油が湧いているのだ。
 地下資源である鉱石も何かあるのではないだろうか?
 俺は魔の森の奥に期待を寄せた。

 ただ、わからないこともある。
 俺の提案が好評価された件だ。
 何か提案した記憶がないのだが……。

「アミーさん。私の提案というのは?」

「引退した冒険者を雇用する件です」

「それは、アミーさんのご提案では……?」

 引退した冒険者をエトワール伯爵領の宿屋で雇う。
 他にも働き口はいくらでも作れる。
 だが、この件を提案してくれたのはアミーさんだ。

「あっ! 手柄を譲ってくれたんですか!?」

「ふふ……。そんなところですね! それから、ギルド長は私が務めることになりました。ご領主様、よろしくお願いいたします」

 アミーさんが、ニッコリと笑った。

 やられたな。
 つまり俺はギルド長に借りを作ってしまったわけだ。
 初手からアミーさんのペースだ。

 だが、悪い気はしない。
 色っぽいお姉さんがギルド長なんて最高かよ!

 俺は元気に返事をした。

「こちらこそ! よろしくお願いします!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生墓守は伝説騎士団の後継者

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:33

転生したら竜王様の番になりました

nao
恋愛 / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:1,187

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:276pt お気に入り:2,501

平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:32,128pt お気に入り:1,731

偽聖女はもふもふちびっこ獣人を守るママ聖女となる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,256pt お気に入り:4,005

不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:3,849

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,705pt お気に入り:3,561

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,205pt お気に入り:3,388

処理中です...