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第三章 ノエル南部に立つ!
第37話 開拓村にてお宝発見!
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俺たちは、開拓村に到着した。
村の入り口に停めた馬車から降りて様子を見る。
「うわぁ……ヒドイ……」
思わず声が漏れてしまった。
ジロンド子爵が騎竜から下りて、呆れた声を出す。
「これだけボロイ家は、なかなかないな……」
村の入り口に一軒木造の家が建っている。
建っていると言うのは、正確じゃない。
かろうじて建っていると言った方が良いだろう。
家は傾き壁には穴が空き、屋根には草が生えている。
なかなかのボロ家だ。
俺がボロ家に入ろうとすると、ジロンド子爵が手で制した。
ジロンド子爵は、腰から剣を抜きボロ家の中に向かって呼びかけた。
「誰かいないか? オーイ!」
返事はない。
ジロンド子爵が、配下の竜騎兵に向けて手で合図を送った。
合図を送られた若い竜騎兵は、騎竜から飛び降りると大ぶりなナイフを持って、ボロ家の中に入った。
俺とジロンド子爵は、ボロ家の外でジッと待つ。
しばらくして、若い竜騎兵が出てきた。
「誰もいません。魔物もいません。安全です」
「ご苦労! さて、エトワール伯爵、中を調べて見るか?」
「ええ。見てみましょう」
ボロ家の中に足を踏み入れる。
玄関のドアを入ってすぐの部屋は、食堂兼居間のようだ。
簡素な竈があり、足が一本折れたテーブルが斜めになっている。
椅子も四脚ある。
木製のカップが床に転がっていた。
人が生活していた形跡を見つけて、俺は少しホッとする。
ジロンド子爵が、食堂を見回す。
「ホコリがたまってるし、汚れているな。人は住んでいない」
「そのようですね」
ボロ家の外に出ると、フォー辺境伯が俺を呼んだ。
「オーイ! こっちに来てみろ! 畑は手が入ってるぞ!」
ボロ家の裏は、畑になっていた。
畑といっても狭くて家庭菜園レベルだ。
「野菜ですね!」
「ダダ豆だな」
小さな畑では、ダダ豆と呼ばれる野菜が育てられていた。
ダダ豆は、インゲンのような野菜で、さやごと食べられる。
「ということは、村人がいるな。エトワール伯爵、どうする?」
ジロンド子爵が、俺に行動を決定しろと促した。
そうだ、ここはエトワール伯爵領、俺の領地だ。
俺が指示を出さなくてはならない。
「私とジロンド子爵で、村の中を探索しましょう。フォー辺境伯は騎竜で村の周囲を調べて下さい。馬車と他の方は村の入り口で待機して、魔物の襲撃に備えて下さい」
「「「「「「了解!」」」」」」
俺とジロンド子爵が村の中を調べようと歩き出した。
ジロンド子爵の護衛をする竜騎兵が、騎竜に乗ったまま続く。
エルフのシューさんもついてきた。
俺の護衛だ。
「シューさん。護衛をお願いします」
「任せて」
気のない返事だが、目は左右に動かして周囲を警戒している。
任せて安心だ。
村の入り口から、雑草が生えた道が続いている。
道自体は馬車が通れる幅があるので、村の開拓を始めた時にちゃんと道を作ったのだろう。
土がむき出したが、しっかりならしてある。
良い道だ。
ただ、雑草の生え具合から判断すると、それほど交通量は多くない。
つまり村人は、それほど多くないのだろう。
道はなだらかな丘にそって続いている。
村自体は、そこそこの広さがあるようだ。
俺たちは道にそって丘を登った。
丘を登り切ると、シューさんが前方を指さした。
「前方から人、男性、老人」
「おっ! 村人だな!」
ボロイ服を着た老人だ。
俺たちの姿に気が付くと、ぽかーんとした顔をした。
俺たちは丘を下って、老人に近づいた。
ジロンド子爵が前に出て老人に話しかける。
「私はジロンド子爵。こちらは王都からいらっしゃったエトワール伯爵だ。王命により、この辺り一帯の領主に任じられた」
ジロンド子爵は、いつもの気軽な感じではなく、わりとフォーマルに名乗り、俺を紹介した。
平民相手とはいえ、最初の印象は大切だ。
領主として俺がなめられないように気を遣ってくれたのだ。
老人は、ジロンド子爵と俺を交互に見て、ハッとして頭を下げた。
「これは! これは! 貴族様! 私は、この村の村長でベントと申します!」
俺は村長のベントに村の様子を聞いてみた。
「ベント老人。この村は三年前に開拓したと聞いたが、どんな具合かな?」
「はい。ご領主様。ひどい物でございます……」
ベント老人が、とつとつと話し始めた。
村の開拓は三年前に始まった。
王都近郊から集められた人々が移住し、国王から資金援助もあった。
家を建て、畑を耕し、果物の苗木を植えた。
第一弾の移住者、第二弾の移住者――と、移住者が続いた。
だが、魔物の森に隣接している村なので、魔物に襲われ命を落とす者が相次いだ。
畑も問題だった。
魔の森を切り倒し、畑を作るのだが、一月もすると元の状態に戻ってしまうそうだ。
なぜだろうか?
俺はジロンド子爵に聞いてみた。
「ジロンド子爵。なぜ、開拓した畑が魔の森に戻ってしまうのでしょうか?」
「うーん。魔の森は、そういうモノだとしか言えないな」
ジロンド子爵によれば、魔の森を開拓しても元に戻ってしまうのは、どこでも同じらしい。
長い年月をかけて魔の森に生える木を何度も切り倒していると、徐々に魔の森に戻らなくなるそうだ。
そばで聞いていたエルフのシューさんが、話に加わる。
「魔の森は魔素が濃いから、魔の森で育つ植物は早く育つ」
「魔素?」
「そう、魔力の元になるのが魔素。目には見えないが存在している」
酸素みたいな物だろうか?
俺はシューさんに続きを促す。
「魔の森がある土地は、魔素が濃い。人が手を加えて、何度も魔の森を切り開くと土地の魔素が徐々に減っていく。最後には土地から魔素が抜けて、魔の森ではなくなる――と、エルフではいわれている」
「なるほど……魔素ねえ……やっかいだな」
普通の森を開拓するのとは、わけが違うようだ。
俺が腕を組んでうなると、ジロンド子爵が誇らしげに語り始めた。
「俺たちが住んでいる町や村は、長い年月をかけて祖先が開拓したのさ。領地貴族は、代々領民を率いて魔物や魔の森自体と戦った。だから、領地貴族は土地を愛している」
ジロンド子爵から土地持ち貴族の気概を感じた。
かつてエトワール伯爵領でも行われていたのかもしれない。
代々の土地を手放してご先祖様に申し訳ないな。
少々気持ちがへこむ。
ジロンド子爵が、疑問を口にした。
「だが、一月で開拓した畑が魔の森に戻るのは、早いな……。普通は季節一つ分かかるぞ。間違いないのか?」
「はい。ここの魔の森は、特に手強いようで、なかなか畑が広がりません」
「エルフ殿が言うところの魔素が濃いのか……」
「そう。魔素が濃いから」
ジロンド子爵が首をひねり、エルフのシューさんがズバッと言い切る。
とにかく、ここの魔の森は魔素が濃い土地で、開拓が大変なことは間違いない。
最大規模の魔の森なのだから、魔素が濃いのも納得だ。
また、ベント老人が村について話し出す。
村の畑がなかなか広がらず、常に食料が不足したそうだ。
生活は苦しかった。
一年経つと、最初に代官が逃げ出した。
代官が逃げ出すと、村人も徐々に逃げ出した。
村の人口は減り続け、百人いた村は、現在二十人しかいないそうだ。
俺はふと気になったことを口にしてみた。
「この村に来る途中オレンジがなっていたが収穫しないのか?」
「魔物が出るので、恐ろしくて村から外へは出られません」
「そうか……うーん……」
貴重な作物を収穫できないなんて、もったいない。
だが、戦闘経験のない農民では、魔物の存在は恐ろしいだろう。
村の防衛力や戦闘力アップも課題だ。
「村の入り口にあった家はどうしたのだ?」
「はい、あの家には番兵が四人住んでおりましたが、代官と一緒に逃げてしまいました」
「国王からの援助は?」
「代官が逃げてからはございません」
「納税は?」
「しておりません。自分たちが食べる食料にも事欠いている始末です。それに……」
「まだ、あるのか!?」
「川の水が汚れております」
ベント老人は困り果てていた。
俺は頭が痛くなった。
畑は広がらない。
魔物が出る。
代官や兵士が逃げる。
国王からの援助はない。
水が汚れている。←NEW!
よくもまあ、これだけ条件の悪い土地を押しつけたものだ。
ベント老人に一通り話を聞いて、村を案内してもらった。
村人たちは、村の中央部にまとまって住んでいた。
人が住んでいる家も、なかなかボロかった。
畑はどこも狭い。
そして、村人はみんな痩せている。
年寄りもいるし、子供もいる。
若夫婦もいたので、一応労働力はあるようだ。
「それから川が問題だったな……。川へ案内してくれ」
「川は村の西側にございます」
村の西側……つまり、村の入り口と逆側だ。
ベント老人の案内で川へ到着した。
「なんだ? これは?」
小川なのだが、水が黒い。
おまけに臭いが強い。
「二年前に、少し先で黒い水が出たのです。黒い水が小川に流れ込み、この川は使えなくなってしまいました」
ベント老人が身振り手振りを交えて夢中で話をする。
この小川は洗濯などでも使っていた生活用水だった。
だが、魔の森を開拓して、井戸を掘っていたら黒い水が出た。
小川は使えなくなり、住民の生活は不便になったそうだ。
「黒い水は、どこから川に流れ込むのだ? せき止めれば良いと思うのだが?」
「黒い水は、もうちょっと上の方から川に流れ込んでいます。コンコンと湧き出て沼になっておりまして、せき止めるのは難しいです」
「わかった。見に行こう」
ベント老人に案内され黒い水が湧き出る場所に来た。
川を上流にさかのぼり、少し川から離れた場所だ。
「うわっ! 臭いな~!」
ジロンド子爵が悲鳴を上げる。
黒い水の臭いがキツイ。
俺もジロンド子爵も思わず服の袖で鼻を覆った。
あれ?
でも、この臭いはどこかで嗅いだことがあるぞ……。
どこだったか……あっ!
俺は黒い水の正体がわかった。
石油だ!
前世日本で嗅いだガソリンや灯油の臭いに似ているのだ。
これは原油が湧き出ているのではないか?
もしも、原油が湧き出ているなら、生産スキルを使ってゴムやプラスチックなど石油製品を作れるのではないか?
俺は期待にテンションがガンガン上がっていくのを感じた。
俺は沼に近づき黒い水を指先ですくってみた。
粘り気があり、石油特有の臭いがする。
「オイオイ! エトワール伯爵! 触って大丈夫か?」
「ジロンド子爵。少しくらいなら大丈夫です」
ジロンド子爵が、石油を触る俺を心配して声を掛けた。
俺の知る限りこの世界に石油製品はない。
ランプはあるが、油は植物油だ。
もちろん燃焼用の油としての石油にも価値はあるが、原材料としての価値は計り知れない。
俺の生産スキルを使えば、石油を精製するなど複雑な過程を飛ばして石油製品が作れる!
(これは……思わぬお宝を手に入れたかもしれないぞ!)
俺はニヤリと笑った。
村の入り口に停めた馬車から降りて様子を見る。
「うわぁ……ヒドイ……」
思わず声が漏れてしまった。
ジロンド子爵が騎竜から下りて、呆れた声を出す。
「これだけボロイ家は、なかなかないな……」
村の入り口に一軒木造の家が建っている。
建っていると言うのは、正確じゃない。
かろうじて建っていると言った方が良いだろう。
家は傾き壁には穴が空き、屋根には草が生えている。
なかなかのボロ家だ。
俺がボロ家に入ろうとすると、ジロンド子爵が手で制した。
ジロンド子爵は、腰から剣を抜きボロ家の中に向かって呼びかけた。
「誰かいないか? オーイ!」
返事はない。
ジロンド子爵が、配下の竜騎兵に向けて手で合図を送った。
合図を送られた若い竜騎兵は、騎竜から飛び降りると大ぶりなナイフを持って、ボロ家の中に入った。
俺とジロンド子爵は、ボロ家の外でジッと待つ。
しばらくして、若い竜騎兵が出てきた。
「誰もいません。魔物もいません。安全です」
「ご苦労! さて、エトワール伯爵、中を調べて見るか?」
「ええ。見てみましょう」
ボロ家の中に足を踏み入れる。
玄関のドアを入ってすぐの部屋は、食堂兼居間のようだ。
簡素な竈があり、足が一本折れたテーブルが斜めになっている。
椅子も四脚ある。
木製のカップが床に転がっていた。
人が生活していた形跡を見つけて、俺は少しホッとする。
ジロンド子爵が、食堂を見回す。
「ホコリがたまってるし、汚れているな。人は住んでいない」
「そのようですね」
ボロ家の外に出ると、フォー辺境伯が俺を呼んだ。
「オーイ! こっちに来てみろ! 畑は手が入ってるぞ!」
ボロ家の裏は、畑になっていた。
畑といっても狭くて家庭菜園レベルだ。
「野菜ですね!」
「ダダ豆だな」
小さな畑では、ダダ豆と呼ばれる野菜が育てられていた。
ダダ豆は、インゲンのような野菜で、さやごと食べられる。
「ということは、村人がいるな。エトワール伯爵、どうする?」
ジロンド子爵が、俺に行動を決定しろと促した。
そうだ、ここはエトワール伯爵領、俺の領地だ。
俺が指示を出さなくてはならない。
「私とジロンド子爵で、村の中を探索しましょう。フォー辺境伯は騎竜で村の周囲を調べて下さい。馬車と他の方は村の入り口で待機して、魔物の襲撃に備えて下さい」
「「「「「「了解!」」」」」」
俺とジロンド子爵が村の中を調べようと歩き出した。
ジロンド子爵の護衛をする竜騎兵が、騎竜に乗ったまま続く。
エルフのシューさんもついてきた。
俺の護衛だ。
「シューさん。護衛をお願いします」
「任せて」
気のない返事だが、目は左右に動かして周囲を警戒している。
任せて安心だ。
村の入り口から、雑草が生えた道が続いている。
道自体は馬車が通れる幅があるので、村の開拓を始めた時にちゃんと道を作ったのだろう。
土がむき出したが、しっかりならしてある。
良い道だ。
ただ、雑草の生え具合から判断すると、それほど交通量は多くない。
つまり村人は、それほど多くないのだろう。
道はなだらかな丘にそって続いている。
村自体は、そこそこの広さがあるようだ。
俺たちは道にそって丘を登った。
丘を登り切ると、シューさんが前方を指さした。
「前方から人、男性、老人」
「おっ! 村人だな!」
ボロイ服を着た老人だ。
俺たちの姿に気が付くと、ぽかーんとした顔をした。
俺たちは丘を下って、老人に近づいた。
ジロンド子爵が前に出て老人に話しかける。
「私はジロンド子爵。こちらは王都からいらっしゃったエトワール伯爵だ。王命により、この辺り一帯の領主に任じられた」
ジロンド子爵は、いつもの気軽な感じではなく、わりとフォーマルに名乗り、俺を紹介した。
平民相手とはいえ、最初の印象は大切だ。
領主として俺がなめられないように気を遣ってくれたのだ。
老人は、ジロンド子爵と俺を交互に見て、ハッとして頭を下げた。
「これは! これは! 貴族様! 私は、この村の村長でベントと申します!」
俺は村長のベントに村の様子を聞いてみた。
「ベント老人。この村は三年前に開拓したと聞いたが、どんな具合かな?」
「はい。ご領主様。ひどい物でございます……」
ベント老人が、とつとつと話し始めた。
村の開拓は三年前に始まった。
王都近郊から集められた人々が移住し、国王から資金援助もあった。
家を建て、畑を耕し、果物の苗木を植えた。
第一弾の移住者、第二弾の移住者――と、移住者が続いた。
だが、魔物の森に隣接している村なので、魔物に襲われ命を落とす者が相次いだ。
畑も問題だった。
魔の森を切り倒し、畑を作るのだが、一月もすると元の状態に戻ってしまうそうだ。
なぜだろうか?
俺はジロンド子爵に聞いてみた。
「ジロンド子爵。なぜ、開拓した畑が魔の森に戻ってしまうのでしょうか?」
「うーん。魔の森は、そういうモノだとしか言えないな」
ジロンド子爵によれば、魔の森を開拓しても元に戻ってしまうのは、どこでも同じらしい。
長い年月をかけて魔の森に生える木を何度も切り倒していると、徐々に魔の森に戻らなくなるそうだ。
そばで聞いていたエルフのシューさんが、話に加わる。
「魔の森は魔素が濃いから、魔の森で育つ植物は早く育つ」
「魔素?」
「そう、魔力の元になるのが魔素。目には見えないが存在している」
酸素みたいな物だろうか?
俺はシューさんに続きを促す。
「魔の森がある土地は、魔素が濃い。人が手を加えて、何度も魔の森を切り開くと土地の魔素が徐々に減っていく。最後には土地から魔素が抜けて、魔の森ではなくなる――と、エルフではいわれている」
「なるほど……魔素ねえ……やっかいだな」
普通の森を開拓するのとは、わけが違うようだ。
俺が腕を組んでうなると、ジロンド子爵が誇らしげに語り始めた。
「俺たちが住んでいる町や村は、長い年月をかけて祖先が開拓したのさ。領地貴族は、代々領民を率いて魔物や魔の森自体と戦った。だから、領地貴族は土地を愛している」
ジロンド子爵から土地持ち貴族の気概を感じた。
かつてエトワール伯爵領でも行われていたのかもしれない。
代々の土地を手放してご先祖様に申し訳ないな。
少々気持ちがへこむ。
ジロンド子爵が、疑問を口にした。
「だが、一月で開拓した畑が魔の森に戻るのは、早いな……。普通は季節一つ分かかるぞ。間違いないのか?」
「はい。ここの魔の森は、特に手強いようで、なかなか畑が広がりません」
「エルフ殿が言うところの魔素が濃いのか……」
「そう。魔素が濃いから」
ジロンド子爵が首をひねり、エルフのシューさんがズバッと言い切る。
とにかく、ここの魔の森は魔素が濃い土地で、開拓が大変なことは間違いない。
最大規模の魔の森なのだから、魔素が濃いのも納得だ。
また、ベント老人が村について話し出す。
村の畑がなかなか広がらず、常に食料が不足したそうだ。
生活は苦しかった。
一年経つと、最初に代官が逃げ出した。
代官が逃げ出すと、村人も徐々に逃げ出した。
村の人口は減り続け、百人いた村は、現在二十人しかいないそうだ。
俺はふと気になったことを口にしてみた。
「この村に来る途中オレンジがなっていたが収穫しないのか?」
「魔物が出るので、恐ろしくて村から外へは出られません」
「そうか……うーん……」
貴重な作物を収穫できないなんて、もったいない。
だが、戦闘経験のない農民では、魔物の存在は恐ろしいだろう。
村の防衛力や戦闘力アップも課題だ。
「村の入り口にあった家はどうしたのだ?」
「はい、あの家には番兵が四人住んでおりましたが、代官と一緒に逃げてしまいました」
「国王からの援助は?」
「代官が逃げてからはございません」
「納税は?」
「しておりません。自分たちが食べる食料にも事欠いている始末です。それに……」
「まだ、あるのか!?」
「川の水が汚れております」
ベント老人は困り果てていた。
俺は頭が痛くなった。
畑は広がらない。
魔物が出る。
代官や兵士が逃げる。
国王からの援助はない。
水が汚れている。←NEW!
よくもまあ、これだけ条件の悪い土地を押しつけたものだ。
ベント老人に一通り話を聞いて、村を案内してもらった。
村人たちは、村の中央部にまとまって住んでいた。
人が住んでいる家も、なかなかボロかった。
畑はどこも狭い。
そして、村人はみんな痩せている。
年寄りもいるし、子供もいる。
若夫婦もいたので、一応労働力はあるようだ。
「それから川が問題だったな……。川へ案内してくれ」
「川は村の西側にございます」
村の西側……つまり、村の入り口と逆側だ。
ベント老人の案内で川へ到着した。
「なんだ? これは?」
小川なのだが、水が黒い。
おまけに臭いが強い。
「二年前に、少し先で黒い水が出たのです。黒い水が小川に流れ込み、この川は使えなくなってしまいました」
ベント老人が身振り手振りを交えて夢中で話をする。
この小川は洗濯などでも使っていた生活用水だった。
だが、魔の森を開拓して、井戸を掘っていたら黒い水が出た。
小川は使えなくなり、住民の生活は不便になったそうだ。
「黒い水は、どこから川に流れ込むのだ? せき止めれば良いと思うのだが?」
「黒い水は、もうちょっと上の方から川に流れ込んでいます。コンコンと湧き出て沼になっておりまして、せき止めるのは難しいです」
「わかった。見に行こう」
ベント老人に案内され黒い水が湧き出る場所に来た。
川を上流にさかのぼり、少し川から離れた場所だ。
「うわっ! 臭いな~!」
ジロンド子爵が悲鳴を上げる。
黒い水の臭いがキツイ。
俺もジロンド子爵も思わず服の袖で鼻を覆った。
あれ?
でも、この臭いはどこかで嗅いだことがあるぞ……。
どこだったか……あっ!
俺は黒い水の正体がわかった。
石油だ!
前世日本で嗅いだガソリンや灯油の臭いに似ているのだ。
これは原油が湧き出ているのではないか?
もしも、原油が湧き出ているなら、生産スキルを使ってゴムやプラスチックなど石油製品を作れるのではないか?
俺は期待にテンションがガンガン上がっていくのを感じた。
俺は沼に近づき黒い水を指先ですくってみた。
粘り気があり、石油特有の臭いがする。
「オイオイ! エトワール伯爵! 触って大丈夫か?」
「ジロンド子爵。少しくらいなら大丈夫です」
ジロンド子爵が、石油を触る俺を心配して声を掛けた。
俺の知る限りこの世界に石油製品はない。
ランプはあるが、油は植物油だ。
もちろん燃焼用の油としての石油にも価値はあるが、原材料としての価値は計り知れない。
俺の生産スキルを使えば、石油を精製するなど複雑な過程を飛ばして石油製品が作れる!
(これは……思わぬお宝を手に入れたかもしれないぞ!)
俺はニヤリと笑った。
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