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第二章 新領地への旅

第17話 ジロンド子爵と南国果実

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「シューさん……、どういうこと? 今回襲ってきたのは盗賊だよ?」

「そうニャ! シューは警戒しすぎニャ!」

 俺の疑問にネコネコ騎士のみーちゃんが同調する。
 シューさんは、切れ長の美しい目を鋭くさせ声に力を込める。

「よく考えて。毒、盗賊の夜襲、と続いたのが偶然かどうか?」

「そう言われると……」
「ニャ……」

「私はライルという男が怪しいと思っている」

「新人の盗賊だね。ライルが俺たちを襲う情報を持ち込んだと、盗賊の生き残りが言っていたな」

「ライルは自分で動かないで、網を張るタイプの刺客なのかもしれない」

「厄介だな……」
「にゃぁ……」

 俺とみーちゃんは、露骨に面倒だと顔に出した。
 直接攻撃してくるなら相手なら倒せば終わりだ。

 だが、シューさんが言うように、他者を動かして俺たちを襲わせるタイプの刺客なら、姿が見えないので、倒すのは難しい。

「仮にシューさんの言う通りだとしたら、凄腕の刺客だな……」

「そうだニャ」

 だが、シューさんは、俺とみーちゃんの考えとは違うようで、首を左右に振った。

「いや、一流の刺客とはいえない。一流なら一回の襲撃で標的を仕留める。襲撃に失敗すれば相手は警戒を強めるので、成功確率は下がる」

 なるほど。
 刺客は二回失敗している。
 俺たちは毒への対応策をとるし、襲撃への警戒も強くする。

 シューさんの言うことは理にかなっている。

「次は近くに現れるはず」

「えっ!?」

 シューさんの読みに俺は驚く。
 どうしてだろう?

「二回失敗したことで、刺客は焦っていると思う。刺客の取れる選択肢は二つ。襲撃をあきらめて、依頼者に失敗の報告をするか。それとも、襲撃の確実性を上げるか」

「襲撃の確実性を上げる? どうやって?」

「標的に近づく」

 俺と執事のセバスチャンの喉が、ゴクリと鳴った。
 確かに……、標的に近づけば暗殺の成功確率は高くなるだろう。

「もちろん。これは私の推測に過ぎない。毒と今夜の襲撃は関係がないバラバラの事象かもしれない」

「ですが、シュー様のおっしゃる通りに考え、警戒した方が良さそうですね」

「その通り。特にセバスチャンさんは、ノエルとマリーの身の回りに気を配って欲しい。口にする物、身につける物、二人に近づく人物……」

「かしこまりました。みーちゃん様もご協力いただけますか?」

「当然ニャ!」

 雨降って地固まる。
 盗賊の夜襲は、アクシデントだったが、チームワークは良くなった。
 なかなか頼もしい。

 俺は守りを固めるために、シューさんにお願いをした。

「シューさん。解毒剤を作って下さい。お金は払います。それから毒を探知する魔導具はないでしょうか?」

「材料があれば作れる」

「では、次の町で材料を買いましょう。それから、馬車に結界の魔導具を設置してはどうでしょう?」

「ん……悪くはないが、反撃が出来なくなる」

 俺の提案にシューさんは、イマイチ気乗りしないようだ。
 確かに結界の魔導具を発動すると、結界の中では害意を持てない。
 攻撃しようとすれば、結界の外にはじき出される。
 護衛のシューさんとしては、防御力が上がっても反撃が出来ないのでは、やりづらいのだろう。

「では、馬車を改造して、防御力を上げましょう。キャビンの壁を厚くするとか……」

「ニャ! 反撃のことも考えて欲しいニャ!」

「御者台の強化もお願いいたします」

 俺は馬車を改造する希望を聞きながら、頭の中で構想を練った。


 *


 ――翌日の昼過ぎ。

 俺たちは、大きな町に到着した。
 この町はジロンド子爵が治めている町で、ギャリアという。

 ジロンド子爵は南部貴族の中でも有力者の一人で、爵位は子爵ではあるが治めている領地はかなり広い。
 ジロンド子爵家は代々『疾風』とあだ名され、馬の代わりに小型の地竜に乗る精強な竜騎兵隊が有名だ。

 昨晩、俺たちが盗賊の夜襲を受けたエリアもジロンド子爵の領地だ。
 捕まえた盗賊男や倒した盗賊の死体を、ジロンド子爵に引き渡した。
 男は取り調べを受けた後、鉱山送りか、縛り首だろう。

 俺たちはジロンド子爵の屋敷に招かれ、お礼がてらのお茶をご一緒した。

「いやあ、助かりました! 盗賊を捕らえてもらって感謝ですよ!」

 ジロンド子爵は快活な人物だ。
 日焼けした丸い顔、ハキハキしたしゃべり方。
 いかにも南部人らしい。
 美形ではないが、親しみの感じる顔に人懐っこい笑顔で、なかなか魅力がある。

 執事のセバスチャンによる事前情報では、年齢は三十代前半で小さい子供が二人いるそうだ。

「盗賊退治のお礼をしたいのですが、何が良いでしょう?」

 ジロンド子爵が気を利かせた。
 現金……は、生産スキルを使って稼ぐアテがあるからいらない。

 俺は貴族の『つながり』をお願いした。

「私はこの度エトワール伯爵家を継承し、陛下より南部に領地をいただきました。南部は初めてですので、何かの時にはご支援をいただければ」

「もちろんですよ! 何でも気軽に相談して下さい! 南部は暖かくて良いところですよ!」

 ジロンド子爵は元気な人だ。
 声が少し大きいけれど、良い意味で貴族らしくなくて付き合いやすそうだ。

「そうだ! 領地に着いたら、フルーツの苗木を植えると良いですよ。すぐには結果が出ませんが、何年か後には豊かな実りがもたらされます」

 ジロンド子爵の言葉に妹のマリーが反応した。

「フルーツ! 食べたいです!」

「ハッハッハッ! マリーちゃんは、フルーツが好きか! 私も好きだよ! 庭にプレッシュを植えてあるから収穫して食べよう!」

「はいっ!」

 田舎の親戚という感じのノリで、マリーも喜んでいる。
 お言葉に甘えてプレッシュをご馳走になることにした。

 ジロンド子爵の案内で屋敷の庭に出ると、一部が果実園になっていた。
 高さ五メートルほどの木に、黄色いプレッシュの実が鈴なりだ。

「うわー! 凄い!」

 妹のマリーが手を叩いて喜ぶ。

「よし! 私が肩車をしてあげよう! マリーちゃんが収穫してくれ!」

「わー! 高い! 高い!」

 ジロンド子爵がマリーを肩車すると、マリーは大喜びだ。
 父はギャンブルばかりで、マリーは父との交流があまりなかった。
 ジロンド子爵の体当たりの歓待は、マリーにとって貴重な触れ合い経験だ。

 マリーがプレッシュの実をもいで、下にいる俺たちに渡す。
 王都育ちのマリーは、初めての経験に目をキラキラさせている。

 マリーの様子を見て、俺、執事のセバスチャン、護衛のみーちゃん、シューさんの目尻が下がる。

 プレッシュの実は、グレープフルーツに似た果物で。
 柑橘系特有の爽やかな香りがする。

 ナイフで切れ込みを入れて、手で皮をもぐ。
 実はきれいなピンク色をしている。
 ピンクグレープフルーツだな。

「このプレッシュの木は、ピンクの実がなる。ピンクは酸味が少なくて甘味が強い。さあ、召し上がれ!」

「「「「「いただきます!」」」」」

 プレッシュの実にかぶりつく。
 ブシュ! と果汁が口の中を満たす。

「ジューシーで美味しいですね!」

「そうでしょう! ウチの名産品なんですよ!」

 おっと! これは名産品を営業されてしまった!
 これだけ美味しければ売れるだろう。
 王都に運べば、かなりの売り上げが見込めるだろうな。
 日持ちするのかな?

「美味しい! ねえ! お兄様! 新しい領地でプレッシュの木を植えましょう!」

「おお! そうだね! 果物の木を沢山植えようね」

「ハッハッハッ! ライバル領地誕生だな!」

 おおらかなジロンド子爵のおかげで、俺たちはリラックスした午後を過ごした。
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