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第一章 王都から追放

第1話 父の死

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「ノエルぼっちゃま! 大変でございます! ご当主様が亡くなられました!」

「えっ!?」

 執事のセバスチャンが、俺の部屋に駆け込んで来るなり悲劇を告げた。

 俺はノエル・エトワール、元日本人の転生者だ。
 日本で女神様の使い魔である猫を助け、身代わりに交通事故で死んだ。
 女神様は俺に感謝をして異世界に転生させてくれた。

 転生した世界は、日本よりも文化レベルが遅れていた。
 王様がいて、貴族がいて、王子様やお姫様がいる。
 騎士や魔法使いが、魔物とよばれるモンスターと戦う。
 そんなファンタジーな世界だった。

 俺が転生したのはエトワール伯爵家で、もうすぐ十三才になる。
 ライトブルーの髪の毛に整った顔立ち。
 背丈は十三才にしては、小柄だと思う。

 俺は王都にあるエトワール伯爵家の屋敷にいるが、父は一人で王都の北方にある領地に帰っていた。
 そして領地で死んでしまったのだ。

 執事のセバスチャンが、直立不動で俺に告げる。

「ノエルぼっちゃまが、エトワール伯爵家を相続しなければなりません。至急、王宮へ使いを出し、爵位継承を願い出ましょう」

「ああ、使いを出してくれ。それで……父の死因は?」

「毒殺です……」

 セバスチャンが沈痛な表情で父の死因を告げた。
 俺は眉根を寄せる。

「妹のマリーには、病死と伝えてくれ……」

「かしこまりました。マリーお嬢様には、急な病をわずらったとお伝えいたします」

 父ハーマン・エトワール伯爵は、穏やかな人柄だった。
 高位貴族なのに偉ぶらず領民にも優しい理想的な領主だった。
 母との仲も良く、母が生きている頃のエトワール伯爵家は豊かな貴族家で、交易路から莫大な商業税を得ていた。

 だが、母が妹を産んですぐに亡くなると、父は不安定な性格になり、ギャンブルに熱中した。
 父はギャンブルで負け続け、領地の税収は借金のカタにとられてしまった。
 父はエトワール伯爵家の財産も次々と売り飛ばし、一発逆転とばかりにギャンブルにのめり込んだ。

 豊かだったエトワール伯爵家だったが、お金がなくなり使用人を次々と解雇し、食事も貧しくなった。
 夕食に出る肉は、向こう側が見えるくらいの超薄切り。
 パンは平民が食べるカチコチの黒パンをお湯にふやかして嵩を増す。
 俺は十三才、妹のマリーは八才で育ち盛りだが栄養が足りず、二人とも年のわりに小柄だ。

「はあ……」

 俺は深くため息をつくと、窓から部屋の外を見る。
 ここは王都の屋敷なのだが、庭には雑草が生え放題だ。
 使用人が少ないので、王都の屋敷も領地の本屋敷も手が回らない。

 室内に目を移す。
 貴族である俺や妹が室内を雑巾がけしているが、掃除が行き届いていないのでホコリっぽい。

 父の毒殺は……、たぶん……、ギャンブルがらみだろう。
 ついに命で負債を支払うことになったのだ。

「ふう……」

 ため息しか出ない。
 俺がこのエトワール伯爵家を継ぐのだが……。
 こんな借金だらけの貧乏貴族家をどうしろと……。
 異世界転生で貴族に生まれ変わったのに、上手く行かないな……。

 俺の部屋のドアがバンと開き、妹のマリーが飛び込んできた。
 目に涙を浮かべている。

「お兄様!」

「マリー!」

「お父様が……お父様が……。ああ!」

 妹のマリーが俺に抱きつき大きな声で泣いた。
 マリーの金色の柔らかい髪を、俺は優しくなでる。

 ああ、そうだ……。
 俺がしっかりしなくては!

 マリーは、この世界で唯一の俺の家族だ。
 マリーが安心して暮らせるようにしなくては!

 俺は天を仰ぎ小さな声でつぶやいた。

「天国の母上! どうかエトワール伯爵家をお守り下さい!」
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