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第2章 イカサマだらけの神のルーレット

2-2 ジョブは弓士でお願いします!

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「ジョブは弓士でお願いします!」

 ずっと考えていたのだ。
 俺は魔物が怖い。

 しかし、冒険者である以上は、魔物と戦わなくてはいけない。
 ではどうするか?

 そこで出した答えは、『魔物を遠い所から攻撃する』だ。

 魔法か弓矢。
 それが俺の選択だ。

 そして、この『鑑定紙』によると俺のステータスは、全てが最低の『H』だ。
 MPや魔力はあるけれど、Hではたかが知れているだろう。
 魔法を連発したらすぐにMP切れで攻撃が出来なくなりそうだ。

 ならば、弓の方が良いのでは?
 少なくとも矢が尽きない限りは、攻撃を続けられる。

「ふむ。悪くないな。オマエはオールHだし、まだ体が出来ていないから前衛職は向かん。後衛職の方が良いな。それで……MPも魔力もHと低い……。そうなると弓士は悪くない選択だ」

 セルゲイさんも俺の判断を支持してくれた。
 冒険者ギルドの受付が言うなら間違いないだろう。

「よし。では、このスクロールを開け」

 セルゲイさんは見た事のある巻物を取り出した。
 羊皮紙をクルリと巻いたスクロールだ。

 神様が枕元に置いたスクロールと似ている。
 違うのはリボンが茶色い点だ。

 俺はセルゲイさんの言う通り、茶色いリボンを外しスクロールを開いた。


 カッ!


「うおっ!」

 以前と同じようにスクロールから光が放たれた。
 光の量は神様から貰ったスクロールよりも少ない気がするが、体内に何かが取り込まれる感覚は同じだ。

 手元のスクロールを見る。



 ”弓士 ボーナス:スキル『弓術』付与 『器用』小上昇”



 おおっ!
 これで俺も弓を扱えるようになるのかな?

「よし。ナオト。この鑑定紙に手を置け」

 セルゲイさんが新しい鑑定紙をカウンターの上に置いた。
 鑑定紙の上に手を置くと俺の新しいステータスが鑑定紙に書き込まれた。



 -------------------



 ◆ステータス◆

 名前:ナオト・サナダ
 年齢:13才
 性別:男
 種族:人族

 ジョブ:弓士 LV1new!

 HP: H
 MP: H
 パワー:H
 持久力:H
 素早さ:H
 魔力: H
 知力: H
 器用: H-小上昇中 new!

 ◆スキル◆
 弓術 new!



 -------------------


 ジョブが『弓士』になった。
 器用に『小上昇』がついた。
 スキル『弓術』を取得した。


(なるほど……こうやってスクロールでジョブやスキルを得るのか……)

 俺がジッと鑑定紙を見ていると、セルゲイさんが咳払いをした。

「ゴホン! 今日はどうする? 何か仕事をするか?」

「いや、今日は止めておきます。十日間の護衛が終わったばかりですので、宿屋に行って休みます」

「そうか。それじゃあ、これが護衛の報酬だ。一日2000ラルクが十日間で、2万ラルク。1000ラルク銀貨で20枚だ。お疲れ様!」

 カウンターの上に置かれた銀貨20枚とギルドカードを受け取る。

 確か……アコーギさんの護衛は、相場の半額だと聞いた。
 すると護衛の相場は、一日4000ラルクか。

 定食が500ラルクだったが、一日4000ラルクが高いのか安いのか……。
 なんとも微妙な額だな。

「セルゲイさん。どこかオススメの宿屋はご存知ないでしょうか?」

「そうだな……。ここを出て右にある『ピョートル亭』が良いだろう。」

「わかりました。ありがとうございます!」

 立ち上がり出て行こうとするとセルゲイさんから声が掛かった。

「ああ、ナオト! 借金は半年以内に返せよ……」

「借金?」

 一体何の事だろう?
 借金なんてないが。

「弓士のスクロールが50万ラルク、鑑定紙が二枚で10万ラルク。合計60万ラルクだ。ギルドへの借金だ」

「!」

「半年で返せないと、奴隷として売られるからな。そのつもりで!」

 セルゲイはニンマリ笑った。



 俺は冒険者ギルドから離れた治安の良い場所にある旅館『狐のお宿』にチェックインした。
 個室で食事なし一泊5000ラルク。
 相場より高いらしいが、治安が良いエリアで、何より部屋が清潔だ。

 セルゲイに紹介された『ピョートル亭』には行かなかった。

 いや、だってさ。
 信用出来ないだろう。

 何の説明もなく、ジョブ登録を行って……。

『経費は借金だ。借金返せなかったら奴隷だからな』

 ……だもんね。

 セルゲイに紹介された宿屋に行ったら何をされるかわかったもんじゃない。
 お店で聞いたりして自分で安全な宿屋をみつけたよ。

 しかし、失敗した。
 いきなり借金を背負わされるとは……。

 前の街エルンストブルグのギルド長シメオンさんが親切だった。
 だから、すっかり油断していた。

 ジョブ登録に料金がかかるか事前に確認すべきだった。
 ひょっとしたらこんな風に何の説明もない、あわよくば金を巻き上げようとするのがこの世界の標準なのかもしれない。

 これからは気を付けなくちゃ。

(しかし、60万ラルクの借金ねえ……)

 今の俺には大金だ。

 護衛の仕事が一日4000ラルク。
 60万ラクルを4000ラクルで割ると……150……。
 護衛仕事150日分かあ。
 大雑把に考えると……半年弱働いて手にする金額……。

 いやいや!
 食事や宿代もあるから、半年間毎日護衛仕事をしたとしても返せない額だな……。
 最初から借金漬けにして、奴隷として売るのが狙いか?

(あり得るな! 俺が文字を読めると言ったら、やたら感心していたからな)

 もし、そうだとしたら……。
 ここのギルドで仕事をしても、まともに金を払って貰えないかもしれない。

 例えば手数料とか、特別な税金とか、何やかやと理由をつけて報酬の支払いを減らすだろう。
 そして俺を奴隷として売却する。

 うーん……。
 あそこが悪徳ギルドに思えて来た。
 そう考えると宿屋を紹介したのも俺が逃げないように監視する為じゃ……。

 ブルっと体が震えた。

 あそこのギルドはイカツイ人が揃っていた。
 逃げたら何をされるかわかったモンじゃない。

(だが、まあ、そんな事よりもだ。今は試したい事がある)

 これから試す事が上手く行けば、セルゲイに背負わされた借金も問題なくなる。

 俺は一つ息をすうと元気よく呪文を唱えた。

「ルーレット! カーム! ヒア!」
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