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第1章 路地裏の奴隷少年
1-8 冒険者登録
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「この街を出て行けだって!」
まだフィールスとやり合った興奮が収まっていない。
かなりキツイ口調でギルド長シメオンさんに言い返してしまった。
ギルド長シメオンさんは、俺をなだめる。
「まあ、そう怖い顔をしないで聞いてくれよ。オマエはエルンスト男爵家に敵対しちまったんだ」
「好きで敵対した訳じゃないですけどね。相手が無茶な要求をして来たからですよ」
「ああ、それは俺もわかっている。『もう一度奴隷になれ!』なんて、酷い話だと思うぜ。けどな、エルンスト男爵家はここの領主なんだ」
話しているうちに、だんだんと怒りが収まって来た。
この街の権力者に逆らってしまったと……。
「やっかいな事になりますか?」
「そうだな……街中にエルンスト男爵家からの圧力がかかるだろうな……旅館で宿泊を断られたり、店で食事を断られたり……」
村八分かよ。
陰湿だな。
「あのフィールスって人は随分と力があるんですね。彼も貴族ですか?」
「いや、フィールスさんは平民だよ。あの人は家令って言って、使用人のトップだ。男爵の代わりに領地経営をしているからな。店に圧力をかけるくらい造作もないさ」
「ひょっとして……ここも? 冒険者ギルドもですか?」
「まあ……俺もギルド長だからな。領主とは上手く付き合いたいと思っているよ。フィールスさんに何か頼まれたら……断れないな」
「……」
参ったな。
折角自由になれたのに、生活出来ないじゃないか!
しかし、どうするかな……。
仮に他の街へ引っ越すとしてもアテもないしな……。
かと言ってこの街に留まれば、泊る所はない、メシも食えない……。
うーん……。
俺が黙って考え込んでいるとギルド長シメオンさんが『ちょっと待ってろ』と言って部屋を出て行き、五分くらいして戻って来た。
一枚の書類を俺に渡した。
「この仕事を受けろ」
「仕事?」
ギルド長シメオンさんが渡した書類を読む。
粗末な紙に手書で、『商人の護衛任務』と書かれている。
「……護衛任務?」
「そうだ。その依頼を受けて外国へ行け」
「外国へ!?」
俺は書類からギルド長シメオンさんに視線を移した。
シメオンさんは淡々と話を続ける。
「外国ならエルンスト男爵家の影響は受けない。フィールスさんがオマエに何かしようとしても難しいだろう」
なるほど……。
確かにそうだな。
「その依頼は商人の護衛で外国まで行くからオマエに丁度良いだろう。まあ、報酬は安いが、仕事中は食事も出る」
食事付きは助かるな。
ただ俺は護衛なんてやった事がない。
俺に出来るのだろうか?
「シメオンさん。俺は護衛何てやった事がないですが、大丈夫ですかね?」
「ああ、大丈夫だ。護衛と言ってもこの依頼は安全なルートだから、魔物や盗賊はまず出ない。夜見張りをしたり、荷物の番をするのが仕事だよ。荒っぽい事にはならないだろうから、オマエさんでも十分やれるよ」
それなら俺でも出来そうだ!
悪い話じゃない。
「何と言う国へ行くのですか?」
「ザムザ自由都市同盟だ。あそこは商人が治めている自由都市の連合体でな。よその国の国王や貴族の影響が少ない」
「へえ……良さそうですね」
「護衛はザムザ自由都市連合に加盟する街、自由都市ノンゴロドまで十日間だ。ノンゴロドからは、オマエの好きにしろ。ノンゴロドで生活するもヨシ、他の街に行くのもヨシだ。どうだ? やるか?」
自由都市か。
響きが良いな。
他にあてもないしこの話に乗ろう。
「わかりました。やります!」
「よし! じゃあ、冒険者登録をしてくれ。出発はすぐだから急ごう」
すぐなのか!
急だな。
だが、考えようによっては……エルンスト男爵家のフィールスが何か仕掛けてくる前に、厄介事になる前に、この街から脱出出来るから良いともいえる。
ギルド長シメオンさんに連れられてロビーの受付カウンターに移動する。
中年の女性スタッフが登録と説明をしてくれた。
ベテランみたいで、余計な事は言わずにテキパキと進めてくれる。
このベテランスタッフの説明で俺はようやく冒険者や冒険者ギルドの事がわかった。
・冒険者には誰でもなれる。冒険者ギルドに登録すれば良い。
・登録料は1000ラルク。
・登録するとギルドカードが発行される。ギルドカードは身分証になる。
・特に審査はない。
なんとまあ。
無審査で身分証が発行されてしまうのかよ!
「あの……悪い人……犯罪者が登録してしまう事はないですか?」
「ありますよ」
「それは……問題なんじゃ?」
「そんな事を気にしていたら冒険者ギルドではやっていけないですよ。荒っぽい事がお仕事の中心ですからね。『腕っぷしが強ければ、過去は問わない』のが冒険者ギルドの方針です」
ベテランさんは、淡々と俺の質問に答えた。
そして声を潜めて忠告してくれた。
「冒険者の仕事は、死亡率が高いのですよ。常に人手不足です。だから、犯罪者だとか、何だとか気にしていられないのですよ。それから、最初の内は危険な仕事は避けて、報酬が安くても安全な仕事にした方が良いですよ」
「肝に銘じます……」
ベテランさんの説明は続く。
・冒険者の活動は自己責任。
・剣や鎧など装備品代、宿泊費、食事代などの経費は、冒険者自身が負担する。
・冒険者の収入から税金が引かれ冒険者ギルドが領主に納税する。
お金に関わる所なので真剣に聞いた。
「冒険者の収入は大きく二通りです。一つは今回の様に依頼を受け達成する事です。依頼は商隊の護衛や薬草の採取、魔物の討伐などがあります。もう一つはダンジョン探索です。ダンジョンで魔物を倒しドロップ品を冒険者ギルドに販売する事で収入を得られます」
うん?
聞き慣れない言葉が出て来たぞ。
「あの……ドロップ品とは?」
「ドロップ品はドロップ品ですよ。ドロップアイテムとも言います」
ベテランさんの態度は、『知っていて当然』だが、異世界から来た俺は知らん。
「すいません。俺は記憶を失くしてしまっていて、ドロップ品の事が思い出せないのです」
「ああ……。ダンジョンで魔物を倒すとアイテムを落とすのですよ。それがドロップ品です」
何それ!?
ゲームかよ!
(まあ、トライコーンみたいな化け物や魔法がある世界だからな。ドロップアイテムがあってもおかしくないか……)
「理解しました。続けて下さい」
「後は……冒険者同士で揉め事を起こさないで下さい。軽いケンカ位なら目こぼししますが、あまり酷いようですと除名処分になります」
これでひと通り説明は終わりらしい。
ベテランさんが羊皮紙を取り出した。
「字は書けますか? 代筆しますか?」
ああ!
どうだろう?
この世界の文字を読めるけれど書けるのだろうか?
書けそうな気もするがイマイチ自信がないので、代筆をお願いする事にした。
「名前は?」
「ありません。元奴隷なんで」
「えーと、じゃあ、名前はどうしましょう?」
「ちょっと考えるので後回しに……」
「年齢は?」
「覚えていません」
「希望するジョブは?」
「わかりません」
「得意な武器はや特技は?」
「わかりません」
「……」
「……」
しまった、ベテランさんを困らせてしまった。
でも、本当にわからないのだ。
この元奴隷少年の体に俺が転生してしまったから、自分自身についてもわからないことだらけなのだ。
「……私の方で適当に書いておきます。名前を考えておいてくださいね」
ベテランさんは、俺の登録書類に『年齢13才』とか本当に適当に記入を始めた。
こんなんで良いんだ……。
名前はどうしようかな……。
元奴隷だからドレイクとか?
ドレ……ドレラ……ドラゴ……。
俺ネーミングセンスないからな……。
うーん……。
「名前は決まりましたか?」
結局一番馴染んでいる日本名が良いか。
「ナオト・サナダでお願いします」
まだフィールスとやり合った興奮が収まっていない。
かなりキツイ口調でギルド長シメオンさんに言い返してしまった。
ギルド長シメオンさんは、俺をなだめる。
「まあ、そう怖い顔をしないで聞いてくれよ。オマエはエルンスト男爵家に敵対しちまったんだ」
「好きで敵対した訳じゃないですけどね。相手が無茶な要求をして来たからですよ」
「ああ、それは俺もわかっている。『もう一度奴隷になれ!』なんて、酷い話だと思うぜ。けどな、エルンスト男爵家はここの領主なんだ」
話しているうちに、だんだんと怒りが収まって来た。
この街の権力者に逆らってしまったと……。
「やっかいな事になりますか?」
「そうだな……街中にエルンスト男爵家からの圧力がかかるだろうな……旅館で宿泊を断られたり、店で食事を断られたり……」
村八分かよ。
陰湿だな。
「あのフィールスって人は随分と力があるんですね。彼も貴族ですか?」
「いや、フィールスさんは平民だよ。あの人は家令って言って、使用人のトップだ。男爵の代わりに領地経営をしているからな。店に圧力をかけるくらい造作もないさ」
「ひょっとして……ここも? 冒険者ギルドもですか?」
「まあ……俺もギルド長だからな。領主とは上手く付き合いたいと思っているよ。フィールスさんに何か頼まれたら……断れないな」
「……」
参ったな。
折角自由になれたのに、生活出来ないじゃないか!
しかし、どうするかな……。
仮に他の街へ引っ越すとしてもアテもないしな……。
かと言ってこの街に留まれば、泊る所はない、メシも食えない……。
うーん……。
俺が黙って考え込んでいるとギルド長シメオンさんが『ちょっと待ってろ』と言って部屋を出て行き、五分くらいして戻って来た。
一枚の書類を俺に渡した。
「この仕事を受けろ」
「仕事?」
ギルド長シメオンさんが渡した書類を読む。
粗末な紙に手書で、『商人の護衛任務』と書かれている。
「……護衛任務?」
「そうだ。その依頼を受けて外国へ行け」
「外国へ!?」
俺は書類からギルド長シメオンさんに視線を移した。
シメオンさんは淡々と話を続ける。
「外国ならエルンスト男爵家の影響は受けない。フィールスさんがオマエに何かしようとしても難しいだろう」
なるほど……。
確かにそうだな。
「その依頼は商人の護衛で外国まで行くからオマエに丁度良いだろう。まあ、報酬は安いが、仕事中は食事も出る」
食事付きは助かるな。
ただ俺は護衛なんてやった事がない。
俺に出来るのだろうか?
「シメオンさん。俺は護衛何てやった事がないですが、大丈夫ですかね?」
「ああ、大丈夫だ。護衛と言ってもこの依頼は安全なルートだから、魔物や盗賊はまず出ない。夜見張りをしたり、荷物の番をするのが仕事だよ。荒っぽい事にはならないだろうから、オマエさんでも十分やれるよ」
それなら俺でも出来そうだ!
悪い話じゃない。
「何と言う国へ行くのですか?」
「ザムザ自由都市同盟だ。あそこは商人が治めている自由都市の連合体でな。よその国の国王や貴族の影響が少ない」
「へえ……良さそうですね」
「護衛はザムザ自由都市連合に加盟する街、自由都市ノンゴロドまで十日間だ。ノンゴロドからは、オマエの好きにしろ。ノンゴロドで生活するもヨシ、他の街に行くのもヨシだ。どうだ? やるか?」
自由都市か。
響きが良いな。
他にあてもないしこの話に乗ろう。
「わかりました。やります!」
「よし! じゃあ、冒険者登録をしてくれ。出発はすぐだから急ごう」
すぐなのか!
急だな。
だが、考えようによっては……エルンスト男爵家のフィールスが何か仕掛けてくる前に、厄介事になる前に、この街から脱出出来るから良いともいえる。
ギルド長シメオンさんに連れられてロビーの受付カウンターに移動する。
中年の女性スタッフが登録と説明をしてくれた。
ベテランみたいで、余計な事は言わずにテキパキと進めてくれる。
このベテランスタッフの説明で俺はようやく冒険者や冒険者ギルドの事がわかった。
・冒険者には誰でもなれる。冒険者ギルドに登録すれば良い。
・登録料は1000ラルク。
・登録するとギルドカードが発行される。ギルドカードは身分証になる。
・特に審査はない。
なんとまあ。
無審査で身分証が発行されてしまうのかよ!
「あの……悪い人……犯罪者が登録してしまう事はないですか?」
「ありますよ」
「それは……問題なんじゃ?」
「そんな事を気にしていたら冒険者ギルドではやっていけないですよ。荒っぽい事がお仕事の中心ですからね。『腕っぷしが強ければ、過去は問わない』のが冒険者ギルドの方針です」
ベテランさんは、淡々と俺の質問に答えた。
そして声を潜めて忠告してくれた。
「冒険者の仕事は、死亡率が高いのですよ。常に人手不足です。だから、犯罪者だとか、何だとか気にしていられないのですよ。それから、最初の内は危険な仕事は避けて、報酬が安くても安全な仕事にした方が良いですよ」
「肝に銘じます……」
ベテランさんの説明は続く。
・冒険者の活動は自己責任。
・剣や鎧など装備品代、宿泊費、食事代などの経費は、冒険者自身が負担する。
・冒険者の収入から税金が引かれ冒険者ギルドが領主に納税する。
お金に関わる所なので真剣に聞いた。
「冒険者の収入は大きく二通りです。一つは今回の様に依頼を受け達成する事です。依頼は商隊の護衛や薬草の採取、魔物の討伐などがあります。もう一つはダンジョン探索です。ダンジョンで魔物を倒しドロップ品を冒険者ギルドに販売する事で収入を得られます」
うん?
聞き慣れない言葉が出て来たぞ。
「あの……ドロップ品とは?」
「ドロップ品はドロップ品ですよ。ドロップアイテムとも言います」
ベテランさんの態度は、『知っていて当然』だが、異世界から来た俺は知らん。
「すいません。俺は記憶を失くしてしまっていて、ドロップ品の事が思い出せないのです」
「ああ……。ダンジョンで魔物を倒すとアイテムを落とすのですよ。それがドロップ品です」
何それ!?
ゲームかよ!
(まあ、トライコーンみたいな化け物や魔法がある世界だからな。ドロップアイテムがあってもおかしくないか……)
「理解しました。続けて下さい」
「後は……冒険者同士で揉め事を起こさないで下さい。軽いケンカ位なら目こぼししますが、あまり酷いようですと除名処分になります」
これでひと通り説明は終わりらしい。
ベテランさんが羊皮紙を取り出した。
「字は書けますか? 代筆しますか?」
ああ!
どうだろう?
この世界の文字を読めるけれど書けるのだろうか?
書けそうな気もするがイマイチ自信がないので、代筆をお願いする事にした。
「名前は?」
「ありません。元奴隷なんで」
「えーと、じゃあ、名前はどうしましょう?」
「ちょっと考えるので後回しに……」
「年齢は?」
「覚えていません」
「希望するジョブは?」
「わかりません」
「得意な武器はや特技は?」
「わかりません」
「……」
「……」
しまった、ベテランさんを困らせてしまった。
でも、本当にわからないのだ。
この元奴隷少年の体に俺が転生してしまったから、自分自身についてもわからないことだらけなのだ。
「……私の方で適当に書いておきます。名前を考えておいてくださいね」
ベテランさんは、俺の登録書類に『年齢13才』とか本当に適当に記入を始めた。
こんなんで良いんだ……。
名前はどうしようかな……。
元奴隷だからドレイクとか?
ドレ……ドレラ……ドラゴ……。
俺ネーミングセンスないからな……。
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