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第1章 路地裏の奴隷少年

1-1 転生してもブラック! 俺は奴隷かよ……

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 ここは異世界のダンジョン20階層だ。
 俺は名無しの奴隷……異世界に転生した不運な40代のオッサンだ。

 昨日、この異世界に転生した。
 転生先は、12、3才の子供で随分と若返ってしまった。

 その子供……つまり俺なんだが……俺は貴族の奴隷でご主人様と大人数でダンジョン探索に出掛けた。
 しかし、探索チームは俺とご主人様のフォルト様を除いて全滅……。

 今、俺はご主人様のフォルト様を背中に担いで、ダンジョンの通路を必死で走っている。
 魔物が出ないのを祈るのみだ。

「フォルト様! しっかりして下さい!」

「う……うう……」

 エルンスト男爵の三男フォルト様が俺の背中で苦しそうにうめいている。
 俺は走りながら必死でフォルト様に声を掛ける。

「もう、少しで安全地帯です!」

「……」

 返事は無いか……。
 無理もない。
 フォルト様は魔物に腹を裂かれて死にかけているのだ。

 薄暗いダンジョンの通路を俺は必死で走る。
 魔物よ……出て来るな……。
 それだけを念じている。

 どうしてこうなった!




 事の起こりは一日前。俺の職場だ。
 俺は東京の某飲食店で働いていた。
 ブラック企業とネットで叩かれていた会社だ。

 そんな会社で働きたくはなかったが……。
 四十代無職の俺を採用してくれたのは、労働条件の悪いこの飲食店しかなかったのだ。

 厨房で夜の仕込みをしていると急に頭痛と吐き気がした。
 眩暈めまいもして、俺はそのまま厨房で倒れて……どうやら死んでしまったらしい。

 死ぬ寸前、俺は神様に祈った。

(神様……お願いです! もう一度人生を……!)

 薄れ行く意識の中で俺が神様に願うと、どこからか声が聞こえた。

『汝の願いを聞き届けた。新しい世界で……新しい人生を……生きてみるが良い……』

(えっ……?)

 俺が内心驚いた瞬間、俺の命の火が消えたのがわかった。
 同時に……。

 俺の意識が完全に無くなった。




 目を覚ますと見慣れない天井があった。
 板張りの粗末な天井だ。

「知らない天井だ…………」

 どこかのアニメで聞いたセリフをつぶやきながら、俺はゆっくりと体を起こした。

(ここは病院だろうか? その割にはベッドが硬いな……天井もボロいし……)

 その時俺は自分が助かったのだと思っていた。
 勤務先のブラック飲食店で倒れて、きっと同僚が救急車を呼んでくれたのだろう。
 それで病院に担ぎ込まれ、治療をされ、意識が回復した……と思っていた。

 しかし、俺の予想は大外れだった。

「どこだよ! 病院じゃないぞ!」

 俺が寝かされていたのは、オンボロ小屋だった。
 床は土のまま。土間ってヤツだ。

 起きて小屋の中を見回すと学校の教室位の広さだでガランとしていた。
 家具が何もないのだ。
 窓はあるにはあるがガラスは無い。
 ガラスの代わりに板がぶら下がっていて、つっかえ棒をして開け放たれているだけだ。

(ここはどこなんだ? 一体どうなった?)

 混乱しながらオンボロ小屋の外に出た。
 ドアを開けると明るい日差し……太陽の暖かさを全身で感じた。

(ああ、生きている……)

 厨房で倒れた時はもうダメかと思った。
 死ぬ寸前、自分の命が消えていく『死へのプロセス』は恐ろしかった。

 俺がつらつらと考えていると俺に声を掛ける人がいた。

「おお! 無事だったか!」

 声の方を向くと背中の曲がった老人がいた。
 顔の彫りが深く、目がギョロッとしている。外国人かな?

 老人は見た事も無いほどボロい服を着て裸足だ。
 麻か何か……粗末な布で出来たシャツとズボンだけ……。
 その時俺は気が付いた!

(あれっ!?)

 俺も同じ様な服を着ている。
 粗末なシャツとズボンだけで裸足だ。

 慌てて周囲を見回すと良く整備された庭の中だ。
 左手に頑丈そうな石壁が続いている。
 右手の庭の奥の方には、立派な洋館が見える。
 海外ドラマに出て来る貴族の館みたいだ。

 俺がキョロキョロしていると声を掛けて来た老人が怪訝そうに俺をジロジロ見たた。

「一体どうしたんじゃ?」

「あ……いや……ここは……どこでしょうか?」

「どこ? 何を言っておるのじゃ? ここはエルンスト男爵様の敷地の中じゃ」

「はあ!?」

 予想だにしなかった老人の答えに俺は間抜けな声を上げた。

(エルンスト男爵? 誰だよそれ?)

 俺の頭の中は『?』で一杯になった。
 半分パニック状態だ。
 一体何がどうしてしまったのか?

 そうだ! 目の前にいる老人に質問をしよう!
 まず俺が寝かされていた小屋について聞いてみる事にした。

「あの……この小屋は?」

「この小屋って……この小屋は奴隷小屋じゃよ」

「ど……奴隷小屋……」

「そうじゃよ。オマエさんが毎日寝泊まりしている所じゃろうが!」

 一体どう言う事だろうか?
 俺が奴隷小屋で毎日寝泊まりしているって!?
 それじゃあ……。

「それじゃあ……あの……俺は……奴隷ですか……?」

「何を当たり前の事を! ほれ! これが首についておるじゃろうが!」

 そう言うと老人は自分の首につけられている黒い革製の首輪を突いてみせた。

(なんだよ! あの首輪は! 人間につけちゃダメだろう!)

 その時俺は自分の首に何かがあるのを感じた。
 恐る恐る自分の首を触ってみた。

 (ある……。首についている……)

 手に伝わる革の感触……。
 首の違和感……。
 首輪を嵌はめられている……。

 俺が激しく動揺していると老人が俺を叱りつけた。

「まったく! いつまで呆ほうけておるのじゃ! 井戸で顔でも洗ってこい!」

「井戸? どこですか?」

「あっちじゃ!」

 俺は老人が指さす方へ駆け出した。

(一体俺はどうなってしまったんだ?)

 胸の中は不安で一杯だった。

 飲食店で勤務中に倒れた。
 そこまでは覚えている。
 死んだと思ったら……奴隷小屋やら首輪やら……わけがわからない!

 俺は老人から逃げるように井戸へ走った。
 井戸の場所はすぐに分かった。
 石造りの井戸で、木製の屋根がついている。

 手押しポンプは無く、ロープの先に木製のバケツが括くくりつけてあるだけだ。
 井戸から水を汲み上げ顔を洗おうとした。
 その時バケツの中の水面に俺の顔が映っていた。

「誰だよ! オマエ!?」

 そこには見た事もない少年の顔が映り込んでいた。
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