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王都編

第87話 オーク戦

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 オーク二匹か。
 初戦の相手としては、ちょっと荷が重いかな。
 だが、やれない相手じゃない。

 改めてあたりを見回すと、荒れ地には所々大きな岩がある。
 俺は手近な岩を指す。

「そこの岩の蔭へ!」

 マチルダが意外と素直に俺の指示を受け入れてくれた。
 戦闘になれば、何とかなるかな?

 全員で岩陰に隠れ、前方の様子を伺う。
 しばらくして、オーク二匹が姿を現した。
 横に並んで、ノンビリとこちらに歩いて来る。

 改めてオークを見ると……2メートルを超える巨体に太い腕!
 威圧感があるな。

 スキル【鑑定】を発動する。
 まず向かって左側の棍棒を肩に担いだオークだ。

 -------------------

 オーク

 HP: 250/250
 MP: 0
 パワー:300
 持久力:200
 素早さ:50
 魔力: 0
 知力: 10
 器用: 20


 -------------------


 能力は、ざっくりオーガの半分。
 それでもパワーがあり、持久力とHPがあるタフな強敵だ。

 続いて向かって右側の大きな剣を担いだオークを【鑑定】する。


 -------------------

 オーク

 HP: 200/200
 MP: 0
 パワー:270
 持久力:200
 素早さ:50
 魔力: 0
 知力: 10
 器用: 50


 -------------------


 個体差かな?
 HPとパワーが左側より落ちる。
 器用さが高いので、剣装備って事か。

 俺が【鑑定】をしているとマチルダがヒソヒソ声で聞いて来た。

「二匹とも私がやる?」

「やれるのか!? 二匹同時に!?」

「大丈夫よ」

 自信たっぷりに答える。
 俺は一瞬だけ考え、すぐ決断を下す。

「左の棍棒を持ったヤツを頼む」

「わかったわ」

「俺とセレーネで右の剣を持ったオークをやろう。サクラは上空から遊撃」

「「了解!」」

 サクラは念の為、遊撃に回ってもらった。
 もし、マチルダが魔法で仕留めそこなった時は、サクラに左側のオークを相手取ってもらう。
 分担を決めて、オークが近づくのを待つ。

 やれるか?

 不安が頭をもたげるが……、オーク二匹なら三人でも何とかなるはずだ。
 マチルダの魔法攻撃が、どの位威力があるのかは不明だが、マチルダの参加で俺たち戦力アップしている事に間違いはない。

 もしも、マチルダの魔法攻撃が弱かったとしても、サクラが肉弾戦で仕留めてくれる。
 その間に俺とセレーネでもう一匹を足止めしていれば良いのだ。

 うん! 大丈夫!
 やれる!

 オーク二匹は、50メートルの距離まで近づいた。

「マチルダ。いつでも良い。自分のタイミングで仕掛けてくれ!」

「わかったわ」

 マチルダは落ち着いた声で返事をすると無造作に立ち上がった。

「「「えっ!?」」」

 マチルダの体半分は、岩に隠れているが上半身は無防備なままだ。
 あまりに突然で雑な動きに、俺、サクラ、セレーネが、驚き目をむく。

 だが、その後のマチルダの動きは早かった。
 杖を体の前にかざし左手を添えると、何かしら小声で呪文を唱えてすぐ魔法を発動させた。
 その様子を見てサクラが口走る。

「早い!」

 次の瞬間、向かって左側の棍棒を持ったオークは、炎の柱に閉じ込められていた。

「GUHIIIIII!」

 オークの悲鳴が荒れ地にこだまする。
 あっという間に黒焦げになったオークが、地面に倒れた。
 なんて威力だ!

 マチルダは俺の方を向き、何事もなかったように淡々と告げた。

「残りは、そちらでよろしくて?」

「お、おう……。行くぞ!」

「りょ、了解!」

「わ、わかった!」

 セレーネが弓に矢をつがえ、俺とサクラが飛び出す。
 サクラは【飛行】で上から、俺はジグザクに動きながら右側のオークに迫る。

 オークは、俺とサクラの動きに注意を向けた。
 その隙をセレーネが逃さない。
 二本の矢がオークの左足に着弾し、オークのフットワークを奪う。

「サクラ!」

「はいはーい! 新技いっちゃうよー!」

 サクラは水平飛行した状態からクルっと体を横回転させて、足を大きく開き胴回し蹴りを放った。
 遠心力と体重がのった足刀が、オークの額にぶち当たった。
 オークが悲鳴を上げ、膝をつく。

「GUHI!」

 さすがサクラ!
 新技がばっちり決まった!
 下着もばっちり見えたけどな!
 今日は黒っと……俺も続くぞ!

「【神速】! 【スラッシュ】!」

 オークが剣を握る右手の親指を狙って、斬撃スキル【スラッシュ】を繰り出す。
 巨体の魔物オークとは言え、人型なら弱点も似通る。

 コルセアは俺の思い描いた軌道をなぞり、狙い通りオークの右手親指の筋を切断した。
 握力を失ったオークが、右手に握っていた剣を取り落とす。

「こいつはもらって行くよ!」

 俺は【神速】で移動し、地面に落ちたオークのデカい剣を拾い上げマジックバッグに収納する。

「GUHI!? GUHI!?」

 オークは立ち上がったが、自分の剣を見失い、地面を見回し右往左往する。
 そこへセレーネの矢が三本追撃、左膝に集中着弾した。

「GU……GU……」

 再び膝をつくオーク。
 俺は一瞬でオークの懐に飛び込み喉にコルセアを突き刺す。

「チッ! 浅い!」

 弱点の喉は、顎の脂肪に邪魔されて深く突き刺さらなかった。
 思わず舌打ちする。
 それでも、オークは座ったままお辞儀をするような前傾姿勢になった。
 これなら後は――。

「サクラ!」

「はーい!」

 上空のサクラがクルリと回転して急降下して来た。
 セレーネの声が聞こえる。

「サクラちゃん! 丁寧にね! 耳も食べられるんだよ!」

「まかせてー!」

 俺がオークから離脱すると同時にサクラが猛スピードで落ちて来た。
 落下速度が乗ったサクラの右拳が、オークの後頭部に炸裂する。

「メリケンボルト!」

「GU……」

 オークは顔面を荒れ地の地面にめり込ませて絶命した。
 よし!

「ふう……サクラ、お疲れ!」

「お疲れ様です! ヒロトさん、どうでしたか?」

「そうだな。ここは足場が良いから戦いやすいよ。サクラは?」

「オークは食肉ですからねえ。倒すのに気を遣いますが、まあ、大丈夫でしょ」

 サクラと意見交換していると、岩陰からマチルダとセレーネが出て来た。

「あんたたち、倒すのが遅いわね! このくらいの相手ならもっと早く倒せるでしょ!」

 口調が強いな。
 怒っている訳ではないと思うが、非難されているようにも聞こえる。

 ああ、そうか。
 クラン『銀翼』で上手くいかなかったのもわかるな。
 戦闘後で気が立っている時に、こんな言われ方をしたら反発するヤツが出るだろう。

 俺とサクラはマチルダの言葉をスルーし、セレーネが淡々と答えた。

「オークは食べられる部位が多いの。だから、時間をかけても丁寧に仕留めた方がお得なの」

「お得!? どういう事?」

「ほら見て。マチルダが仕留めたオークは黒焦げでしょう? これだと食べられる部分が減っちゃうから、買い取り価格が安くなっちゃうの」

「……」

「私たちが仕留めたオークは、きれいでしょ? この状態ならオーク丸ごと食肉になるから買い取り価格が高くなるの。オークは耳も食べられるから、サクラちゃんは食べられる場所を殴らなかったの」

「そう……なの……」

 セレーネの言う通りだ。
 オークは、売れる部位が多くて稼げる魔物だ。


 肉:2万ゴルド
 皮:6千ゴルド
 魔石:千ゴルド
 討伐報酬:3万ゴルド


 一匹で5万7千ゴルドになる。
 ただ、あくまでも倒した時の状態が良ければの話しで、マチルダのように黒焦げにしてしまうと皮は使えないし、可食部位も減るので肉の買い取りもしてもらえなくなる。

 マチルダの倒したオークは、魔石と討伐報酬で3万千ゴルドだろう。

 俺は倒したオークをマジックバッグに収納しながら、報酬の内訳をマチルダに説明した。
 ちょっとマチルダが、へこんでいるようなのでフォローも入れる。

「けどね。あくまで戦闘に余裕がある時は、きれいな状態で獲物を仕留めた方が良いってだけだから。マチルダがオーク一体を倒してくれて、俺たちに余裕があった。だから、残りのオークをきれいに倒せたんだよ」

「そ、そうよね!」

「そう、そう。もしも、魔物の数が多ければ、殲滅優先だから。マチルダの行動は間違ってないよ」

「あ、当たり前でしょ!」

 俺たちは移動せずに、ここで次の獲物が来るのを待ち構える事にした。
 岩の陰に身を潜め、水を飲み、体を休める。

「そんな事……、誰も教えてくれなかった……」

 マチルダがポツリとつぶやいたのが印象に残った。
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