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王都編

第82話 先輩冒険者たち

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 俺、サクラ、セレーネの三人は、ハゲールに追い立てられて第三冒険者ギルドから出動した。

 出動した……と言っても、どこへ行けばよいのやら。
 ゴブリンやオークを倒して来いとハゲールは言うが、どこにいるのかわからないぞ!

 俺は第三冒険者ギルドの周りを見渡した。

 まず南側に俺たちが通って来た道。
 この道は王都の街区に通じている。

 東と西は、丈の低い草が生い茂り所々林だ。

 北側には野原や丘が続き、その先にうっそうと生い茂る魔の森が見える。
 うーん、むやみに歩き回ってもなんだし、北の方へ行こうかな……。

 サクラとセレーネは、どうだろう?

「やはり最初は魔の森の方を目指してみようか?」

「そうですね」

「賛成! 森には獲物が一杯いるよ~!」

 パーティーメンバーの賛同を得て北へ進む事にした。
 魔の森を目指す。

 野原を過ぎ、丘を一つ越えた所で、太鼓の音が聞こえて来た。


 ドンドンドンドン!
 ドンドンドンドン!


 ブラスバンドの大太鼓っぽい音だ。
 次の丘の向こうから聞こえて来る。

「何だろうね?」

「行ってみましょう!」

「行こおー!」

 俺たちは足音を殺して静かに二つ目の丘を登った。
 丘の頂上からそーっと顔を出し、向こうを覗く。

「「「冒険者だ!」」」

 二つ目の丘の向こうは草原が広がり、そのすぐ先は魔の森だ。
 俺たちから見て手前、二つ目の丘を降りた地点に四人の冒険者がいた。

 三人は背が高く体格が良い。
 肘や胸にプロテクターをつけただけの動きやすいそうな装備で、腕を組みジッと魔の森の方をにらんでいる。

 残りの一人は大太鼓を体の前に吊るし、力強く叩き続けている。
 太鼓を叩く度に、太鼓から赤い光が放たれ三人の男に吸い込まれて行く。

 あれは……一体?

「あの赤い光は何だろう?」

 俺がボソリと疑問を口にするとセレーネが答えた。

「執事さんの【ヘイスト】や【プロテク】の光に似てない?」

 なるほど!
 確かに似た雰囲気の光だ。

「あの太鼓を叩く行為は、何らか強化魔法的な効果があるっぽいですね」

 サクラも同じ意見らしい。

「強化魔法……じゃあ、戦闘が始まるのか?」

「そうかも。ヒロトさん! ほら! 早く! あそこの冒険者さんに、声を掛けて下さい!」

「ああ! そうだな!」

 俺は立ち上がって、丘の下に陣取る冒険者四人に手を振りながら声を掛けた。

「あのー! すいませーん! 俺たちも一緒に戦った方が良いですかー?」

 丘の下の四人の視線がこちらに動いた。
 一番体の大きい世紀末伝説的な体格の男が、野太い声で返事をする。

「見かけない顔だな! 誰だー!」

「第三冒険者ギルドの新人でーす!」

 俺が新人だと自己紹介すると世紀末伝説さんの表情が緩んだ。

「おお! 新人が入ったのか! わははは! まあ、今日はそこで見学していてくれー!」

「わかりましたー!」

 俺たちは見学となった。
 おそらくあの四人は、第三冒険者ギルドの先輩だろう。

 サクラとセレーネは、お茶とお菓子をだしてくつろぎだした。

「お手並み拝見ですね。(ボリボリ!)」

「楽しみ! (ボリボリ!)」

 リラックスし過ぎだろう!

 ま、まあ、良いか……。
 先輩たちに見学と言われたし。

 しかし、あの人たちが所属している唯一のパーティーか。
 どれくらい『ヤル』んだ?

 四人の陣形は、一番体格の良い世紀末伝説さんを先頭にしたダイヤモンド型だ。

 世紀末伝説さんの右後ろに緑色のズボンをはいた男性。
 左後ろに黒い半ズボンをはいた男性。
 そして一番後ろの位置に大太鼓を吊るした男性だ。

 四人とも二十七、八才ってとこかな?
 凄く落ち着いた雰囲気だけれど、ウチに秘めた闘志を感じる。

「あんまりイケメンじゃないね」

「あんなモンじゃないかなぁ~。冒険者ってイケメン少ないよねぇ~」

 サクラ! セレーネ! シーッ!
 きっとあの四人は外見よりも実力勝負なんだろう。

 実際問題として、太鼓以外の三人は体格が良い。
 剣や槍を装備していないから、サクラと同じ肉弾戦特化だと思う。
 あの体格からパンチを繰り出したら、相当の破壊力があるだろうな。

 俺はこれから始まる先輩たちの戦いに期待した。
 同時に――敵である魔物がどこにも見当たらない事が不思議だ。

「敵がいないね……」

「ヒロトさん! 来ました!」

 サクラが魔の森の方を指さす。
 魔の森から一人の冒険者が飛び出して来た。
 革鎧の軽装備で、腰には作業用のナイフしか身に着けていない。

 革鎧の冒険者が魔の森から、こちらの方へグングン走って来る。

「足が速いな……」

「必死なんでしょう。続いて魔物が来ますよ」

「来たぁ~!」

 革鎧の冒険者が魔の森から飛び出した数秒後、魔物が魔の森から湧き出して来た。
 なるほど、あの革鎧の冒険者は囮と言うか、魔物を魔の森から誘い出すのが役目か。


 ドンドン! ドドドン!
 ドドドドドン! ドドン!

 ドンドン! ドドドン!
 ドドドドドン! ドドン!


 太鼓の音が強く、拍子が変わった!
 始まるな……。

 魔物の数が多い。
 まず体格の良い豚面の魔物が四匹――初めて見る魔物だが、おそらくオークだろう。
 それからゴブリンが、一、二、三……四十匹か!

 最後にのっそりと一際大きな人型の魔物が、魔の森から出て来た。
 浅黒い肌に筋骨隆々の体、いかつい顔に二本の牙を生やし、頭からは短めの角が二本。

「あの魔物は……」

 俺は最後に出て来た魔物を警戒し凝視した。
 すかさずスキル【鑑定】を発動する。


 -------------------

 オーガ

 HP: 580/580
 MP: 0
 パワー:700
 持久力:500
 素早さ:100
 魔力: 0
 知力: 20
 器用: 10


 -------------------


「あれがオーガか!」

 鑑定内容をサクラとセレーネにも伝えると、二人はお茶とお菓子をマジックバッグにしまって臨戦態勢を取った。

 オーガは特殊なスキルや魔法はないが、HPが高くパワーと持久力がある。
 タフで……強敵だろう!
 それにプラスしてオーク四匹とゴブリン四十匹――あの人数でさばけるのか?

 俺は不安を感じたが、丘の下に陣取る世紀末伝説さんたちは動じない。
 魔の森から駆け出した革鎧の冒険者が、大太鼓の所に逃げついた。
 大太鼓が革鎧にトランペットのような楽器を渡した。

 二人で派手な演奏を始めた。
 あの革鎧も応援担当なのか?
 革鎧がトランペットを吹く度に、黄色い光が世紀末伝説さんたち三人に吸い込まれて行く。

 応援は千葉ロッテのチャンステーマみたいなチャントだ。


 ドン! ドン! ドン! ドン!
 ドン! ドン! ドン! ドン!

 パパ! パパ! パパア!
 パパ! パパ! パパア!
 パパ! パパ! パパア!
 パパ! パパ! パパア!

 ドン!

 パパパパ! パパーパーン!
 パラパパ、パーパ!

 ドン! ドン! ドン! ドン!


 セレーネとサクラが演奏を聞いて嬉しそうに笑う。

「うわっ! すっごいね!」

「派手ですね! 応援は凄いですけど、戦いぶりはどうですかね?」

 ホント、問題はそれだよな。

 魔物たちは魔の森から草原に出て、こちらに走り込んで来た。
 手には棍棒や錆びているとは言え鉄剣を持っている。

 世紀末伝説さんたちが動いた!

「行くぞ! オラー!」
「おう!」
「しゃあ!」

 世紀末伝説さんを先頭にトライアングフォーメーションで三人が魔物に突っ込む。
 ザコ魔物のゴブリンを無視して、世紀末伝説さんは強敵オーガに向かう。
 緑ズボンと黒半ズボンは、豚面オークに向かった。

 世紀末伝説さんたちの勢いにゴブリンも思わず道を開ける。
 世紀末伝説さんとオーガの距離が詰まった――飛んだ!

 迫り来るオーガに向かって、世紀末伝説さんがドロップキックを放つように宙に舞った!

 そのまま両足でオーガの頭部を挟み込み後方にエビぞりをする。
 あれは――。

「「フランケンシュタイナー!」」

 俺とサクラの声がハモる。
 あれはプロレス技だ!

 世紀末伝説さんは、オーガの巨体をフランケンシュタイナーで体ごとぶっこ抜いた。
 オーガは何が起こったかわからない顔をしているが、もう遅い! オーガの体は空中だ!
 そのまま地面に頭頂部から突き刺さった。

 サクラが感嘆をもらす。

「まさにフランケンシュタイナーですね……。ウラカンラナではなく、ドライバー系のフランケンです。オーガ頭部から行きましたね……」

「解説どうも……」

 日本にいた頃プロレスを見ていたが、フランケンシュタイナーの真の使い手は少ない。
 サクラの解説通りフランケンシュタイナーは、パイルドライバーなんかと同じドライバー系の技――つまり頭部をマットに打ち付ける技なのだ。

 だが、ウラカンラナと言うルチャリブレの似て異なる固め技になってしまう事が多々ある。
 それだけ難しい技なのだ。

 スタイナーブラザーズのフランケンシュタイナーは素晴らしかったが、世紀末伝説さんのフランケンは、スタイナーブラザーズばりだった!

 オーガは頭部を両手で抑えて悶絶し地面を転げまわっている。

「ヒロトさん! タイガードライバー!」

「えっ!?」

 サクラの指さす方では、緑色ズボンがオーク相手にタイガードライバーを決めて見せた。
 それも脳天から真っ逆さまに落とすエグさだ。
 タイガードライバーを食らったオークはピクリとも動かない。

「91か……」

「いえ、93じゃないですか?」

「93があるのか!?」

 タイガードライバー93だと!?
 と、都市伝説!?
 いや、あるのか!?

 俺とサクラがプロレス談議に花を咲かせていると、セレーネが歓声を上げた。

「キャー! すごーい!」

 セレーネの視線の先では、黒半ズボンがオークにバックドロップを仕掛けていた。

「到達点が高いですね」

「臍で投げ、そこから――」

「「――落とす!」」

 美しい弧を描きダイナミックなバックドロップがオークに炸裂した。
 後頭部から地面にたたきつけられた気の毒なオークは、白目を剥き口から泡を吹きだす。

「死んだな」

「死にましたね」

「美味しそう」

 しかし、先輩たちは強いな。
 あっという間にオーク二匹を無力化した。

 世紀末伝説さんの方へ視線を戻すとオーガをグランドで翻弄していた。
 フランケンシュタイナーをモロに食らって動けるオーガもタフだが、それ以上にオーガをグランドで子供扱いしている世紀末伝説さんの強さの底が知れない。

「オラッ! テメーラまとめて始末してやるぜ!」

 ――ん!?
 世紀末伝説さんがオーガの足をロックして、地面に転がった!
 そして、オーガの後頭部を地面に激突させながら激しく回転する。
 あれは……。

「「ローリングクレイドル!」」

 地面を転がされ後頭部を打ち付け、ロックされた足は股裂き状態になる。
 ローリングクレイドルを食らったオーガは悲し気な声を上げるが、世紀末伝説さんは容赦しない。

 回転しながら周囲にいるゴブリンたちも巻き込んで行く。

「潰れやがれ!」

「GYA!」
「GYA!」
「GYA!」
「GYA!」

 ゴブリンがローリングクレイドルの回転に巻き込まれ、オーガの巨体の下敷きになる。
 草原を縦横無尽に回転し尽くし、世紀末伝説さんはゴブリンを一掃した。
 そしてオーガはフラフラだ。

 世紀末伝説さんは、無理矢理オーガを立たせると無造作にその巨体を引っこ抜いた。
 うわー! それは!

「「パワーボム!」」

 オーガは後頭部から地面に沈んだ。
 断末魔を上げる間もなかった。

 残りはオーク二匹。
 ちらりと見ると緑ズボンと黒半ズボンが、一匹のオークをツープラトンのブレーンバスターで仕留めた所だった。

 あと一匹は?
 逃げたか?

 いや! いた!

 最後のオークは棍棒を持って、応援をする太鼓とラッパ目がけて突撃して来ていた。
 俺たちは咄嗟に動いた。

「セレーネ! サクラ!」

「「了解!」」

 返事をすると同時にセレーネが矢を放った。
 セレーネが放った矢はオークの太ももに深く刺さり、オークの走るスピードが落ちた。

 俺は【神速】を使って丘を駆け下り、棍棒を握るオークの右手を狙う。

「【スラッシュ】!」

 スキル【神速】の加速と斬撃スキル【スラッシュ】をコルセアの剣にのせる。
 コルセアはブルースチール独特の深い青の光を放ちながら、オークの右手を切り飛ばした。

「BUHIIIIIIII!」

 オークが右手を抑え悶絶する。
 オークの足が止まった。

「サクラ!」

「任せて!」

 サクラは、既に上空で白い翼をひるがえしていた。
 空中でクルリと回転すると真っ逆さまに地面へ急降下する。
 握られた右拳はストレートの構えだ。

 俺はオークの側から退避する。

 そこへサクラが――。

「メリケンボルトぉおおお!」

 ぐぼう!

 派手な音を響かせサクラの必殺技が炸裂した。
 オークが地に沈み、サクラの雄叫びが響く。

「わたしがケンカチャンピオンだ!」

 最後に美味しい所をサクラがかっさらったが、戦闘は無事終了した。
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