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ルドルのダンジョン編

第78話 スラグドラゴン

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 集まった光は、渦を巻き収束する。
 そして、光の渦は、光の塊になり、魔物が現れた。

 クソッ! ウォールは、魔物を召喚するカードを使ったらしい。
 そんなカードあったのかよ!

 あれは……!

「GI! GI! GI! GI!」

 その魔物は巨大なナメクジに、ドラゴンのような手足がついた気持ちの悪い姿だった。
 聞いていて不快になる鳴き声を発している。

 巨体がダンジョンの壁や天井を圧迫し、石造りの壁と天井にヒビが入る。
 師匠が叫んだ。

「距離を取れ! 崩れるぞ!」

 俺たちは慌てた。
 通路を逆走して、ナメクジの化け物から距離を取る。

 ダンジョンが揺れ、天井が崩落し、壁が崩れる。
 物凄い音が響く。

 20メートル程走った所で、立ち止まって振り返ると、巨大ナメクジの足元にウォールが立っていた。

「ウヒャヒャヒャ! どーだい! どーだい! 僕が召喚したドラゴンは!」

 ドラゴン? あれが?
 確かにドラゴンのような手足は付いているが、どこからどう見ても巨大ナメクジだ。

 俺は、ナメクジの化け物を【鑑定】する。

「【鑑定】」


 -------------------

 スラグドラゴン

 HP: 1000/1000
 MP: 5000/5000
 パワー:20
 持久力:50
 素早さ:20
 魔力: 500
 知力: 10
 器用: 5

【雷魔法】-【デスサンダー】
【物理攻撃耐性】

 -------------------


 俺は鑑定内容を、みんなに伝えた。
 サクラが、すぐに【アカシックレコード】にアクセスして、みんなに解説を始めた。

「スラグドラゴンは、沼地の近くに生息する魔物ですね。一応、亜竜に分類されていますが、ドラゴンよりもナメクジに特性が近いです。弱点の属性魔法は、土ですね」

 亜竜か。
 ドラゴンの下位の種族で、知性は魔物並みに低い。
 ワイバーンなんかも亜流に分類される。

 亜竜とは言っても、一応はドラゴンだ。
 人間よりは、はるかに強い。

 しかし、このスラグドラゴンは……。

 師匠も疑問を感じるらしく、首を傾げながら話し出した。

「ドラゴンの割には、HPが低すぎるな。モノホンのドラゴンなら、HP1万越えとかザラだからな。亜竜の中でも、最弱かな?」

「HPが低い代わりに、【物理攻撃耐性】がありますからね……」

「なるほど、じゃあ、試して見るか! ヒロト! 行くぞ!」

「はい!」

 俺と師匠は、スラグドラゴンへ向かって走った。
 俺は【神速】を発動して、スラグドラゴンとの距離を一気に詰める。

 剣を振りかぶり【神速】のスピードをのせて……。
 斬撃系の剣術スキル【スラッシュ】を、スラグドラゴンに叩きこんだ。

「【スラッシュ】!」

 だが、手応えがない!
 俺の放った斬撃は、スラグドラゴンのブヨブヨした体に、受け止められてしまった。

 すぐに、スラグドラゴンの攻撃圏内から離脱する。
 スラグドラゴンの動きは緩慢で、追撃は無かった。

 引いた位置で、俺の攻撃を見ていた師匠と合流する。

「師匠! ダメです! 剣では斬れません!」

「【スラッシュ】は、ダメみたいだな……。それなら!」

 今度は師匠が加速して、スラグドラゴンへ向かった。
 ラファールの剣を振り上げ、攻撃を叩きこむ。

「【バッシュ】!」

 鋭く早く斬るのが【スラッシュ】で、重く叩き切るのが【バッシュ】だ。
 なるほど、斬撃系の【スラッシュ】が効かないので、打突系の【バッシュ】を選択したのか。

 だが、師匠の【バッシュ】もスラグドラゴンのブヨブヨボディに、力を吸収されてしまった。
 ナメクジの化け物め!

 塩属性魔法とかあればな……。
 ないな。

 師匠が戻って来た。

「あれは、始末悪いな。剣は効かんわ」

「はい。どうしましょうか?」

「どうって……、魔法しかないだろ?」

「……攻撃魔法使えるヤツがいないですよ」

「えー!」

「いや、ウチのパーティーは肉弾戦特化なんで」

「バランス悪いな!」

 後ろからサクラが切迫した声で叫んだ。

「みんな私のそばに寄って! 魔法が来るよ!」

「ウオ!」
「ウオ!」

 俺と師匠は、慌ててサクラの近くに移動した。
 サクラが【魔法障壁】を展開する。

 俺たちの周りに、オレンジ色の薄い膜が展開された。
 これで魔法攻撃は、ブロックされる。

 スラグドラゴンを見ると、2本の角のような部分がチカチカ光っている。
 次の瞬間、物凄い轟音が響いた!


 パーン! ゴゴゴゴゴゴ!


「うおおおお!」
「キャー!」

 周りで悲鳴が上がった。
 雷魔法なんてもんじゃない。
 マジモンの落雷だ。

「マイルズ! おい! マイルズ!」

 退避の遅れた騎士が倒れていた。
 サクラがすかさず回復魔法をかける。

「【ヒール】!」

 だが、騎士は動かない。
 サクラは、もう一度回復魔法をかける。

「【ヒール】!」

 騎士はピクリとも動かない。
 執事セバスチャンが、騎士の脈を取り、低い声で告げた。

「亡くなっています」

 ついに死亡者が出た。
 俺たちは、誰一人として動かず、口を開かなかった。



 パーン! ゴゴゴゴゴゴ!


 2発目の雷魔法が炸裂した。物凄い威力だ。
 これでは、サクラの展開した【魔法障壁】の外には出られない。

 セレーネが、息をのみ、【魔法障壁】の一角を指さした。

「ちょっと! サクラちゃん! ヒビが入っている!」

 セレーネの指さす箇所を見ると、オレンジ色の【魔法障壁】にヒビが入っていた。
 サクラの顔から血の気が引いた。

「ウソでしょう! 再展開! 多重障壁!」

 サクラが、手をササッと動かすと、オレンジ色の【魔法障壁】の内側に次々と【魔法障壁】が展開された。
 5層の魔法障壁が、俺たちを囲んでいる。


 パーン! ゴゴゴゴゴゴ!


 パリーン!


 ヒビの入っていた一番外側の【魔法障壁】が砕けた。
 すかさずサクラが、【魔法障壁】を補充で1枚展開する。

 師匠が、つぶやく。

「雷魔法は、一番貫通力があるからな……」

 貫通力? どう言う事だろう?
 俺は師匠に問い返した。

「貫通力? ピンポイントで魔力が作用するって事ですか?」

「そうだ。火魔法は威力が上がると、攻撃面積が広がるだろ。だが、雷魔法は威力が上がっても、1点集中なんだ。だから、【魔法障壁】に対して、貫通力があるんだ」

 なるほど、そう言う事か。

「サクラ、もちそうか?」

「どうだろう? 【魔法障壁】は、常時5枚展開出来るけれど……。魔力が尽きれば……」

「その時はアウトだよな?」

 サクラがコクリとうなずいた。
 まずいな。ジリ貧展開だ。

 サクラは、魔力量が多いけれど、実体化するのにかなり魔力を食っている。
 スラグドラゴンと消耗戦をやるのは不安だ。

 何かやらないと……。

 スラグドラゴンは、土属性の魔法が苦手だ。
 俺は全員を見回して、問い掛ける

「土属性の魔法や、アイテムを持っている人は?」

 返事は無い。
 みんな首を横に振っている。

 じゃあ、執事セバスチャンはどうだろう?
 セバスチャンはエンチャンターだ。

 俺と師匠の剣に土属性を付与して貰って、それで攻撃すれば、攻撃が通るのでは?
 俺はセバスチャンに質問した。

「俺と師匠の剣に、土属性のエンチャントは出来ますか?」

 セバスチャンは、申し訳なさそうに首を振った。

「申し訳ございません。土属性付与の魔法は扱えません……」

 ダメか!


 パアーーーーン! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 パリーン! パリーン!

「うわあ!」
「キャア!」

 今までと比べ物にならない、大きな音がした。
 サクラが、あせっている。

「2枚抜かれた。3枚目にもヒビが!」

「パワーを上げて来たのか!」

「抜かれた分の【魔法障壁】は、すぐに展開するけどこのままじゃマズイ!」

「クソッ! 打つ手はないのか!」

 雷魔法が発動するまでは、時間が空く。
 だから、その間に攻撃をする事は出来る。

 だが、剣の攻撃は、スラグドラゴンのブヨブヨした体には効かない。
 弱点の土魔法の攻撃も出来ない。

 このままどちらかが魔力切れになるまで、待つしかないのか?

「ウヒャヒャヒャ! いや~、いい気味だねぇ~」

 ウォールたちが、スラグドラゴンの陰から姿を現した。
 すかさずセレーネが、弓矢で狙撃する。

 だが、ガシュムドが盾でセーレネの矢を弾く。
 ウォールは、その様子をニンマリと見ていた。

「オマエらは、甘いんだ! この甘ちゃんどもめ! 僕を見ろぉ~。容赦なく、殺す! 隙あらば、殺す! 人間と思わず、殺す! 虫けらのように、殺す! ウヒャヒャヒャ!」


 パアアーーーーン! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 パリーン! パリーン! パリーン!


 今度は、3枚抜かれた。
 スラグドラゴンの野郎、パワーを上げて来やがった!

 ウォールは、小躍りしている。

「エリス! ひーめーさーま! フヒヒ……。さっきは、僕を殺そうと思えば、殺せたはずだ。それを……。降伏勧告? フハハ! 寝ぼけているのかい? その結果がこれだよ~。おめでとうエリス。君のせいで部下が1人死んだねぇ~」

 エリス姫は、下を向いてワナワナと震えている。
 ウォールの言葉を否定出来ない。
 今の悪い状況は、エリス姫の甘さが招いたと言えなくもない。
 だが、エリス姫は、まだ12才だ。そこまで言わなくても良いだろう。

 スラグドラゴンは、パワーを貯めているのか、次を打って来ない。
 2本の角の間に、パチパチと紫色の光の帯が往復している。

 ウォールは、大得意だ。
 スラグドラゴンの足を優しく撫でている。

「いいか! 良く聞け! 命は、無価値だ! オマエらの命も、無価値だ! みんな死ぬ! 僕にぃ! 殺されるのだ! みんな僕の寿命になるんだ! ガチャのエサだ!」

 いくら自分の寿命になるからと言って、そんな簡単に人を殺して良い物じゃない。
 貴族の立場を利用して、殺し放題して来た狂人め!

 俺は怒りが、こみ上げて来た。
 ウォールをにらみつけていると、ウォールが俺の方を見た。

「おお。そうだぁ~。ヒロト君だったねぇ~。君の事を色々調べたんだぁ」

 なに? 俺を調べた?
 ウォールは、ニヤニヤと笑っている。

「君はぁ。色々と邪魔してくれたからねぇ。特別にお返ししようと思ってね!」


 パアアアアーーーーン! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 パリーン! パリーン! パリーン! パリーン!

 サクラが悲鳴混じりの声を上げる。

「4枚抜かれた! 再展開!」

 ウォールは、楽しそうに高笑いしている。

「ヒャハハハ! いいぞ! いいぞ! あと少しだ! そうそう。ヒロト君の話しだよねぇ~。君の幼馴染の女の子は、奴隷に売られたそうだねぇ~」

「……」

「あー、そんな怖い顔しないで! まあ、安心してよ。ここでエリス姫や君を殺すからさ。そ、し、た、ら、君の幼馴染を……、僕が奴隷にするからぁ~」

「……」

「あー、その顔、良いね~、良いね~。悔しい? 悲しい? ねえねえ、今、どんな気持ちなのかなぁ。君はここで死んで、君の幼馴染は僕の奴隷になるんだよぉ~」

「……」

「それでねえ! それでねえ! 毎日僕がいたぶってあげるよぉ~。死ぬより辛い目に、あわせてあげるよぉ~。自分から、殺してくれ! って言っても殺さないから。ヒロト君の幼馴染だからね。死のギリギリまで苦痛を与えるようにするよぉ。ウヒャヒャヒャ!」

「……」


 パアアアアアアアアーーーーン! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 パリーン! パリーン! パリーン! パリーン! パリーン!

「5枚抜かれた! 再展開!」

 クソッ! ウォールめ!
 だが、打つ手がない……。
 俺は……こんな所で歯ぎしりするしか出来ないのか!

 シンディ!
 幼馴染を助けるんじゃなかったのかよ!

 俺は飛び出していた。
 何も考えはない。
 ただ、怒りに任せて飛びだした。

 怒り?
 何に?

 ウォールに?
 甘い判断をしたエリス姫に?

 いや、違う!

 一番腹が立つのは――。



「俺だ! 俺自身だ! 何も出来ない弱い俺に腹が立つんだ!」


 強くなりたい。
 何者にも傷つけられず。
 何者にも屈せず。
 大事な人たちを守りたい。

 俺はスラグドラゴンに向かって走り込んだ。
 ウォールが手を打って小躍りする。

「ひゃはは! 怒りで血迷ったか! 愚かな! スラグドラゴン! ヤツを狙え!」

 スラグドラゴンのなめくじのような角が、こちらに向いた。

「ヒロト!」

「ヒロトさん!」

 後ろでセレーネとサクラの悲鳴が聞こえる。

 同時に――。
 神速のダグからのアドバイスが、横から飛んで来た。

「ヘイ! ルーキー! 【神速】を忘れるなよ!」

「えっ!?」

 スラグドラゴンへ向けて走り込む俺の横に、いつの間にか師匠が笑顔で並走していた。
 俺の頭からスーッと血が下がった。

 そうだ!
 頭に血が上って、スキル【神速】を使うのを忘れていた!
 ただ、走るだけじゃダメだ!

 俺は少し冷静になり、足を止め状況を整理した。
 スラグドラゴン、その足元にウォール、ガシュムド、ケイン……。
 状況をひっくり返せないだろうか?

 俺が考えていると、師匠が悪戯を思いついた悪ガキみたいな顔をした。

「なあ、ヒロト。ラッキーな事もあるぞ」

「師匠、何言ってるんですか? この状況でラッキーな事がある訳ないでしょう?」

「そうでもないさ……。スラグドラゴンの目標がヒロト、お前に変わった! やったな!」

「ちょっと! 師匠! それ全然ラッキーじゃないでしょう!」

「そうかなぁ~。目標がヒロトって事は……?」

「ん?」

 師匠が何か考え付いたな。
 悪だくみの予感……。

「あっ!」

「気が付いたか?」

「ええ。確かに俺が目標になったのは、ラッキーですね……」

 そうだ……。
 そうだよ!
 俺が雷魔法のターゲットになったのは幸運なんだ!

 神速のダグが、俺の隣でニヤリと笑った。

「よしっ! じゃあ、行こうか、ルーキー! バトルレッスンの時間だ!」

「はいっ!」
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