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ルドルのダンジョン編

第69話 領主館は、大盛況! 大混乱!

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 俺たちは朝食の後、エリス姫に呼ばれた。
 装備を整えて、別棟から本館へ移動する。

 領主館の敷地内は、大混乱をしている。
 転移部屋に向かう冒険者、走り回るギルド職員、彼らをサポートする領主館のスタッフが入り乱れている。

 遠くの入り口の方から、怒鳴り声が聞こえてくる。
 冒険者と門番の衛士が押し問答をしているのだ。

「だーかーら! 俺達は、エリス姫の依頼を受けて、ダンジョン探索をするんだよ!」

「それは、わかっておる! 敷地の中の人が多すぎて、収集がつかんのだ! しばし待てい!」

「ふざけんなよ! こちとら100万ゴルドが、かかってるんだ! どけよ!」

「しばし待てと、言っているだろうが!」

 転移部屋につながっている本館の風呂場の外壁は、豪快にぶち破られていた。
 風呂場には転移部屋へ入る順番待ちの列が出来ている。

 庭のあちこちに冒険者が座り込んでいる。
 食事をする者、剣や槍を磨く者、中には横になって寝ている者もいる。

 俺は、一晩で様変わりした領主館の様子を見てつぶやいた。

「領主館と言うよりも、前線基地だね……」

 サクラも呆れている。

「いや……、ここは領主館で同時にエリス姫のお屋敷になるのだけれど……。みんな王族の屋敷って、わかっているんですかね?」

 と、言いながらサクラは、庭の片隅を指さした。
 サクラが指さした先では、たき火をして肉を焼いているパーティーがいた。

 セレーネが、植木の近くにいる冒険者に怒鳴った。

「そんな所でおしっこしちゃダメ! 姫様のおうちなのよ!」

「ガハハハ! 見逃してくれよ! 嬢ちゃん!」

 俺とサクラは、苦笑した。

「現場! って感じだな」

「嫌いじゃないですけどね。この雰囲気」

 運動会のテントのみたいな屋根だけの仮設テントで、ギルド受付のジュリさんが働いていた。

「ジュリさん!」

「あー! ヒロト君!」

 ジュリさんの目の下には、クマが出来ている。
 大分、疲れているな。

「大丈夫ですか? 疲れているみたいですけど?」

「ギルド職員の半分は、徹夜よ……」

「ええ!?」

「書類仕事だけで、とんでもない分量だったのよ。日が出てからは、こっちで仮設のギルド出張所の立ち上げで……もう大変よ!」

「あ! ここは、ギルドの出張所なんですね?」

「そうよ。もうすぐ、交代要員が来るわ。そしたら、そこのテントで仮眠よ」

「ハードですね……」

「ねえ、何か食べ物を持ってない?」

「ああ、はい」

 俺は、マジックバッグから、ストックしておいたサンドイッチを取り出した。
 ジュリさんは、俺からひったくるようにサンドイッチを受け取ると、無言で、一心不乱に食べ始めた。

 俺、サクラ、セレーネは、今まで見た事のないジュリさんの姿に、呆気にとられた。

「仕事って……、大変だよな……」

「あの綺麗なお姉さんが……」

「ふぁいとぉ!」

 解体担当のミルコさんも、やって来た。

「おお。坊主ども! オマエらが新新ルートなんて見つけるから、忙しくて仕方がねえぞ!」

 乱暴な言葉とは裏腹に、ミルコさんは楽しそうに笑っている。

「ミルコさんが、こっちに来たって事は、ここで解体するんですか?」

「おうよ! ここで解体しちまって、食える肉は、ここの屋台にすぐ売っちまう」

「えっ? ここの屋台って?」

「表通りには、もう屋台が店を出しているぞ。この領主館で、すごい数の人間が動いているからな。その胃袋にも対応しないとよ」

 ミルコさんは、ウインクをして楽しそうに仕事の支度を始めた。

 8の鐘が鳴った。
 午前8時だ。
 俺たちは、領主館の本館の中に入った。

 メイドに案内されて、フカフカの絨毯を敷かれた廊下を歩く。
 廊下の先の大広間から、声が聞こえてくる。

「ですから! ご予算をお願いします! 予算がなけりゃ出来ませんよ!」
「敷地内にトイレを設置しろ! 今すぐだ!」
「水浴びをさせろだと? ううう、近くに井戸はないか?」

 エリス姫のお付きの騎士が、建築業者やギルドのスタッフと打ち合わせをしている。
 急に領主館に人が増えて、インフラが不足しているのか!

 エリス姫と執事セバスチャンが、ギルドマスターのハゲールと話している。
 エリス姫が俺たちに気が付き、手招きをしてくれた。

 エリス姫は機嫌が良さそうだ。
 一緒に、ハゲールの話を聞く。

「……で、今朝早く6階層に到達しました」

「早いのう。夜の内に、5階層を探索したのじゃな?」

「はい。ダンジョン内は明るいので、昼も夜も関係ありません。かなりのパーティーが、夜間に探索をいたしました」

「到達したパーティーは、何という名かの?」

「えーと、『夕焼けドラゴン』と『無謀遊戯』の合同パーティーでございます」

 ああ! 『夕焼けドラゴン』は、以前、一緒に仕事したパーティーだ。
 ヒロトルート5階層を、エリス姫と一緒に探索した時に、同行していた。

 あの時は、ニューヨークファミリーに、かなりビビッていたけれど……。
 そうか! 6階層に一番乗りしたんだな!

 俺は、知っている顔が成果を出した事に、ちょっと嬉しくなった。

 エリス姫は、ハゲールに鷹揚にうなずく。

「ようやってくれた。100万ゴルドを報奨金として与える」

 執事セバスチャンが、小さな布袋をハゲールに手渡した。
 エリス姫が、ハゲールに質問した。

「ハゲール殿、『夕焼けドラゴン』は、知っておるがの。『無謀遊戯』は、どのようなパーティーなのじゃ?」

「ヒメナスの街から、移って来た2人組です。肉弾攻撃が得意で、2人ともLV40です」

「ほお、なかなか高レベルじゃの」

 なるほど、『夕焼けドラゴン』は、地元のパーティーだからルドルの街も、ルドルのダンジョンの事も良く知っている。
 だが、LVが15前後で、戦士1人、剣士2人、回復役の神官1人の構成だ。

 ボス部屋を抜けられるとは思うけど、もうちょい火力が欲しい。
 そこで、他所の街から移って来た高レベルのパーティー『無謀遊戯』と手を組んだ訳か。

「いつ頃、6階層に案内してもらえるかの?」

「いまは色々と混乱しておりますので、昼頃になります」

「うむ。ご苦労であった」

 ハゲールは、つやつやした元気そうな顔をしていた。
 笑顔で部屋から退出した。

 奴め!
 ジュリさんたちに徹夜させて、自分は寝ていたな!

 エリス姫は俺たちの方を向いた。
 満面の笑顔だ。

「聞いての通りじゃ。探索は昼頃からじゃ。それまでは、自由にして貰ってかまわぬ」

「わかりました。順調みたいですね。もう、5階層のボスを倒しましたか~」

「ふふふ。冒険者たちが、競い合っておるわ」

「敷地内が冒険者で溢れて、凄い事になっていますよ。表通りには、屋台も出ているそうです」

「それよ! この敷地内でも商売を許可しようと思っての。まあ、場所代は払ってもらうがの」

 エリス姫は、出費分をちょっとでも回収するつもりらしい。
 逞しい姫様だ。

 *

 昼になった。
 俺たちは転移部屋から、6階層に転移した。
 夕焼けドラゴンのメンバーに、転移だけ一緒にして貰った。

 俺、セレーネ、サクラで1パーティー。
 エリス姫、執事セバスチャン、メイド2人で1パーティー。
 2パーティー編成で、6階層に来た。

 今日は、何故か護衛の騎士がいない。

「エリス姫、騎士の皆さんは、どうしたのですか?」

「うむ。政務を押し付けてやったぞ」

 騎士さんたち、俺たちが帰る頃には、デスクワークで死んでいるだろうな。
 まあ、エリス姫も机に座ってばかりいては、ストレスが溜まるだろう。

 転移した6階層は、冒険者でごった返していた。
 どこに行っても、冒険者がいる。

 俺は苦笑混じりに、エリス姫に話しかけた。

「これは……、魔物に全然会いませんね」

 エリス姫も、苦笑いしながら答えた。

「ちと、特別依頼が効きすぎたの。これでは、街中を散歩しているのと変わらん」

 精霊ルート6階層の魔物は、ウインドウルフが単独で出現すると聞いている。
 セレーネが、かなり狩りたがっていた。
 動物型の魔物は、ハンターの血が騒ぐらしい。


 エリス姫が提案してきた。

「仕方ない。ちと早いが、帰るとするかのう。それとも、1階層上に戻って、5階層のボスを倒しに行くか?」

 なるほど、それも一案だな。

 6階層の転移魔方陣の横に階段がある。
 階段を登れば、5階層ボス部屋だ。
 移動に時間はかからない。

 セレーネが聞いて来た。

「5階層のボスは何~?」

 執事セバスチャンが、懐から手帳を取り出した。
 手帳を見ながら答えた。

「えー、5階層の魔物は、ジャンプスネークです。ジャンプしてくる蛇型の魔物ですな。そして、5階層のボスは、キングジャンプです。大型の蛇型魔物です。両方とも緑色の美しい蛇革で、良く売れます。」

 サクラが情報を補足する。

「毒は、ありませんね。ただし、キングジャンプは、体が大きいです。ジャンプからの、ボディプレスは要注意。他は、尻尾での攻撃、噛みつきです。魔法はなし」

「物理攻撃メインか。それなら、問題ない。行こうか?」

「おー!」
「やっつけましょー!」

「ヒロトたちは、元気が良いの~。では、キングジャンプを倒しに行くかのう」

 俺たちは、6階層の通路を戻り一つ上の5階層のボス部屋に向かった。
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