62 / 99
ルドルのダンジョン編
第62話 葛藤
しおりを挟む
翌日、エリス姫から共同探索を頼まれた。
「ニューヨークファミリーの動きが、気になるでのう。奴らが占有したと言う5階層のボス部屋の様子を見に行きたいのじゃ。案内を頼む」
ヒロトルート5階層のボス部屋は、ニューヨークファミリーのケインが占有を宣言した。
俺達も、どうなったのか気になる。
朝からダンジョンに潜る。
4パーティー、合計19名の大所帯だ。
俺、サクラ、セレーネの1パーティー。
エリス姫、執事セバスチャン、メイド(戦闘可能)2名、護衛騎士4名、衛士4名の2パーティー。
冒険者ギルドから護衛依頼で雇われたパーティー、夕焼けドラゴン、が1パーティー。
夕焼けドラゴンは、大盾を持った戦士1名、革鎧で軽装の剣士が2名、回復役の神官が1名の編成だ。
夕焼けドラゴンの4人は、Lv15前後。
正直、ボス部屋にいたニューヨークファミリーの連中よりも、見劣りがする。
だが、人がいないよりはマシだ。
エリス姫側としても、王都から増援が来るまでは、地元の戦力を活用するしかない。
今回は、何が起こるかわからない。
それも相手は人間だ。
魔物と違って頭を使ってくる。
俺は緊張しながら、5階層ボス部屋を目指して先行した。
セレーネとサクラの間で、夕焼けドラゴンのパーティー名が話題になった。
移動しながら、おしゃべりをしている
「夕焼けドラゴンって、パーティー名もどうなんだろうね~」
「ドラゴンって付けるパーティーは多いよ。強そうな感じだから、護衛任務とかやるには良い名前よね」
「でも~、夕焼けドラゴン、って、ほのぼのした感じじゃな~い?」
まあ、そうだよな。
漆黒のドラゴンとか、白銀のドラゴンとか、そんな感じなら、また違った印象なんだけれどな。
「わたしたちも正式名を付けないとね。セレーネは、どんなパーティー名が良い?」
「う~ん、『恋の狩人と床上手』とか~?」
「何よ、それー!」
そんな緊張感のない会話が続いた。
水場で休憩を取り5階層ボス部屋へ向かった。
エリス姫が、俺に話しかけて来た。
「ヒロトは、どう思うか? ボス部屋の占有は、出来ると思うかの?」
言われてみれば……。
ダンジョン内では、30分位たつと、色々な物が吸収されてしまう。
壁に塗料を塗ったり、目印にクギを打ち付けても、30分たてば吸収されて無くなってしまう。
「木材で壁やドアをボス部屋に作ったとしても、時間が経てば吸収されてしまいそうですよね……」
「うむ。ヒロトも、そう思うか。セバスチャンや騎士達も同じ事を言っておっての」
「ダンジョンの壁を壊して積み上げる……。うーん、現実的じゃないな……」
ダンジョンの壁は、非常に硬い。
傷をつける事は出来ても大規模に壊すのは不可能だ。
仮に出来たとしても、ダンジョンに吸収される可能性もある。
「やはり、見てみないとわからんな」
「はい。間もなくですので、警戒をお願いします」
通路の先、遠くにボス部屋が見えて来た。
ボス部屋の入り口は、ふさがれていない。
エリス姫が、つぶやいた。
「ふむ。壁などは無い様じゃな」
「遠目で見る限り、障害物はありませんね」
俺達は、更にボス部屋に近づいた。
「中に人がおるの!」
エリス姫の声に反応して、騎士たちが前に出た。
サクラとセレーネが、エリス姫をカバーする体制をとる。
ボス部屋の中には、冒険者が20人位いる。
俺達に気が付いて、ボス部屋の入り口に大盾を持って走って来た。
これは……!
人の壁だ!
ボス部屋の入り口に、大盾を持った冒険者が横一列に並んでいる。
その後ろには、ケインと先日会ったLv40のパーティー5人がニラミを利かせる。
大男の戦士、ガシュムドが指示を出す。
「盾と盾の間に、隙間を作るな! そうだ! ボス部屋に一歩も入れるな!」
こちらは、前列に騎士たちが出る。
俺たちは2列目で、エリス姫の側にいる。
ガシュムドが大声で宣言した。
「このボス部屋は、ニューヨークファミリーのモノだ! 部外者は立ち去れ!」
空気が震える。
ガシュムドの腹に響く声に、後の夕焼けドラゴンから小さな悲鳴が上がった。
ボス部屋の中からケビンがニヤニヤしながら、こちらの様子を伺っている。
騎士たちが、ひるまず言い返す。
「何を言うか!」
「そこをどけ!」
「第三王女のエリス姫なるぞ!」
「無礼であるぞ!」
だが、人の壁を作った冒険者たちは動じない。
エリス姫が、つぶやいた。
「困ったの……。冒険者が相手では、倒して行くわけにもいかぬし……」
確かに。
もし、彼らを傷つけ、それが噂になれば、王位継承争いに悪影響が出るだろう。
人の壁を作っている冒険者たちは、首から木や鉄のカードをぶら下げている。
E、Fランクの冒険者たちだ。
力押しで排除出来なくもないが数が多い。
その上、人の壁の向こうには、高ランクのガシュムドたちが控えている。
セレーネが、声を上げた。
「レッドさん!? ヒロト! あれ、レッドさんじゃない?」
俺はセレーネが指さす方を見た。
以前、ダンジョンから素材運びを、手伝って貰ったスケアクロウのレッドさんがいた。
他のスケアクロウのメンバーも大盾を持って人の壁を作っている。
「レッドさんだ! 道路工事の仕事を引き受けたはずなのに……」
エリス姫も覗き込んで来た。
「知り合いかの? なら、事情を聞いて来てくれんかの?」
レッドさんたちは、ルドルの街の冒険者ギルド所属だ。
王都に本部を置くクラン、ニューヨークファミリーの傘下に、レッドさん達が入っているのはおかしい。
確かに、何か事情がありそうだ。
俺は、ボス部屋の中にいるケビンに大声で知らせた。
「ケビン! 知り合いがいる! 話をさせろ!」
「おーう、ヒロト大先生か! 好きにしな」
ケビンは相変わらずで、気楽に返事をしてきた。
俺は、にらみ合う騎士団と人の壁の間を通ってレッドさんに近づいた。
「レッドさん! スケアクロウのみなさん!」
「お!? おお! ヒロトか!」
レッドさんが、大盾越しに返事をした。
「レッドさん、道路工事の仕事は?」
「……あれは、やめた」
「そうですか……。それで……、今の仕事は、ニューヨークファミリーの?」
「そうだ。俺たちスケアクロウは、ニューヨークファミリーの傘下に入ったんだ」
俺は、レッドさんの耳元で小声で話した。
「レッドさん! ニューヨークファミリーは、やばいクランですよ!」
「……」
レッドさんは、下を向いて黙ってしまった。
「ホーンラビットの収集依頼が出た時だって、脅して買い占めをしたし」
「……」
「今回だって、ダンジョンのボス部屋を占有するなんて、無茶苦茶ですよ!」
「……」
「レッドさん! ニューヨークファミリーの傘下なんて、やめて下さい!」
レッドさんは、ため息をついた。
頭をかき、グッと目に力を込めて、俺をにらんで来た。
「なあ、ヒロト。その位にしてくれないか? 俺たちには、俺たちの事情ってもんがあるんだ」
レッドさんだけでなく、隣にいるスケアクロウのメンバーも、俺をにらんで来た。
「ヒロト、オマエは凄いよ。新しいルートを見つけて、ギルド指定の依頼をこなして、今じゃ、Cランクの冒険者だ。凄いよ。認めるよ」
「……」
俺は、レッドさん達の雰囲気に飲まれてしまった。
何か言いたい事があるのはわかったので、聞き役になる事にした。
「俺たちだって、オマエみたいに活躍したいと思って、田舎から出て来たんだ。けど、甘くなかったよ。冒険者稼業ってやつはさ……。稼げねー、金はねーでさ」
「……」
「なあ、ヒロト。わかるか? 道路工事なんて、本来冒険者の仕事じゃねーよ。俺たちが土にまみれて、汗だくになって工事をしている。その横を、お前たちが颯爽と通り過ぎて行くんだ。俺たちがどんな気持ちで、その姿を見ていると思う?」
「……」
俺は言い返せなかった。
俺もFランとして、冒険者らしくないルート仕事ばかりやらされていた。
田舎の村々を回って、薬草を買い集める。
行商人の見習いみたいな仕事だった。
冒険者ギルドで同年代の連中がダンジョンに潜って行くのを、うらやましく見ているだけだった。
あの時の辛い気持ちは……、軽々しく他人に『わかる!』なんて言って欲しくない。
レッドさんたちも同じだろう。
俺が今ここで、『気持ちはわかる』と言っても反発するだけだ。
レッドさんは、胸を張って続きを語った。
「でもな! ケインさんは、俺達に声を掛けてくれたんだよ! 俺達でも、やれるって言ってくれたんだ!」
「ニューヨークファミリーから、お金が出てるんですよね……」
レッドさんは目を輝かせて、声のトーンが上がって来た。
「ああ! 毎日、小遣いをくれるよ! メシも食わせてくれるよ! オマケにこのボス部屋で、ボスを倒させてくれるんだ!」
「5階層のボスだと、強くないですか?」
「そりゃ強いよ! でもな、ガシュムドさんたちが、フォローしてくれるんだよ! 弱らせてくれて、俺達がトドメを指すんだ!」
レッドさんは、鼻息荒く、自分が倒したと自慢してきた。
だけど、それは違う。
「レッドさん。それ、自分で倒した内に入らないですよ」
「なんでだ! 経験も付いて、レベルも上がったぞ!」
「そりゃ、そうですが……」
「とにかくだ! 俺たちは、ニューヨークファミリーの世話になるって決めたんだ!」
後ろの方から、ケインがやって来た。
レッドさんの肩に手を回すと、軽薄に笑いながら俺に告げた。
「なあ、ヒロト大先生よぉ。わかったろ? 俺が、無理強いした訳じゃあ、ないんだよ」
「金、メシ、獲物か」
ケインは、周りに良く聞こえるように、大声で演説を始めた。
「そう! そう言う事だよ! こいつらだって、ヤレば出来るんだ! ただ、今までは、ちょっとばかし運が無かった。ツイて無かったのさ。だが、もう大丈夫だ! こいつらは、ニューヨークファミリーのメンバーだ! 立派なモンさ!」
人の壁になっている冒険者から、次々に声が上がった。
「そうだ! そうだ!」
「俺たちは、ニューヨークファミリーだ!」
「俺たちだって、ヤレるんだ!」
「ここは、通さねえぞ!」
参ったな。
人の壁を作っている冒険者たちの気持ちを、ケインにガッチリつかまれてしまっている。
ケビンが勝ち誇った顔で俺に宣言した。
「どーだ、ヒロト? これが、ニューヨークファミリーの結束だ! 俺たちはファミリー! 家族だ! だから、騎士が相手でも引かねえぞ……」
エリス姫が連れて来た騎士たちは困惑顔だ。
冒険者たちの勢いに押されている。
俺は、エリス姫の所に戻り状況を報告した。
「ふむ。つまり、あやつらは自分自身の意思で、ニューヨークファミリーに参加しておるのじゃな?」
「はい。気持ちを変えさせるのは、難しそうです」
エリス姫は、ため息をつくと決断をした。
「わかった。今日は様子を見に来ただけじゃ。冒険者ギルドで、ギルドマスターのハゲール殿に相談をしてみよう」
俺たちは、5階層のボス部屋から撤退した。
背中越しにレッドさんたちの喜ぶ声が聞こえた。
ケインの声も聞こえてくる。
「オマエたちさすがだぜ! 俺はヤルと思った! オマエたちは、ヤレると信じてたぜ! 後で、メシと酒を届けるからよ」
エリス姫が移動しながら俺に話しかけて来た。
「奴らは、うだつの上がらぬ冒険者どもを取り込んだようじゃの」
俺は、深くため息をつく。
「エリス姫、俺も少し前までは、うだつの上がらない冒険者でした」
「ヒロトがか?」
「はい。Fランとバカにされて、ダンジョンに潜る許可すら貰えなかったのですよ」
「信じられんな……」
「だから、あいつらの気持ちは、わかるんです。あまり悪く言わないでやって下さい」
エリス姫は、しばらく沈黙してから答えた。
「誰しも、苦労はあるという事じゃな」
「そうですね。ニューヨークファミリーは、俺も好きになれませんが……。あいつらに金と食事と経験を与えている……。チャンスや希望を与えているって見方も出来ます」
「それは……、本来、王家の仕事じゃな……」
俺は、エリス姫に何も答えなかった。
王家やエリス姫を批判するのは容易い。
確かに、彼らは冒険者としてうまく行っていなかった。
王家が少しは手を差し伸べても良かったと思う。
だが、完璧な国は、どこにもない。
全ての冒険者、全ての人を、王家が面倒を見て幸せにするのは、現実的に難しい。
オーランド王国は、治安が良いし、経済も悪くない。
冒険者の国なので自由もある。
他の国に比べれば、かなりマシな方なんだと思う。
俺は沈黙する事で、王家に敬意を示したつもりだった。
「だからと言って、ニューヨークファミリーの汚い手口を、認める気はありません」
「それとこれとは、別の問題じゃからの」
俺たちは、冒険者ギルドに向けて急いだ。
だが、向かった先の冒険者ギルドには、もっと厄介なヤツが待ち構えていた。
「ニューヨークファミリーの動きが、気になるでのう。奴らが占有したと言う5階層のボス部屋の様子を見に行きたいのじゃ。案内を頼む」
ヒロトルート5階層のボス部屋は、ニューヨークファミリーのケインが占有を宣言した。
俺達も、どうなったのか気になる。
朝からダンジョンに潜る。
4パーティー、合計19名の大所帯だ。
俺、サクラ、セレーネの1パーティー。
エリス姫、執事セバスチャン、メイド(戦闘可能)2名、護衛騎士4名、衛士4名の2パーティー。
冒険者ギルドから護衛依頼で雇われたパーティー、夕焼けドラゴン、が1パーティー。
夕焼けドラゴンは、大盾を持った戦士1名、革鎧で軽装の剣士が2名、回復役の神官が1名の編成だ。
夕焼けドラゴンの4人は、Lv15前後。
正直、ボス部屋にいたニューヨークファミリーの連中よりも、見劣りがする。
だが、人がいないよりはマシだ。
エリス姫側としても、王都から増援が来るまでは、地元の戦力を活用するしかない。
今回は、何が起こるかわからない。
それも相手は人間だ。
魔物と違って頭を使ってくる。
俺は緊張しながら、5階層ボス部屋を目指して先行した。
セレーネとサクラの間で、夕焼けドラゴンのパーティー名が話題になった。
移動しながら、おしゃべりをしている
「夕焼けドラゴンって、パーティー名もどうなんだろうね~」
「ドラゴンって付けるパーティーは多いよ。強そうな感じだから、護衛任務とかやるには良い名前よね」
「でも~、夕焼けドラゴン、って、ほのぼのした感じじゃな~い?」
まあ、そうだよな。
漆黒のドラゴンとか、白銀のドラゴンとか、そんな感じなら、また違った印象なんだけれどな。
「わたしたちも正式名を付けないとね。セレーネは、どんなパーティー名が良い?」
「う~ん、『恋の狩人と床上手』とか~?」
「何よ、それー!」
そんな緊張感のない会話が続いた。
水場で休憩を取り5階層ボス部屋へ向かった。
エリス姫が、俺に話しかけて来た。
「ヒロトは、どう思うか? ボス部屋の占有は、出来ると思うかの?」
言われてみれば……。
ダンジョン内では、30分位たつと、色々な物が吸収されてしまう。
壁に塗料を塗ったり、目印にクギを打ち付けても、30分たてば吸収されて無くなってしまう。
「木材で壁やドアをボス部屋に作ったとしても、時間が経てば吸収されてしまいそうですよね……」
「うむ。ヒロトも、そう思うか。セバスチャンや騎士達も同じ事を言っておっての」
「ダンジョンの壁を壊して積み上げる……。うーん、現実的じゃないな……」
ダンジョンの壁は、非常に硬い。
傷をつける事は出来ても大規模に壊すのは不可能だ。
仮に出来たとしても、ダンジョンに吸収される可能性もある。
「やはり、見てみないとわからんな」
「はい。間もなくですので、警戒をお願いします」
通路の先、遠くにボス部屋が見えて来た。
ボス部屋の入り口は、ふさがれていない。
エリス姫が、つぶやいた。
「ふむ。壁などは無い様じゃな」
「遠目で見る限り、障害物はありませんね」
俺達は、更にボス部屋に近づいた。
「中に人がおるの!」
エリス姫の声に反応して、騎士たちが前に出た。
サクラとセレーネが、エリス姫をカバーする体制をとる。
ボス部屋の中には、冒険者が20人位いる。
俺達に気が付いて、ボス部屋の入り口に大盾を持って走って来た。
これは……!
人の壁だ!
ボス部屋の入り口に、大盾を持った冒険者が横一列に並んでいる。
その後ろには、ケインと先日会ったLv40のパーティー5人がニラミを利かせる。
大男の戦士、ガシュムドが指示を出す。
「盾と盾の間に、隙間を作るな! そうだ! ボス部屋に一歩も入れるな!」
こちらは、前列に騎士たちが出る。
俺たちは2列目で、エリス姫の側にいる。
ガシュムドが大声で宣言した。
「このボス部屋は、ニューヨークファミリーのモノだ! 部外者は立ち去れ!」
空気が震える。
ガシュムドの腹に響く声に、後の夕焼けドラゴンから小さな悲鳴が上がった。
ボス部屋の中からケビンがニヤニヤしながら、こちらの様子を伺っている。
騎士たちが、ひるまず言い返す。
「何を言うか!」
「そこをどけ!」
「第三王女のエリス姫なるぞ!」
「無礼であるぞ!」
だが、人の壁を作った冒険者たちは動じない。
エリス姫が、つぶやいた。
「困ったの……。冒険者が相手では、倒して行くわけにもいかぬし……」
確かに。
もし、彼らを傷つけ、それが噂になれば、王位継承争いに悪影響が出るだろう。
人の壁を作っている冒険者たちは、首から木や鉄のカードをぶら下げている。
E、Fランクの冒険者たちだ。
力押しで排除出来なくもないが数が多い。
その上、人の壁の向こうには、高ランクのガシュムドたちが控えている。
セレーネが、声を上げた。
「レッドさん!? ヒロト! あれ、レッドさんじゃない?」
俺はセレーネが指さす方を見た。
以前、ダンジョンから素材運びを、手伝って貰ったスケアクロウのレッドさんがいた。
他のスケアクロウのメンバーも大盾を持って人の壁を作っている。
「レッドさんだ! 道路工事の仕事を引き受けたはずなのに……」
エリス姫も覗き込んで来た。
「知り合いかの? なら、事情を聞いて来てくれんかの?」
レッドさんたちは、ルドルの街の冒険者ギルド所属だ。
王都に本部を置くクラン、ニューヨークファミリーの傘下に、レッドさん達が入っているのはおかしい。
確かに、何か事情がありそうだ。
俺は、ボス部屋の中にいるケビンに大声で知らせた。
「ケビン! 知り合いがいる! 話をさせろ!」
「おーう、ヒロト大先生か! 好きにしな」
ケビンは相変わらずで、気楽に返事をしてきた。
俺は、にらみ合う騎士団と人の壁の間を通ってレッドさんに近づいた。
「レッドさん! スケアクロウのみなさん!」
「お!? おお! ヒロトか!」
レッドさんが、大盾越しに返事をした。
「レッドさん、道路工事の仕事は?」
「……あれは、やめた」
「そうですか……。それで……、今の仕事は、ニューヨークファミリーの?」
「そうだ。俺たちスケアクロウは、ニューヨークファミリーの傘下に入ったんだ」
俺は、レッドさんの耳元で小声で話した。
「レッドさん! ニューヨークファミリーは、やばいクランですよ!」
「……」
レッドさんは、下を向いて黙ってしまった。
「ホーンラビットの収集依頼が出た時だって、脅して買い占めをしたし」
「……」
「今回だって、ダンジョンのボス部屋を占有するなんて、無茶苦茶ですよ!」
「……」
「レッドさん! ニューヨークファミリーの傘下なんて、やめて下さい!」
レッドさんは、ため息をついた。
頭をかき、グッと目に力を込めて、俺をにらんで来た。
「なあ、ヒロト。その位にしてくれないか? 俺たちには、俺たちの事情ってもんがあるんだ」
レッドさんだけでなく、隣にいるスケアクロウのメンバーも、俺をにらんで来た。
「ヒロト、オマエは凄いよ。新しいルートを見つけて、ギルド指定の依頼をこなして、今じゃ、Cランクの冒険者だ。凄いよ。認めるよ」
「……」
俺は、レッドさん達の雰囲気に飲まれてしまった。
何か言いたい事があるのはわかったので、聞き役になる事にした。
「俺たちだって、オマエみたいに活躍したいと思って、田舎から出て来たんだ。けど、甘くなかったよ。冒険者稼業ってやつはさ……。稼げねー、金はねーでさ」
「……」
「なあ、ヒロト。わかるか? 道路工事なんて、本来冒険者の仕事じゃねーよ。俺たちが土にまみれて、汗だくになって工事をしている。その横を、お前たちが颯爽と通り過ぎて行くんだ。俺たちがどんな気持ちで、その姿を見ていると思う?」
「……」
俺は言い返せなかった。
俺もFランとして、冒険者らしくないルート仕事ばかりやらされていた。
田舎の村々を回って、薬草を買い集める。
行商人の見習いみたいな仕事だった。
冒険者ギルドで同年代の連中がダンジョンに潜って行くのを、うらやましく見ているだけだった。
あの時の辛い気持ちは……、軽々しく他人に『わかる!』なんて言って欲しくない。
レッドさんたちも同じだろう。
俺が今ここで、『気持ちはわかる』と言っても反発するだけだ。
レッドさんは、胸を張って続きを語った。
「でもな! ケインさんは、俺達に声を掛けてくれたんだよ! 俺達でも、やれるって言ってくれたんだ!」
「ニューヨークファミリーから、お金が出てるんですよね……」
レッドさんは目を輝かせて、声のトーンが上がって来た。
「ああ! 毎日、小遣いをくれるよ! メシも食わせてくれるよ! オマケにこのボス部屋で、ボスを倒させてくれるんだ!」
「5階層のボスだと、強くないですか?」
「そりゃ強いよ! でもな、ガシュムドさんたちが、フォローしてくれるんだよ! 弱らせてくれて、俺達がトドメを指すんだ!」
レッドさんは、鼻息荒く、自分が倒したと自慢してきた。
だけど、それは違う。
「レッドさん。それ、自分で倒した内に入らないですよ」
「なんでだ! 経験も付いて、レベルも上がったぞ!」
「そりゃ、そうですが……」
「とにかくだ! 俺たちは、ニューヨークファミリーの世話になるって決めたんだ!」
後ろの方から、ケインがやって来た。
レッドさんの肩に手を回すと、軽薄に笑いながら俺に告げた。
「なあ、ヒロト大先生よぉ。わかったろ? 俺が、無理強いした訳じゃあ、ないんだよ」
「金、メシ、獲物か」
ケインは、周りに良く聞こえるように、大声で演説を始めた。
「そう! そう言う事だよ! こいつらだって、ヤレば出来るんだ! ただ、今までは、ちょっとばかし運が無かった。ツイて無かったのさ。だが、もう大丈夫だ! こいつらは、ニューヨークファミリーのメンバーだ! 立派なモンさ!」
人の壁になっている冒険者から、次々に声が上がった。
「そうだ! そうだ!」
「俺たちは、ニューヨークファミリーだ!」
「俺たちだって、ヤレるんだ!」
「ここは、通さねえぞ!」
参ったな。
人の壁を作っている冒険者たちの気持ちを、ケインにガッチリつかまれてしまっている。
ケビンが勝ち誇った顔で俺に宣言した。
「どーだ、ヒロト? これが、ニューヨークファミリーの結束だ! 俺たちはファミリー! 家族だ! だから、騎士が相手でも引かねえぞ……」
エリス姫が連れて来た騎士たちは困惑顔だ。
冒険者たちの勢いに押されている。
俺は、エリス姫の所に戻り状況を報告した。
「ふむ。つまり、あやつらは自分自身の意思で、ニューヨークファミリーに参加しておるのじゃな?」
「はい。気持ちを変えさせるのは、難しそうです」
エリス姫は、ため息をつくと決断をした。
「わかった。今日は様子を見に来ただけじゃ。冒険者ギルドで、ギルドマスターのハゲール殿に相談をしてみよう」
俺たちは、5階層のボス部屋から撤退した。
背中越しにレッドさんたちの喜ぶ声が聞こえた。
ケインの声も聞こえてくる。
「オマエたちさすがだぜ! 俺はヤルと思った! オマエたちは、ヤレると信じてたぜ! 後で、メシと酒を届けるからよ」
エリス姫が移動しながら俺に話しかけて来た。
「奴らは、うだつの上がらぬ冒険者どもを取り込んだようじゃの」
俺は、深くため息をつく。
「エリス姫、俺も少し前までは、うだつの上がらない冒険者でした」
「ヒロトがか?」
「はい。Fランとバカにされて、ダンジョンに潜る許可すら貰えなかったのですよ」
「信じられんな……」
「だから、あいつらの気持ちは、わかるんです。あまり悪く言わないでやって下さい」
エリス姫は、しばらく沈黙してから答えた。
「誰しも、苦労はあるという事じゃな」
「そうですね。ニューヨークファミリーは、俺も好きになれませんが……。あいつらに金と食事と経験を与えている……。チャンスや希望を与えているって見方も出来ます」
「それは……、本来、王家の仕事じゃな……」
俺は、エリス姫に何も答えなかった。
王家やエリス姫を批判するのは容易い。
確かに、彼らは冒険者としてうまく行っていなかった。
王家が少しは手を差し伸べても良かったと思う。
だが、完璧な国は、どこにもない。
全ての冒険者、全ての人を、王家が面倒を見て幸せにするのは、現実的に難しい。
オーランド王国は、治安が良いし、経済も悪くない。
冒険者の国なので自由もある。
他の国に比べれば、かなりマシな方なんだと思う。
俺は沈黙する事で、王家に敬意を示したつもりだった。
「だからと言って、ニューヨークファミリーの汚い手口を、認める気はありません」
「それとこれとは、別の問題じゃからの」
俺たちは、冒険者ギルドに向けて急いだ。
だが、向かった先の冒険者ギルドには、もっと厄介なヤツが待ち構えていた。
38
あなたにおすすめの小説
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる