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ルドルのダンジョン編

第49話 王位継承争いなんて、巻き込まないで下さい~お姫様登場

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 俺達は、冒険者ギルドに戻って来た。

 ギルドの中では、何かモメているみたいだ。
 怒鳴り声が、ギルドの外まで聞こえてくる。

 ドアを開けて中に入る。

 受付カウンターの中に、ギルドマスターのハゲールがいた。
 カウンターに身を隠すようにして、おびえた顔で応対している。

 珍しい!
 いつも胸をそらして、傲然としている男なのに。

 ハゲールの相手は、身なりの良い一団だ。
 いや、身なりが良いと言うよりは……。

 フルメタルプレートだ!
 全身をカバーする高価な金属製の鎧にマント姿。
 マントには、2匹の向かい合ったドラゴンの紋章がある。
 紋章は、金糸で綺麗に刺繍されている。

 あの紋章……あれは……!
 王国騎士団だ!
 初めて見た!

 フルメタルプレートで、重装備の騎士が4人。
 黒いスーツを来た男が1人、おそらく執事だろう。

 そして、一団の真ん中に、一際目立つ白銀の鎧を着た少女がいる。
 青色の長い髪、小柄だが大人っぽい雰囲気で、キリッとした美形だ。

 一団の中で少女1人だけが、椅子に座っている。
 王国騎士団が従っているって事は、かなり高位の貴族か王族だ。

 ハゲールは、彼らに責め立てられていた。
 フルメタルプレートの騎士が、口々にハゲールを責める。

「ハゲールギルド長! 貴殿の責任ですぞ!」
「しかり! 貴殿がしっかりと、していないからだ!」
「業務怠慢では、あるまいか!」

 ハゲールは、汗だくだ。
 必死で弁解をしている。

「いや、しかしですよ! わたくしは、ギルド長ではありますが、冒険者の行動の自由は制限出来ない訳でありまして……」

「ええい! 見苦しいですぞ!」

 今は、夕方6時過ぎ。

 ギルドには、ダンジョンから帰って来た冒険者が沢山いるが、誰も受付カウンターに寄りつこうとしない。
 遠巻きにロビーから、騎士の一団とハゲールのやり取りを眺めている。

 まあ、貴族とか王族とか、面倒臭いものな。
 巻き込まれたくないよな。

 俺達も騒ぎが収まるまで、ロビーで待機する事にした。
 3人で入り口からロビーへ移動しようとした。

 その時、ハゲールと俺の目が合った。
 ハゲールが、叫んだ!

「おおお! 来たか! 神速のダグの愛弟子よ!」

「はいいいいいー!?」

 一体、何だ?
 ハゲールは、受付カウターから飛び出して来た。

 驚く俺達をお構いなしに、俺達を一団の方へと連れて行く。

「ご紹介いたします! 彼こそが! 神速のダグの唯一の弟子である、Dランク冒険者ヒロト君です!」

 なななな、何だ?
 騎士の一団は俺をジロジロと観察する様に見ている。

「ほう、彼が……」
「まだ、子供ではないか!」
「むう、しかし、あの年でDランクは、なかなかではないか」
「あの使い込んだ鎧は、激しい戦歴を物語っているぞ」

 すいません。
 使い込んだ鎧は、素材の革が元から傷んでいたのとレッドリザードの火炎を浴びたからです。

 いや、それは、どうでも良い。
 状況がさっぱり、飲み込めないぞ。

 椅子に座っている白銀鎧の女の子が、話し始めた。

「ハゲールギルド長。神速のダグのお弟子殿に会えたのは嬉しいが、私の目的は神速のダグに教えを請う事だ。おわかりか?」

「ええ、ええ! それはもう、わかっております」

「貴殿が、『神速のダグがルドルの街に来て弟子の育成を始めた』と報告書に書いたから、私がここに来たのだ。王都から、わざわざルドルまでな」

「存じております」

「だが、神速のダグは不在。行き違いで王都に向かったとはな……」

 女の子は、しっかりとした落ち着いた話しぶりだ。
 怒るでなく、責めるでなく、淡々と事実をハゲールにぶつけている。

 やっと事情がわかった。

 ハゲールは、師匠神速のダグが俺を弟子に取った事を報告書に書いた。
 その報告書を、この女の子が読んだ。

 で、女の子は、師匠にコーチしてもらいたいとルドルまでやって来た。
 ところが、師匠は行き違いで王都に行っていて不在。

 それで、もめている訳だ。
 いや~、ハゲール大変だな~。
 と、棒で10回つぶやいておこう。


 うん?
 ハゲールが、笑顔で前のめりになったぞ。

「そこでですよ! ご提案がございます!」

「ほう、聞こう」

「この、『神速のダグの弟子』! ヒロト君とご一緒にダンジョン探索をしながら、神速のダグの帰りを、お待ちになってはいかがでしょうか?」

「なに? お弟子殿のパーティーに、参加せよと申すか」

「左様でございます」

 ちょっ! ちょっと待て!
 なんで俺を巻き込むのさ!
 ハゲールは、俺たちの方を向いた。

「お前たち! こちらのお方は、オーランド王国第三王女のエリス姫であらせられる!」

「うむ。エリス・オーランド・ブルーである。よろしくな、お弟子殿」

 セレーネとサクラが驚きの声を上げた。

「ええ! お姫様! すごーい!」

「第三王女様ですか!」

 ハゲールが2人に注意をする。

「こら! お前たち! 姫様の前で無礼だぞ!」

 エリス姫は、鷹揚に対応した。

「よい。ギルド長殿。オーランド王国は、冒険者の国である。王族と言えども今は冒険者。遠慮は無用ぞ」

 いや、姫様、懐が広すぎるな。
 全然、威張らない。


 そうそう、オーランド王国は、冒険者が建国したんだよね。
 初代国王のオーランド・ブルー王が、ドラゴン殺しの有名な冒険者だ。

 その人が、魔の森の中で2つのダンジョンを見つけて、その近くを開拓して街を作り建国した。
 冒険者ギルドを設立したのも、オーランド・ブルー王だ
 そんな歴史があるので、王族にも冒険者としての力量が求められる。

 しかし、だからと言って、俺達と共同探索と言うのはなあ。
 正直、俺が面倒クサイ。

 執事が発言した。

「ハゲールギルド長。失礼ながら、そちらのヒロト殿のパーティーは、姫様が参加するのに、ふさわしいパーティーとは、思えませんが……」

「いえいえ、セバスチャン様。ヒロトのパーティーは、先日ダンジョン踏破を達成したのですよ!」

「ほう……、そちらのお三方でですか?」

「そうです! まだ、若い3人ですが、実力派です。おそらくダンジョン踏破の最年少記録ではないかと」

「ふーむ」

「それに、ヒロトは若いですが、スキルが多彩でして……」

 ハゲールは、俺の腕をつかむと、強引にスキルボードに押し付けた。
 俺は、驚いて声を上げた。

「ちょ!」

 あまり自分のステータスは、人に見せたくない。
 だが、ハゲールも必死なのだろう。
 物凄い力で、俺の抵抗は無駄だった。

 みんながスキルボードに映し出された、俺のステータスをのぞき込む。
 どさくさ紛れで、ホールにいた冒険者達ものぞきに来た。

 4人の騎士が、俺の論評を始めた。

「LV1?」
「しかし、それにしては、スキルが多い」
「ぬう! 【神速】だと!」
「【鑑定】や【マピッピング】も持っている。スキルは優秀だな」

 それは、どうも。
 目の前で自分が評価されるのは、何とも居心地が悪い。

 執事のセバスチャンが、俺の側に寄って来た。

「ヒロト様。腰の剣は、コルセアでは?」

 良く見てるな。
 さすがは、執事だ。

「はい。師匠から貰いました」

「ふむ。愛刀を譲られたと。鎧は……、それは……、ボルツですか?」

「はい。新人さんが練習で作ったので、非正規品ですが。ボルツの革鎧です」

「素材は?」

「オーガです」

「ほう!」

 俺は、年齢からすると、かなり良い装備を身に着けていると思う。
 セバスチャンは、俺の装備に好感したようだ。

 俺とセバスチャンの会話で、ギルド内が一気に騒がしくなった。

「あれが、ボルツ製? 黒くないぜ」
「いや、鎧の形はボルツだ!」

「あれがコルセアか! ダグの愛刀で有名なヤツだよな!」
「ダグは、ラファールだろ?」
「それは最近だよ。一番有名なのは、コルセアだ!」

 みんな装備品が、大好きだな。
 各所で熱くなってる。

 ハゲールの目が、ギラリと光った。
 ここぞと畳みかける。

「いかがでしょうか? ヒロト君のパーティーは、エリス姫様と同年代ですし。ご覧の通り女性も2人おります。経験、交流の面からも、良い機会ではございませんか? セバスチャン様?」

「なるほど。確かに同年代の冒険者との探索は、良い経験ですね。女性が一緒と言うのも、望ましい環境です。姫様、いかがでございましょう?」

 ちょっと、待ってくれ!
 俺を置き去りにして、話がドンドン進んで行く。

 エリス姫は、俺達の方を見てニッコリと笑った。
 気品のある微笑みだ。

 まさに、ノーブル!
 これこそ、ロイヤル!

「ギルド長のご提案に従おう。ヒロト殿、よろしくな。みな、ご苦労であった! 行くぞ!」


 エリス姫の一行は、去って行った。


 おおお! 正気に戻った!
 俺は、エリス姫の笑顔にあてられていた。
 何も言わず、ボーッとエリス姫たちを見送ってしまった。

 俺は、ハゲールの腕をつかんだ。

「ハゲールさん! どうなっているんですか!」

「いや……、その……、聞いていただろう?」

「エリス姫が俺のパーティーに入るって、本気ですか?」

「姫様が、そうおっしゃったじゃないか! オマエも聞いていただろう!」

「嫌ですよ~。王族のお相手なんて、面倒でしかないですよ!」

「いいかヒロト! これは重要な事なのだ。良く聞けよ!」

 ハゲールが、状況説明を始めた。

 現在、王都では王位継承の争いが始まっている。
 有力候補は、アビン侯爵家の長男ウォールと第三王女のエリス姫だ。

 王都の第一ギルドは、ウォール派で、2つのダンジョンを担当している。
 第二ギルドは、中立で研究機関。
 第三ギルドが、エリス姫派で魔の森を担当している。

 そして、このルドルの街は、第三王女のエリス姫のご領地らしい。
 ルドルの冒険者ギルドの顧問は、エリス姫になっている。
 実質的には、オーナーらしい。

 ハゲールは、一通りの説明を終えると、改まった口調で俺達を諭し始めた。

「従って、ルドルの冒険者ギルドは、エリス姫派だ。エリス姫にご協力をしなくてはならない。君達も――」

 セレーネとサクラが、ハゲールの言葉を遮って反論し始めた。

「えー! そういうの! 私は子供だから! わからないです!」

「明らかに、ギルドマスターの保身ですよね? 王国に協力するならまだしも、特定の派閥に組み入れられるのは、気に入らないですね。わたしは、嫌ですね!」

 ハゲールは、真っ青になった。

「ちょ! 2人とも、そんな事を言わないで! エリス姫を見ただろ? 良い方じゃないか!」

 まあ、確かにエリス姫は、好印象だった。
 王族なのに、威張った所がない。
 だけど……。
 俺も拒絶の意思を、ハゲールにハッキリと伝えた。

「貴族や王族なんて、面倒くさいし。さらに、派閥争いに巻き込まれるは、ノーサンキューですよ」

「ヒロトまで、そんな事言うのか! 解体費タダにしてやったじゃないか!」

「それは、それ! これは、これですよ!」

 俺達は、ダッシュで冒険者ギルドを後にした。
 王位継承争いなんて、真っ平だ。
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