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ルドルのダンジョン編

第32話 サキュバス見習い

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 俺は白い空間の中にいる。
 前世で見たミュージックビデオに出て来るような真っ白な空間だ。

「ヒロトさん、はじめまして」

 どこからか声が聞こえる。
 女性の声だ。

「だれ?」

 俺は声の主に問い掛ける。
 姿は見えない。

「わたしは、サキュバスです。悪魔に申し付けられて、参上しました」

 悪魔? サキュバス?
 何の事なのか、わからない。

「何の事? ここは、どこなの?」

 俺は再度、声の主に問い掛ける。

「ここは、ヒロトさんの眠っている意識の中です。夢の中、と言えば、通じるかな?」

 俺は少し考えた。
 思考はかなりボンヤリとしている。

「そうか。夢の中なのか。夢枕に立つってヤツだな。えーと、君は神様?」

「いいえ。違います。サキュバスです。悪魔に、ヒロトさんを、手伝う様に、言われて、来ました」

 会話がループしている。
 夢だからかな?
 うまく思考や会話をコントロール出来ない。

「お気になさらず。わたしのスキル【意識潜入】を発動して、寝ているヒロトさんの意識に無理矢理入り込んでいます。だから、思考のコントロールが難しいのです」

 あれ?
 俺の考えが読まれているのかな?

「はい。わたしは、今、ヒロトさんの意識に入り込んでいます。だから、ヒロトさんの全てがわかります」

 そうか。
 じゃあ、俺の考えは、筒抜けな訳だ。
 何かそれも気持ちが悪いな。
 会話を続けよう。

「悪魔に手伝えと言われたって事だけれど、何を手伝うの?」

「ヒロトさんの冒険のお手伝いです。冒険者として有名になるように、わたしがお手伝いをします」

「俺が有名に? なぜ?」

「有名な冒険者にならないと、ダンジョンを発見しても信じてもらえないだろう。と、悪魔が申しておりました」

 だんだんと思い出して来た。
 俺はヒロト、元Fランのダメ冒険者だ。

 幼なじみのシンディが奴隷として売られて……。
 神速のダグに弟子入りして……。

 ああ、ガチャを回せるようになった。
 スキル【ゴールド】が開放されたんだ。

 それから地獄で会った悪魔がやって来て、ダンジョンを造っていると言うから、取引をしたんだ。
 新しく造るダンジョンのアドバイスをして……。
 新しく造るダンジョンを発見して、ギルドに報告すると約束をしたんだ。

「そうです。その状況理解で正解です。大分、意識が覚醒して来たみたいですね?」

「ああ、思考がクリアになって来た。それで、俺の冒険の手伝いって、具体的には何をするの?」

「ヒロトさんのパーティーに加わります」

 え? 悪魔が?
 俺のパーティーメンバーに?

「はい。これから実体化しますので」

「実体化?」

 俺はサキュバスと名乗った声の主の言う意味が、わからなかった。

 実体化?
 どう言う事なんだろう?

「わたしたち悪魔は、実体がありません。霊的なエネルギー体、と言えばわかりますか?」

「ああ、何となく。意思のある魂みたいな存在って事だろ? 肉体がないって意味だよね?」

「そうです。わたしは、これから魔力を使って、肉体を構成します。それが実体化です」

「なるほど。わかった」

「どんな感じが良いですか? わたしの性別は女性ですが、どんな感じの実体が良いですか?」

 え?
 俺のリクエストを、受け付けてくれるの?

「ヒロトさんの希望が、わかりました。では、家の外でお待ちしています」

 ちょ!
 ちょっと待って!
 今、パッと思いついたのは、違うんだよ!

「ふふ。違わないですよ」



 目を開けると見慣れた天井が見えた。
 俺は、自分の部屋で寝ていたのだ。

 今のは、夢か?
 確かめてみよう。

 俺は家の外に出て見る事にした。
 服を着て、念の為、オーガの革鎧にコルセアの剣を装備した。

 窓から外を見ると、あたりは明るくなって来ている。
 鳥の鳴き声が聞こえる。

 まだ早朝だ。
 かなり早く目覚めたらしい。

 玄関から外に出ると、街道の向こう側に人影が見える。
 注意してゆっくりと歩いて、人影に近づく。

 だんだんと見えて来た。
 おい! ウソだろう!

 どうやらサキュバスは、俺の一瞬のひらめきを実体化してしまったらしい。
 制服姿の女の子が、そこに立っていた。

「おはようございます。ヒロトさん!」

「おはよう……」

 女子高生スタイルのサキュバスは、元気に挨拶してきた。

 確かに……あの時……。
 俺は、『制服姿が良いな』と一瞬思った。
 だが、一緒にパーティー組むとなると、その防御力のない格好は問題だな。

「なあ、サキュバス……。その格好で戦闘は無理だろう?」

「大丈夫ですよ。この制服は魔道具化してありますから。防御力バッチリです!」

 魔道具化した女子高生制服って……。
 魔力と能力の無駄遣いって気もするけど、まあ、良いか。

「えっと、それで、サキュバスの戦闘スタイルは? 剣?」

「基本、魔法です。近接戦闘の時は、素手で殴る、蹴るです」

 そんなCM美少女のような爽やかな笑顔で、殴る蹴るとか言われてもな……。
 しかし、そうか、そのミニスカートで蹴るのか。

「わかった。パーティーメンバーに入ってもらう。よろしく、サキュバス」

 俺は下心200%で、あまり深く考えずにパーティー加入の許可を出した。
 サキュバスは、前世のTVで見たアイドルに似ているんだよね。
 それが、制服ミニスカで蹴り……。
 男なら、見たいだろ!

「ふふ。気に入って頂けましたか?」

 俺の心を見透かしたように、サキュバスは微笑んだ。
 クルっと1回転して、制服姿を見せつけて来る。

 回転して舞い上がったミニスカートよりも、サキュバスの背中に目が釘付けになった。

「ちょ! サキュバス! オマエ背中に、羽が生えているぞ!」

 サキュバスの背中には、鳥の様な灰色の羽が生えていた。
 サキュバスは、羽をパタパタと軽く羽ばたかせて、空中に浮き上がった。

「そりゃ。悪魔族ですから。羽はアリですよ。ああ、それからサキュバスって仕事名で、わたしの個人名ではありません」

「え? サキュバスって、君の名前じゃないの?」

「営業、とか、事務、とかと同じです。サキュバスって仕事があるんですよ」

 それは、初めて知ったな。
 つまり、サキュバス職って事か。

「へー、どんな仕事?」

 サキュバスは、空中で両ひざを抱えてクルクルと回り出した。
 照れ臭そうに、笑いながらこちらを見ている。

「ふふ。まだ、サキュバス見習いで、経験ないんですけどね」

 サキュバスの顔が赤くなっている。
 俺、何か変な質問したか?

「そうか、まだ見習いなんだ? それで、サキュバスの仕事は?」

 サキュバスは、モジモジとしている。
 恥ずかしそうに話し始めた。

「男の人の夢に出て、男の人から、精力を吸い上げるのが仕事です……」

「それって……、夢の中で男の人と交わる……と言うか、まぐわうって事?」

「……はい」

 何とも言えない無言の時間が、俺とサキュバスの間に流れた。
 なぜ、サキュバスなんて仕事をしているこの子が、俺に派遣をされたのか……。
 心当たりは、一つしかない。

「俺の裏スキルに【絶倫(中級)】があるから、オマエが派遣されたのか?」

「いえ。違います。そのスキルをお持ちなのは、今、初めて聞きました」

「オマエは、これから毎晩、俺とサキュバるのか?」

「いえ。見習いなんで、経験ないんで」

「そうか」

 俺は残念なような、ホッとしたような複雑な気持ちになった。
 どうやら、見習いサキュバスなので、俺とサキュバってはくれないらしい。

 まあ、その制服姿でサキュバったら、サキュバったで、色々問題があり過ぎる気がする。
 スキル【絶倫(中級)】の件は、静かにしておこう。

 それよりもだ。

「なあ、名前がないと、パーティー組むのにやりづらいんだけど」

 サキュバスは、空中に浮いたまま頬杖をして考え出した。
 何でか知らないが、悩んでいる。

「うーん。名前ですか……。それはちょっと……」

「だって、サキュバスって呼ぶわけにもいかないだろう」

 俺は知らなかったが、サキュバス職がどんな事をするか、知っている奴がいるかもしれない。
 ダンジョンの中で、オーイ! サキュバス! なんて呼んだら、どうなるか想像すると恐ろしい。

 サキュバスは空中で器用に、足を組み、腕を組み、考えている。
 考える時間が長いな。

 とりあえず、仮の呼び名でも良いだろう。
 俺が名前を付けるか。

 サキュバス、サキュバる、サキュバ……。

「じゃあ、サクラで。オマエの名前はサクラな。仮の名前って事で、良いからさ」

 サクラは、ハッとしたように顔を上げると、地面に降り立った。
 俺の方を向いて姿勢を正した。

「名前を、ありがとうございます! マスター!」

 えっ!? マスター!?
 どういう事?
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